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【改訂作業中】闘封書士ー書を以て闘い書を以て封ずる者ー  作者: 命知叶
一章 

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13/43

13、閃璧、そして

新展開に向けて改訂作業中です。読みづらい箇所がありましたら申し訳ございません。


高杉さんは痩せの大食い。顔はまあまあ美人です。


真秀(まほろ)は、内心覚えた不快感を何とか抑え込んだ。この『閃璧(せんへき)』の二人が言っていることは間違いではない。確かに自分には油断も未熟さもあった。‥この二人の物言いが癇に障ることには間違いないが。

実力が伴っていない以上文句を言うことはできない。真秀は唇を噛んで黙っていた。

そんな真秀の様子を見て、読真(とうま)はため息をついた。トレーニングの内容を組んだのは、主に位階が真秀より上の自分だ。対人間用の鍛錬を何も入れていなかったのは自分の落ち度である。自分の方が真秀よりも多少なり経験はあるのだから、自分のミスだ、と読真は思っていた。


それにしても、謹慎明けの確認判断とはどういう事だろうか。

「謹慎明けの確認、というのは‥どういう事でしょうか?」

素直にそう尋ねる読真に、丹沢はにやりと笑って言った。

「まあ、シンプルだね。お前たちの謹慎を解いていいか、俺らが判断するってところ」

高杉が木刀をぶんぶん振り回しながら言う。

「でもまあ、戦ったらお前たちの事を潰してしまうかもしれないからねえ」

そう言って、丹沢の方を見る。丹沢はにやにやとした笑いを全く消さないまま、読真の方を見て言った。

流文字(りゅうもんじ)の坊ちゃん、俺たちと鬼ごっこしようか」



「鬼ごっこ」は、明日行われることになった。丹沢と高杉は、ともに今夜は書字士会の施設に泊まると言う。仕方なく、読真と真秀で空いている部屋を掃除して寝泊まりできるように整えることにした。

真秀はぶつぶつ文句を言っている。

「わかるよ?わかるけどさあ、俺たちが未熟だって。でも、あんなやり方ある?急にさ~」

読真は特に気にしたふうでもなく布団をばさばさと振るった。埃が舞うのに少し咳き込みながら、窓の外へ逃がす。床に散った埃を、真秀は丁寧に雑巾でふき取っている。文句を言いながらでもこういうことに手を抜かないのが、真秀のいいところだなと読真は思う。


「あの『閃璧』の二人は、書士の中では実力も飛びぬけていますし、まあちょっと変わった人たちっていう事でも有名ですからね」

「へえ‥全然知らなかった」

少し間の抜けた声を出す真秀に、思わず読真はふっと笑った。

「俺も知ったのは半年くらい前ですから」

真秀は目を丸くして読真の顔をじいっと見つめている。何も言わずに手を止めたままずっと読真の顔を見てくるので、多少気持ち悪くなって来た読真は嫌そうに言った。

「‥何ですか、字通(あざとり)

「‥‥いや~、読真がちゃんと笑った顔って、初めて見たなあ、と思ってさ。もともとイケメンだけど笑うとイケメンが増すな!!」


あっけらかんとそう言ってはははと笑う真秀に、何となく腹が立ったのでもう一組の布団を目の前で盛大に振るってやった。大量の埃が舞い、真秀の身体を包み込んだので「うわ!」と悲鳴をあげている。

「俺の顔の事なんかどうでもいいんですよ」

「ぶへっぶへっ‥と、読真って。褒められ、慣れてねえの、な、げほ、すぐ、照れちゃうんだから、っぐふっ」

雉も鳴かずば撃たれまい。今度こそむかっ腹を立てた読真は、布団の塊をばしっと真秀に投げつけどすどすと部屋を出た。出て行きしなに「後の掃除はお任せします!」と捨て台詞を吐いて台所へ移動する。


本来二人分の夕飯なのだが、今日は倍量作らねばならない。何にしようか、と考えたが、先ほどの真秀の顔が浮かんできたので、肉少なめの野菜炒めをメインにしてやることにした。あいつの分の皿には特に肉を少なくしてやることに決めた。




「坊ちゃん!料理旨いねえ!いや~俺野菜あんまり好きじゃないんだけどこれ旨いよ!」

そう言いながら、丹沢がバクバクと読真の作った野菜炒めを食べている。読真は丹沢の様子を見てから高杉の方をちらっと見た。高杉の皿はほぼカラだ。そのまま残ったご飯をかっ込んで間を置かず高杉が「お替わりちょうだい」と言って皿を突き出してきた。

書士って、よく食べるやつが強いんだろうか。多少無理してでも自分もたくさん食べた方がいいんだろうか、と考えていると、横で真秀が「あー!」と声を上げている。


「何で後から来た人が遠慮もなくバクバク食ってんですかっ!俺の分がなくなる!」

「早く食えばいいのよ」

高杉がそう言いながら、読真にお替わりを注げと目で合図する。仕方なく立ち上がると横から丹沢も皿を出してきた。

「坊ちゃん、俺も!後、この卵サラダも旨い!これも!」

「‥はいはい」

お盆に先輩二人分の皿を載せ、台所に行こうとすると「まっへまっへ」と言いながら真秀が爆食いしている。自分の分のお替わりも欲しいのだろう。何となくイラっとして、

「お前はゆっくり食え!汚いですよ!」

と言い捨てて、さっさと台所に移動する。鍋や容器を見てみると、相当にたくさん作ったつもりだったがもうあまり残っていなかった。白飯なんて今日は一升炊いたのに。

だが仕方なく、真秀の分をほんの気持ちくらい残してやってお替わり分を注ぐ。


食堂に戻ってめいめいに皿をおいてやると、先輩二人はまた猛烈な勢いで食べ始める。丹沢はともかく、見た目が華奢に見える高杉の喰いっぷりがすごい。相当に筋肉質な身体なのかもしれない。

そこまで考えて、「鬼ごっこ」とはどういうものかを聞いておこうと思いついた。

「丹沢さん、「鬼ごっこ」って結局どうするんですか?」

丹沢は卵サラダを食べて幸せそうな顔をしていたが、読真の言葉を聞いてにやりと笑った。ごくんと卵サラダをのみ込んで話し出す。

「単純だよ。明日、‥そうだな、8時からにしようか。そこから鬼ごっこ。この狭原山の中で。お前たちが鬼。俺たちを捕まえたら勝ち。足でも髪でも腕でも、どこかつかめれば勝ちね」

あっという間にお替わり分も完食してしまった高杉が言葉を付け足す。

「ただし、私のことはそこの莫迦が捕まえる、丹沢のことは流文字(りゅうもんじ)が捕まえる」

ちゃっかり自分でお替わり分を注ぎに行っていた真秀が、思わず立ち止まって言った。

「山‥?、山全体でやんの?!無理ゲーじゃね‥?」


高杉は真秀の腕をひっつかんでぐいと座らせ、真秀の持っていた皿を奪って食べ始めた。

「あー!ひでえ!」

もぐもぐと咀嚼している高杉にじろりと真秀は横目で睨まれた。どうもこの先輩には嫌われたようだ。まあ俺だって別に好きじゃないからいいけどね、と真秀は心の中で思った。

ごくりと咀嚼していたものをのみこんだ高杉は言葉を継いだ。

「そう、私はあんたが嫌い、莫迦だから。しかもやる前から無理という莫迦は本当に嫌い。謹慎解けなくていいならやらずに帰ってもいいんだけど?」

ふふん、と唇を吊り上げ、お茶を飲んでいる高杉に、真秀はむかむかしたが、ぐぐっと心で握りこぶしを作るだけに留めて言った。


「スイマセン、ヨロシクオネガイシマス‥」

「はじめっからそう言っときゃいいのよ」

むぐぐ、という顔を全く隠せていない真秀を見てやれやれとため息をつきながら、読真は丹沢に質問を続けた。

「もし俺たちが捕まえられない時は謹慎は続行ですか?」

「ん~どうかなあ?‥君たちの追いかけっぷり次第だね。諦めずに頑張ってくれれば、若者のやる気に絆されちゃうかもしんないなあ‥まあ、かすりもしないなんてことはないと思うけどね」

そう言いながらにやにや笑っている丹沢に、読真は明日の「鬼ごっこ」は体力勝負になりそうだと今から気が重くなった。





化け物だ。

間違いない。

真秀は喉の奥がひりつくような苦しさを感じながらそう思った。「鬼ごっこ」が始まってからずっとその思いだけが真秀の頭の中にある。隣にいる読真も汗をかきすぎてもはや顔色は青い。

『閃璧』の位階は伊達ではなかった。たった五分、先に出発しただけなのに、彼らは全くその気配を感じさせない。なのにちゃんと物陰から攻撃まで仕掛けてきてくれるというサービス付きだ。高杉は木刀を持っていないのに、その蹴りや手刀は何か入ってるんですか?と聞きたいほど重い。むこうずねなんぞ蹴られた日にはあまりの痛みで地面を転げまわる始末だ。


丹沢は丹沢で、嫌な罠を色々なところに仕掛け、そこにはまった二人を近くで見物してひとしきり笑ってからすぐさま姿を消すという神出鬼没ぶりだ。

身体中の筋肉がぎしぎしと軋んでいるような気がするし、息は上がりすぎて喉と肺が痛い。

読真も珍しく全く余裕のない顔をしてぜいぜいと荒い息を吐いていた。‥桁違いの体力がこの『閃璧』の一番の特長であるとは聞いていたが、おのが身で味わえばそれはもう地獄でしかない。

決められた制限時間は四時間だったが、読真と真秀は『閃璧』の二人に掠ることもできなかった。


四時間、たっぷり山道を走りまわされた二人は精魂尽き果て、地面に膝をついていた。

対する『閃璧』の二人は、汗もかかずに涼しい顔をしている。同じ程度、もしくは読真と真秀以上にこの山中を走り回ったはずなのに。

‥本当に化け物なんじゃないか。

読真でさえ心の中でそう思ったくらいだった。

正午を過ぎて、膝をついている二人を見下ろしながら高杉がつまらなさそうに言った。

「へばるのが早いね。もう少しくらい楽しめると思ってきたんだけど」

丹沢が腰を落として、読真と真秀の顔を覗き込んだ。二人とも身体は動かせなかったが、悔しい気持ちは重々にあったので、知らずその顔を睨み返した。丹沢はふふっと笑ってその長身を起こした。


「‥でも、気魄はまあまあありかな。あとは鍛錬次第、今後の伸びしろに乞うご期待ってところだね。‥どうする?菖蒲(アヤメ)

高杉は丹沢にそう問われ、じっと考え込んだ。

そして言った。


「ま、いいんじゃない?‥あと半年後、また「鬼ごっこ」をやろうか。その時までに成長してればよしとしよう。‥坊ちゃんの飯は旨かったしね」

そういう高杉の言葉を聞いて丹沢は立ち上がり、膝の土を払いながら言う。

「じゃあ、あの任務は坊ちゃんたちに引き継ごうか。坊ちゃん、ここから100㎞程離れたところにある鹿野山(かのやま)森林公園というところで異生物の発生予報が出てる。明日朝には現地に着けるようにここを発ってくれ。詳しいことは書字士会から連絡がいくようにしておくから」

二人はそう言うと、すぐにそこから走り去った。その足音が聞こえなくなるのもあっという間で、彼らは全く疲れてもいないのだと、疲労困憊の二人はまた打ちのめされたのだった。


二人は言葉もなく疲れた身体を引きずって施設に戻り、すぐに風呂を使って身体の疲れを癒した。無論それで全部回復するわけもなかったが、疲れた体に温泉成分が染み渡るような気がした。しばらく無言で浸かっていた二人だったが、読真がぽつりと言葉を吐いた。

「‥‥やはり、別格でしたね、『閃璧』は‥」

しみじみと実感のこもった言葉だった。真秀も全く同意である。少々癪には触ったが。

「位階って、ちゃんと意味があるんだな。‥俺も読真の足を引っ張らないように頑張るよ」

そういう真秀に、読真は何か言いかけようとして口を噤んだ。‥正直自分の方が足手まといになるかもしれない。そんな気がしたのだが、それを今真秀に言うのは何か違う気もしたからだ。


「俺も、せいぜい(エイ)であることに恥じないように頑張ります。‥鍛錬は日々続けましょう。基礎体力はつけるに越したことはありませんから」

「そうだな!‥なあ、読真」

真顔でこちらをじっと見てくる真秀に、読真は思わず向き直った。

「何ですか?」

「今日、飯何作ってくれる?」

「‥‥‥」

「もう俺腹減っちゃって、飯早く食いたくってさ」

「‥‥‥」

「読真の飯旨いもんな~あの二人もがっついてたしな!ね、今日は何?」

読真はふーと長い息を吐いてからゆっくりと言った。

「字通、俺はもう今日は疲れてますからそんな気力もありません。第一、昨日あのお二人が散々食べた上にお前も馬鹿みたいに食ったから食材が足りません。今日は卵かけご飯でも食べてください」


真秀は衝撃のあまり「ええええ!?」と声を上げた。読真はそんな真秀には構わず、深く浴槽に身をゆだねて目をつぶった。

真秀の、何というか微妙なデリカシーのなさが読真を苛々させる。

だが、この合宿を通して読真はそんな真秀の事も受け入れられるようになってきていることにも気づいていた。

明日は早起きして始発の電車に乗らねばならない。もう少し湯で体をほぐしておこうと読真は身体を伸ばした。


「そういえば、読真やっと俺と一緒に風呂に入ってくれたなあ」

嬉しそうに後ろから読真の腰を掴んできた真秀に、思いきり肘打ちをくらわせておいた。全くもって、こいつにはデリカシーというものがない!




夜のうちに簡単に掃除を済ませ、翌朝まだ暗いうちから施設を出る。バスはまだ来ていない時間帯だったので駅までは歩くことにした。まだ昨日の疲れが完全には抜けていないが、電車の中ででも少し休めばまだましにはなるだろう。

そう思いながら移動する。特急列車で一時間、地元のローカル線とバス、タクシーを乗り継いでようやく鹿野山(かのやま)森林公園に到着した。

異生物の発生が予報されていたせいか、人影はほとんどない。広大な敷地の中のどのあたりに出現するかはわからないが、異生物は比較的緑豊かな環境の中にある水辺を好む性質がある。そこで公園内にある池の周りをぐるりと巡回することにする。敷地が広いので他にも『闘封』が一組来ており、その組と手分けして探索して回る。


異生物発生予報は、退異生物特務庁(イトク)の研究班が出しているもので、その精度はまあまあ高い。長年の研究の結果、異生物は発生する直前に、特殊な振動波を出す場合が多いということがわかっており、その振動波に関する分析が進んでこの十年ほどでずいぶんと正確に発生を当てられるようになってきていた。市民は緑豊かな自然の場所へ向かう時には必ずこの予報を見てから行動するのが習慣になっている。


お読みいただきありがとうございます。


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