14
秋の気配を感じられるようになりましたね。まだまだ暑い日も続いてますが。次話投稿します。ぜひ読んで頂けたら嬉しいです。
いいね! ポイントなどよろしくお願いします☆彡
夕食の準備で忙しない時刻に正門の門番から連絡が入った。軍事用として開発された通信機器は公爵の計らいで主要な場所に設置されている。非常に高価なため数は少ないが相互間のやり取りがスムーズになり、皆、業務が楽になり喜んでいた。
「こちら、執務室」
「正門 門番のネリル・デガートです。ただいま公爵閣下がお一人で馬で邸宅へお戻りになっています。じきに到着されます」
「何?!一人で?あ、いや、連絡ご苦労様」
相手の返事を待たずに切り、慌てて走って玄関へ向かう。途中で会う従業員たちに、公爵を出迎える人員、そしてアイリーンにも出迎えてもらう声掛けを叫びながら走った。
今晩は遅くなると仰っておられたが、何かあっただろうか。皇帝との謁見か、領地か、、、それとも別の重要案件だろうか。急ぎ一人でお戻りになるのは余程のことだ。
広い邸宅を叫びながら全速力で向かったものの、公爵はすでに邸宅の玄関に立っている。
「公爵様。お出迎えが出来ず申し訳ございませんハァハァ」
「構わん」
「馬車は他の従者たちは・・・」
「あぁ後から来る。問題ない。それよりも――」
公爵はふと階段を見上げた。動きが止まる。階上にアイリーンが立っている。彼女もまた急いで走ってきたのか呼吸が少し荒いように見えた。
姿を見た瞬間、公爵の顔が綻び、アイリーンに向かって歩き始める。
ま、まさか。アイリーン様に会いたくて単身、騎馬でお戻りに?
アイリーン様を見上げるその瞳・・・・あぁそうですね。大当たりですね。あぁそうですよね。当然迎えに行きますよね。
「デロデロですね」
「いつの間に!」
いつの間にか隣にいるメイド長に驚き声が大きくなる。
「お出迎えの為に皆、足を運んだんですから、ここにいて当然です」
メイド長の隣には若いメイドが「跡取りに困ることがなさそうで、公爵家も安泰ですねぇ」と笑う。
「来年には一人産まれてるかもしれないね」
同調するようjに会話に便乗するメイド長。
「いけませんっ!まだ結婚前で、婚約も正式にしてないのですよ」
執事の発言にシラケた空気が流れた。
「ホント、ジョーダンや夢のない男なんだから。だからぁいつまでたっても彼女いないんですよ~羨ましいのはわかりますけど~最近、執事長太られましたよね。お腹も出てきてる気がするし。もっと努力された方がいいですよ。そのままでもいいっていう人も、中にはいると思いますけどね」
若いメイドは遠慮なくズケズケ言葉のナイフを投げてくる。
公爵閣下の話から、なぜ私がディスられるんだ?年上や上司を敬う気遣いもできないとは・・・
「ほら、二人とも仕事仕事!アンはお夕食の準備を、ノワールさんは公爵様に着替えをお勧めしてください。はい、解散!」
メイド長は小さく手を叩き、出迎えに来た者たちへ持ち場へ戻る様に促した。
「綺麗です。アイリーン」
手を取りアイリーンをテーブルへエスコートしながら椅子を引いた。引かれた椅子にそっと椅子に座った。公爵はまだアイリーンの手を離さないで握ったまま。
「ありがとうございます」
今日は朝から共に食事を取れないと聞いていたのに、こうして夕食に間に合う様に戻ってくださるなんてほんとお優しい方。
でも、いったいどこで見染められたんだろう。公爵様と会ったことも会話したこともないのに。この女性が喜びそうなセリフも言ったどれだけの方に伝えたんだろう。他の人が見ているのに恥ずかしくないのかしら?両親のそういう姿を目にしたことがないから違和感があるのかも?
それで、いつ、この手を離しくてくれるのかしら。ずっと隣で立ってるけど。
「あの、公爵様!みなさん、見てますよ」
「構いませんよ。皆、置きものだと思えばいいのです」
はい? 今 なんと?
「あれ、耳がおかしくなったのかな?」
そっと周囲を見渡すと視界に入るひとすべてイヤイヤ、と頭を振っている姿が。おかしくなっていないと伝えているようだ。
「ふふふ。公爵閣下はやはり公爵様ですわね」
「どういうい意味ですか?」
「人の上に立つ方だと、再認識いたしました。臣下に惑わされることなく領土を収めておられると推察したのですわ」
タイミングよく給仕係がグラスにワインを注いだ。それをきっかけに食事が運ばれてきた。湯気が立ち上る数々の美味しそうな料理を見てアイリーンは喜んだ。公爵家の料理人が作る食事は何を食べても全て美味しいからだ。
「視察はいかがでしたか?」
「特に問題なく終わりました。正式に婚約できましたら、ぜひ一緒に領地視察へ行って下さると嬉しいです。公爵夫人のお披露目も兼ねて。その前に共に登城をお願いできますか?」
きたっ!
ご挨拶に伺わないと・・・と思っていたけど。。いざとなると尻込みする自分がいるわ。
「はい。もちろんです。・・とても緊張します」
「気さくな方なので安心ください。明後日を予定していますが大丈夫ですか?」
明後日! 母の命日、、、それに父が話があると。。。。
アイリーンの表情を見て「難しいですか?」と気遣いの言葉を投げる。
食後にゆっくり悩もうと思ってたのに、即決を求められることになるなんて。でも、陛下の謁見を断れる人はこの世界には、いない。ましてや、王弟である公爵様の婚約者として顔を見せに行くんだから。考えることなく、優先すべきは、陛下との謁見。
「はい。お伺いさせて頂きます」
「良かったです」
公爵はホッと安どのため息を漏らした。
「書簡を送ります」
「陛下にお目にかかるると思っていなかったので躊躇ってしまいました。返事が遅くなり申し訳ありません」
言い訳に聞こえるかな・・・嫌がっていると思われたら・・・・
こんな私が陛下とお会いしてうまくできるのかしら。何か粗相をして公爵様の顔を潰してしまったら・・・
自信なさげに俯いたアイリーンの声はとても小さく、一瞬 何を言ったのか理解できなかった。
「アイリーン?あなたが不安に思う気持ちはわかります。出しも皇帝陛下との謁見ともなれば皆、一様に委縮します。いつも通りの愛らしいあなたでいて下さればいいんです。何人たりとも、あなたを愚弄するものなどいません。皇帝陛下で際も」
――私が、居るのだから。アイリーンはどこにいても素でいいんだ。
あぁだいぶ顔の緊張が解れたようだな。さっきは真っ青だった。私が叱るとでも思ったんだろうか。
どんな言葉をかければ安心させることができるんだろうか。
「皇帝陛下は私がやっと結婚に目を向け自ら相手を見つけたことに、兄という立場から喜んで下さっています。年齢が離れているせいか幼少の頃に一緒に遊んだという記憶はほとんどないのですが、いつも家族を気にかけてくれる優しい兄です」
公爵は子供の頃の思い出をアイリーンに話して聞かせた。それを聞いたアイリーンもまた、自分の幼少の頃に思いを馳せた。会話の弾む楽しい夕食の時間はゆっくりと流れて行った。