『第 章 姫少女との出会い』
しばらく道なりを旅したシーナたちは近くの首都へとやってきた。
「おいバハムート。『認識疎外』・・・。」
「安心しろ。既にかけてある。周りの人間共には我らの気配は感じとらんよ。」
そこら辺の石ころのように気にされないようになる魔法により、彼らによる騒ぎは起こらないのだ。
そんな彼らは現在、首都のギルドに足を運んでいた。
「二人はここで待っててくれ。何か依頼を探してくる。」
「早くしてくれよ~?」
シーナは掲示板とにらめっこし依頼書を見渡す。
「ふむ。この街も他と似たような依頼ばかりか。まぁ当然か。今の世の中魔獣の被害が多いだけで平和そのものだからね。」
その時、後ろからギルド職員の女性に声をかけられた。
「失礼。もしや貴女は黒魔のシーナ様では?」
「っ⁉」
隠していた自分の通り名を口にされバッと振り返る。
「・・・何故その通り名を?」
「ここでは人目があります。こちらへどうぞ。」
彼女に連れられシーナは奥の部屋へと通される。
(向こうが私の事を知っているとなると、もう門前払いされるのか?)
しばらく経つと茶髪の中年男性が入ってきた。
「ギルド長!また昼間から飲んでいましたね⁉」
「仕方ねぇだろ。激務をするにはどうしても必要なんだよ。」
どうやらこの男性はギルドマスターのようだ。
「ん?お嬢さんが噂の黒魔のシーナか?」
その時、シーナに稲妻が走る。
(お、お嬢さん・・・‼)
二十八歳のシーナにとってその言葉は歓喜の他でもなかった。
お世辞ではなくギルド長は三十五歳らしく彼から見てもシーナは十分お嬢さんなのだろう。
「君の事は聞いている。なんとも厳しい人生を歩んでいるようだが・・・。」
「平気平気!頼れる従魔もいてくれるし全然問題ないわ♪」
お嬢さんと言われたのがよほど嬉しかったのかご機嫌な表情でギルド長の話を聞くシーナ。
「君が何者であろうと俺は皆平等に接する。それが俺のポリシーだからな。」
話を戻し、ギルド長はシーナにある指名依頼を言い渡す。
「少女の護衛?」
「あぁ。とある御人からその少女を王都まで連れていくって言うシンプルな依頼なんだが。」
「・・・それだけ?随分内容があっさりしすぎてる気もするんだけど?」
少女の護衛。
それだけ言い渡されても少女が何者で何の目的で護衛させるのか。
依頼にしては内容が浮きすぎていた。
「こういうのは信頼が要だ。詳細がわからないんじゃ引き受けようがない。」
「・・・できれば何も聞かずに引き受けてほしかったけど、仕方ない。裏の試験会場に来てくれ。」
ギルド長に連れ出され二人は裏の試験会場にやってくる。
「正直君の事はまだ少し疑ってる。だからまずは力を示してくれ。それで君が信用に値するかどうか判断する。」
「随分回りくどい事するんだね。まぁいいや。力を分からせればちゃんと指名依頼の詳細を教えてもらえるし。」
手首手足を回し関節をほぐすシーナ。
「剣は使えるか?」
ギルド長が木剣を投げ渡そうとするが、
「いらない。このままで問題ないさ。」
木剣を構えるギルド長に対し、シーナは素手で戦うらしい。
(体術派か。さて、噂の悪評もあるし、彼女の実力はいかに・・・。)
その時、シーナは胸元のボタンを外しギルド長は咄嗟に目線を逸らした。
「おいおい!何やってる⁉」
「え?戦闘準備してるだけだけど?」
「何でボタンを外すんだよ?」
「あぁ。気にしないで。ただ動きやすくしてるだけだから。」
「そう言う問題じゃ・・・、まぁアンタがいいならいい。見えても知らねぇぞ?」
「お構いなく。」
そして二人は構え一瞬の静けさが包み込んだ瞬間、試験会場で強烈な爆発音が鳴り響いた。
「っ⁉」
外で待機していたバハムートとニーズヘッグ、そして受付の女性が大慌てで試験会場にやってくる。
「ひえっ⁉ドラゴン⁉」
「安心しろ。我らは従魔だ。」
「ん?あそこにいるのは?」
土煙が蔓延する中、そこには仁王立ちのシーナと腰を抜かして座り込んでるギルド長がいた。
「立てるか?」
「あ、あぁ・・・。」
手を差し出しギルド長を起こす。
「ギルド長!いったい何をしていたのですか?」
「いや、ただコイツの力量を確かめてただけだ。結果は見ての通りだがな。」
ギルド長は一瞬バハムートとニーズヘッグを見て驚いた後、シーナに向き直る。
「お前の実力は分かった。依頼内容はちゃんと説明してやる。」
「そうこなくっちゃ!」
ギルド長と受付の女性は先にギルドに戻って行った。
「まさかお主、アレを使ったんではないだろうな?」
「ほんのちょっとだけだよ。」
「お前馬鹿じゃねぇの⁉暴走したらどうすんだよ!」
「その心配はない。私が何年力を抑制してきたと思ってるんだ?」
「二十八年。」
「おい‼具体的に言うな!」
ギルド内の廊下をツカツカ歩くギルド長と受付の女性。
「・・・おい。」
「はい?」
「アイツ、噂の黒魔のシーナで合ってるんだよな?」
「い、一応外見は一致してますし、二頭のドラゴンも連れてますから当人で合ってるかと・・・。」
ギルド長は難しい顔をする。
(性格は噂程悪いって訳じゃなかったが、あの力・・・。)
模擬戦闘を行った時に見たシーナを思い出し少し身震いした。
(ありゃ世間から恐れられる訳だ・・・。)
シーナが勝ち取った依頼の詳細は、なんと地方までやってきた王族のお姫様を王都まで護衛する依頼だった。
世間勉強の一環でこの地方までやってきたお姫様だが帰りの途中何かの襲撃により護衛が全滅してしまったとの事。
王都まではかなり距離があり並みの冒険者では難しい依頼らしい。
そこで目を付けられたのがシーナだという。
「護衛全滅・・・、お姫様の心中察するわ。」
「今彼女は領主の館で保護されてる。後日ギルドに連れてくるから頼むぞ。」
「了解。」
詳細も話し終え退室しようとすると、
「・・・最後にもう一つ教えといてやる。」
「?」
「どうやら姫さんの命を狙う妙な教団がいるらしい。噂じゃそいつらに護衛は全滅させられたと言われてる。気を付けろ。」
「・・・了解。」
廊下を歩くシーナは先程のギルド長の言葉が引っかかっていた。
(きな臭くなってきたわね・・・。)
数日後、ギルド長はシーナたちの待つ裏庭にやってくる。
彼女はバハムートが休む側でデッキチェアに腰を降ろし、眼鏡をかけて読書をしていた。
ちなみにニーズヘッグは仰向けで日光浴中だ。
「老眼鏡か?」
「はっ倒すぞ?(怒)」
皆して年齢いじりやがって、と思いながらギルド長から紙とメモを渡される。
「護衛に必要な物資のメモと地図だ。内密な依頼だから俺のポケットマネーから幾らか出すぜ。」
「悪いね。」
「出世払いと思えば安い。そんで例の姫さんだがな。もうそろそろ着くころ・・・。」
その時、街の方から大爆発が起こった。
「「っ⁉」」
「何だ⁉」
本を投げ捨てシーナは力強く跳躍し屋根の上に立つ。
よく見ると馬車が横転し燃えていた。
爆炎の傍らから複数の影が建物の上を飛び移っていき、その内の一人は少女を抱えていた。
(私から依頼人を奪うとはいい度胸だ。)
シーナの両手から黒い炎が燃え上がるとまるで鞭のように伸び高い建物に巻き付く。
そしてワイヤーアクションのように縦横無尽に飛び回り、連中の前に降り立つ。
「っ⁉何者だ⁉」
「そりゃこっちのセリフだ。」
一瞬の速度で背後に立ち衝撃波で連中を吹き飛ばす。
その拍子に投げ出された少女を華麗に受け止める。
その少女は金髪をポニテに結っており冒険者のような身なりをしていたがどこか高貴な雰囲気を感じる。
「この子が例のお姫様か。」
すると抱えた少女が目を覚ました。
「・・・?」
「おはようさん。そして初めましてだね。君の護衛をすることになったシーナだ。よろしくね。」