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第8話・ステータス<運>

 履歴書書類落ちという言葉を初めて知った。いまはウェブエントリーという方法だが、書類というのは便宜上か慣例上なのか。


 とにかく気になったのは「様のご活躍をお祈り申し上げます」というフレーズだ。

 回復魔法は攻撃魔法や補助魔法、時間魔法、精霊魔法とは術式が異なる。回復魔法だけ、信仰を求められ、その信仰は女神に帰属せねばならない。女神といってもさまざまで、信仰する女神によっては、回復魔法の種類や効果も異なる。詠唱時の言語も同様に異なる


 この「お祈り申し上げます」これは、相手に対して祈りを捧げるという類の詠唱文言である。どの女神にも共通しているのだが、他者に祈りを捧げると、同時に呪いを蓄積していくのだ。一方、祈りを捧げられた者は、どの女神経由の術式であっても、一定量祈りが蓄積されるとステータスがアップするのだ。といっても、これはダンジョンでの話。いくら企業がお断りメールに、祈りを捧げたところで呪いもたまらないだろうし、捧げられた方にも影響はないのだろう、と思っていた。


 ちょうどお祈りメールが五十件に達した頃、女神の使い、平たく言うと天使と呼ばれる人外生命体が俺のもとへやってきた。もちろん、出入りは窓から。


 どの能力値のアップにする? と端的に聞いてきた。

・体力:まぁ、十分すぎるほどある

・魔力:いらん、どうせ使えないから

・理力:魔力との違いが未だにわからん・パス

・攻撃力:物騒すぎる、体力と同じく十分

・防御力:一応カンストしているから不要

・知力:学力ではないとわかった時、絶望したからいらない。知識の吸収力に影響するだけで、本を読んだり勉強しないと意味はない

・魅力:ルックスではない。だが、実力以上にモテてもあとあと困るものだ。パス。

・運:ステータスの中では一番低い。「逃げる」の成功率が向上するらしい。宝くじに当たるかもしれない。誰にも迷惑をかけそうにない。


 俺は天使に、「運」でお願いしますと伝えた。天使は、そう、とひとこと言うと、手をかざした。狭い部屋がぴかっと光った。パートから帰って来た母が、どたどたと二階の俺の部屋めがけて突撃した。


「なにがあったのよ。さっきすっごく光ってたじゃない」

「気のせいだよ、電球が切れたのかもしれない。ほら、消えるときピカッと光るみたいな」

「そう言えば、ほら郵便」

 母は俺宛ての郵便物を渡すと、一階のキッチンに戻った。冷凍食品をそのままにして、駆け上がって来たらしい。


 履歴書を送った企業からだった。メールじゃなくて、郵便とは。どういうつもりだと、お祈り如きに、こんなに分厚い書類とはな、と開封すると、採用のお知らせが入っていた。


 天使が伝え忘れと称して戻って来た。


「運ってのは、エンカウント率を下げる効果があるんだけど、強敵とのエンカウントに限られているんだ。戦闘で実力以上の敵に遭遇して死なないようにね」

「そういえば、俺、運のステータスあまりあげてなかったから、やたらと強敵と戦ってたな」

 天使は羽根を整えながら言った。

「みたいだね、だいぶ運のパラメーターは低かったから」


 湖畔を越えたあたりから、やたらと強敵に遭遇して、フロア単位で攻略しなければならなかったのを思い出した。運は「逃げる」能力に関わっているとばかり思っていた。逃げるために、運をアップさせるより、攻撃力や体力にステータスを振り分けた方が得策だと考えた。


 そう、俺は経験値を不本意な勇者スキル(みがわり、かばう、ぎせい、といった生命の危機に陥る勇者特有のアビリティ)に振り分けることはなかった。だから、ステータス向上に全振りだった。そのなかでも、運と理力はさほど振り分けては来なかったのだ。


 その後、メールや郵便で、やたらめったら採用通知が届くようになった。書類通過ではなく、採用。そうだ、運の効果「強敵とのエンカウント率を下げる」、強敵の就活者、つまりバキバキに活躍できそうな応募者たちと、俺が遭遇しなくなったってことなのだ。


 企業も不作な応募に、慌てて俺を採用して囲い込もうとしているのか。それにしても、面接もせずに採用とは。


 俺はすべての企業に、お断りの手紙・メールを書いた。締めのフレーズの例文に、


「末筆ながら、貴社の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます」とあったが、俺レベルが祈りを捧げると、相手に何らかの影響があったり、俺に呪いが蓄積しても困る。


「貴社の更なるご発展を願いつつ、略儀ながら書中にて失礼いたします」


として、採用いただいた十社にお断りを入れた。後日、俺は三重県にある踏破したダンジョンに改めて潜り、ステータス振り分けの社で運を体力に振り分け直した。


 バカほどに体力が向上したせいで、腹の減り具合も向上し、母から働いていないのによく食べるね、アンタ、なんて嫌味を言われるほどになった。米不足だというのに、申し訳ない。働かざる者も食うんだよな。


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