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10月 第2木曜日

 


 花岡朱兎は毎週木曜日、中学年クラスと高学年クラスの二クラスを受け持っている。

 もちろん、星花女子学園での授業を五時間目まで終えてからだ。体力は同年代の倍はある朱兎といえど、エネルギーチャージは必須である。

「甘い物、甘い物ぉ……」

 ゾンビのごとくロッカーの中のリュックをあさるが、よりによってチョコレートもクッキーも切らしていた。あるのはのど飴とそのゴミだけ。

「朱兎ちゃん、塩分タブレットならあるけどいる?」

 チーフインストラクターの千晶が気を利かせ、小さな菓子箱を差し出してきた。しかし、朱兎が欲しているのはしょっぱいものではない。朱兎は眉尻を垂らし、首を振った。

「ううん、ありがとうございます。前のニアマート寄って帰ります」

 ニアマートとは、この近辺に拠点をもつコンビニチェーン店。スタジオcatsの斜向かいにもあり、朱兎の喉や腹を満たしてくれる有り難い存在である。

「ほんと? それじゃ気を付けてね」

「はーい、また明後日ー」

 子供たちがいなくなると全く別の部屋のように感じるスタジオをあとにし、夜に眩しい二アマートの店内を物色する。菓子コーナーでは、秋定番のかぼちゃ味が多く目に入った。

 そういえば月末はハロウィンだ。パンプキンお化けの形のかぼちゃ味キャラメルと、魔女が描かれたパッケージの紫イモ味ガムをレジへ持っていく。ちなみに後者は受け狙いである。

「あれ、朱兎ちゃん? 今帰り?」

 隣のレジでタバコを袋詰めしていたのは、近所の古本屋のおっちゃん。幼い頃からの顔なじみである。

「あー、おじちゃーん。うん、今仕事の帰りぃ」

「今? ……そっか、んじゃ気を付けてなー」

「うん、おじちゃんもあんま吸い過ぎないように気を付けてねー」

「がははっ、朱兎ちゃんには適わないなぁ」

 商店街の大人たちはみんな、気心が知れている。花岡兄妹を小さいころから見守り、応援してくれている暖かい存在だ。

 ニアマートを出てスマホを取り出す。今日は妹の夏鶴の夕食当番。バイトはないと言っていたが、一応メッセージアプリを確認した。

『はなおかにいる。絶対来んな。真っ直ぐ帰れよ?』

 はーぁ? と不機嫌になる朱兎。口と目つきの悪さには慣れっこだが、理由もなしに来るなとは失礼極まりない。『なんでよ?』と返信するも、すぐに既読にはならなかった。

 そうなると、忠告に反したくなるのが朱兎の子供心。絶対来るなと言われたはなおかをずんずん目指す。

 オレンジ色のライトに包まれた店内を覗いた。カウンターには父の虎吉。隣には珍しく母の鷹枝が二人席のほうを向き座っている。その2人席には夏鶴の姿があった。こちらに気付き、いつものクールはどこへやらの仰天顔になる。

 そして夏鶴の向かいでは、セミロングの女性がこちらに背を向け座っていた。夏鶴のデートクラブの客だろうか? だが、バイト先の客を連れて来るとも思えない……。

「たっだいまーぁ」

 わざと勢いよく扉を開けた。ドアベルがカランコロンと心地よい音を立てる。両親が同時にこちらを向いた。家族全員が絶望的な顔つきになった。

 他に客はいない。セミロングの女性がゆっくり振り向いた。

「あれ? おかえりーぃ」

 ひらひらと手を振ってきたセミロングの女性と目が合った。

 ……自分だった。

 いや、自分ではない……!

「ひ、緋馬っ? なんでいんのー!」

 女装した、兄の緋馬であった。



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