『第 章 闘争本能と禁忌』
ジエトに召喚された狼の魔獣の大群を一人で相手するシーナ。
黒炎を両手に纏い次々と狼魔獣を倒していく。
「あの量相手に息切れ一つしないのかよ。どういう体力してんだ?」
ジエトは建物の上で高見の見物をしながら魔獣を召喚し続けていた。
(このままじゃジリ貧だ。奴を叩かないと!)
狼の大群を掻い潜りジエトに殴り描かる。
しかし寸前で結晶を生やした熊の魔獣に阻まれてしまう。
「残念♪」
「チッ!」
そのまま熊の魔獣はシーナに襲い掛かり、受け止められながらものしかかろうとする。
「そいつは俺でも手懐けるのに苦労したんだ。その分かなり強いぜ?」
眼を赤くぎらつかせ牙を見せる熊の魔獣。
更に周りから狼の大群も押し寄せてくる。
その時、シーナから莫大な魔力破が放たれ熊と狼をまとめて吹き飛ばした。
「っ⁉」
そして次の瞬間、シーナの拳が目の前まで迫っておりジエトは建物から叩き落された。
動きの変わったシーナは迫りくる魔獣の大群を次々と殴り倒し召喚された大群全てを全滅させた。
肉片が散らばる中佇むシーナ。
起き上がるジエトはその光景に流石に息を飲む。
「お前、何なんだ?神の従魔をこうも容易く・・・。」
「お前にはわからないだろうね。私がこれまでどんな思いで生きてきたのか。人々に恐れられ、罵られ、下げずまれ。命を狙われた事さえもある。そんな状況で二十八年も生きてればこうもなる。上でふんぞり返って見てるだけのお前とは格が違うのさ。」
「・・・格が違う?俺が、神がお前のような人間より格下だと言いたいのか?」
「事実だ。」
その瞬間、ジエトは赤い魔法陣を展開させる。
「この俺が下等な人間より下なはずがない!俺は従神、魔獣を従える頂き!人間風情が神を、俺を愚弄するなぁ‼」
怒りに任せて魔法陣を起動させ、王都中の遺体から魔力が抜き取られ結晶に封印された魔獣に注がれていく。
大河やコウタ、ショウヤの遺体からも魔力が抜かれ結晶に注がれた瞬間、魔獣がその眼光を開眼させる。
結晶がひび割れ砕け散り、血のように赤い光沢の鱗に身を包み、背に二つの大砲のような器官を持ち、頭部に幾つもの黒い眼球がギョロつく竜のような形をした魔獣。
『悪魔獣』が目覚めてしまった。
「~~~~~っ!!!」
生物とは思えない咆哮を上げる悪魔獣。
「ハハハッ‼これが伝説の悪魔獣!なんておぞましい魔力だ!気を抜けば神である俺ですら飲み込まれるようだ!」
従魔契約でリンクしているジエトに悪魔獣の魔力が流れ込んでくる。
ジエトは魔法を無造作に放ち街を破壊していく。
「スゲェ!どんなに魔法を使っても一向に魔力切れにならない!今の俺は無敵だ!ハハハッ‼」
テンションが高まり高揚するジエト。
だがシーナは黙って佇むだけ。
「どうした?あまりの神々しさに言葉も出ないか?」
「何が神々しさだ。そんなの、ただの破壊神じゃん。」
「口を慎め人間。俺がその気になればこの力でお前を葬る事なんて容易い事。さっきの格下という発言を取り消すなら許してやってもいいぞ?」
「生憎そのような心得は持ち合わせていない。ましてや化け物相手にはね。」
「この力を前にしてまだ神を愚弄するか。他者を下げずむことで己が上だと錯覚する。本当に人間とは愚かな生き物よ。」
するとシーナは何故か準備運動を始める。
「力ってのは人にもよるが、私は大切な何かを守るためにあるんだと思ってる。力に溺れ見せつけてくるのはただの暴れん坊だ。今のお前はそれに等しい。」
ジエトは眉を引きつらせる。
「・・・何が言いたい?」
「手本を見せてやる。力に溺れながらも、それを正しく扱えるやり方を。そして、私が化け物と言われる所以を。」
シーナは胸元のボタンを外し深く深呼吸をする。
意識を体内に集中。
すると奥底から小さな鼓動が聞こえてくる。
その音は次第に強くなりシーナの眼が赤く開眼する。
「ぐぐ、うおぉぉぉぉぉ!!!」
叫ぶと同時に爆風が吹き荒れ白い稲妻が迸る。
「っ⁉」
彼女の黒い長髪は白髪へと変色し両腕は竜のように鱗と鋭い爪を纏う。
そして黒炎の尻尾を生やし魔力で構築された白いマフラーをなびかせる。
「・・・ハハ、ヒャハハハハ‼」
狂気じみた笑いと共に強烈な覇気が周りの建物にヒビを入れる。
「お前、その姿は・・・⁉」
「遅い。」
気が付くと音もなくシーナの拳が目の前に現れジエトは遠くの建物まで殴り飛ばされた。
「悪いね。この姿だと戦いが楽しくなって仕方ないんだ!竜の闘争本能。神をも殺す力だ!」
目覚めた悪魔獣は街を破壊しながら行進していく。
その様子を遠くから見ていた常闇。
「・・・いいのかい?アンタ達の城下町があの怪物に踏みつぶされてるけど?」
常闇の前に対峙する翼竜に乗ったマルクは、
「民衆は全て避難済み。いくら都市を破壊されようとまた建て直せばいい事。それよりも俺は、貴様を葬りたくて仕方ない。」
大剣を常闇に突き付けるマルク。
「あの奇妙な魔石の事だよね?」
「貴様は我が国の機密を知った。あれを外部に漏らされては少々都合が悪いんだ。あれを知った貴様を生かしてはおけない。」
「そうか。なら・・・、全力で抗うとしよう。」
連射式のクロスボウから毒の矢を連射。
翼竜が風圧で全てを弾き熱戦を吐き出す。
熱戦をかわし再度クロスボウを腹部目掛けて放つが機敏に避けられ急降下。
背に乗ったマルクが大剣で常闇に切り掛かり地上へ叩き落される。
そこへすかさず翼竜が熱戦の追撃を放つ。
常闇はサーベルを抜刀し地面の石レンガを切り取って盾とし熱戦を防いだ。
「チッ!知恵の回るワイバーンだ!」
再び飛翔した常闇はその素早い飛行で上を取り真上からマルクを狙撃するが大剣で弾かれてしまう。
「何度やっても無駄だ!俺に毒の矢は一切効かん!」
「知ってる。懐に状態異常無効のペンダントを隠し持ってるだろ?用心深いアンタの事だ。それくらいの対策はしてるはずだ。」
確かにマルクの鎧の下にペンダントが隠されていた。
「それを知ったところでどうなる?貴様の攻撃は俺には一切通用しない事には変わりない!ワイバーンごときにやられる俺ではない!」
翼竜が口部に熱戦を溜め始める。
しかし、
「あぁ。攻撃は一切通用しない。俺の攻撃はね。」
すると常闇はマジックバックに義手を突っ込みながら急降下してきた。
「血迷ったか?所詮は魔獣と言ったところか。多少知恵があるようだが人間様には到底及ばん!やれ!」
口部の熱戦が放たれようとした瞬間、
「魔獣だからこそ、人間の思いつきづらい考えが出来るんだ。」
常闇は突っ込んだマジックバックからゴルゴーンの首を取り出し前に突き付ける。
するとゴルゴーンの魔眼が開眼し光が放たれる。
「っ⁉」
マルクは咄嗟に目線を遮ったが翼竜はその魔眼を見てしまい全身が石化してしまった。
当然飛ぶことも出来ずマルクは石化した翼竜と共に落下していく。
「と、常闇ぃ‼貴様ぁ‼」
常闇はゴルゴーンの首を投げ捨てる。
「人間には人間の戦い方があるように、魔獣には魔獣の戦い方があるんだ。少し考えれば分かる事だ。アンタは俺を殺すことに執着しすぎて視野が狭くなってた。だからワイバーンごときに負けるんだよ。」
「っ・・・!」
するとマルクは落下しながら通信魔石を取り出し叫び出す。
「メギドを放て‼この国にいる害獣共を皆殺しにしろぉ‼」
そうしてマルクは石化した翼竜と共に地上に落ちたのだった。
気に掛かる言葉を残して。
「メギド・・・?」
その頃、王宮の地下研究室で研究員が大慌てで走り回っていた。
「急げ!第一王子様の命令だ!メギドを開放しろ!」
「し、しかしあれはとても危険な被検体です!あんな怪物を世に解き放ったら我が国の損失に!」
「止む負えん!このまま国を滅ぼされるよりはマシだ!急げ!」
「は、はい!」
研究員は装置を操作し地下奥深くにある格納庫の扉が開かれる。
すると冷気の中に異形な影が現れる。
「いつ見ても我々が作ったとは思えない姿だ・・・。」
「感心してる場合ではない!急いで奴を起こ・・・!」
その瞬間、研究員の一人の頭が突き飛ばされた。
「ヒ、ヒィィィィ⁉」
もう一人の研究員が逃げ出すも鋭い何かに貫かれてしまった。
そして格納庫からゆっくり出てきたのは巨大な蜘蛛?のような怪物のシルエットだった。
怪物はそのまま研究室や職員を踏みつぶしながら突き進み、王宮の壁を突き破って地上に飛び出した。
「っ⁉」
常闇が眼にしたその怪物は蜘蛛のようなだがその胴体は鉄道を走る機関車のようだった。
しかしその機体から蜘蛛の脚が生えており、汽車の煙室扉部分に一つの眼球がギョロつくこの世のものとは思えない異形極まりない怪物だった。
「おそらくあれもこの国の機密だと思うけど、どう見ても自然に生み出された生き物じゃないね。無機物と有機物を融合させ生み出した禁忌。あれがメギドか。」
メギドはなりふり構わず暴れまわり王都を破壊していく。
このままアレを野放しにすることは出来ず、常闇はメギドの下へ急降下した。
メギドの前に降り立った常闇はサーベルとクロスボウを構える。
「あの悪魔獣にぶつけることを考えたけど、それだと余計に被害が広がりそうだ。この街には俺の行きつけの店があるんだ。これ以上暴れられては困るから、退治させてもらうよ。」




