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いつもお読みいただきありがとうございます!

ノーフォーク公爵 トマス・ハワード、二大公爵家の一人が立っていた。流れるような長い黒髪は艶があり腰まで届く。年齢はアーチボルトよりもかなり上だ。髪と対になるかのような黒曜石を思い起こす瞳。その瞳には何を映しているのだろう。じっとアイリーンを見つめるその顔は、薄気味悪い。

表情、態度すべてに嫌悪感を抱く。


なんでこの人が・・・・ここは、スタール家ではなく、公爵家・・・

この方がお母様の腕を切り落とした。

たとえ亡くなっていたとしても赦せない・・・・私はあなたを赦さないっ!


「ノーフォーク公爵閣下。この腕がなぜ母のものだとおわかりになるのですか?」


「くっくっく。初めの言葉がそれか?無断で屋敷に立ち入ったことは不問としよう。お前の母が特殊だったことは知っているのか?お前たちがしているその腕輪に意味があることを理解してないのだろう?私はその腕輪が欲しかった。ただそれだけだ。父親から何も聞かされていないのか?」


「墓を荒されたんですね。死者に対する冒とくです」


「まぁそうだろうな。だが、ニンフが付けている腕輪となれば、欲しがるのも無理なかろう?お前の母がスタール領地に来てから一度も自然災害がないことを知らないのか?それはお前たちが持っている力だ。私はその力を欲している。その力は今後の私の役に立つ。そして今、興味があるのはお前だ。自ら飛び込んでくるとは…私はついている。嫌だと言っても同じだが・・・逃げられないようにすればいいだけだ。ここにいることは誰も知らないのだろう。小娘一人いなくなっても騒がれるのは最初だけだ。」


ノーフォーク公爵は一歩 アイリーンに近寄る。アイリーンもまた一歩下がる。二人の距離は縮まらないが、隠し部屋は狭いためすぐに追い詰められるだろう。後方には逃げ道はない。

あるのは、正面のみだ。…


この人…狂ってる。

確かに・・・他の領地で災害の話を耳にすることはあっても、我が領での話は聞いたことがないわ。天気に恵まれ、適度に雨も降りどの場所も豊作続きで領民たちも安定して生活できてる。

それが私たちのお陰?待って…皇后陛下も同じことを仰ってた…

それがニンフの持つ力?


「お断りいたしますわ。それに私はニンフではございませんもの。何か勘違いされていらっしゃるようですわ」


「ほぉ。ではどのようにして我が屋敷に入り込み、この部屋を探り当てた。母親の腕輪とお前の腕輪が引かれ合ったからだろう。違うか?特別な部屋を地下に用意している。光は入らんが快適な作りだ。きっと気に入るだろう。ぴったりな首輪も用意している。それにしてもお前の父親にはがっかりだ。こちらの要望を聞き入れないんだからな。父親・・・・本当の父親かどうかわからないがな・・・訝しんでいるようだぞ、実の娘かわからないそうだ。さぁ私の天下に駒としてお前を差し出せっ。安心しろ、殺しはしない」


もう一歩アイリーンに近寄る。声色がまた一段低くなる。黒い瞳には何も映し出されていないのか、憑りつかれたように歩みを進めてくる。


どうしよう・・・あとがない。逃げ場が・・・

掴まったら二度と出られない。

ここに私がいることは誰も知らない。地下に監禁されたら最後・・・


アイリーンは母の腕が入った箱を胸に抱え後ろに下がるが、壁に行きつきこれ以上は下がれない。


二度とアーチボルト様に会えない・・・そんなの、いやっ!!!!!


二つのブレスレットから神々しいまでの光が部屋中に満ちた。ノーフォーク公爵が手で顔を覆う。

その瞬間をアイリーンは逃さなかった。公爵の脇をすり抜け隠し部屋から走り出る。

そのまま部屋を飛び出し、廊下を無我夢中で走った。初めての屋敷で右も左もわからず、それでも1階を目指し外に通じる窓や扉を探した。


「アイリーン様!」


「いやっ!離してっ!!」


二の腕を掴まれ、咄嗟に振り払おうとする。興奮するアイリーンを抱き留めると、ゆっくりと名前を呼んだ。


「アイリーン様、ノラでございます。救出が遅れ申し訳ございません。このまま戻ります。もう安全です。ご安心ください」


ノラの顔を見た途端、助かったと安心してアイリーンは抱き着いた。まだ安心はできない。


「逃すかっ!」


後方からノーフォーク公爵の怒鳴り声が聞こえ、こちらに向かって走ってくる姿が見える。

一瞬だった。

姿を目にしたと思ったとたん景色がぐるりと変り、気づけばアイリーンの部屋にいた。

ノラに抱きかかえられたまま放心状態のアイリーン。ホッと息をつく暇なく、勢いよく近づく気配を察した。


「アイリーン!!!貴様、何者だ。彼女を離せ」


放心状態のまま声に目をやるとアーチボルトが立っている。その周囲には10名以上の騎士。


あ。。。戻ってきた。

戻ってこれた・・んだ。


アーチボルトの名を呼ぼうとするが恐怖心でいっぱいのアイリーンは声が出なかった。


「聞こえなかったのか、彼女を離せっ!」


アーチボルトの怒声が響く。その声に委縮することなく、ノアはベッドに歩き出し抱きかかえているアイリーンを下した。途端に騎士が抜刀し、ノラを取り囲む。

アーチボルトは逆方向からベッドに近寄り、アイリーンを抱きしめるとその場を離れた。無駄な隙はなく連携の取れた早業だ。


「アイリーン、大丈夫か?聞こえるか、アイリーンっ!」


「アーチボルト様、アーチボルト様!!」


「その者を拘束し、地下へ繋げっ!」


「いけません!ノラはノラは、私を助けてくれたんです。剣を下ろすように言ってください」


縋るようにアイリーンは公爵に頼む。

信じられないものをみるように、アイリーンとノアを交互に見ながら仕方なく騎士に命じた。


「・・・・剣を下ろせ。3歩 下がるんだ」


「大丈夫です。本当に…彼女は私を助けてくれたのです」


彼女?アイリーンはこの者を女だと思ってるのか?どう見ても男にしか見えないが…


「あなたは、いままでどこで何をしてたんですか?・・・とにかく、少し休んでください。話はそれからです」


「いやですっ!その間、ノラを拘束されますよね?命の恩人にそんなことはできません。今、お話しします。今、この場で。騎士の皆さんも一緒に。であれば、少しノラへの警戒も解いてくださいますよね?」


今話さなければ、時間を置いたら全部夢だと思っちゃう。私の憤りを聞いてほしい。

母の腕、腕輪、ニンフ、そしてノーフォーク公爵のことをちゃんとお伝えしないと。


興奮と恐怖が混ざり、うまく説明できなかったが、ノラと出会ったこと。ノーフォーク公爵家で見たことを話した。瞬間移動など夢物語と馬鹿にされるかと思ったが、実際アーチボルトは目の前に突如現れたアイリーンたちを見た為、信じざるを得なかった。

公爵は神妙な面持ちで時折質問を入れるものの、ほぼ口を挟まなかった。じっとアイリーンの話に耳を傾けた。



こんな話が実際に起こりえるのか・・・

ノーフォーク公爵が絡んでいることはわかっていたが、ノーフォークの所業は目に余る。死者の墓を荒しただけでなくアイリーンの母親の腕と腕輪を盗むとは・・・尋常ではない。

目の前で見た瞬間移動、ニンフという種族の力でスタール領地でここ10年以上災害に見舞われていないという話・・・・

俄かには信じがたい話だが・・・それよりも・・・


「お前は何者だ」


騎士を向けられたままノラは動かない。僅かな動きも見逃すまいとしている騎士はすぐにでも切りかかれる体制を崩さない。ノラの表情は、飄々としているように見えるが、その実、周囲を警戒し、気を張り巡らせていた。アイリーンはノラのものと歩み寄ろうとするが公爵にぎゅっと抱えられた状態で身動きが取れなかった。

ノラは公爵に目を合わせるも口を開こうとしない。


置物のようだな。


そう公爵は感じた。一見すると害がある人物には感じられなかった。


「ノラ、話して下さい。私も気になります。それに、話してくれると言っていましたよね?その時が今だと思うんです」


これ以上沈黙を続けたらあなたの身が危ないのよ、わかってる?頼むから話してちょうだい!!


「アメリア様・・・の腕とブレスレットを取り返すため参りました。私一人ではあの場所を、隠し部屋を探すことが困難でした。そのためアイリーン様にお力添えを頂きに参上したのです。アイリーン様、その箱をそのまま私にお渡しください。そして私と共に来ていただきたいのです」


お母様の腕とブレスレットを探しに?

墓を荒した人物が特定できていたということ?!わかっていながら、父からの手紙を偽造し、お母様の墓参りにぶつけるようにノーフォーク公爵邸に移動させた?


「あなたは、何者?っていう問いに答えてもらってないわ」


「なぜアイリーンの母親の遺品を欲しがるのか説明しろ。アイリーンに危害が被る可能性を無視し、無理やり連れて行くという強引な行動は許しがたい。お前もニンフといわれる種族か」


耳元で低い声。無表情と思い公爵を見ると、頬にうっすらと笑みを浮かべている。


こ。こわい。。楽しんでます?

説明不足は同意しますけど、公爵様のその冷笑・・・威圧感が・・・

すごすぎて心臓が止まりそうです。

ノーフォーク公爵と同じように欲しがるということは、やっぱり悪用する気があるから・・・


「私がそばにおりますので、アイリーン様がお怪我することはございません。仰る通りでございます。私はニンフ族の王家の血筋でアイリーン様とはハトコあたります」


え?

ハトコ?

それ、ほぼ他人だし。

それはぁ・・・親戚といわれてもだいぶ遠い。お母様のイトコの子供・・・・

そもそもお母様の家族構成も知らないし聞いたことがない。

思い返せば母の実家のこと・・・何も知らない。

これだって娘としてはおかしいのに、おかしいと思ったことがなかった。

お母様の兄弟姉妹のイトコの子供・・・の、ノラ?


ほぼ赤の他人にあたるハトコが今さらなんで来たんだろう。


「母に会ったことがあるのですか?」


「はい」


「そんなこと一言も・・・それに母が家から長く離れた記憶などありません。いつですか?」


「他界される半年ほど前です。一度だけ、こちらの城に移動でお連れしました。人間界とニンフ界は時間軸が異なるため、お気づきになることはなかったと思います。アイリーン様のご記憶になないでしょうが、アイリーン様もご一緒にお越しでした。人間に不審に思われない時間を目いっぱい楽しまれておりました」


「なぜ私にはその記憶がないの?私は母がニンフであることも、そちらの方々と過ごしたことも何も知りませんでした。このブレスレットに何の意味があるのか。なぜ私の記憶を操作されなければならないのか。なぜブレスレットを欲しがるのか・・・」


母であるアメリヤのことを今さらながらに知ることとなったアイリーンの心情は誰にもわからない。

いろいろな思いが交錯する中、ただノラの返答に縋るしかなかった。

疑問を解消する人物はノラに握られている。


どんな内容を聞かされるのかと思うと、聞きたくないという感情もある。しかし、アイリーンは真実を知りたかった。

公爵の腕に抱かれていても心ははち切れんばかりだ。許容範囲をとうに超えている。


「記憶がないのはご自身で抹消されているからでしょう。そして人間がブレスレットを所持しても何の効果もありません。人間が欲しがるのは、同様に何か効力があると思い込んでいるからでしょう。待ち望んでいた時期がきたのです。アイリーン様をこちらの世界へお連れするため、私は参上したのです」


公爵もアイリーンも驚きで目を見開き、ノラの見た。静かな時が流れる。ただ時計の秒針が動く音が大きく聞こえるほど。

静寂に包まれた部屋の中に、アイリーンは一人でいるような錯覚すら覚えた。

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