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なろうっぽい小説

逆行令嬢は幸せになりたかった

作者: 伽藍

一度目に嵌められて冤罪による断罪と婚約破棄をされたご令嬢が、仮に逆行したとしたら、彼女の人生はどうなるのでしょうね。ってお話。

 数年前までは公爵令嬢であり、現在は王太子妃であるジャネットには、自分が亡くなったときの記憶がある。

 ジャネットではない前世の記憶などではなく、公爵令嬢のジャネットであった自分が亡くなった記憶である。


 原理も原因もジャネットには判らないが、世の通俗小説に習うのであれば『逆行』と呼んで良いだろう。公爵令嬢ジャネットは二十歳になるよりも早く一度は亡くなり、そのあと記憶を持ったまま逆行して同じく公爵令嬢ジャネットとして生き直しているのだ。


 一度目の人生では、ジャネットは王太子の婚約者だった。現在の王太子である第二王子ではなく、当時の王太子であった第一王子の婚約者だ。


 第一王子は、王立学園に入学するなり女性と遊ぶのに夢中になってしまった。いままでは王宮からほとんど出たことがなく、女性は乳母などの年配女性としか関わりがなかったために、刺激が強かったのだろう。

 少しばかり遊ぶ程度であれば、目をつぶることもできた。けれど第一王子はやがて任されていた政務まで疎かにするようになり、私費とはいえ必要以上に不要な遊びに使い込むようになった。ジャネットは第一王子のフォローをして回るハメになった。


 やがて第一王子は、一人の女子生徒と際だって親密な関係となる。それは、男爵家の庶子だというそれはそれは可愛らしい少女だった。

 その少女に夢中になった第一王子は、彼女に貢ぐあまりついには公費まで手をつけるようになった。さすがに見かねてジャネットは二人にたびたび注意したが、もはやそのときには第一王子とジャネットの関係には致命的な亀裂が入っていた。


 手をこまねいているうちに、少しずつジャネットを悪評が取り巻くようになる。いわく、恋敵である男爵令嬢を執拗に虐げている、身分を笠に着た物言いが目に余る、公費を使い込んでいるらしい、など。

 第一王子の投げ出した政務にかかりきりになっていたジャネットは、噂の対処が遅れてしまった。ジャネットは知らぬうちに、市井の三文小説になぞらえて悪役令嬢などと呼ばれるようになっていた。


 そうして卒業パーティーで、決定的なことが起きる。卒業生や来賓たちの前で、第一王子はジャネットに対し、素行不良を理由にして婚約破棄を突きつけたのだ。

 噂への対処をし損ねたジャネットには、対抗する術はなかった。一方的な破棄は認められ、ジャネットには瑕疵と悪評だけが残されることになった。


 これに憤ったのは、ジャネットの父親である公爵だった。公爵はジャネットを恥だと罵って、公爵家から追い出してしまったのだ。

 公爵令嬢としてほとんど籠の鳥のように育てられたジャネットは世間を知らず、放り出された市民街で途方に暮れることしかできなかった。声をかけてきた親切な紳士に甘えて同じ馬車に乗ったは良いものの、知らぬうちに娼婦として売られており、ジャネットはその短い生涯を娼館で終えることになったのだ。


 ――と、いう人生を一通り生きたジャネットは、王立学園の入学式まで逆行していた。そこからは逆行前の記憶を生かし、仲間と理解者を増やし、協力を募り、第一王子との婚約を第一王子の有責で破棄することができた。前回と同じように女遊びに夢中になっていた第一王子は王太子には不適格と判断されて廃太子となり、ジャネットは入れ替わって王太子となった第二王子と婚約が結ばれることになった。


 子どもはまだできないものの第二王子との仲は良好、これで問題ないと安心していた。けれどある日、大きな問題が起こる。


「ジャネット、あなたは、……何をしているの?」


 怒りを堪えたような声で、そう問いかけたのは王太子である第二王子だった。パーティーのための盛装に身をつつみ、後ろには護衛騎士、隣には妹である第一王女を引き連れている。

 隣にいる第一王女は、驚いたように、けれど軽蔑したような眼で口元に手を当てている。


「まぁ、お義姉様、何てことを……」


 はっとして、ジャネットは自分を見下ろした。

 場所は王宮の一室、パーティーで気分が悪くなった客などのために解放されている小さな個室の一つだ。ジャネットは身をはだけ、隣には知らぬ男性が同じように半裸でいる。

 疑いようもなく、浮気の現場である。


「な、……ちがっ、」

「そこの男、発言を許そう。どういう状況だい」


 男性は顔を引きつらせながら、震えた声で答えた。


「はい、わたしはスコールズ男爵の三男、リックと申します。その、妃殿下が大変に酔っていらしたのでお連れしたのですが、誘われて断り切れず……」


 次いで第二王子は、扉の前に立っていたジャネットの護衛騎士に視線を向けた。


「騎士たちも状況の説明を」

「はい、確かにスコールズ男爵令息が妃殿下をお支えしながらお連れしたことを見ております。妃殿下が酔っておられたことは確かですが、特に強要されていたわけではありません。わたしども護衛も部屋に入ろうとしましたが、妃殿下から二人にして欲しいと止められまして……」


 第二王子は、冷ややかな視線でジャネットを睥睨した。


「ジャネット、説明を」

「ちがっ、違いますわ! 誤解です、嵌められたのです!」


 必死に言いつのりながら、これでは本当に浮気の釈明のようだと自分でも思った。


「そこの男とは何もなかったの?」

「それは……」


 記憶を掘り起こそうとする。けれど、さっぱり覚えていない。

 答えに詰まった様子を見て、いよいよ第二王子は大きく嘆息した。


「判った、もう良いよ。ジャネットとスコールズ男爵令息を別室に連れて行ってくれ。改めて状況を確認しよう」


 諦めたように言った第二王子に対して、第一王女は心底軽蔑したと言うように、


「あのお噂は本当でしたのね……。わたくし、お義姉様を信じておりましたのに」

「うわ、さ?」

「以前から、お義姉様が不貞を繰り返しているとお噂になっておりましたのよ! それ以外にも悪評が色々と……。わたくしやお兄様は、ジャネットお義姉様が大好きでしたから、信じておりましたのに。こんな場面を見せられては……」


 そんな噂など、ジャネットはただの一つも知らなかった。吐き捨てるような調子で、第二王子が言う。


「とにかく、沙汰を待ってくれ。いまだ第一子も産んでいない王太子妃が浮気を繰り返すだなんて、王家の簒奪を狙っていたと言われても仕方のない状況だよ」

「お、お待ちください、殿下。わたくしは何も……」

「もういい! 話すことなど何もないよ」


 少しばかり感情的になったようにそう言って、第二王子が踵を返す。遠ざかる背中が、まるでジャネットの人生が音を立てて閉ざされていく象徴のようだった。


***


 第二王子フランクは、眼の前の男に緩やかに微笑んだ。


「さぁ、このお金を大切な恋人の治療に使うと良い。あなたは毒杯を賜ったことになっているし、生活資金も上乗せしておいたから、二度とこの国の土を踏んではいけないよ。判っているね」

「もちろんです、殿下。ありがとうございます、ありがとうございます……!」


 男、リック・スコールズは、言いながら床に額を擦りつけた。金貨の入った袋を恭しく受け取って、こそこそと去っていく。


「追いますか」


 フランクの腹心である騎士が、囁くような声で問うた。笑いながらフランクが首を振る。


「必要ないよ。賢い男だから、何が正しいことか理解しているさ。それに、あの男が可愛がっている妹はこの国の男爵家に嫁入り予定だそうだよ。幸いなことに、当時王妃であったジャネットからの強要を受けた被害者でもあるという側面が認められたために、生家である男爵家にまで塁は及ばなかったから、婚約は壊れなかったようだ」

「なるほど」


 生真面目に頷く騎士を横目に、フランクは一枚の書類を取り出した。いまにも鼻歌でも歌い出しそうな調子だった。


「さあ、邪魔なジャネットは片付いたね。これでヴィオラを迎えに行ける」


 愛しいヴィオラは、フランク以外の男との婚約を拒んで修道院に入っている。ヴィオラとの密やかな手紙のやり取りだけが、この数年のフランクの心の支えだった。


 そもそもフランクの婚約者は、子爵令嬢であるヴィオラにほとんど内定していたのだ。少しばかり身分は頼りなかったが、第二王子であるフランクにとって婚約者の身分はあまり重要ではなかったし、それ以上にヴィオラは文句なく優秀な令嬢だった。


 横やりが入ったのは、第一王子である兄がやらかしたからだ。

 第一王子とジャネットの婚約は破棄され、王太子は第二王子にすげ変わった。ジャネットの生家である公爵家に示しをつけるため、同時に新たな王太子の後ろ盾を得るため、速やかに第二王子とジャネットの婚約が結ばれた。


 すでにフランクとヴィオラが婚約していれば、話は違っただろう。けれどあくまで内定の段階であり、また二人の間に政略は関係なかったために、王太子になったばかりであるフランクが側妃としてでもヴィオラを迎え入れるには理由が足りなかった。

 フランクとヴィオラの関係は、なかったことになった。


 あのときから、フランクはジャネットを排除することを計画していたのだ。被害者のような顔をして図々しくもフランクとヴィオラの間に割り入ったジャネットが、フランクは厭わしくて仕方なかった。

 フランクは誠実で堅実な王太子として人望を集め、憎らしい気持ちを押し殺してジャネットへの気遣いにも細心の注意を払った。未来の国王としての地盤を整えながら、ジャネットの生家である公爵家の影響を少しずつ少しずつ削いでいった。


 ジャネットの周りをフランクの一派で固めた。愛する妃を守るため、などと嘯いて。

 同時に、手の者にジャネットの悪評を広めさせた。悪評に対して、フランクは頑なにジャネットを信じる姿勢を貫きながら、ときおり「ついうっかり零れてしまった」というように不安を零した。それだけで、勝手に周りは誤解してくれる。


 正義感の強い第一王女の存在は、フランクにとって非常に都合が良かった。ジャネットを心から慕い、ジャネットの悪評に本気で憤っていた第一王女に、あえて決定的な不貞の場面を見せた。


 あとはもう、坂道を転がり落ちるかのようだった。

 元王妃ジャネットは毒杯を賜り、生家である公爵家は責任を問われて降爵の憂き目に遭った。


 ヴィオラは、生家である子爵家の寄親である侯爵家にすでに養子入りしている。ヴィオラの優秀さは知られたことだったから、両親である国王夫妻も納得した。あとは正式に、婚約を申し込むだけだ。


 きっとジャネットは、気づきもしなかっただろう。最後の最後まで。自分の悪評にも、フランクが、閨のときに避妊薬を飲んでいることにも。


「ようやく、ようやくだ」


 婚約の申し込みが記された書類を愛でるように撫でながら、フランクはうっとりと微笑んだ。


「いま迎えに行くよ、ヴィオラ」

前々から、「断罪された悪役令嬢が逆行して逆断罪する小説があるけど、一度目の人生であっさり陥れられて冤罪を仕立て上げられるようなご令嬢が、仮に逆行したところで一度目の記憶があるところまでは上手く立ち回れてもその後まで上手くいくわけなくない?」という気持ちがあったので形にしてみました。

ジャネットは十代で亡くなった一度目の人生で断罪された元婚約者(第一王子)とその浮気相手に対しては無事に逆断罪して勝つことができましたが、逆行前の記憶を持たない十九歳以降は上手く立ち回ることができなかったので結局は別の人間に陥れられて断罪されてしまいました。困ったね。


そういえばなろう小説ではあんまり気にされている様子はありませんが、逆行した世界って修正力とかはどうなってるんですかね。働いてないんでしょうか。ジャネットがあっさり負けたのは修正力の影響もあった、かも知れませんね。

ちなみにわたし個人としては、異世界人召喚と同じく「世界そのものに悪影響を与えかねない」という理由で逆行とかいう不思議現象も薄っすら反対です。まあ肯定しても反対しても何の意味もないのですけれど。逆行魔法なんてものが容易にできたら、どこぞの鋭角から飛び出してくるワンコさんが大忙しの世界になりそうですね。


見直ししてないので誤字があるかも、、時間ができたときに見直しにきますー。


【追記20250301_02】

コメントで判りづらかった部分のご指摘を頂いたのでこそっと加筆しましたー。どうかな、多少は判りやすくなったかしら。これでもご納得頂けないならもう仕方ない


ついでにジャネットの浮気相手に仕立て上げられたリック・スコールズについて、「妹の話題が出てきたけどそもそも家族は無事なの?」って突っ込みが入りそうなので、それっぽい説明を入れておきました


【追記20250301】

活動報告を紐付けました。何かありましたらこちらに

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/799770/blogkey/3410301/

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― 新着の感想 ―
王子が全部屑、王家が屑なだけの話ですね。
そもそも長年の婚約者仲良くならなかった人がその兄弟の婚約者になってもうまくいくわけないだろって話ではある。 でも失敗したジャネットは何のために逆行させられたんでしょう?また若いうちに亡くなったジャネ…
兄はクズ、弟もクズてした
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