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2-1 星の降る海に行きたい(1)

「……『探偵研究同好会』ねえ……」


 宮村先生が、ふう、とため息をついてそう言った。

 ぼくと玲凪は、お互いに一瞬顔を見合わせて、先生が次にどう言うか、反応を待っている。


 宮村先生は、前に話したと思うけど、文芸部の顧問。

 セミロングの黒髪を後ろで束ね、黒いシャツ、ベージュのジャケットとパンツをきれいに着こなしている。


 いまは放課後の、職員室の中。

 ほかの先生がたは各自、部活の顧問やさまざまな雑務に追われ外に出払っていて、職員室はがら空きに近い。

 宮村先生と、その前にいる玲凪とぼく(宮村先生が空いている周りの先生の席の椅子を勧めてくれたので、ぼくたちはそれに座らせてもらっている)以外には、数名の先生しかいない状況だ。


 さて、宮村先生は自分の机の前で足を組んで座って、ぼくと玲凪が持ってきた探偵研究同好会の設立願申請用紙を右手に持って見つめながら、眉間にしわを寄せている。

 眉間にしわを寄せた表情でも、あいかわらずお美しい。

 思わず見とれてしまうほどだ。

 あ、これは失礼。

 また余計なことを口走ってしまった。心の中だけだが。

 実際に口に出さなくて、幸いだった。

 なにしろ玲凪が隣にいるのだから。


 宮村先生は、申請用紙の「設立趣旨」欄にぼくたちが書いた(いや、ぼくが口頭であれやこれや言っただけのとっちらかった内容を、最終的に文章にまとめ上げてくれたのは玲凪だ。彼女はぼくよりはるかに、こういう事務的能力には長けている)文章を読み上げた。


「『探偵が調査をするために使用する各種技術・方法を研究し、それを通じて日常でも起こり得る各種事案・トラブルなどの解決に役立てることを目的とする』


 ……まあ、趣旨はわからないではないわね。

 立派な趣旨ね、それは認めるわ」


「はい!

 そう思っていただけると、あたしたちもうれしいです!」


 玲凪がまた、元気で過剰な愛想を振りまく返事を先生に返す。

 隣でぼくは、二人にわからないくらいに、はぁ、とため息をついた。


「……で、

 『会員が二人だけであり、活動場所が室外になることが多いと想定されるため、そして会員が二人とも文芸部に所属しており、文芸部が現在、事実上滝浦真(たきうらまこと)ひとりの活動になっている状態のため、当同好会は文芸部員の課外活動的性格を有する『部内同好会』という扱いとすること、そして部室も当面、文芸部の部室内を借りることを希望します』

 ……はいはい。

 これもまあ、いいんじゃないのかな。

 滝浦くんも、いまよりは部活らしいことができるかもしれないし、ね?」


「はい……まあそうですね」


 宮村先生が実際どう思っているのか。

 それをまだつかみかねて、ぼくは自信なさげに返事した。

 すると唐突に、先生がこんな質問を投げかけてきた。


「……それにしても、だけど。

 そもそも滝浦くんと関口さんは、どこで意気投合したわけ?

 いままで二人の間に交流があるようには見えなかったけど?」


「え?」


「は?」


 宮村先生の問いかけに、ぼくと玲凪はほとんど同時に声を出してしまった。

 だいたいそれ以前に、ぼくと玲凪は意気投合なんてしてるのだろうか、という根本的な疑問もあるのだが、まあ、それはまずおいといて。


「えーと、それは……。

 ……たぶんですね、偶然帰り道でいっしょになって、話してたら探偵の話になって、それで滝浦くんが、探偵仕事の実際についてリアル話をあたしに聞かせてくれてですね、それにあたしが興味を持った、ってところあたりが始まりでしょうか、はい……」


 玲凪、思いつきにしてはまあまあ完成度の高い作り話をするじゃないか。

 そういう能力も、探偵やるには役立つかもしれんぞ。

 って、テキトー過ぎるか、こんな言い方。


 少々きょとんとした表情をしていた宮村先生だが、やがてぼくたちを見ると笑顔で言った。


「……そういうことね。

 わたしとしては、同好会の設立自体に異存はないわ。

 承認印、押します。

 でも、生徒会の承認も得なければならないから、次はこの設立願を生徒会に提出して。

 予算とかについても要望を聞かれると思うから、それは生徒会と直接相談してみてくれるかな。

 よほど高額な備品を要求するのでない限り、問題なく通ると思うよ。

 生徒会も、同好会の設立に特に反対はしないと思います」


 宮村先生はそう言ってから、付け加えた。


「……まあ、こういう部活があってもおもしろくていいんじゃない?

 わたし個人的には、そう思います。

 ……なので、二人とも仲よくがんばってね!」


 先生に妙な励ましかたをされた。

 ま、けど、とりあえず見通しはよさそうだ。

 内心ほっとした。


 ちらりと玲凪を見ると、彼女もぼくを横目で見ていた。

 お互いに様子をうかがっているようだ。

 仲間同士なのに探り合いか。


 玲凪とぼくは宮村先生に頭を下げて礼を言った。


「はい、がんばります!」


「はい、ありがとうございます……」


 宮村先生はうなずくと、あらためてぼくたちを見つめて言った。


「そうそう……。

 ……えとね、もし生徒会の承認も得られたらね、さっそくこの『探偵研究同好会』に、つまりお二人にちょっと頼みたいことがあるんだけど……」


「え?

 なんですか?」


 玲凪が尋ねた。


 宮村先生はまじめな顔になって話した。


「あのね、E組に不登校の生徒がひとり、いるのは知ってるかな?

 森野(もりの)さん、っていうんだけど」


森野凛(もりのりん)さん、ですか?」


 え、玲凪はなんで、ほかのクラスの不登校生徒の名前まで知ってるんだ。

 どんだけ情報通なのか。


「そう。

 1年のときは休みがちではあったけど、なんとか出席していたのね。

 それが、この2年になってからまったく来なくなってしまっているの」


「はあ」


「それでね、学年通信を森野さんにお渡ししたいと思っているのだけど……。

 もちろん郵便で送るという手もあるんだけど、せっかくだから直接手渡ししてあげたほうがいいでしょ。

 なので、二人に森野さんの家に行ってもらって、学年通信を森野さんに直接手渡していただきたいのだけど。

 『探偵研究同好会』への最初の依頼として、どうかな?」


「……あー、そういうことですか。

 全然かまいません。

 ……いいよね、滝浦くん!」


 ほぼ即決、という玲凪のフットワークの軽さ、というかほとんどフライング気味の反応に少々あわてながら、ぼくは諸条件を秒で検討した上で答えた。


「え……。

 ま、まあ、別にだいじょうぶだと思うけど」


 そしてぼくは宮村先生に尋ねた。


「だけど、これって探偵に関係ある内容なんですかね?」


 宮村先生は言った。


「それとね、もうひとつお願いしたいことがあるの。

 こちらが、たぶんもっと探偵のすることに近いかもしれないわね。 


 お願いしたいもうひとつのこと、それはね、森野さんにもし会えたら、森野さんに尋ねてもらいたいことがあるの。

 なぜ、学校に来ないのか、来られないのか、その理由をね。


 本当なら、彼女のお母さんに確認すべきところなんだけど、お母さんにもまったく連絡が取れないのよ。

 だから、森野さんの家庭状況が、まったくつかめないというのが現状なの。


 もし、彼女自身のこころの問題が理由な様子だったら、無理に聞き出さなくていいよ。

 無理に聞き出そうとすることは本人のこころの状態をより悪くしてしまうかもしれないから、そんな様子を感じるようだったら、わたしに報告してちょうだい。

 その場合は、ちゃんとスクールカウンセラーや、状況によっては児童相談所とか、お医者さんにつなぐことも検討するから。


 ……とにかく、学校に来ない理由を聞くのは、できたらでいいよ。

 むずかしいかもしれないので、無理ない範囲でね。

 その前提で、お願いできるかな?」


「はあ……」


 ぼくは先生の依頼を受けるべきかどうか、迷った。

 これはちょっとややこしい話になるかもしれないな、と思ったから。

 状況によっては、探偵の業務範囲を逸脱する内容になりそうな気配だ。

 

 しかし、気がつくと玲凪は一点の迷いもなく即答していた。

 

「はい!

 わかりました!やってみます!」


 おい待て。

 こんなデリケートな任務、そう気軽に引き受けちゃっていいのかよ。

 けれど玲凪はいつもの調子で、さわやかな笑顔を浮かべながら宮村先生にお辞儀している。

 もう少し考えてから返事したほうがいいんじゃないか?

 そう言おうとしたが、時すでに遅かった。


「……それじゃあ、E組の大里先生に話しておくね。

 学年通信も大里先生からもらって。

 

 二人とも、がんばってね!

 でも、くれぐれも無理はし過ぎないように。

 あなたたちでは負担だと思ったら、また困ったことがあったら、すぐわたしに連絡してね!」


 宮村先生はにっこりと、やさしく美しい笑顔をぼくたちに向けて首をかしげた。

 ああ、いつもながらお美しい。

 

 先生に礼を言って職員室を出ると、玲凪が、ふあーっ、と両腕を伸ばした。

 緊張が取れてほっとしたのだろう。


「とにかく、第一関門は突破ね!」


「まだ油断はできないぞ。

 お次は予算と学校部活にふさわしい目的かどうかの審査にきびしい生徒会だ。

 ……こちらのほうが難関だからな」


「まあ、そうだけど。

 なんとかなるっしょ!

 ……生徒会室に行って、さっさと承認もらって来よ!」


 生徒会室へと向かう廊下で、玲凪が突然ぼくに小声で言った。

 

「……ところでさ。

 宮村先生、あたしとまことくんの関係をどう理解したんだろうね?」


 あー、それか。


「……待て。

 校内で名前呼びは厳禁じゃなかったのか?」


 玲凪は、はぁ、とあきれたようにため息をついて答えた。


「だいじょうぶだよ、いまは二人だけだし!

 あたしはすぐ頭を切り替えられるから、ほかの子たちの前でまちがえるとか、するわけないよ。

 それより、まことくんこそまちがえないよう、気をつけてよ」


 そう言ってから、玲凪は小声になってなにかつぶやいた。


「……まあ、まちがえたっていいけどね……」


「え?」


「なんでもない」


 ぼくは玲凪の最初の質問に答えた。


「で、最初の質問に対する答えだけど。

 ……まあ、たまたま同じ趣味で盛り上がった生徒たち、ぐらいに思ったんじゃないの?」


 返事がない。

 玲凪を見ると、なぜか横を向いたまま、ちょっとふくれたような顔をしてだまっている。

 おい、やめろ。

 そういう表情は、彼氏にいやなこと言われたときとかにするもんだろ。


「……なんかぼく、気に障るようなこと言ったかな」


「別にぃ」


 玲凪の表情はむくれたままだ。

 やがて、こちらを見ず真っすぐ前を向いたまま、口を開いた。


「……なーんかさあ、まことくん、宮村先生を見てたときの顔。

 恍惚の表情、っていうの?

 神さまでも拝んでるような、そんな顔してたよー」


 そう言って、玲凪は意地悪そうに笑う。

 え、そういうのなのかよ。


「え……。

 もしかして、やきもち焼いてる?」


「別にぃ!」


 玲凪は同じ言葉を繰り返した。

 でも今度は同時に、突然人差し指でぼくの腰をつついてくる。

 ちょ、やめろ、くすぐったい!

 

 ぼくが体をくねらせて必死に玲凪の指の追求を避ける様子を見て、やっと自分のうっぷんを晴らした気分になったのだろう。

 玲凪は、


「あはははは、まことくん、その動き、ヘン!」


と、楽しそうに笑いこけた。

 コノヤロ。

 くやしいけど、可愛い。


「またやってあげるよ、腰がまことくんの弱点だということがわかったから。

 だから日頃から油断しないように!

 あはは!」


 まいったまいった。

 今後は、玲凪の前では宮村先生への接し方も気をつけたほうがよさそうだ。

 負担が増えるな。


 数分後。

 ぼくと玲凪は生徒会室に来ていた。


 生徒会室にいるのは、生徒会長の小寺さん、書記の松永さんの二人だけだった。

 同好会の審査は、この二人だけで可能だということだった。 


 ちなみに小寺さんは、生徒会長にして、成績優秀、容姿端麗。

 しかも、それでいて生徒への面倒見もよく、人間性もよい。

 少々気が強いところはあるが、人の意見を押しのけるようなことは極力避け、常に他人の意見にも耳を傾ける謙虚さも持っている。

 つまり、彼女はこの高校内で最も完璧な人間のひとり、といっていい。


「……新しい同好会の設立願、ということね。

 わかりました。

 ……って、滝浦くん、関口さん。

 おもしろい取り合わせね」


 ぼくと玲凪は、顔を見合わせた。

 またさっきの宮村先生のときみたいに、なれそめ……じゃなかった、経緯の説明しなきゃなんないのか。


「……ま、それはさておき……。

 設立願の趣旨は……ふんふん。

 わかりました。

 はい、特に問題はありません。

 いいんじゃないですか。

 探偵の技術を研究するのって、めずらしくておもしろいと思います」


 わりとすんなりクリアしたな。

 二人の経緯を追求する気はなさそうだ。

 ありがたい。 


 玲凪が長テーブルの下でぼくに向かってピースする。

 アホ、まだ終わってないぞ。

 

「ありがとうございます、小寺さん!

 ぜひこの同好会を、実現したいので……」


 ぼくがなにか言おうとするのより先に、玲凪が超元気に愛嬌のある笑顔を振りまきながら声を張り上げた。

 ……まあ、この玲凪の、いつもならウザいと思えるほどのご愛嬌と懇願するような笑顔が、いまこの状況でのアピールには効果的なのはまちがいない。


「……いつもながら元気ね、関口さん。

 で、そこに物静かな滝浦くん。

 不思議なコンビだけど、でもまあ、考えようによってはいいコンビといえるかもね。

 それでは、これから設立願の内容について、いくつか確認させていただくんで、滝浦くんとも、よろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


 ぼくのある種つれないほど淡々としたあいさつを吹き飛ばすような勢いで、玲凪が満面の笑顔で生徒会の二人に軽く頭を下げた。


「はい!

 こちらこそよろしくお願いします!」


 玲凪、愛嬌がちと過剰だぞ。

 こういうところが万人に好かれるゆえんなのだろうが、ぼくは万人に好かれようとは微塵も思ってないから、こんな愛嬌は死んでも振りまくことはないだろう。

 そういう芸風は全部おまえにまかせた、玲凪よ。


 それはともかく、ぼくは四角く並べられた長テーブルの右側向こうの机の前にいる松永さんのほうを眺めた。


 松永さんは、とにかく「黒子に徹する」という意味では、こちらも完璧なタイプだ。

 いつも目立たず、しかし生徒会の中では事務仕事をパーフェクトにこなし、なくてはならない存在と言われている。


 容貌的にも地味で目立たない感じで、長い黒髪を肩まで垂らしている。

 その容姿と静かで控えめな雰囲気から、一部の生徒たちの間では「生徒会の貞子」と呼ばれているといううわさを聞いたこともあるが、真偽は定かではない。


 その表情は半分髪に隠れてうかがい知ることはできないが、とにかく書記の仕事に対する責任感はとても強いということだし、まじめで几帳面な性格であろうことは確かだろう。

 きょうも髪に隠れてよく見えない顔についているはずの目で、開いたノートパソコンの前で部活関連の予算表だろう、ディスプレイをじっと見つめている。

 ときどきマウスを動かしたりキーボードを打ったりして、数値を入力したり確認したりしているようだ。


 玲凪は、探偵研究同好会の目的や必要な費用など、同好会に関する小寺さんからの質問にそつなく答えている。

 あーよかった。

 こういう尋問みたいなのとか、予算の数字とかをライブで聞かれるのは、ぼくにとっては大の苦手だ。

 玲凪のような、そつのないコミュニケーション力と事務処理能力に長けている人間と組んだのは、われながら正解だった。

 

 と、その二人の会話に割って入るように、突然松永さんが暗い声で闇の中から絞り出すような声で尋ねてくる。

 さすが、やはり「生徒会の貞子」だ。


「……結局、予算は年間にどのくらい必要と見込んでいるのでしょうか?

 それから、活動に必要な道具に、危険なものとか、他の人に悪用される恐れのあるものとかは、ないのでしょうか?」


 おお。

 これはいい着眼点だ。

 探偵活動に必要な道具、これはいろいろ考えられるのだが、まあ高校生の部活として使うことが許されそうなのに限って言うと、カメラとレコーダー、地図、時刻表。

 こんなところだろう。

 これらはいずれも、危険はないと思うし、機能も極めて限定されるので他人に悪用されることもないだろう。


 カメラはスマホ付属のもので多くの場合足りる。

 しかし、遠距離から調査対象を撮影したい場合など、スマホのカメラでは性能的にきびしいときは、スマホ取付用の外付けレンズというものを必要とする。

 これはなかなか便利な代物だ。

 スマホのカメラ部分につけて、スマホのカメラをパワーアップするようなものなのだが、なかなか優秀なものだ。

 たとえば、Amazonで手に入るものは、2in1広角とズーム両方のレンズ、18倍HD単眼の望遠レンズが付属している。

 なかには198°魚眼レンズがついているものもあり、さらに三脚まで付属。

 これだけついて、価格はAmazonなら\3,000~\4,000くらいで買える。

これがあればねらったターゲットを、スマホでバッチリ撮影できる。

 わざわざ高価で大きなデジタル一眼レフカメラなど買う必要がない。


 というわけで、まず必要なものはこのスマホ用レンズ。

 とはいえ、これは実はぼくがすでに所有している。

 なのでわざわざ買う必要はないのだが、玲凪のために購入する必要があるだろう。


 それからレコーダー。

 これは基本的にスマホ付属のレコーダーアプリで事足りる。

 ただ、状況によってはスマホとは別にハンディタイプのデジタルレコーダーがあったほうがより便利だろう。

 これは\10,000~\20,000と、やや値が張る。

 必須のものではないが。


 地図はもちろん紙よりもアプリなどGPSと連動しているもののほうがだんぜん便利である。

 ということで、マップアプリ。

 Google Mapでじゅうぶんすぎるくらい足りるが、用途によってはNAVITIMEの有料版のようなアプリのほうが使い勝手がよい場合もある。

 なので、有料版を用意する余裕があれば、あるに越したことはない。

 

 いまざっと挙げた、必要な備品の詳細を、ぼくが小寺さんと松永さんに説明した。

 つい熱が入ってしまって、詳細に説明し過ぎたかもしれないが、まあなんとか二人は理解してくれたようで、予算はほぼこちらの希望どおりとおることになった。


 そして、生徒会からも「探偵研究同好会」は設立を無事認められ、承認印をもらった。


 終わって生徒会室を出たときは、さすがに玲凪もぼくもどっと疲れが出た。

 玲凪が両腕を前に垂らして、ふらふらと歩きながらつぶやいた。


「……終わったねー……」


「終わった……ようやく……」


「とにかく、まことくん、ご苦労さま。

 そして、ありがと!」


「なにが」


「だって、これでやっと、念願の探偵研究同好会、正式にできるじゃない!」


 そう、そのとおり。

 めでたく同好会のスタートだ。


「……じゃあ、宮村先生からの依頼、第1号として受理ということで……。

 これから宮村先生に報告して、それと大里先生のところに行って学年通信もらって、森野さんについて聞ける限りのことを聞いて……。

 そしたら捜査、開始だね!」


 早くも玲凪は復活したようだ。

 元気な声を上げた。


「そうだな」


 ぼくは、まだ疲労から回復しないまま、あまり気の乗らない返事をした。

 のちに、この事案が予想もしない話に展開することも知らずに……。

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