『第 章 石化の魔獣』
廃村で野営をするシーナたち。
シーナの作ったスープを平らげる一同はバハムート達が発見した石化した村人の事を説明した。
「そんな・・・、村人が石に?」
「魔獣の痕跡からしてコカトリスと推測する。」
「コカトリスは石化の能力を持つ鳥の魔獣だったね。」
「推測だから確定じゃねぇがな。」
今夜は見張りを建てる方針にして女性陣とニーズヘッグが先に就寝についた。
その間バハムートが焚火の前で見張りを行う。
(ドラゴンである我らにコカトリス如きが楯突くとは思えんが。念には念を入れねばな。)
仲良く寄り添って眠るシーナとレジーナを見てそう思うのだった。
途中ニーズヘッグとも変わりその晩は何事もなく過ごすことが出来た。
「どうだった?」
伸びをしながらシーナはバハムート達に問う。
「魔獣の気配も一切せず問題なかったぞ。」
「逆に出てきてくれた方が後が安心できるんだけどなぁ。」
「変なフラグ建てるのやめて。」
その後、起きてきたレジーナを連れてシーナは近くの池で朝の水浴びをする。
「はぁ~!気持ちい~!」
レジーナも一緒に水浴びをする中、ふとシーナの引き締まった肉体美に眼を奪われた。
「シーナさん、スタイル良すぎませんか?」
「そう?私はレジーナの可愛い身体がいいと思うんだけど?」
「・・・贅沢な考えですね。」
そう言いシーナの大人な胸を睨むレジーナだった。
その時、
「あら、楽しそうね。私も混ぜてもらえるかしら?」
突如黒いドレスを身に着けたご婦人に声をかけられた。
「っ⁉」
咄嗟にレジーナの前に立つシーナ。
(気配が感じられなかった?いやそれ以前に、あの女性から感じる魔力・・・!)
「羨ましいわね。何の穢れもない綺麗な肉体美。羨ましい、妬ましいわ。私なんか・・・。」
「っ!レジーナ見るな!」
「こんななのに!」
ご婦人は布マスクを外すと蛇のような瞳に髪先が蛇の頭へと変わる。
ご婦人と思ってた女性は高位の魔獣ゴルゴーンだった。
シーナは裸のレジーナを覆うように抱きしめる。
「絶対目を開けちゃダメ。石にされるわ。」
「っ!」
レジーナはギュッと目を瞑った。
「貴女達も私を見てくれないのね。やっぱり醜いからかしら?」
下半身を蛇の胴体へと変え舐めるようにシーナたちに近寄る。
「ねぇ。こんな私でも綺麗かしら?ねぇ、貴女達から見て私は醜いかしら?」
蛇の舌で彼女たちの頬を舐めるゴルゴーン。
眼を開けた瞬間石にされることは明白。
なんとかしたいが一糸まとわぬ姿の上、身動きのとりづらい池の中心。
迂闊に動いてもゴルゴーンに何をされるか分からない。
よって一切動けなかった。
(バハムート、ニーズヘッグ・・・!)
一方、廃村で野営の後片付けをするバハムート。
「あの二人、自分と水浴びが長いな。まぁシーナはいつも一人で浴びておったから共に汗を流せる相手がいて嬉しいのだろう。であれば我からは何も言うまい。」
器用に爪先で物を掴みマジックバックに入れていく。
その間、ニーズヘッグは一人で廃村の周辺を探索していた。
「旅の役に立ちそうな物を物色させてもらおうか。悪いね村の人間。こっちも命を預かる身なもので。」
石にされた村人に南無と手を合わせ瓦礫を漁るニーズヘッグ。
「やっぱ寂れてるだけあってロクな物が残ってねぇな。ほとんど劣化してらぁ。」
無我夢中で漁っていくと石造を踏み砕いてしまった。
「やべ!割っちまった!」
慌てて足元を見ると、それは人間の石像ではなかった。
「ん?鳥の脚?」
目線を上げるとそこには大型の鳥の魔獣、その石化した物が横たわっていたのだ。
「・・・嘘だろ?コイツ、コカトリスじゃねぇか?何で村を襲った元凶が石になってやがる?」
よく調べてみるとコカトリスの他に別の魔獣の痕跡を発見した。
細長い何かが這いずったような痕跡だ。
「コカトリスは石化能力を使う故に自身にも石化耐性がある。そいつが石にされちまうほど強力な魔獣って・・・!」
そこまで推測したニーズヘッグは血相を変えて走り出した。
「バハムート‼」
「・・・む?」
その声を聴いたバハムートは荷物を放り出しニーズヘッグを探し出す。
「バハムート!バハムート!」
「ニーズヘッグ!どこだ!」
全速力で駆ける二頭は突き当りで衝突し同時に転倒する。
「いたた・・・。」
「バハムート!」
「突然どうしたお主?」
「ここはゴルゴーンの縄張りだ!さっき向こうで石にされたコカトリスを見た!」
ニーズヘッグの言葉を聞きバハムートも血相を変える。
「・・・、シーナ‼」
「レジーナ‼」
「さぁ、眼を開けて、私を見て。貴女達から見た私を教えて?」
二人の周りを徘徊するゴルゴーン。
「しつこい女性は嫌われるわよ?」
「うふふ。随分気の強い人間ね。・・・でも、やっぱり気に入らないわ。貴女達は全てを持っている。美貌も、力も。何もかもが妬ましい。私をこんな姿にしたあの王国の奴等も、全部、全部!」
(王国?)
「さぁ眼を開けなさい。このまま私に飲み込まれたくなかったらね。」
口を大きく開け脅しをかけるゴルゴーンにレジーナは恐怖する。
その時、一本の矢がゴルゴーンに放たれ右肩に突き刺さる。
「ぐあぁ⁉」
隙の生まれシーナはレジーナを抱え池から脱出する。
ゴルゴーンは矢の刺さった肩を押さえる。
「くっ!誰⁉」
すると突然煙幕が頭上を覆い視界が閉ざされる。
「こんな小細工!」
ゴルゴーンは蛇の胴体を振り回し煙幕を掃う。
すると木の上で連射型のクロスボウを構えるワイバーンの姿が現れる。
「チッ。」
「ワイバーン・・・?」
ワイバーンは飛び上がり腰に付けたサーベルを抜刀。
ゴルゴーンに切り掛かる。
「馬鹿ね!そっちから術中にハマりに来るなんて!『石化の魔眼』!」
ゴルゴーンの眼が怪しく発光すると周りを飛んでいた野鳥が一瞬で石となりシーナたちの周りに落ちてくる。
しかしワイバーンは平然と宙をホバリングしていた。
「な、何故石化しない⁉確かに魔眼は受けたはずよ⁉」
「このゴーグルは特殊な加工が施されている。魔眼の類は全て無効化できるんだ。俺にそう言う系統の魔法は効かない。」
ゴルゴーンは悔しそうに歯ぎしりをする。
「だったらこうよ!」
ゴルゴーンは服を抱えるシーナたちに迫った。
二人は魔眼を警戒し眼を瞑るがその状態では相手の攻撃を凌ぐのは苦しい。
(せめてあの子らを生け捕りにして逃げる!魔力さえ吸収出来れば奴らに復讐を・・・!)
しかしシーナたちの手前で突如ゴルゴーンは力尽きたように倒れた。
「っ⁉」
「な、何で?身体が、痺れて動かない・・・⁉」
「君に刺さった矢には俺の作った毒が盛られている。アンタの血液と反応して麻痺毒になったのさ。いくら俊敏な蛇の肉体であろうと動くことは出来ないだろう。」
「おのれ、おのれ!このトカゲ風情がぁ‼」
魔獣のように恐ろしい形相で叫ぶゴルゴーン。
ワイバーンはサーベルを構え急降下してくる。
「トカゲじゃない。ただのワイバーンだ。」
風を切るように音もなく一閃を入れるとゴルゴーンの首が打ち取られ地面に落ちた。
「予定とは違ったけど、討伐完了だ。」
サーベルを納め、仕留めたゴルゴーンの首をマジックバッグに入れるワイバーンは服を着るシーナたちに向き直る。
「助けてくれた事には礼を言う。でもお前からは、未だに殺意を感じるわ。」
ワイバーンを警戒しレジーナを自身の後ろに隠すシーナ。
「お前も、レジーナを狙う奴なのか?」
「・・・狙ってるで言えば当たりだ。」
するとワイバーンはクロスボウをこちらに構えた。
「姿を見られた以上暗殺はもう無理だね。俺は殺し屋『常闇の竜』。依頼でそこの少女、レイラス王国第二王女、レジーナ・レイラスの抹殺を承っている。」
シーナは警戒を強め両手に黒炎を纏う。
「俺は完璧主義なんだ。邪魔をするなら、君から始末しなくちゃならない。」
「やってみろ。私は彼女の護衛だ。何が何でもレジーナは守る!」




