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ゆっくりですが、お話し進めています。いつも読んで下さりありがとうございます。読んで下さる方がいらっしゃるのは嬉しいですね!

怒涛の一日がやっと終了した。

疲れ果てたアイリーンは一人入浴をしている。普段は必ず一人は傍にいるメイドにも下がってもらった。一人になる時間をどうしても欲していたからだ。自室に備え付けられているバスタブには、たくさんの湯にバラの香油が落とされ浴室に匂いが立ち込めている。一人きりで考え事をするにはうってつけだ。

バラの香りに包まれリラックス効果は絶大。


長時間入浴すると伝えているので、こちらが呼ぶまでは部屋には誰も入ってこないのも気を使わなくてよかった。アイリーンは肩までつかり、すり減った神経を労わるように目を閉じた。

今日の疲労感は尋常じゃない。ロイヤルファミリーと会い、昼食をともにするだけでも気を使う上、さらにブレスレットやニンフという「そんなのきーてない!」と思う想定外の内容が出てくれば、疲労はマシマシだ。


広い浴槽に手足を伸ばし顔だけ水から出る状態で寝ころぶ。水が耳の中に入り外部の音が遠くなる。アイリーンの体の中で自身の心臓がトクトクと響く音だけが聞こえてきた。


つっかれたー!

お母様の命日・・・初めて行かない年になったわ。一度も行かなかったことなどないのに…突然のお父様からの呼び出し。。。まだ待っていらっしゃるなんてこと・・・・ないわよね?

今からこっそりと行く、なんて無理よね。公爵様に頼んでみる?ううん、それは無理だわ。時間も遅い上に、あの家族のもとに行かせてくれるとは思えない。


そういえばあのメイド…名前なっていったかしら?結局来なかったわね。約束もしてないのにどうするつもりだったのかしら、彼女は。


勢いよく立ち上がるとバスタブの中に水滴が落ちる。その時、バスルームをノックする音が聞こえた。誰もいないはずの部屋からノックが聞こえ、恐怖が押し寄せてくる。


「・・・誰?」


「先日お目にかかったメイドでございます。お返事を聞きに参りました」


え?

どうやって部屋の中に? それも今頃??


バスローブを羽織りタオルで髪を軽くまとめると扉を開けた。そこにはメイド服姿ではない、前回と同じ女性が立っている。黒を基調としたパンツ姿は、彼女のスタイルの良さを際立たせている気がした。


同性とはいえ、よく知らない人の前にローブだけで出てきたのはまずかったかしら?でも洋服はこの部屋だし、着替えたいと伝えるタイミングがわからない、どうしましょ。


「アイリーン様、お召し替えなさいますか?そのままではお風邪を召してしまいます」


アイリーンは彼女の言う通り着替えをすることにした。公爵家のメイドではないため手伝うという言葉を辞退し、着替えを持って再度バスルームに向かう。

その着替えは公爵家のメイドが用意したものではなく、一人で着られる簡単なワンピースドレスだ。


あえて、この簡単に着られる外出着を選んで渡すということは、私がスタール家に行くことを知っているとしか思えない。彼女は一体何者なんだろう。信用できる人なのか、一緒に行っても大丈夫なのかしら。


不安な気持ちを抱えながら着替えてバスルームを出る。


「あなたは、誰なの?前回も聞いたけど、どこから入ってきたの?」


「それについては、時期を見ておいおいと・・・・お母さまに会いにいかれますか?」


「行く。・・そう言ったら、あなたは、どうやってここから私を連れていくというの?」


「このようにして、、、、少し目をつむってください」


え? ちょっと待って! 私まだあなたと行くなんて伝えてないんですけど。ちょっとー!




目を開けると先ほどまでいた部屋とは違う、また別の部屋に立っている。アイリーンの知る公爵家の部屋とは違う。

ぐるりと見渡せば見覚えがある部屋のような気もしないでもない。


「ここ・・・どこ?」


整理製糖されていない机。散らかったままの書類の山々。


ここ、父の書斎だわ!仕事をしていないのは・・・相変わらずなのね。


床はとてもきれいでチリ一つ落ちていない。メイドが触れられない場所は…よもやカオス。

散らかった書類の山から、必要書類を見つけ出すのは至難の業に思える。あるかどうかも、定かではない。高く積み上げられた束を再度見やる。ハァと小さく溜息をついてアイリーンは再度周囲を見渡した。


ここ、本当にお父様のお部屋なのかしら?

何度か入ったことがあるけれど・・似ているようでちょっと違う気がする。


アイリーンは伯爵家で父親の仕事を手伝わされていたが、執務室に入るのは禁止されており、数えるほどしか入ったことがなかった。執務を手伝うときは別室でするよう指示があった為だ。

領地内だけでなく、義母であるサファイアからも仕事をやらされ、屋敷のことまで一人で担っていたことを思い出した。


まさかっ!

母の好きなセレブリティを仕込んで、この、溜まりに溜まった書類を裁くために父は呼んだの?

私をここへ連れてきたノラの姿はないし・・・


勝手に連れてきて、勝手に姿を消す…存在自体怪しいことこの上なく、行動も不審だらけで信用が置けない。言い表せなれない不安が胸を締め付ける。

書棚に視線を向けると、一か所がチカチカと点滅しているのに気が付いた。なんだろう?と近寄ると本と本の隙間からその光が漏れ出ている。数冊本を抜き取ると、そこにあるのは楕円形で出来たダイヤルがあった。アルファベットの数字が刻まれているダイヤルだ。眩いくらいの光が溢れ出ている。


「カギ? カギになってるのかしら?」


アイリーンは独り言ちると、そっとダイヤルに手を伸ばす。金属は冷たく特に変わったところはない。


毒ガス・毒針なんかは大丈夫そう。見られたくないものをきっと、ここにしまっているんだわ。でもなんで光っているんだろう?まるで・・・私に場所を教えているみたい。


開け方がわからないので、とりあえず適当に回してみる。その度に頭に閃くものに合わせ幾度も回していると。


かちっ


小さな音が聞こえ、音と共にダイヤルが付いていた小さな扉が開いた。開かれた扉から光が一気に差し込んでくる。扉が無くなれば強烈な明るさに耐え切れず目をつむる。とてもじゃないが目を開けていられない。


わっ!目がっ!眩しい!! この光、どうにかならないの??


気づくと光が消えている気がする。目を閉じていても光が消えたことがわかる。アイリーンは目を開けると消えたのではなく、小さくなっていることがわかった。目の奥は先ほどの光により、まだクラクラする。

開いた扉の中を見るとボタンがある。


これを押したら別の部屋が出てきたりして・・・なぁんて物語じゃないんだからあるわけないわ。


そう考えながらボタンを押す。ガタンゴトンという音と共に目の前の書棚が左右に分かれ、奥に部屋が現れた。


こ。これって・・・・かの有名な?隠し部屋?まさか、我が家にもあるなんて信じられないわ。どのお屋敷にも備わっているものなのかしら?


不思議と恐怖心はなく、ゆっくりと歩みを進める。恐怖よりも興味が勝っていた。ぐるりと部屋を見渡すが広くはない。四角いテーブル、椅子が二脚、それと書棚。大人二人が入れば窮屈に感じるほどの広さ。

テーブルと椅子には引き出しはない。とすれば、書棚に限定される。


ここは、探る必要がたくさんありそうだけど、どこから手を付ければいい?何か今回の証拠になるようなものが見つかるといいけれど…あまり長くいれば私がここにいることもわかってしまう。

出来うることなら、公爵様のお役にたちたいけど・・・・


書棚に近寄り本を手に取ろうと近寄ると1脚の椅子の裏面が光っているのに気付いた。背もたれの付いた椅子を裏返すと、座面の裏に不自然に箱が取り付けられていた。四隅についている留め具を外せば簡単に箱を取り外すことができた。


何が入ってるのかしら?


アイリーンはテーブルに箱を載せるとゆっくり留め具を外し、上蓋を取った。


「!!!!!!!!」


開けた箱には人間の手首が入っていた。手首はすでに人間のそれではなく、骨格のみ、そう手首の形をした骨そのものだ。そして、その脇にアイリーンと同じブレスレットが置かれている。


こ。この腕・・・・まさか・・・・お母様のも・・の・・・・?


「はっはっはっ・・・おかあ、さま?」


安定して酸素が体に取り入れられず、ぺたりと床に座り込む。アイリーンの瞳から涙が伝いポタポタと床に落ちる。目を見開いたまま、手にしていた箱の上蓋をぼーっと見つめていた。


い・き・・・できない。

え?

なに?

どういうこと?

この腕はホントお母様のものなの?

でも私と同じブレスレット・・・そうよ、名前は、名前が刻まれているわ。

恐い・・・怖い・・・こわい・・・けど。


アイリーンは机を支えに立ち上がった。机の上には先ほどと同じ光景が広がる。夢ではないし、見間違いでもなかった。溢れる涙を拭わず骨となった手首には触らないよう気を付けながら、ブレスレットを持ち上げた。

ブレスレットの内側に掘られた文字は、アイリーンの母の名前「アメリヤ」が刻まれていた。

頭の中が真っ白になり何も聞こえない、見えなくなった。

名前が彫られたアイリーンと同じブレスレット、その隣にある手首。アイリーンは母親のものだと認めざるを得ない。葬儀に参列したアイリーンの年齢が10歳とは言え、母親の手首がなかった記憶などない。


誰かが・・・母の墓を荒し、手首とブレスレットを・・・・

いったい誰がこんな酷いことを。


扉が開かれる音が聞こえた。人が入ってくる気配を感じる。アイリーンは隠し扉の入口を見たまま動けなかった。思考が働かず、呆けたように立ちすくんでいる。


「あぁ・・・どこのネズミが入り込んだかと思えば・・・・アメリヤ・ド・スタールの娘だったか。どこから入り込んだ?あぁ流石だな。よくお前の母を探し当てた。褒めてやろう。久しぶりの母との対面は泣くほど嬉しいか?」


「・・・・・ノーフォーク公」


アイリーンの目の前に立っているのは、ノーフォーク公 トマス・ハワードだった。

引き続き続投いたしますので、お待ちくださいね!

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