『第 章 世界初のドラゴンテイマー』
本編の千年前、バハムートの過去の物語です。
恐怖、不可解、人は己の理解できない範疇のモノを恐れ、下げずみ、忌み嫌う。
相手が理解できないのが悪いと思う?それはただの言い訳に過ぎない。何故なら、それは人知の範疇を大きく外れているのだから。
暗い洞窟を歩いていると、前方に粘膜のようなもので固定された光り輝く宝玉があった。
黒いスーツのような服を身に纏った黒髪の女性は手刀で粘膜を取り払い、その手の上に宝玉を落とす。
そして女性はその宝玉の魔力を吸いこみ、飲み込んだ。
「ふう・・・、ご馳走様。」
その時、背後が突如として消し飛び、光が溢れる。
振り返ると、女性がいた洞窟はワーム型の魔獣の腹の中だったのだ。
「おいシーナ!テメェいきなり腹ん中に飛び込むとか正気じゃねぇだろ!」
もぎ取ったワームの首を掴み上げる黒いドラゴンが叫ぶ。
「でもそのおかげで魔核は吸収できた。これで倒すのは簡単になっただろ?」
すると切断されたワームの頭部から胴体が再生し黒いドラゴンに襲い掛かる。
その時、上空から炎が降り注ぎワームに直撃する。
「魔核を失ったとはいえ分裂して再生はする。すぐに片づけるぞ!ニーズヘッグ!」
「へっ!テメェに言われるまでもねぇ!バハムート!」
二頭の巨竜が原型を残さないほどにワームをぶちのめす。
そして残ったのは辺りに散らばる肉片の惨状であった。
「これだけ粉々にすれば流石に絶命したであろう。」
「高ランクの魔獣だったから少しは手ごたえがあると思ったんだが、正直期待外れだぜ。」
愚痴を言いながら首を鳴らすニーズヘッグ。
そこへシーナが二頭の下へやってくる。
「君達が強すぎるんだよ。だってバハムートは竜王の血を引く王族。ニーズヘッグは混沌竜と恐れられる種族の末裔。これだけの大物二頭じゃそこらの魔獣じゃ足元に及ばないだろう?」
やれやれと手を広げ首を振るシーナにニーズヘッグは高らかに笑う。
「確かにな!俺と全力で渡り合えるのはこのうぜぇ程金銀でギラつくコイツぐらいだろうな!」
「金は翼だけだ。」
翼を発光させてニーズヘッグに浴びせる。
「眩し!」
「さてと、誰かに見つかる前に退散するとしますか。」
「死体は回収しないのか?」
「魔核さえ食べられれば後はいらない。というかこんな肉片持ち帰ってどうするのさ。」
「確かに、換金しようにもこれほど粉々ではワームだと分からぬな。」
「・・・んで?魔核食って力の方は押さえられそうか?」
意味深な事を言うニーズヘッグ。
シーナは腕を振り回し確認する。
「・・・しばらくは大丈夫そうだ。でももし力が溢れ出したら、その時は頼むよ。二人とも。」
「任せておけ。」
「おう。」
そして三人はその場を後にしたのだった。
ワームを倒したシーナたち三人は近くの街のギルドにやってきた。
「はいこれ。頼まれてた薬草。」
「拝見します。・・・はい!間違いありません。こちら報酬です。」
「ありがと♪」
金銭を受け取りギルドを後にしようとした時、周りにいた冒険者からヒソヒソと会話が聞こえてきた。
「あんなに強い魔獣を連れていながらどうして小さい仕事しかしないんだ?」
「初のドラゴンテイマーだか何だか知らないがあれじゃ宝の持ち腐れだろう。」
シーナに対する嫉妬などが飛び交う。
その会話をギルドの外で聞いていた二頭の地獄耳は聞き逃していなかった。
「好き勝手言いやがって。自分の事を棚に上げて人を妬む奴ほど愚かな生き物はいねぇ。」
「それが人間だ。だが、確かに我が主を悪く言われていい気分はしないな。」
二頭の威圧が建物内にまで届き、冒険者たちは身震いした。
「お待たせ~!待った?」
「いんや全然。それで?これからどうする?」
「そうだね。暫くは力の膨張もないと思うし、別の街へ行ってみようか。」
「旅支度だな?ではさっさと済ませるぞ。」
バハムートはシーナに対する街の人間たちの視線に嫌気がさしていたのか少々急かす。
「どこへ行っても同じだろうさ・・・。」
シーナは諦めたような声色でため息をついたのだった。
街から発つ前にシーナは寄りたい所があると言ってとある教会までやってきた。
「すみませーん!」
この教会は孤児を大勢保護している。
シーナはこれまで孤児のために金銭を仕送りしていたのだ。
これから街を発つので挨拶をしに足を運んだわけだが。
「あれ?誰も出てこない?すみませーん!神父さーん?」
しばらくすると扉が開き、修道服を着た中年の男性が出てきた。
「よかった。いらしたんですね。実はこれから私達は・・・。」
「出ていけ。」
「・・・はい?」
シーナは耳を疑った。
「出ていけと言ってるんだ。ギルドの冒険者連中が教えてくれたが、まさかお前が『黒魔のシーナ』だったとはな。」
「っ!」
『黒魔のシーナ』。
それはシーナの二つ名である。
彼女の使う未知の力。
その力を目撃した者が噂を広め、付けられた名だ。
「邪悪な力を持つ魔女め!貴様が魔女だと知ってたら援助など受けなかったわ!二度とこの教会に近寄るな!さっさと出ていけ!」
神父にそう言われたシーナからは笑顔が消え俯いてしまった。
それを見た従魔のバハムートとニーズヘッグは怒りを露わにする。
「テメェ・・・!今までガキどものためにやってきたシーナを侮辱しやがって・・・!」
「たかが噂一つで主をこうも言われては、流石の我らも黙ってないぞ・・・!」
口元から炎が漏れる二頭に腰を抜かす神父。
だがそんな二頭をシーナは鎮めた。
「分かりました・・・。丁度私達もこの街から発つ予定でしたし。」
シーナは足元に金銭の入った袋を置いた。
「せめて最後だけは、子供たちのためにこれを使ってください。それでは、お達者で。」
二頭の威圧から解放され放心する神父を残して、シーナたちは教会から身を引いたのだった。
「クソが‼」
道中森の中を歩く三人。
ニーズヘッグは怒りが抑えきれず木に拳をぶつける。
「あの神父の野郎!シーナがどれだけガキどもを想って金を渡してたと思ってやがる!恩を仇で返しやがって!」
「黒魔の名を伝えたのは冒険者の連中だと言ってたな。奴らめ、嫉妬のあまりデマを流し折って・・・!」
バハムートも怒りが抑えきれてないようだ。
「いいんだよ二人とも。隠してたつもりじゃなかったけど、遅かれ早かれ知られてただろう。でも・・・、こんな気持ちは、いつまで経っても慣れないなぁ・・・。」
足を止めその場で泣いてしまうシーナ。
バハムート達は慰めようにどうすればいいか分からず、ただ彼女の切ない背中を見守る事しか出来なかった・・・。
――――――――――
生まれた時から、私は忌み嫌われていた。
この時代では珍しい黒髪に金色の瞳。
そして極めつけは、自身の肉体から放たれる黒い炎。
前例のない事が重なり、街の人達からも、両親からも気味が悪がられてきた。
そんな時、魔獣によって村は滅ぼされてしまう。
多くの命が失われた中、生き残った村人は私が魔獣を呼び寄せたと決めつけ私の命を奪おうと動き出した。
それを悟った私は村から逃げ、独り孤独に生き永らえてきた。
でも黒髪に金色の瞳は気味が悪いと周りの人間から酷い仕打ちを受けてきた。
どこへ行っても私の居場所がない。
生きる気力を無くした私は自ら命を絶とうと崖から落ちた。
しかしそこで私は出会った。
生態系の頂点に君臨する伝説の魔獣、ドラゴンと。
身投げした私を助けたのはバハムートだった。
ロクに話し相手のいなかった私はいつの間にか彼に私の生い立ちを話していた。
すると彼は深く同情し、慰めてくれた。
そんな事されたのは生まれて初めてだった私は初めて心が温かくなり、いつしか従魔契約を結んでいた。
ドラゴンと契約、それは前代未聞の偉業となった。
そしてテイマーとして過ごしている内にもう一頭のドラゴンが現れた。
それがニーズヘッグ。
彼は強者を求めて世界を飛び回っておりバハムートが目を付けられたのだ。
三日三晩どつき合い、いつの間にか男の友情が生まれてた。
そうしてニーズヘッグも従魔となり、私は世界で初のドラゴンテイマーと呼ばれるようになっていた。
「・・・ん。」
朝焼けの巨木の上でバハムートに囲われながら目を覚ます。
「なんだか懐かしい夢を見た気がするわ・・・。」
「どうした?」
「いや、なんでもない。」
上の方の枝ではニーズヘッグがもの凄い寝相で寝ており、シーナとバハムートは思わず笑いを零したのだった。
本編 世界最強のドラゴンテイマー めっちゃ強い仲間と世界を見ます!
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