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第1話・元勇者

 両親には言っていない。俺が元勇者だってこと。


 元って言うからには、今は勇者じゃないってことだ。半年前、なんとかソロで魔王を倒した。十八歳で突然神託なるものを受け、勇者認定された。大学は受験パスでどこでも合格させてやるという話だったが、身の丈に合った地元の公立大学にした。本が好きというだけで、文学部を選んだ。


 大学にはたまに通っていたが、本業が勇者ということもあり、第二外国語のドイツ語を落とすというハメに。一応就職活動のことも考えて、二回生・三回生と頑張り、ドイツ語の単位を取得した。

 

が、その間も魔王軍の攻勢は激しくなり、俺はそもそもの就職活動すらまともに動けない状態だった。

 主に戦闘は、地下ダンジョンと呼ばれるところで行われる。昔の炭鉱、採掘場、なんかが主戦場。深い階層に潜り、指定された敵を倒すのが目的だ。魔王がどこにいるかが明確にわからないうえ、一度ダンジョンに潜ると三日は帰ってこれない。せめて金曜日の夜に潜らせて欲しいと何度もお願いした。

 

お願いしたというのは、俺を勇者だと認定した組織だ。組織名は教えてもらえない。だから、俺はコイツらのことを組織と呼んでいる。

 

 四回生の頃、つまり勇者四年目にして魔王の居場所がつかめた。そもそもパーティ―編成でダンジョン攻略ができれば手っ取り早いのだが、俺はソロだった。魔法使いとか僧侶、ニンジャに、タンク役の重装騎士、賢者にサマナー、そんなのはいない。俺以外に神からの祝福を得たものがいないらしい。


 大学を卒業しても就職先が見つからないのは両親に何と言っていいかわからないと、組織に泣きついたら、組織の契約社員ならどうだ?と担当に打診された。


 新卒で契約社員、一応公立大学を現役で入卒しているんだからと思ったが、背に腹は代えられない。俺は渋々受け入れた。組織はどういうことか、保証人が必要と言い、仕方なく両親にお願いした。二名分の保証人欄の記載が必要で、母は自分と、兄、俺から見れば叔父、に頼んでくれた。

 株式会社組織、マジで組織と言う社名だったので担当に確認したところ、知らなかったのか?とすっとぼけた声で言われた。


 なんにしても、そろそろ魔王を討伐して欲しいと組織の偉い人にも呼び出されて言われたので、俺は午前中は事務仕事、午後からは直帰ありでダンジョンに潜るという生活を送っていた。


 一度潜ると三日、だから母には出張と言っていた。そんな中、地階五十四階で魔王を発見。壮絶な死闘の末、勝った。封印の魔法がバッチリ効いた。瓶詰にして、組織に持ち帰り、俺は勇者としての職責を果たした。


 だから、このまま株式会社組織では契約社員から正社員になれるとばかり思っていた。


 中長期計画の一つである西日本にあるダンジョンで生息する魔王討伐、を達成したのだから。だが組織は非情だった。俺は半年に一回の契約更新をしてもらえず、そのまま解雇される形になった。無職だ。両親には言えない。退職時に誓約書にサインさせられた。

・ここで知ったことを公言してはならない

・大学に横入りして入学したことを言ってはならない(卒業したことは経歴に残していい)

・組織の窓口に連絡をしてはいけない

・職歴には組織のことを書いてはいけない

・装備品、貴重品は持ち出せない

 などなど。


 その中でも驚いたのは、

・習得したスキルや魔法の類は一般世界ででは使ってはいけない

 というものだった。ソロでの戦いだったため、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法の類は一式習得した。そういえば、戦いが終わる度に蓄積していたという経験値のようなものもそのままにしていた。先立つものもないので、退職時に残有給みたいに買い取って欲しいと担当に言ったが、ダメだった。仕方なく、そのままにしている。使い道がわからない以上どうしようもないのだが。


 実は口止め料と功労金として、過分なほどの退職金をもらった。二十三歳にしては、余りあるほどだ。とはいえ、無職。


 就活しないでぶらぶら過ごしていると、慣れてくるもので、このままでいいんじゃないかとすら思う。が、母がうるさい。

「そろそろ、仕事でも探したら?」

 と言われるたびに、この退職金の入った通帳をみせてやろうかと思うが、いやいや、説明ができない。


 元勇者だということにもつながる。父は俺が対して勉強もしていないのに、地元の公立大学に現役合格して、そのまま卒業できたことを誇らしく思ってくれている、らしい。だから、無職になった今もゴチャゴチャ言ってこない。


 という地点が俺の現在位置だ。いっそのこと自衛隊にでも入って、特殊部隊要員にでもとも考えたが、剣ぶん回して、魔法使いまくるなんて言えば、人間兵器みたいになりかねないし、組織のことをより大きな集団(国家)みたいなものに言わなければならなくなる。


 誓約書に反するとどうなるか、は知らない。訴えられるとかではなさそうだが、逆に怖い。命の危険、元勇者でも不意打ちを喰らえば死ぬだろうし、拳銃で撃たれて当たれば血も出る。頭を撃たれれば死ぬだろう。無敵ではないのだ。


 とりあえず、今日のところは、寝よう。明日はとりあえず職安に行くことにする。自己都合ではなく、会社都合の退職(解雇)だから、失業手当が出る。が、就職活動をきちんとしているか、報告も必要なのだ。


 心のなかで、ふと、あぁ魔王復活してくんねーかな、と願っている自分がいた。


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