第5話「『管理局』の追跡者、そして『二人の選択』」
僕は、フィロナの手を握り、街から脱出を試みていた。
僕の脳内には、**『禁じられた真実』**を告げる声が、何度も何度も響き渡る。
「イリス。管理局のルールを破るな」
「イリス。君がフィロナを救えば、この世界は、完全に消滅する」
「そして、君自身も、管理局の観測者としての資格を失い、この世界に囚われる」
僕の心を深く抉るその声は、僕がこのループを始めた時に、僕に与えられた声だった。
【管理局】は、僕がフィロナを救おうとすれば、僕を排除しようとするだろう。
だが、僕は、フィロナを救うことを諦めなかった。
僕たちは、街の出口へと向かっていた。
だが、その時だった。
街の空に、黒い空間の裂け目が現れた。
そこから現れたのは、僕と同じ、観測者の姿。
「イリス。観測対象への干渉は、管理局のルール違反だ。今すぐ、観測を中止し、帰還しろ」
僕の目の前に現れたのは、ミカエル。
僕の先輩であり、最も優秀な観測者だった。
彼は、僕を見て、冷たい眼差しを向ける。
「イリス。君がフィロナを救おうとすれば、この世界は、完全に消滅する。そのことを、忘れてはならない」
ミカエルの言葉は、僕の心を深く抉った。
彼は、僕と同じ観測者。
だが、僕と彼の間には、決定的な違いがあった。
彼は、ルールを守る。
僕は、ルールを破る。
「ミカエル。僕は、彼女を救う」
「……愚かな。観測対象を愛した時点で、君は、観測者失格だ」
ミカエルは、僕にそう告げ、銃を構える。
その銃口の先は、フィロナに向けられていた。
「時間異常の特異点は、発見次第、抹消する。それが、管理局のルールだ」
ミカエルの言葉に、僕は驚きを隠せない。
彼は、本当に、フィロナを殺そうとしているのか?
だが、僕は、フィロナを、ミカエルから守らなければならない。
僕は、フィロナをかばい、ミカエルの前に立つ。
「ミカエル。彼女を殺すなら、まず、僕を殺せ」
「……イリス。君は、自分の選択を間違えている」
ミカエルは、静かにそう呟き、銃の引き金を引く。
その瞬間、僕たちの脳内に、一つの映像が流れ込んできた。
それは、僕が知っている、この世界の歴史とは、全く違う歴史だった。
僕が、この世界の崩壊を止めるために、ミカエルを殺そうとしていたこと。
僕が、この世界の崩壊を止めるために、フィロナを殺そうとしていたこと。
「……これが、僕の、本当の使命……」
僕は、この世界の『新たな真実』を知った。
僕が、この世界の崩壊を止めるために、この世界を破壊しようとしていたこと。
そして、ミカエルが、僕を止めるために、僕を殺そうとしていたこと。