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なんで?!

どーして?!

こーなった??!!



アイリーンは心の中で悲鳴を叫びまくっていた。

こんなはずじゃなかったのに、と、想像していなかった事態に動揺を隠せない。隣に座る公爵は平然としている。しているように見えて困惑がにじみ出ている。




今日は皇帝陛下との謁見当日。朝から湯あみをし身だしなみを整え、失礼のないよう早めに二人で邸宅を出発した。極度の緊張で昨夜はあまり眠れず朝食もほとんど喉を通らなかった。

城へと向かう道は、ほかの道とは違い舗装され馬車の揺れは比較的少ない。

その揺れが心地よくてウトウトと船をこぎ始めるアイリーン。公爵は座席を正面から隣へ移動し、アイリーンの体を自分に凭せかけた。


「アイリーン?アイリーン。到着しました」


目を開けると目の前に公爵の顔が目前に迫っていて、驚き後ろにのけぞった。

ゴンッ! 

音が馬車に響いた。


「いったーい!」


窓枠に思い切り頭をぶつけ、あまりの痛さに悶絶し前かがみになる。


「何をしてるんだ、あなたは」


公爵はぶつけた個所に手を置き、アイリーンの頭を撫でる。


「うぅ。。公爵様のお顔が余りに近くて、、、驚いてしまって」


痛いわ、恥ずかしいわ。

寄りかかって眠ってしまったなんて。

大事な日だっていうのに、王城へ着く前にしでかしてるぅ。


涙目になった目から涙が零れ流れ落ちる。公爵はハンカチを取り出すと何も言わずにアイリーンの涙を拭った。


「頭は大丈夫ですか?私の顔に驚いてしまうようでは、、、もっと慣れてもらわないといけないですね。努力します」


「ど・どりょく?今もじゅうにぶんに魅力的なのに、これ以上はちょっと心臓が止まります!」


「おや、嬉しい事を言ってくれますね。ではさらに、私の魅力を知って頂くように心がけましょう」


「えぇ、、もぅ無理ですぅ・・・・」


エントランスには大勢の出迎えがいる中、アイリーンの言葉に気分を良くした公爵に抱きかかえられたまま馬車を下りた。抵抗むなしく、一同頭を下げ礼をする中、お姫様抱っこの状態で城内へ入る。


ひぃ、、、目立ってる・・・もうこれは、口さがないメイドたちに話題を提供したものだわ。


先ほど流した涙と違う意味の涙がアイリーンの心に流れる。恥ずかしすぎて頭を上げられず公爵の胸に顔を隠す形で移動することになった。

謁見の間があると噂で耳にしていたが、通された部屋は別室のようだった。煌びやかな部屋なのは変わらない。それでも公的な場所というより、個人的な部屋の雰囲気が出ている。


「ここでお待ちすればよいのでしょうか?」


「そうですね。ここは陛下のプライベートの居間です。誰しも入れる場所ではないので、メイド・護衛騎士すべて身元が確かで忠誠を誓った者が従事していますので安心してください」


「は・・い」


その話を聞いても何に安心すればいいのかさえ わかんないけど。安全ということはわかりました。

プライベートの私室へ案内して頂けるなんて、陛下と公爵様は兄弟仲が良いのね。

それよりも!

手!

手を離しませんか、公爵様!!


ソファに隣通しで座った後も公爵はアイリーンの手を繋いだままだ。

あぁ繋いだままでしたね、としれっと言いながら、繋いだ手を離し今度はアイリーンの手の上に重ねた。


「それでは何も変わってませっ」


「ん。」最後の言葉を言う前に扉が開いた。扉からゆったりと歩いてくる威厳ある姿はまさしく皇帝。


「待たせたな」


慌てて立ち上がり、カーテシーをする。


「「暁の光にご挨拶申し上げます」」


「そなたがアイリーン・ド・スタール嬢だな。呼び出して悪かったね」


皇帝が座ったのを見届け、二人もソファに腰を下ろす。面立ちが似ている。瞳の色も髪の色も違うが醸し出される雰囲気がそっくりだった。


「拝謁賜り恐悦至極に存じます」


どうしよう。。。そのあとの言葉が続かない~


「ハハハ、緊張するだろうが、アーチボルトの兄として接してほしい。公の場ではないから私も崩した態度にさせてもらうよ。アイリーン嬢も楽にしてくれると嬉しい。何度か夜会で顔を合わせているだろうが、こうしてゆっくり会話をするのは初めてか。弟のひとめぼれと聞いたが、一目で恋に落ちるのがわかるほど素敵な女性だ」


え?!一目惚れ?そうなの??


驚きを隠さず隣に座る公爵をチラリとみる。少し頬を赤らめた顔。悪戯がバレたときの表情だ。


「陛下。そういった話はお控えください」


照れているのか、赤らめた顔にうっすら汗をかいている。焦っているようである。


「まぁそういうな。お前のその顔が見たいのだ。照れているのか?まだまだ青いな」


からかうように笑う顔は公爵がアイリーンに向けるのと似ていた。ゆっくりと年を重ねた目元は笑うと目じりにしわが出来る。それがまた優しい表情になる。アイリーンは公爵が年を取った姿を垣間見た気がした。


「時に・・・アイリーン嬢。そなたの父であるサリヴァン・ド・スタールが陰謀を企んでいると聞く。それについて、そなたはどう思った?」


「陛下っ!その質問をなぜされるのですか?その話は」


「まぁ黙って聞け。悪い意味で聞いているのではない。そなたの考え、思いを聞かせてほしい」


皇帝はジッとアイリーンの目を見つめた。目を逸らすことなどできない強い視線をアイリーンは感じた。

途端に部屋の音が一切聞こえなくなり、ただ皇帝と二人になったかのように思える。


「……その話は、公爵閣下から伺いました。…戸惑い、困惑、怒り。皇帝陛下の臣下として仕える爵位ある立場の父が謀反を企むなど、もっての外でございます。私は……反逆者に落ちたスタール家、それに加担した方たちの滅亡を。この国の安寧を心から望んでおります。‥‥‥‥スタール家の長女である、アイリーン・ド・スタールも加担していると思われるならば、謹んで刑戮(けいりく)を拝命いたします」


「アイリーン、なにを言うんだ!」


怒った声で公爵が叫んだ。


「そなたの気持ちは理解した。死をも覚悟しての発言ということで異論はないな」


「仰る通りでございます」


チャキっという音が聞こえ、隣を見れば公爵が抜刀寸前だ。


「な、何をなさるんですかっ!剣をお収め下さい」


「あなたは、何を言ったのかわかっているのかっ!」


部屋に控えていた護衛騎士とメイドも瞬時に抜刀寸前。すぐ公爵とアイリーンに刃を向けられる体制を取っている。皇帝はこの状況に全く動じることなく、静かにアイリーンへ話を続けた。


「アイリーン嬢。そなたを試すようなことをして申し訳ない。そなたの気概を知りたかった。私は皇帝である以前にアーチボルトの兄だ。これから先も永遠に、だ。アーチボルトには幸せになって欲しいと願っている。此度の件が明るみになり、討伐を実際に目にすれば、そなたたちが世論から叩かれることも少なくない。アーチボルトだけではそなたを守ることが難しい局面もあろう。家族に情がわくことだってあるだろう。だがな、そなたが、これから作ろうとしている、新しい家族が側にいることも覚えていて欲しい」


皇帝は公爵とアイリーンを交互に見ながら、ゆっくりと穏やかな口調で話して聞かせた。


「あ。ありがとうございます、皇帝陛下の温かいお言葉感謝申し上げます」


アイリーンは胸が熱くなって、じわっと涙が溢れてきた。護衛騎士やメイドも刀剣から手を離し、また何事もなかったように、その場に立っている。


「ごきげんよう!」


急に扉が開いて全員がそちらに目を向ける。そこに立っているのは皇后陛下だった。


「あぁ待っていたぞ。遅かったな」


皇后陛下の後ろには皇太子が立っている。まだ5歳の皇太子は恥ずかしいのか皇后を盾に隠れるように立ち、そっと顔を覗かせているのが可愛い。皇帝と同じルビーを思い出させる赤い瞳。皇后の髪色と同じ薄い茶色だ。皇帝の金色も混ざった感じだ。


えー?皇后陛下もいらっしゃる予定だった?きゃー!皇太子殿下もいらっしゃる。

そんなこと聞いてないんですけど。


なんで?!

どーして?!

こーなった??!!


二人も同席するとは聞いてなかったらしく、公爵を見ると同様に驚いた顔をしている。


「「皇后陛下 星月夜の明かりにご挨拶申し上げます。皇太子殿下 紅鏡の小さな輝きにご挨拶申し上げます」」


「お話し弾んでらっしゃる?あなたがアイリーン嬢ね。お会いできて嬉しいわ。リュカご挨拶して。アーチボルトおじ様の婚約者よ」


リュカは二人に恥ずかしそうに挨拶をすると叔父である公爵に抱きついた。小さな体を抱き上げると。


「また大きくなったな。リュカももうすぐ兄になる。今のうちにたっぷりと父上と母上に甘えるだぞ」


「はいっ!」


よしよしと頭を撫でる公爵の手つきがとても優しく感じられる。



なんて仲が良いのかしら。幼き頃よりよく会っていらっしゃるんだわ。リュカ様も良く懐いて・・・

皇后陛下は第二子をご懐妊されたんだわ。まだ公に発表もない話を私が耳にしていいのかしら。私的な時間だからみなさん安心して会話できてるんだわ。


「アイリーン嬢、お会いできて嬉しいわ。とてもあなたに会いたかったの。アーチボルトの心を掴んで離さない魅力的な方はどんな女性なのかしら?って、陛下と考えていたのよ。想像よりずっと素敵な方ね。とても愛らしいわ」


皇后は気さくにアイリーンに微笑み話しかける。愛に満ちた顔や仕草は国母そのものだとアイリーンは思った。


「私も同じ意見だ」


両陛下は見つめあい、互いの意見が一致したことを笑いあっている。互いを思いやり、二人の間にちょこんと座る皇太子殿下を慈しんでいるのが伝わってくる。


「両陛下、皇太子殿下にお目にかかれ光栄でございます」


「そんな堅苦しくなさらないで。・・・・あら?」


皇后はアイリーンの手首をみて動きを止めた。


「どうした?」


皇帝に尋ねられても返事をせず、ジッと手首を見たまま動きが止まっている。視線を辿ればアイリーンのブレスレットを見ている。五人全員がブレスレットを見ている面白い構図だ。


「そのブレスレットは、どなたかのプレゼントかしら?」


「母の形見でございます。他界してからずっと肌身離さず身に着けておりますが、これが何か?」


「刻印のようなものはあるかしら?」


「はい、ございます」


「近くで見せて下さる?」


アイリーンは躊躇いながら腕を


皇后はアイリーンに手を差し出すと、その手に導かれるように立ち上がり皇后の隣に立ってブレスレットを近づけた。


ブレスレットを取ってお見せしたいけれど、取れないのよね、これ。

母につけてもらったから留め具があるはずなのに、それが見つけられないんだもの。


「そんなに珍しいブレスレットなのか?」


皇帝も興味を示しブレスレットを見る。アイリーンは皇帝にも見やすいようにさらに腕を伸ばした。

無理に手を伸ばしているため手足がつりそうな感覚がある。ここで倒れるわけにはいかず、表情に出さぬまま、踏ん張った。


「アイリーン、ブレスレットを外せば楽ですよ」


「公爵様、それはむ…」


「ダメなのよ、アーチボルト。このブレスレットは外れないわ」


言葉を遮り皇后が答える。見て?と、ブレスレットをクルクルと回した。


「留め具がない」


「もともと不要なデザインなんじゃないか?」


さして珍しくもないという感じで皇帝はアイリーンの手を掴みブレスレットを抜こうとするが、こぶしよりも小さい輪っかな為、抜けなかった。


「アイリーンが幼いときにつけたものです。当時の彼女の小ささなら通ったんでしょう」


公爵は簡単なことだと口にする。


「アイリーン嬢、あなたのご両親、もしくは・・・祖父母にニンフはいらっしゃらないかしら?このブレスレットは特殊なの。誰もが持てる代物ではないわ」


皇帝も、公爵そしてアイリーンも驚きを隠せない。

ニンフという言葉をアイリーンは初めて耳にした。


ニンフ??それはなんなのかしら?

話の方向が、雲行きがおかしくなってきてます。

今日は、ご挨拶にお伺いしただけじゃなかった??


アイリーンは内心心臓の鼓動が早くなるのを聞きながら言葉を発せられずにいた。

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