『第 章 虐げられる者達』
夜。
縄張りの主であるゴルゴーンが討たれた事で暫し平和になった廃村でシーナたちはワイバーン、常闇の竜の襲撃で負った傷を癒していた。
「相変わらずお前の黒炎凄まじい再生力だな。もう傷が癒えてらぁ。」
「凄いでしょ?」
「だが気を付けろ。一歩でも扱いを誤れば瞬く間にその闇の力に飲まれてしまう。それが原因でお主は苦労してきたのであろう?」
「・・・そうだね。一時期この力を憎んだこともあったよ。」
しゅんとした表情でシーナは自身の手の平を見る。
「お前バハムート・・・。気分萎える事言うなよ。」
「事実だろう。」
「そう言う事はもっとオブラートに包んでだな・・・!」
ドラゴン達が話し合っている中、レジーナは焚火の前で何やら思い詰めた表情をして焚火の炎を見ていた。
「どうしたの?」
シーナは彼女の隣に腰を降ろす。
「あのワイバーン、常闇に何かを言われた時から様子が変だ。話せる範囲でいいから吐き出した方がいいぞ?聞いてあげるから。」
シーナの優しさにレジーナは少し心を許す。
「実はあの時・・・。」
『俺の依頼主はレイラス王国第一王子だ。要するに君の兄が妹である君の命を狙っているという事。彼もそうだけど王国は何かを隠している。勿論、君も含めてね。』
常闇はそうレジーナにささやいたのだ。
「第一王子がレジーナの命を・・・?」
「はい。私がこのまま国に戻れば父に功績を称えられ時期王位は私に大きく傾きます。それを兄は許せないのでしょう。誰よりも欲の強い人ですから。」
「妹を平気で殺そうとするなんて信じられない・・・!」
「割とそうでもないぞ。世の中の王族や権力者は野望のためなら平気で身内ですら切り落とす。長い生の中そう言った連中を何度か見てきた。」
「俺達ドラゴンは長命種だからな。」
とドヤるニーズヘッグ。
「人間の感性からしたら異常の他ないわ。でも現状、レジーナはヨルムンガンドに加え身内の第一王子にまで狙われてるのか。まるで昔の私みたいだ。」
「え?」
「おいシーナ。あまり昔の事は思い出さない方がいいぞ。心が幾つあっても足りない。」
「私をいくつだと思ってる?もう立派な大人だ。」
「二十八歳だもんな。」
「具体年齢言うな!」
ビシッとツッコミを入れるが話を戻す。
「少し昔話になるけどいいかな?」
「・・・はい。」
シーナはレジーナに語る。
化け物と虐げられてきた自身の人生を。
生まれながらに黒炎を発症したシーナの見たことない力に村の住人、実の親ですら恐れられ化け物と虐げられてきた事。
魔獣によって村は滅ぼされ多くの命が失われた中、生き残った村人はシーナが魔獣を呼び寄せたと決めつけ彼女の命を奪おうと動き出した事。
村から逃げ、独り森の中を孤独に生き永らえてきた事。
そんな時、バハムートやニーズヘッグに出会った事。
そうして数々の苦難の共に乗り越え今に至る事を全て話した。
話し終えたシーナにレジーナは涙を流していた。
「そんなお辛い過去が・・・。私と比べ物になりませんね。」
「かもね。でも私はコイツ等のおかげで今の私がある。過去がどうとかよりも今が楽しければそれで充分よ。レジーナも、今が大変なだけでそれを乗り越えたらもっと楽しいことや嬉しいことが起きるかもしれないよ?」
「私に、そんなことが起きるんでしょうか?」
「起きる!私が保証する!」
「何とも信憑性のねぇ保証だな?」
「うるさい!」
そんな彼女らのやり取りを見てレジーナは不意に笑いを零した。
「私も、兄の策略を跳ね除けられるよう頑張ります!今後の未来のために!」
「よし!その意気だ!」
笑顔でレジーナの頭をわしゃわしゃと撫でるシーナ。
だが話を見守っていたバハムートは昼間の常闇の言葉が未だに気に掛かっていた。
『レイラス王国と、その王女に気を付けろ。』
(王女とは間違いなくレジーナの事であろう。しかし気を付けろとは一体どういう事だ?・・・彼女は、我らにまだ何かを隠しているのか?)
訝しむバハムートの眼差しは真っ直ぐレジーナを見ていたのだった。
同時刻、シーナたちの下を飛び去ったワイバーン常闇は人々が寝静まるレイラス王国の上空を飛行していた。
彼が目指す場所は、王宮だった。
手持ちの魔道具で姿を見えなくし王宮の庭に着地。
徘徊する警備を掻い潜りながら中へ中へと進んで行く。
「・・・ん?」
突如足元から濃い魔力反応を感じとる。
「この下に何かある。」
バッグから二種類の魔石を取り出す。
「『千里眼』。『聴覚向上』。」
魔石に宿る魔法を発動させると視界にある人物の姿が映った。
第一王子のマルクだ。
常闇は『聴覚向上』で聞き耳を立てる。
「ありがとうございます。父上。私の魔剣も一段階強化されたようです。」
マルクの前にはレイラス王国の国王が立っていた。
「成功のようだな。この調子でお前たちを強化していけばいずれは、くくく。」
常闇は千里眼をよく凝らすと国王の背後に真っ赤に輝く大きな魔石があることに気付いた。
(あの魔石から感じる魔力、もしかして・・・!)
「ところで父上、近々城の改装を行う予定でしたよね。私の魔剣の強化具合も兼ねて一振りよろしいでしょうか?」
「構わん。なるべく一か所に留めてくれ。」
「では。」
そう言うとマルクはこちらに目線を向けた。
殺気を察した常闇は急遽その場から離れると先ほどまで立っていた場所に強烈な斬撃が振り上げられたのだ。
「チッ!」
常闇は城の中を高速で飛行し窓を突き破り、夜の城下町へと姿を消した。
「トカゲ風情が、随分舐められたものだ。」
急遽城から脱出出来た常闇は荒い息を整える。
「まさか、こっちの潜入に気付くなんて・・・。第一王子騎士長マルク。やっぱりきな臭い男だ。それにしても・・・。」
常闇は千里眼で見た赤い魔石が気掛かりだった。
「あの魔石から感じた魔力、負の魔力だった。生命の憎悪があそこまでの密度とは、やはりこの国には、何か大きな陰謀があるみたいだ。」
常闇は夜闇に輝く月を見上げるのだった。
それからしばらく経った頃、レイラス王国王都前の草原に黒いローブを羽織った三十人くらいの人だかりが押し寄せてきた。
その先頭には例の四人組もいる。
「行くぞ。この作戦が成功すれば俺達クラスは全員、元の世界へ帰れる。」
――――――――――
思い返せば、それは突然起こった。
いつも通り友人と登校し、いつ戻りの授業を受け、いつも通り馬鹿をやった。
何気ない日常が俺達は大好きだった。
でもそんなある日、教室の床が突然光出し、気が付けばクラス全員が見知らぬ城に連れてこられていた。
クラスで異世界へ転移してしまったのだ。
俺達を召喚した王と名乗る男は数人を抜擢すると残った俺達は容赦なく捨てられた。
勇者召喚に数人呼ぶはずが過ってその場に居た全員を召喚してしまったと言い俺達を捨てた。
勝手に召喚しておいてあまりにも理不尽で身勝手だった。
その後俺達は団結し数年をかけてその国に復讐し、国を滅ぼした。
それから俺達は元の世界へ帰る方法を探すため、ヨルムンガンドを創設した。
ちなみに名前はコウタが考えた。
カッコいいからという安直な理由で。
でも名前はどうでもいい。
無事に元の世界へ帰ることが出来るのなら・・・。
――――――――――
「コウタ、ユウナ、大河、そしてクラスの皆。ここまでついてきてくれて感謝する。」
「何言ってるんだ学級委員長。俺達のリーダーはお前だけだ。」
「それに感謝を述べるのはまだ早いよ。そう言うのは元の世界に帰った後にお願いしたいな。」
「うん。」
「そうだな。・・・行くぞ。この一時の夢を終わりにするんだ。」
ショウヤ達四人を先頭にクラス三十人は王都へ攻め入ったのだった。
夜も明け、暫しの穏やかな旅を楽しむシーナたち一同。
道中魔獣なども討伐しながら進み、大木の麓で休憩をしていた。
そんな中、レジーナは小さなまな板を置き何かを作っていた。
「何作ってるの?」
シーナがおもむろに顔を覗かせる。
「国境を越えてレイラス王国に入りましたのでちょっとしたお礼をと思いまして。」
手元では幾つもの木の実や果実をカットして簡単に盛り付けている。
「これは?」
「幼い頃よく木の実や果実を使ってこういったおやつを作って食べてました。とても美味しいですよ。」
出来上がった盛り木の実を受け取り一口食べてみる。
すると口の中で木の実のほろ苦さと果実の甘酸っぱさが見事に調和して美味の他ならなかった。
「美味しい!」
「喜んでもらえて良かったです。」
ニッコリ笑顔で答えるレジーナ。
興味を示した他の二頭も顔を覗かせてきた。
「美味そうだな。俺等にもくれ!」
「はいどうぞ。」
彼等は巨体なので複数まとめて口の中に放り込む。
「うま!いくらでもいけるぞ!」
「酒が欲しくなるな。」
「この飲兵衛ドラゴンめ!」
「お主に言われたない。」
そんな賑わう彼らの裏でレジーナは後片付けをしているがその表情が少し思い詰めていたことには誰も気付かなかった。




