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異常事態

更新再開したいと思います。

出来れば‥週に1,2回は更新したいな、と思っています‥。

二日連続で封殺をこなした翌日、大学内で腕時計型デバイスからのけたたましい警告音と、スマートフォンからの警告音は、ほとんど同じタイミングで鳴り響いた。

読真と真秀はそれぞれ講義中だったが、すぐに教授に断って退室し、まずは対異生物特務庁(イトク)に連絡をする。予めその順番に連絡を入れるように言われていた。

すると思いがけず、書字士会の方の指示に従え、という内容だった。

学内で二人落ち合ってから、改めて書字士会に連絡を入れる。

そこで言われたことは、思いもよらないことだった。


この三日あまりで世界中の異生物発生件数が激増している。これまでほとんど発生が報告されていなかった国々からも多くの報告が寄せられ、|対異生物関連機構《Related Fighting Against Unknown Creatures》、いわゆるROFAUC(ロファウク)に多くの闘封書士への派遣要請が出された。

正直なところ、日本国内の発生件数だけでも通常の三倍を超えており、対応に苦慮している。ついては、国内の書士全体の大会議をリモートにより行うので関東本部まで集合するように、とのことだった。


読真と真秀は、その連絡を聞いて顔を見合わせた。

確かに、この二日だけで封殺依頼は三件もあり、常では考えられないほどのハイペースだと思っていた。

だがまさかに、世界中で同じような事態が起きているとは。

異生物の発生事案は、あまり大きく報道されないことになっている。いたずらに恐怖をあおるのはよくないという報道協定が結ばれているからだ。


「とりあえず、すぐに関東本部に向かいますか」

「‥‥闘封書士ほぼ全員による会議なんて、俺聞いた事ないよ」

「俺もです。‥海外派遣の数を増やすんでしょうか‥。でもそうすると国内の事案に対応できなくなりそうですが‥」

「確かになあ‥」


本来ならそろそろ昇格試験が行われる頃なのだが、そうも言っていられない状況になってきているようだ。

今のところ、真秀はまだ一番低い位階の(カイ)なので、読真と真秀の組は鋭塊(エイカイ)となる。組としてはあまり高い位階ではない。

海外派遣が行われるなら、どのような位階の組が行かされるのか、それも大会議が始まらないとわからないのだろう。


ただ、読真の心配は真秀の中に居座る異生物の方にある。


このところ封殺している異生物は、ほとんどが通常攻撃も効くものが多かった。だが「殺す」ことまではできないようで、結局は封字陣で封殺するしか対応策はないようだ。他国や国内の事案まで詳細に報告を聞ける立場にないため、他の異生物がどうなのかはまだわからない。

しかし、いつまた真秀の胎内にいる異生物と発生した異生物が繋がってしまうかはわからないのだ。

引きずり出して引っこ抜け、と衛門は簡単に言っていたが、実際にそのような場面に遭遇した時自分が冷静に対応できるかわからない、と読真は考えている。


それでなくとも、真秀は自分の命など惜しくない、といった戦い方をする時がある。本人に自分の身体を守る気がなければ、読真だけがいくら気を揉んでも意味がないのだ。


大会議が終わって現在の状況を把握できたら、少し真秀と話し合ってみるか、と心に決めた。


書字士会関東本部は、常にはない人の多さでごった返していた。一番大きい会議室には位階の高い組が入り、読真たちクラスの位階の組はいくつかの小会議室でPC越しのオンライン参加となった。

オンラインミーティング用の画面がすでに立ち上げられ、小会議室には8人の闘封書士たちが席に着いた。真秀は他の現役書士と会うのは初めてに近いので知っているものはいない。読真もそこまで知り合いは多くないが、以前組んだことのある封字士が一人いたので目顔で会釈をした。


おおきなPC画面から声が発せられる。

「皆様ご準備はよろしいでしょうか。そろそろ大会議を始めたいと思います。‥沖縄支部の参加がまだですが、もうすぐつながるとの事なので先に進めさせていただきます」


画面に映ったのは、書字士会副会長の荒島冴子だった。五十も半ばを越したと思われる女傑であり、目つきは鋭く厳しい。滅多に人前に出ることのない副会長の言葉に、小さな会議室でさえしんと静まり返った。

「基本的に皆さまは現在ミュートにしています。解除なされないようお願いします。まずは現況の説明を致します」


荒島は手元の資料を見ながら淡々と説明を進めていった。

「この三日あまり、日本国全体での異生物発生件数は643件。通常の四倍に近い数字です。またその中で要注意異生物の割合は58%。もはや異常と言って差し支えない状況です。実際、この三日間で負傷した書士の数は重軽傷合わせて59人に上ります」


読真と真秀はこの二日で封殺した三体の異生物を思い浮かべていた。一体目は対異生物特務庁(イトク)と連携を取って封殺できたが、対異生物特務庁(イトク)自体もかなり人手が足りないということで、残りの封殺は二人だけでやったのだ。

読真も真秀も軽い擦過傷ができていたが、病院には行っていない。

そして、異生物はかなり手ごわかった。


「なお、これは日本に限ったことではありません。世界中で似たような異生物の異常発生が起こっていると、ROFAUC(ロファウク)にも報告が上がっています。‥‥注目すべきはこれまで異生物の発生件数が非常に低かった国でさえ、その数を上げていることです」


荒島はそこまで言ってふう、と軽く息を吐くと、目線をカメラに向けた。

ROFAUC(ロファウク)には、今凄まじい数の書士派遣要請がされています。書士数トップの中国、日本、E3(イタリア、スペイン、イギリス)の書字士会は、ある程度の数を派遣せざるを得ません」


小会議室の8人でさえ、ざわりとした空気が漂った。各地の書字士会ではもっと大きなざわめきが聞こえている事だろう。

ミュートにされている画面からは、当然あるべきだろう書士たちの戸惑いは聞こえてこない。

荒島は言葉を続ける。

「位階に沿って、そのうち海外派遣の命が下るかと思います。できうる限り受けていただけると書字士会としては助かります。ただ、日本政府としての交渉はまだ済んでいないため、派遣時期がいつになるかは今の時点では不透明です」


読真と真秀は思わず顔を見合わせた。

政府としての方針が決まっていないなら、事実上何も決まっていないのと同じだ。それでも海外派遣について言及があったということは。

「‥海外支部にいる書士からの要請が強いんでしょうね」

読真は小声で真秀に囁いた。読真の母は、現在アメリカに逗留して書士として働いているはずだ。海外派遣先の支部は、基本的にいつも人材不足で困っている状況である。国内の書士でさえ減少傾向にあるのに、海外に書士を出すことを政府はあまりよしとしていない。だが、実際に異生物による被害を受けるのは各国の市民たちになるので、そこを見捨てきれない者たちが海外支部に滞在し、細々ながらも封殺に励んでいるのだ。


ただでも厳しい状況の海外支部が、この異常発生を受けてより厳しい立場に立っていることは容易に想像できた。

真秀も口を引き結んだまま、軽く頷いてみせる。しかし、どういう対応になるのだろうか。


「また、現在大学や各種学校等に通っている書士の方には申し訳ありませんが休学等の手続を取っていただければと思います。とりあえず一年。それにかかる費用の一切は書字士会が負担致します」


再び読真と真秀は顔を見合わせた。小会議室の中にいた一人も思わずといった感じで一瞬腰を浮かせた。

そこまで、状況は逼迫しているのか。


「‥‥あー、すみません、閃璧からひと言」


荒島以外の声が画面から聞こえてきた、

「璧の丹沢です。閃璧のどの組を派遣に出すかは、閃璧五組での話し合いのうえで決めさせていただきたい」

「‥いいでしょう。なるべく早く話し合いを持ってください」

荒島の了解を得て、丹沢の声はやんだ。その後にもう一人の声がした。

(サン)の偲川だ。突閂(トツサン)以上の位階の者たちも話し合いを持ちたいと思うが、如何か」

荒島は少し迷った様子を見せた後、返事をした。

突閂(トツサン)位階の方々に関しては、別途ご連絡を差し上げた上、書字士会も立会いのもと話し合いを持っていただこうかと思います。‥それでよろしいでしょうか?」

「承知した」

太い男の声で返答があり、荒島は息をついてからもう一度カメラに目線を向けた。

「‥今の時点で決まっていることは以上です。皆さん、常に書字士会からの連絡に留意の上、連絡の取れる状態にしておくよう心がけてください」



お読みくださってありがとうございます。

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