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12話 あいつが好きそうな展開

サラとレオンに振り回されるおっさん。

 突如、サラとレオンが踵を返してギルドへとトンボ帰りをかました。ギルドに戻る判断自体は悪くない。問題は、その後の行動が俺の想定を遥かにぶっ飛んでいたことだ。


「ゴブリンと交渉するんです」


 どちらともなく、力強く言い放ったその言葉。魔物と交渉?……正気かよ。


 言葉も通じない魔物とどうやって交渉するんだと問い詰める俺に、サラが短く答える。


「カリナさんに相談します。ゴブリンと交渉できる魔法を作ります。彼らの集落には意思疎通の痕跡がありました。大丈夫、もう構想は練ってあります」


 魔法云々言ってたから、ある程度予想はしてたが……こいつら、本気だ。


「待て!そんな魔法があったとしても、ギルドが許すわけねえだろ。少しは頭冷やせ」


 大丈夫なわけがねえ。片腹痛いっての。いや、マジで痛い。胃薬なんて持ってねえし、どうにかして欲しいのはお前らのせいでズキズキ痛む俺の胃だ。


「大丈夫です。私は冷静です。カリナさんの協力さえ得られれば、何とかなると思ってます」


「カリナがそんなアホなことに協力すると思うか?」


「思います。カリナさん、魔法に関しては倫理観を投げ捨ててます」


 ……あり得るから困る。あの女、常識なんて持ち合わせてなかったわ。


 サラはサラで、魔物と話す魔法が倫理的にヤバいってことを分かってて言ってる。


「だが、ギルドにはどう説明する?ゴブリン倒すの可哀想だから交渉しますか?そんな話、通るわけねえだろ」


「ギルドを気にするなんて師匠らしくないですよ。何とかします」


 お前らに俺の何が分かる。あと、師匠はやめろ。


「何とかってどうすんだ!? 絶対にそんな話通らんぞ!仮に強行したとして、上手くいく保証はねえだろが!」


「それは、そうなってから考えます。俺は森のエルフみたいに、自分たちの都合だけで物事を決めるのは嫌なんです」


「仕方ねえだろ。生きるってのはそういうもんなんだよ!

大体そんなこと言ったら、他の魔物だって同じだろうが!

そんなことも分かんねえのか!?」


「でも、ゴブリンは話せる可能性があるじゃないですか」


「そういう問題じゃねえ!ゴブリンだけが特別じゃねえって言ってんだよ!」


 まさかの展開すぎる。冒険者って仕事の現実を教えてやろうと思ったら、現実に喧嘩売りやがった。


「知ってます。それでも俺は、話せる可能性があるなら試してみたいんです。

我儘だろうが構いません」


「……サラ、お前もレオンと同じか」


「言語の翻訳の工程は……」


 聞いてねえ。もう答えを聞く気も失せた。クソガキ共が。


「……けっ、勝手にしろ。俺はもう知らん。責任持てねえよ!」


 止めたさ。一応な。でも、無駄だった。こいつらは誰が何を言おうと止まらねえ。


 返ってきた答えは「やってみる価値はある」だと。ふざけんな。


 俺はもう知らん。こいつらの暴走の肩を持とうもんなら、俺への風当たりも強くなる。


 こいつらにそうしてやる価値があるとも思えねえ。好きにしろ。そんで辞めちまいな。


 見誤ってた。新人共は英雄に憧れる世間知らずでもなけりゃ、現実と折り合いをつけて賢く生きるほど器用な奴でもねえ。真性のお人好しの馬鹿野郎だ。


 ああ、クソガキが本当に胃が痛い。


 痛む胃を押さえていると、今はなきクソ野郎があの世で爆笑してる姿が目に浮かぶ。


『普段好き勝手やってるんだ。たまにはお前が悶えろwww』


 うるせぇ、テメエにだけは言われたくねえよ。俺の胃痛の原因の八割はお前だよ!


『で?今度はどんな言い訳をするんだ?』


 ……クソ野郎。ぶん殴ってやる。ああ、もう死んでるか。


 しかし相変わらずオスカーの幻聴の解像度高えなおい!我ながら気持ち悪いよ、クソ!


 これはオスカーが言いそうなことだ。俺がそう思ってるわけじゃねぇ。断じて違う。


 不快な現実に喧嘩を売るクソガキの理屈は、いかにもあいつが好きそうな展開だ。非常に不愉快である。


 ーー


 俺は貝になりたい。そんな心境を携えてギルドに戻った。


 ギルドに戻った俺たちの視界に、彗星の尻尾の連中──カリナを含むAランクパーティーの面々が飛び込んできた。今まで以上に会いたくない奴らが、雁首揃えてやがる。


 なんでこんな偶然引き当てるんだ俺は。運がいいのか悪いのか、誰か教えてくれ。


 新人共がカリナの元へ一目散に走っていくのを横目に、俺はリンダの元へ向かった。


「リンダ、あのバカ共の教導は今日で降りる。違約金も払ってやる。俺の手には負えねえ」


 突然の宣言に、リンダが目を丸くして固まる。貴重なショットだ。絵に描いて額に入れて飾っておきたい。


「何かありました?」


「どうもこうもねえ。ガキのお守りはもうたくさんだ」


「一応聞きますが、新人の子たちは一人立ちできそうですか?」


「無理だ。性格的に向いてねえ。近いうちに死ぬぞ。

スキルは教えられるが、性格はどうしようもねえ。俺の手に余る」


 クソが。だから新人なんて見たくねえんだ。


「はぁ、分かりました。報告するので、なんで降りようと思ったのかもう少し詳しく」


「ゴブリンと交渉するそうだ」


「……は?」


 固まった。当然だ。正気じゃない。


「何を言ってるんですかあなた達は!」


 ギルド中に怒鳴り声が響き渡る。ハルナだった。良かった。少し不安だったが、一応の良識は残ってたらしい。


 驚いた様子のリンダが声の方を見やる。腰に手を当て、完全な説教モードに入ったハルナが険しい顔で新人を睨みつけてる。


 セラは目を見開き、口をあんぐり開けていた。


 ソーマは口を引き結び、顔を顰めている。


 カリナは相変わらずビー玉アイで新人共を見ていた。


 奴だけは読めない。もう少し外部に感情を出す努力をして欲しい。


 彗星の尻尾は腐ってもAランクのパーティーだ。そんな連中と新人が揉めてれば、当然注目もされる。だから止めろって言ったんだ。


「魔物と交渉って本気で言ってんのかお前ら……」


 腕を組んだソーマが静かに言う。


「……はい、本気です」


 そのやり取りだけで、ギルド内の冒険者達がざわつき始めた。


「馬鹿か?」


「ちょっと何言ってるのか分からない」


「魔物使好きとしては興味が。スライムとか可愛いし……破裂しなければ」


 魔物との交渉なんて前例がない。上手く行く保証もない。そもそも、魔物と人類は敵だ。魔物に肩入れするような発言なんかすりゃ、こうなる。


 もう、ギルドの居場所もねえだろ。あいつら。


 尚も言い争う新人とハルナ一行。永遠に続くかと思われたその騒ぎは、ひとりの人物によって収められた。


「何の騒ぎだ」


 俺の胸元ほどの身長しかないが、事務職とは思えないほど筋骨隆々とした髭モジャのドワーフの男──冒険者ギルドカルナード支部長のドルガンだった。


 ギルドの制服が絶望的に似合ってない。


「ああ、支部長まで出てきちゃいましたね……」


 遠い目をしたリンダがポツリと呟く。


 ハルナがドルガンに事の経緯を説明する。


 聞き終えたドルガンが大きな溜息をつくと、俺の方をジロリと見る。


「リカルド、ちょっと付いて来い」


 ふざけんな。


「俺はもうそいつらと関係ねえ。リンダにも教導を降りることは伝えた」


「ほう……リンダ、本当か?」


「ええ、たった今、報告のために聞き取りを行っていました」


 新人2人が引き攣った顔でこちらを見てくるが、知らん。俺は知らんぞ……


「取り敢えず来い。話を聞きたい。お前らもだ」


 そう言って揉めていた当事者達に顎をしゃくって促したドルガンは、階段を上がって奥へと消えていった。


おっさんには若さが足りないんですよ

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