10話 振れるサラの評価基準
タイトル通りサラ視点のお話
私が冒険者になってから既に一月が経とうとしていた。
私は冒険者になってからの事を思い出す。
故郷の村は、静かで穏やかだったけれど、決して裕福ではなかった。
レオンとは幼い頃からの友達で、境遇も似ていた。家族ぐるみの付き合いもあって、彼はまるで兄弟のような存在だった。
15歳になって成人を迎えたとき、私たちは決意した。
冒険者になろう。お金を稼いで、家族に仕送りしよう。少しでも、あの村の暮らしを楽にしたい。
村には外から人が来ることも滅多にない。
お金が回らない村で働いても、生活が変わるとは思えなかった。
だからこそ、外の世界に出て、自分の手で何かを掴みたかった。
町に来た直後の事は今でも覚えている。はしゃぎまわるレオンの横で、私はバカみたいに口を開けて通りを行き交う人達を眺めていた。人ってこんなにいたんだな。
何時までもうかうかしてても仕方ない。あっちへ行ったりこっちに行ったりするレオンに何とか付いて私たちは冒険者ギルドに来ていた。
既に装備は買ってあった。レオンと相談して無理して買った物だ。
ギルドの扉を開けて暫く呆けていると受付に座った綺麗なお姉さんが声をかけてくれた。名前はリンダさんらしい。元気で優しい人だ。
私が村から出て来た話をにこにこしながら聞いてくれた。
冒険者登録を終えて直ぐに依頼を受けようとしたのだけど今日はもう新人に回せる仕事がないのだと言われてしまった。大体朝に目ぼしい依頼はなくなってしまうらしい。
この時になって装備を買ってしまった事を後悔した。今日は野宿するしかなさそうだ。
レオンと顔を見合わせて途方に暮れてると、リンダさんが少し待っててと言ってどこかに歩いて行った。
暫くして、駆け足で戻ったリンダさんは、腕のいい冒険者の人に私たちの指導員をお願いしてくれたみたいだ。先輩冒険者の方も快く引き受けてくれたらしい。本当にいい人だ。
野宿は変わらないけれど。
リンダさんのあとに付いて行くと大きなおじさんがお酒を飲みながら座っていた。
茶色い髪の毛をオールバックにして眉間にはクッキリとした縦ジワが刻まれていた。
切れ長の目が不快げに細められ、そこから覗く灰色の瞳が私たちを睨んでいた。
どう見ても快く引き受けてくれた人には見えなかった。ジットリした視線に嫌な汗が吹き出した。
暫く私達をじっと見つめてたと思ったら、頭をガシガシと掻いてその後にリンダさんとお金の話をしていた。
その話が済むと、リンダさんは私たちを残してどこかに言ってしまった。
去り際に案外いい人よとは言ってだけど……知らないおじさんと取り残された私はレオンを観る。……凄くオドオドしていた。レオンは気が小さい。
どうしていいかわからずにして居ると席に座っていたおじさんが着席を促して来たので言われるがままに腰掛けた。
凄く怖い。もう帰りたいと思ったところで思い出す。自分には帰るところはない。暫く無言の時間が続いた。
急におじさんが残っていたお酒を煽る。喉を鳴らしながらお酒を煽る姿は冒険者と言うより山族の頭領だった。
カップをテーブルに叩きつける音に身を固くしたが、おじさんは意外なことに自分から自己紹介をしてきた。リカルドさんと言うらしい。レオンと私も続けざまに自己紹介。
また沈黙が舞い降りた。
レオンは……当てにならなそうだ。私も結構人見知りなので、と言うか生まれてから殆ど村の人間としか関わってこなかった。こんな怖い人の相手なんてしたことはなかった。
これからはこういう人とも付き合っていく必要があるのかと思うと、大きな社会に適応出来るのか心配になってきた。
と1人で沈んだ思いを抱えていると、おじさんはまた話しかけてきてくれた。
なんで冒険者になったのかを聞かれたけど、なんて答えよう。お金が目的って言っていいのかな
迷っている内にレオンが謎の勇気で真正直に答えていた。心臓に悪いから止めて欲しい。
怒られないか心配で上目使いでリカルドさんを覗き見ると喉を鳴らして笑っていた。何故かお気にめしたらしい。
見るたびに思う。人相が悪い人だ。
その後依頼は明日からだと言われて再度困る。金は大丈夫かと聞かれたけど無心するわけにもいかないと下を向いていたらリカルドさんの溜息。そして何かが机に置かれる音。お金だった。
流石にお金は貰えないレオンと一緒に固辞していたけど餓死されても困ると無理やり握らされた。
それから暫く接して分かったのはこの人ーー口と人相は悪いけど案外いい人だと言うことだった。
私が自信を持っていた魔法が実は全く使えない代物であると分かって意気消沈してた時もなんだかんだ面倒を見てくれた。
一度呪文を間違えたらリカルドさんに魔法が飛んで行った。凄く怒ってた。ごめんなさい。
もう一度挑戦したいと言った私に渋々じゃあやってみろ。と言うとレオンとともに逃げるように離れていった。
リカルドさんはともかく、何故レオンまで離れる。私の記憶力はレオンも知ってるだろうに。もう呪文は覚えたから大丈夫だ。
翌日、薬草採取の時にはリカルドさんは出て来たコボルト3体を一瞬で片付けた。
余りにも強くて驚いた。そして初めて生きた魔物が死体に変わる瞬間を見た。怖かった。
その後、コボルトの魔石の在り処を教えてくれた。ちょっと吐きそうになったけど何とか取り出すことが出来た。
ギルドで報酬の分配をしていたらびっくりするぐらい私たちの取り分が多かった。リカルドさんは正当な取り分だって言い張ってたけど本当かな?
後、リカルドさんの旧パーティーのハルナさんって人が報酬の話しで揉めてると勘違いしてリカルドさんに突っかかっていた。
私が違うと説明すると謝ってくれたけど、リカルドさんとハルナさんって何があったんだろう。
リカルドさんは素行不良でクビになったとか言ってたけど、もっと何かあるんじゃないかな。
流石に何があったのかなんて聞けなかったけど。気になる。
レオンも凄く気になってそうだった。よく我慢出来たね。レオン偉い。
ギルドから出た後はリカルドさんは元仲間?の魔法使いーーカリナさんと私の間を取り持ってくれた。おかげで私は本格的的に魔法が学べる様になったんだ。本当に感謝してる。
あと、ご飯が美味しかった。もう少しお金を稼げるようになったらまたいきたい。
翌日はリンダさんから紹介されたスライム討伐で酷い目にあった。
レオンはリンダさんに終始デレデレ。ふーん。レオンってリンダさんみたいな人が好きなんだ。ふーん……。どうしよう、ちょっと殴りたい。
リカルドさんは何が面白いのかスライムの臭いに苦しむ私たちを見てケラケラ笑っていた。自分だって臭がってるくせに。やはり少し性格が悪いかも知れない。
体に臭いが染み付いてる。スライムがこんなに厄介な魔物だなんて。リンダさん……もしかして不人気な依頼を私たちに……
いやいや、そんなはず、まさかね。
いつもリンダさんを胡散がってるリカルドさんを見ながら、私は頭に浮かんだ考えを打ち消した。
その後、ギルドに帰ると軽い異臭騒ぎが起こる。
臭いの発生源は私たちなので縮こまりながらギルドの一室で臭いのついたツナギを脱ぎ去る。
ツナギを貫通し、臭いの染み付いてしまった。レオンと顔を顰めていると不意に何かをリカルドさんが取り出し、私とレオンに投げてきた。
香水だった。スライム臭と相性のいい香水らしい。
シュッとかけると臭いが分からなくなった。
それどころか花みたいな臭いになった。凄い。
でも、こんなものがあるならもっと早く教えてくれても良かったじゃないかとリカルドさんに言うと、余り臭いが強いと逆に臭くなると言われた。無念だ。
臭いも幾分マシになったのでギルドカウンターで報酬を受け取り、カリナさんの宿向かうときになってふと心配になった。
スライム臭で鼻の馬鹿になった私が臭いを感じてないだけで実は残ってるかもと。
初めてなのだ。粗相があってはいけない。
リカルドさんに臭いは大丈夫か確認したけど「平気平気」等と凄く適当な返事が返って来た。ちょっと腹が立つ。
幸いカリナさんは私の臭いを気にした風でも無かった。私は魔力制御の基本として流れてる魔力の道を狭める練習をした。
カリナさんが言うには保有魔力が多い人は魔力を流す道通常時で太い、らしい。まずはその道を自由に閉じたり広げたり出来る様になる事が必要とのことだ。
注ぎ込む魔力量は道の太さに比例するとかなんとか。
やってはみるが、流れている魔力を絞る感覚がどうしても掴めない。そもそも魔力が流れてるのかすらわからない。
カリナさんが言うには魔力の流れは意識すればそのうち分かる。コントロールの仕方は魔力の道を引き絞ったり広げたりらしい。やっぱりわからない。理屈っぽい感じのカリナさんが感覚的な説明をすると言うことはそうするしかないのだろう。
感覚が掴めずウンウン唸っていると、カリナさんに体に力は入れるなと言われた。どうして力が入ってしまう。結局その日は魔力制御をものにできず。カリナさんの部屋をあとにした。
帰る前に書き取りしてこいと本を渡された。本を読めないと言ったら。知ってると返された。よくわからない。
……カリナさんの宿からの帰り道、私は見てはいけないものを見てしまった。
いつもは山賊フェイスのリカルドさんが、「マリーちゃーん♪」とか言いながら蕩けた笑顔でスキップで色町に入ろうとする姿を。
……いや、誰だよあのおっさん。少なくとも、私が知ってるリカルドさんじゃない。
くるりとターン。目が合った。どうしよ。挨拶した方がいいのかな。
私が悩んでいるとリカルドさんは少し考え込むような仕草をした後、ニヤリと山賊の様な笑いを向けた後、何事もなかったかのように颯爽と夜の町へと消えて行った。捨て置かれた。
……中々に衝撃的だった。
それから暫くリカルドさんによそよそしくなった私を誰が責められよう。
何故このおっさんは普通に話しかけてくるんだ。どういう神経なんだろう。恥という概念がないのだろうか。
……合ってまだ三日。
人相悪いけど面倒見のいい人だと思ってたのに、この評価の乱高下は何だ。
私は一体、どんな人と関わってしまったんだろう。
色町という単語に反応するレオンに何かを吹き込む不良中年。
ビクリとレオンの肩が跳ねたのを見てこの不良中年が何を言ったのか大体察した。
レオンに変な遊びを教えるな。私は生まれて始めて目上の人の足を踏んづけた。
この素行不良のおっさん教導で合ってるんだよね。
それからもカリナさんとの魔法勉強の帰り道に度々色町に通うおっさんを見かけたわけだが、一月も経てばもうこのおじさんはそう言う生き物なんだと思うしかない。
だって最後の方には普通に色町の真ん前で立ち話するようになってたし。慣れって怖い。
あと、色々と適当だと言うことが分かった。
結局、私の中ではリカルドさんは尊敬はできるが憧れはしないおっさんと言う形で落ち着いた。
リカルドがサラからどう見えてるかにフォーカスしてます。
モノローグは毒吐きのサラちゃんでした。
人見知りで猫被ってるだけなので、そのうちリカルドもサラちゃんの毒色吐息を浴びるかも。
次回は時間が少し飛びます。




