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13話 本音と建前

会話が多いです

 ギルドの支部長室に俺、ハルナ一行、新人共が揃っていた。


 椅子に腰掛けたドルガンが俺達をジロリと見回すと、ゆっくり口を開いた。


「リカルド、説明しろ」


 何をだよ。


「俺は降りたって言ったはずだが」


 知らんうちに声に険が混ざる。本当にイライラするぜ。


「お前の口から聞きたい」


「……今朝方、ゴブリンの討伐依頼を受けた。集落に着いたらこのバカ共がゴブリンと交渉するとか言い出して、今この状況だ」


「ほう、で?新人の教導を投げ出すわけだ」


「なんとでも言いやがれ。俺の手に負えねえ。そもそも向いてねえ。技術だけ教えて死なれでもしたら、面倒臭え」


 俺の言葉を聞いたドルガンが、今度は新人に目を向ける。


「なぁ、俺も分からんのだ。どうやってゴブリンと交渉する?そもそも、交渉する必要がどこにある?」


 ニヤニヤと笑いながら新人2人に圧をかけるドルガン。本当に人が悪い。わざと威圧してやがる。


 ドルガンの威圧感にたじろぐ2人に代わって、カリナが口を開く。


「魔物と話す魔法。それがないか聞かれた。ないと答えたら、作れないかと聞かれた」


「ほう、魔物と話す魔法。カリナ、そんな魔法本当にできるのか?」


「サラが既に構想は練っている。案外整理されてて驚いた。

ただ、少し雑な構文。

魔力消費が気になる。実用化するなら、もっと手を加える必要がある」


 可能性はあるのか。マジか。


「カリナ!」


「作れるかどうか聞かれた。私の見解を述べただけ。文句を言われる筋合いはない」


 新人の肩を持つような発言をしたカリナは、割って入ろうとするハルナの言葉を切って捨てた。


「なるほど。それで新人共、なんでゴブリンなんぞと交渉しようと思った?」


 今度こそ逃さないと、新人2人を見つめたドルガンが言った。


 気圧されながら、口を開いたのはレオンだった。


「……森に住むエルフが嫌いだからです。奴らからすれば、俺達人間はゴブリンです。

同じになりたくない。

ただ暮らしてるだけで虐げられる気持ちは、嫌でも分かる」


「何をバカなことを!私たちとゴブリンを一緒にしないでください!」


 レオンの言葉に、ハルナが顔を真っ赤にして怒る。


「人間は短命、すぐ増える。姑息で強欲。

森のエルフが人間に対して抱いてる印象です。

まるきり人間がゴブリンに抱いてる印象じゃないですか」


「だとしてもゴブリンは魔物です。魔物とは分かり合えません!」


 ハルナが声を荒げる。だがレオンは怯まない。


「ゴブリンの集落には社会がありました。

リカルドさんは危険だと言ってましたが、俺はそこに可能性を見ました。

社会があるなら言葉もある。意思の疎通もできるはずです」


 ようやく“師匠”呼びを止めてくれたレオンの言葉に、髭を弄っていたドルガンが口を開く。


「意思の疎通ができたとしても、相互理解ができるとは限らんぞ」


「それでも、試した人は誰もいないんですよね。

なら、試してみればいい。魔物との意思疎通が可能かどうかは、魔物研究者たちも知りたいはずです」


 レオンの奴、魔物学者の存在なんてどこで知った。確かに、あの手の連中は興味津々だろうが。


「学者連中は興味を示すかもしれん。だが、ゴブリンと相互理解ができると思うか?だとすれば随分おめでたいな、新人」


 ドルガンが意地悪く笑うが、レオンは真っ向から言い返す。


「相互理解が無理でも住み分けはできるかもしれない。

住み分けができれば、無駄な争いは減らせます。

エルフ共みたいにいきなり矢を射掛けるより文明的だと思います」


「くくく……文明的か。森のエルフが聞いたら矢でも射掛けられそうだ。実に愉快だ」


 喉を鳴らして笑うドルガン。


 ……しかしレオンも案外口が回る奴だ。


 突っ込みどころはあるが、感情だけで話さないのはいい点だ。


 読み書き計算を覚えれば商人とか向いてるんじゃねえか?いや、ちょっと人が良すぎるな。


「リカルド、あなたの入れ知恵ですか?」


 ハルナが俺を睨みつけて言う。こっちに飛び火しやがった。しかし俺の入れ知恵ね……


 一応ガキが考えたとは思えねえ程度には筋が通ってるってことかね。


「いや、こいつらが自分で捻り出した。お前ら、冒険者なんか辞めてもっとマシな仕事に就け」


 ハルナにそれだけ返すと、新人共に向かって言った。レオンとサラが困ったように俺を見て口を噤む。


「ゴブリンの依頼を済ますまでは辞めません」


 どんだけゴブリンに肩入れしてんだこのバカ共。


「いいか、さっき言ったように冒険者ってのは魔物ぶっ殺して生活してんだ。

そこに疑問を持ったら、冒険者なんてやってられねえぞ。お前ら、人が好すぎんだ」


「リカルドさんだって、けっこう人が好いと思いますけど」


 キョトンとした顔で発せられたレオンの言葉に、顔を顰める。何を言ってんだこいつは。


 ドルガンも笑ってんじゃねえよ。


「俺をお人好し呼ばわりとはな……そう見えるならお前らが救いようのないお人好しだからだ。

今回の依頼、降りる気は?」


「ありません」







 本当、救いようがない。









「カリナ、魔法は作れんだな?」


「恐らくは」


「どれくらいでできる?」


「構文だけなら一日。実際に魔法を発動できるように調整するのに、あと三日は欲しい。その間、サラは借りるけど」


「そうか。準備しろ」


 こいつら何を勘違いしたのか分からんが、俺を人がいいなんて言いやがる。


 もしかしたら俺の姿を見て、魔物との交渉なんて馬鹿なことを言い出すに至った可能性は捨てきれん。


 それなら、それは俺の責任じゃねえか。本当にこいつらだけで強行されて死なれたら、酒が不味くなる。仕方ない。


『首を突っ込むための言い訳は済んだか』


 うるせぇ……


 本当、あいつが好きそうな展開だ。


「ん」


「随分あっさり引き受けたな……」


 2つ返事である。流石に驚いた。


「魔物と話す魔法そのものには興味がある。協力してもいい。

魔物と話せれば魔物特有の魔法も研究出来る。

交渉次第では魔物相手に魔法の実験が出来る」


 ……サラの見立ては正しかったな。そのうち悪魔でも召喚しそうだ。


「リカルド!自分が何を言ってるか分かってるんですか!」


 ほら、こうなるから嫌なんだ。面倒くせえ。


「分かってるよ。……全く、リンダに教導やっぱ続けるって言わねえとな。格好悪い……」


 俺が言うとレオンとサラがパッとこちらを見た。


「リカルドさん!」


「師匠!ありがとうございます!」


「……師匠はやめろ」


 さて、勝手に話を進めといてなんだが、ドルガンの奴は……ニヤニヤしてんじゃねえよ。気持ち悪い。


「リカルド、魔物と話そうなんて正気とは思えんが」


「俺も正気とは思えん」


「真意はどうあれ、建前は必要だな。周りに黙らせる為のな」


「レオンが言ったのにお誂え向きの建前があるだろ。魔物研究の発展とやらに貢献できるかもしれんぜ」


 俺が言うとドルガンはニヤニヤしながらわざとらしく顎に手を当てた。


 なんでこいつとプロレスしなきゃならんのだ面倒臭え。


「確かに、魔物とのコンタクトが成功すれば、確かに大発見だな。

魔物のテイムなんかも体系化できるかもしれん」


 クソ狸が芝居がかった口調で言いやがった。分かってはいたが今のやり取りで新人の事を割と気に入ったらしい。


「ドルガン。結局どうなんだ?やるのかやらないのか」


「許可を出さなかったら?」


「さあな。こいつら勝手にやるんじゃねえか?」


「お前は?」


「付いてくさ。監視役は必要だろ」


「くくく。そうか、勝手に動かれるくらいなら管理下に置いたほうが幾分マシか」


 嘘である。この男割と乗り気だ。新人が無茶して死ぬなんてよくあるのだ、それぐらいで責任なんて問われない。


 逆に許可を出したほうがドルガンに責任の追求が行く可能性がある。


 まぁ、一応ドルガンも現場にいた人間だからな。


 現行の制度に思うところは有るんだろうよ。


 保守派の皮は上手く被ってるけどな。だから狸なんだよこいつは。


 たっぷり時間を掛けて考える振りをしたドルガンは、やがてゆっくりと口を開いた。


「役所の奴らと話を付ける必要がある。勝手に進めるな。俺の責任で行う」


「ギルドマスター!本気なんですか!?」


「上手く行けば魔物の研究機関なんかにも影響力が増す。

この手の依頼も増えるかもしれん。金額は言い値に近い。

相場が無いからな。リスクを冒す価値はある」


 ハルナの抗議をものの見事に切って捨てたドルガンは、続いて新人に言った。


「新人、先走って動くな。

それと今回うまくいった場合、ノウハウはすべてギルドに提供しろ。

魔物と意思疎通する魔法の構文も明文化して提供しろ。

魔物との交渉時の状況も報告書形式で出せ。

それが承認の条件だ」


 ドルガンの言葉に、啄木鳥にでもなったように首を縦に振る2人。


「リカルド!どれだけ危険なことをしようとしてるか理解は……してるでしょうね。なら新人は必ず守りなさい!」


 もはや何を言っても無駄と判断したのか。



 ハルナが苦虫を噛み潰したような顔で俺に言った。


 まあ、こいつはこいつでバカな試みを企てる新人を心配していたんだろうさ。


 根は悪い奴じゃない。そして謎に偉そうだ。


「何言ってる。危険なのが分かってるなら、お前らも付いてけ。何のためにわざわざ呼んだと思ってる」


 ドルガンがハルナ達に無情な言葉を浴びせる。


「は?私たちが?なぜ?」


「魔物とのコンタクトを取る魔法はカリナが作る。

お前らも付いてけ。

まあ、どうしても嫌ならカリナだけ同行でもいいが……カリナはどうだ?」


「……作った魔法の性能に興味がある。改良点なんかもあるかもしれない。同行してもいい」


「カリナ……」


 あっさり同行を認めたカリナを、ハルナが唖然と見つめる。なんでショック受けてんだよ。カリナはそういう奴だぞ。


 やがて、体をワナワナと震わせると、やけくそ気味に叫ぶハルナ。


「ああもう!分かりましたよ!行けばいいんでしょ、行けば!もう帰る!」


 それだけ言うと、ハルナはズンズンとした足取りで支部長室の扉を勢いよく開けて出て行った。暫し呆気に取られていたセラとソーマも、ハルナを追いかけるように退室する。


「よし、話はまとまったな。俺はこれから町役場の連中と話に行く。三日後、もう一度俺んとこに来い。それまで先走るな」


 どうやらお開きらしい。新人とカリナを連れて支部長室を後にしようとしたら、ドルガンが新人を呼び止める。


「新人!一つだけ言っとくことがある」


 そして、厳しい顔で十分に“ため”を作った後にこう言った。





「俺も、森のエルフは嫌いだ!」





 ……心底どうでもいいことだった。まさか、決めてはそれじゃねえだろうな。



大人になるとね。気持ちだけじゃ動けないんですよ。

建前って大事よね。

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