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「ルードベキア!!」
サリヴァン・ド・スタールは、ノックもせずに娘の扉を開けた。
「どういうことだ!なぜ公爵家の治安隊なぞと帰宅した。だいたいお前はどこにいたんだ?」
「お母様!」
「あなた、その剣幕ではルードベキアが・・・・話すことも話せません。いったい何があったの?」
話口調は柔らかいが余計なことを言うなという含みを持たせた目線をルードベキアに向ける。しかし彼女は意に介さず、泣きながら父であるサリヴァンの足元に崩れ落ちた。
「違うのです。私にも何が何だか・・・・お姉様の馬車を追いかけたのです。小屋の外から声が聞こえ、扉を開けた瞬間、男が血を流して倒れて。恐怖に驚いているところに、お姉様を呼ぶ男が入ってきて連れ去ったのですわ」
自分は何も悪くない。という口ぶりだ。
「それでお前たちはなぜそこにいたのだ?殺された男はお前の知り合いか?」
「それはぁ、お姉様にご自分の立場を理解させるためですわ。愚図でのろまなお姉様が公爵様に求婚をされるなんてありえませんもの。殺された男はお母様が手配してくださいましたの」
伯爵は、求婚されたのはルードベキアではなく、アイリーンだと伝えたはずが全く理解していないことに頭を抱えた。
このことが公爵の耳に入りでもすれば、我が伯爵家がどうなるかわからないのか!
「お前たちはアイリーンをどうするつもりだったんだ!」
伯爵は声を荒げ交互に妻と娘を見る。
「あなた何をそんなに苛立ちを覚えていらっしゃるの?常日頃アイリーンを疎ましく思っていらしたでしょう?私たちはしつけの一環で行っただけですわ。アイリーンを迎えに来た男がいるようですし、公爵家からの求婚はなくなり、じきにルードベキアを欲することでしょう」
ルードベキアをよくやったと褒める言葉に、呆れ果てるものの、ルードベキアを嫁がせるつもりだった伯爵にはかえって好都合に感じた。
「それにね、お父様。お姉様、おそらく公爵家の跡継ぎは望めないと思いますの」
「どういう意味だ?」
「すでに傷物になっているでしょうし、そうならないように痛めつけましたもの。跡継ぎを産めない女なんて必要ないといつも仰ってらしたでしょう?」
コテンと首をかしげ父親を見た。悪だくみを考えているときの自分も同じ顔をしているのだろうなと、伯爵は思った。母であるサファイアも同様に同じ微笑みをこぼした。
「まぁ、それはかわいそうね。アイリーンもさぞ悲しがることでしょう。公爵家でも用なしになりますわ。次はあなた宛てに求婚状が届くわね」
「だが、このことは公爵家に漏れてはならん。殺人現場に居たなどと世間に知れればお前の評判にかかわるぞ、ルードベキア。先に手を打っておかなくてはならないな」
「お姉様はあの男とどこへ行ったのかしら?名前を呼び捨てにするくらいですもの、きっと恋人同士なのだわ」
三人は公爵家の影がこの屋敷に潜み、すべて聞いているとは知らなかった。そしてすでにアイリーンは公爵家に保護されていることも知る由もなかった。
ふざけるなっ!お前らの玩具じゃねぇ!
アイリーンはこんな家族とはすぐに縁を切って、幸せるなるべきだ。
一部始終を見聞きしていたスコットは、はらわたが煮えくり返り自分の理性を保つことに必死だった。このまま姿を現し、三人を抹殺することは簡単だ。しかし公爵の指示とは異なりまたアイリーンに心の傷を増やしてしまうことが懸念された。
三人の会話が終了し、伯爵夫妻は個々の部屋に戻っていくようだ。
スコットは他の影と交信をするため、ルードベキアの部屋から離れた。
「聞こえるか?俺だ、スコットだ」
「「はい、聞こえます」」
「そっちで新たに入手した情報があるか?」
「以前ご報告した通り、アイリーン様のこの屋敷での孤立状態、父母、義妹からのしつけと称する体罰は目に余るものを感じますね。古参の従業員もすべて義母であるサファイアが掌握、過去にお嬢様に親切にした従業員は解雇。他貴族に再雇用できぬよう手を回していたようです。それを恐れて皆、見て見ぬふりを」
「私の情報は、公爵家からの求婚がくる直前までは、今秋嫁がされることが決まっていました。70歳の色ボケ爺の後妻に高値で売ったようです。それともう一点。伯爵は、反皇帝派と密に連絡を取っており、武器を集めているので謀反を企んでいると思われます」
「それはすぐに公爵様へ連絡だな。反旗を翻す輩を一掃できるチャンスだ。謀反を企む貴族の名を一覧で出せ。引き続き情報収集を。何かあればすぐに連絡をするように」
「「はっ!」」