『第 章 ヨルムンガンドの襲撃』
「そろそろレイラス王国の王都に着くんじゃない?」
「はい。見覚えのある草原ですのであの丘を越えれば王都が見えてくるかと。」
シーナたちが草原の道を歩いているとふとバハムートが口を割った。
「目的地に着くはいいが、レジーナ。お主は第一王子に命を狙われておる身だ。このまま王都に入っても向こうが黙ってるとは思えん。」
「確かにそうね。あの強いワイバーンをけしかけてくるくらいだもんね。護衛任務は終わってもそっちの問題があるわ。」
「・・・あの、皆さんの依頼は私を王都まで護衛することですよね?何もそこまでしていただかなくても。」
「何言ってるの。ここまで聞いて見過ごすわけないでしょ。私達に任せな!」
笑顔でグッドサインをするシーナ。
しかしレジーナは下を向き表情が曇ってしまう。
それを見たバハムートは何か違和感を覚える。
その時、丘の向こうから煙が立ちこめてる事に気が付いた。
「な、何⁉」
「行ってみよう!」
急いで丘の上に駆け上がると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
「おいおい・・・、何が起きてるんだこりゃ?」
四人の目の前には煙に空を覆われ、火の海と化したレイラス王国の王都が広がっていたのだった。
「こんな真昼間に襲撃⁉何が起きたの⁉」
「分からん。だが、今目に映っているものは全て事実だ。」
燃える王都を見たレジーナは血相を変えて走り出した。
「レジーナ!」
シーナたちも慌てて追いかけた。
その頃、炎が燃え盛る王都の中では王国騎士が黒いローブを着た少年少女たちヨルムンガンドと対峙していた。
魔法などで容赦なく攻めてくるヨルムンガンド。
相手が子供なだけに王国騎士も思うように戦えていなかった。
「う、うおぉぉぉ‼」
「邪魔だ!」
手先に植物の根が絡みつき一本の銃となった右腕で切りかかる騎士を発砲するショウヤ。
「相変わらずお前の魔法気持ち悪いな。」
後ろから騎士を殴り飛ばす大河が言う。
「植物の根を銃口にして種で発砲。なんとも自然に優しい能力だね。」
コウタも口を挟むが、
「口走ってる暇はないぞ。向こうはどんどん兵士をけしかけてくる。俺達はもう襲撃者なんだ。だが分かってるな?」
大河、コウタ、ユウナの三人は頷く。
「誰一人殺すな。抵抗する物は意識を刈り取るか眠らせろ。だが止む負えない時は、その時は覚悟を決めろ。いいな?ユウナ。」
ユウナはグッと口を紡ぐ。
「・・・うん。もう私達が人を傷つけるのは、これが最後。」
「あぁ。元の世界に帰れば全てが終わる。行くぞ。」
四人が中央に建つ王宮を目指し走っていると、
「子供相手に情けない奴等だ。」
「っ⁉」
突如頭上前方から熱戦が放たれショウヤ達は咄嗟に回避する。
「何だ⁉」
「あれ見て!」
ユウナが指さす先には白い鱗に覆われた翼竜が羽ばたいており、その背中に白い鎧を着た一人の男が乗っていた。
「翼竜⁉」
「聞いたことがある。レイラス王国の第一王子は騎士団長であり、竜騎士の称号を持つと。」
「てことは・・・。」
彼等の前に現れたのは第一王子マルク。
「これ以上の好き勝手は許さん。」
マルクは殺意の籠った眼でショウヤ達を見下ろすと同時に翼竜が咆哮で威嚇する。
「これは、止む負えないかもしれないね。」
四人もそれぞれ武器を身構える。
そして大河が飛び掛かった。
「おらぁぁぁ‼」
鍛え上げた拳が翼竜を殴りつける。
だが相手はドラゴン。
一瞬ひるんだだけですぐ大河を弾き返した。
「まだまだぁ!」
コウタの実体化する絵。
ユウナの言葉が現実になるマジックワードでアタッカーの大河をサポートし翼竜相手に善戦する。
そこに翼竜に乗るマルクを狙撃するショウヤ。
植物の銃を右腕に纏い火力重視で狙い撃つ。
四体一の戦況にマルクに分が悪いように思われたが、
「甘いな。」
マルクは剣を掲げると、なんと翼竜に突き刺した。
「ガァァァァ‼」
「っ⁉」
「何をしている⁉」
「こうするのさ。」
辺りに降り注ぐ翼竜の血。
すると翼竜が咆哮を叫んだ瞬間、血が赤熱し爆竹のごとく爆破しだしたのだ。
「うおぉぉぉ⁉」
爆発の勢いはとどまることを知らず街を半壊させるほどまで至った。
爆発により軽い火傷を負ってしまった四人。
「今の爆発でクラスの何人かがやられちまったようだ。」
「そうか・・・。」
ユウナの力で傷を回復する四人。
「やっぱり止む負えないか。ユウナ。」
「うん。躊躇していたら、こっちがやられちゃう。だから、私も覚悟を決める。」
もはや選択の余地はない。
やらなければやられる。
ショウヤ達は自身の持つ力を最大限に引き出す。
「異界の招かれざる者どもめ。わが国に乗り込んだ罪、その命を持って償ってもらおう!」
「何が招かれざる客だ!勝手にこの世界に連れ込まれたただの被害者だ俺達は!俺達は元の世界へ帰るため、お前等の持つ魔石を寄こせ!」
大河の言葉にマルクは一瞬驚く。
「貴様、何故魔石の事を知っている・・・⁉」
「答える義理はないな。」
ショウヤが銃口を構え発砲。
大剣で弾を弾くマルク。
(何故奴らは魔石の事を知っている?どこからか情報が漏れたのか?いやありえない。魔石の事は我ら王族が厳重に管理している。情報が漏れるなど・・・。)
するとマルクは一つの心当たりに気付く。
昨晩王宮に侵入したワイバーンを。
「・・・奴か。」
マルクの眼に更に殺意が芽生える。
「魔石の事はこの国の国家機密。それを知った貴様らなど、生かしてはおけん!」
マルクが号令をかけると王宮からワイバーンに乗った夥しい数の騎竜兵が現れ上空を覆い尽くす。
「これは・・・!」
あまりの数にショウヤ達は後ずさる。
マルクが一斉突撃の号令をかけようとしたその時、突如空に巨大な門が現れる。
マルクは勿論、ショウヤ達全員も驚き空を見上げる。
門が開くとそこから四枚の翼を有した男がゆっくりと降りてきた。
「神・・・!」
降りてきた神の男は周囲を見渡し状況を把握する。
「なるほど。手こずってるようだな。」
「その声は、ジエト様⁉」
ずっと水晶でショウヤ達に信託を行っていた張本人ジエトが下界に現れたのだ。
「何故ここに?」
「いや?ちょっと様子見で来たのよ。そしたら随分派手にやってるなぁ。面白そうだから俺も手を貸してやるよ。」
「か、神様が私達に力を貸してくださるんですか⁉」
ユウナの言葉にジエトは笑みを浮かべる。
「あぁ。コイツでな。」
ジエトが指を鳴らすと魔法陣から巨大な結晶が現れ地上に落とされる。
それは余りにも巨大で結晶の中に魔獣らしき影も伺える。
「な、何だあの異形の化け物は・・・?」
見たことない魔獣にマルクたち竜騎兵は息を飲んだ。
それはショウヤ達も一緒だ。
「しっかしお前等よくやってくれたな。王都に攻め込み大勢の死者が出来たおかげでコイツの贄を確保できた。感謝するぜ。」
「・・・え?」
ジエトは別の魔法陣を展開、起動させると王国騎士だけでなくクラスの仲間からも魔力が抜き取られ結晶の魔獣に注がれる。
「そんな⁉クラスの皆まで⁉」
「ジエト様!何をしてるんですか⁉」
コウタが叫ぶが聞く耳を持たず首を傾げるジエト。
「ふ~む。まだ魔力が足りないか。しょうがない。殺すか。」
ジエトは無数の光の矢を放ち生き残ったクラスの皆を撃ち殺していく。
「ジエト様・・・⁉」
殺されたクラスや王国騎士からも魔力を奪い次々と結晶の魔獣に注がれていき、次第に魔獣から鼓動の音が鳴り始める。
「もう少し必要か。」
今度はショウヤ達に目線を移した。
「まさかジエト様、僕達を・・・⁉」
するとショウヤが前に出てくる。
「やめてくださいジエト様!何故俺達を⁉」
「いや~、お前等はいい餌の調達係だったぜ。俺の信託に従ってくれて予想より早くコイツを手駒に出来そうだ。後はお前等をコイツに捧げれば最強の従魔の完成だ。」
「そんな・・・、じゃあ俺達を元の世界に返してくれる約束はどうなるのですか!」
「あぁ、そういやそんな約束してたっけな。すっかり忘れてたぜ。まぁどのみち?お前等を元の世界に返す方法なんて知らねぇんだけどなぁ?そもそもそういうのは俺の専門じゃねぇし。」
煽るように首を傾げてショウヤ達を見下すジエト。
信じていた相手から明かされた衝撃の事実にショウヤ達は理解が追い付いていなかった。
だが一つ理解した事実がある。
自分たちは騙されていたのだと。
「では、俺達がこれまでしてきた事は全て無駄だったのですか・・・?これまで多くの犠牲を払ってまで・・・。」
「別に無駄じゃねぇよ。コイツの餌を作ってくれたからな。その点は感謝してるんだぜ?間抜けなクソガキどもよ♪」
ユウナは絶望し膝をつき、ショウヤとコウタもショックのあまり身動きしなくなってしまった。
そんな時、飛び出したのは大河だった。
「ふざけんじゃねぇぇぇ‼」
大きくジャンプしジエトに向かって拳を振るう。
しかし『固翼』で防がれてしまう。
「俺達を騙しやがって!テメェは神でもなんでもねぇ!クソッタレのクズ野郎だ‼」
「騙される方が悪いんだよ!下等生物共が!」
大河を弾き爆破魔法で地上に叩きつける。
「ふん!」
自慢の筋肉で瓦礫を吹き飛ばし立ち上がる。
「おいお前等!なにぼーっとしてやがる!アイツは元の世界に帰れると嘘をついて俺達を騙し利用したんだぞ!どのみち俺達はもう戻れねぇんだ!これまで多くの命を殺した!だがせめて最後まで抗い、あのクズをぶん殴る!ただじゃくたばらねぇぞ!俺達は‼」
大河の言葉にショウヤ達は正気を取り戻し立ち上がる。
「そうだね。このままじゃ終われない。」
「私も許せない・・・!相手が神様であろうと、落とし前はしっかりつけてもらうわ。」
「あぁ。俺達は、最後まで仲間であり、親友だ!」
ショウヤ達も身構えジエトの前に立つ。
「ジエト様、いやジエト!俺達はお前を許さない!行くぞ皆!」
「おう!」
四人はジエトに向かって走り出す。
「やってみろ!人間共!」
四人とジエトが戦いを始めた中、マルクたち王国騎士は。
「よくわからんが、まあいい。お前たちは他に襲撃者がいないか見回りを開始しろ!奴らは俺が見張っている!散開!」
マルクに指示で数機を残し竜騎兵散っていった。
(相手は神のようだ。あんな小僧共が敵う相手ではないだろう。それよりも。)
マルクは巨大な結晶を警戒する。
(あれもそうだが、一番に警戒するのはあのワイバーンだ。おそらく奴には魔石の事を知られた可能性が高い。)
魔石は王国の国家機密。
何人たりとも情報を知られた者を生かすわけにはいかない。
(常闇。貴様は俺が必ず葬ってやる。)




