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アイリーンは昼食を食べた後、自室で寛いでいた。公爵は本日もまた登城、その後は領地の視察の予定で終日屋敷を不在にしていた。
―― 明後日は、母の命日だわ。毎年欠かさず母にお花を供えてているから今年も会いに行きたいけど。
お墓はスタール家敷地内にあるし、今の状況でスタール家に戻るのは死ぬ覚悟が必要よね。
どうしたらいいのかしら・・・
アイリーンが思案に暮れているとメイドが入出許可を求め扉をノックする。中に入ってきたのは、普段見かけない顔のメイドだった。大きな屋敷であればそば仕えのメイドの数も多いことも納得できた。
「お休みのところ失礼いたします。お嬢様宛のお手紙をお持ちいたしました」
「手紙?誰から?」
私がここにいることを知る人物はいないはずなのに・・・まして手紙の交換などする人なんて・・・
「スタール伯爵家でございます」
そういってメイドはアイリーンに手紙を渡した。印籠は間違いなくスタール家の家門だった。つい先日受け取った時の記憶が呼び返り、受け取るのを躊躇う。
「お辛いようでしたら、公爵様にお届けいたします」
聞いた途端、気づけばメイドの腕をアイリーンは掴んでいた。
「待ってください。受け取ります」
メイドは困った表情を浮かべながら。
「この手紙は秘密裏に運ばせて頂いております。お返事などございましたら直接私にお渡しください。誰にも気づかれずにお届けいたします」
「どうやって・・あなた、、、よくこの屋敷に忍び込めたわね」
厳重、厳戒態勢をとっているこの屋敷に、そう易々と外部の者が入り込むのは不可能に近い。
つい先日のことだ、アイリーンが誘拐され暴行を加えられたのは。
公爵は徹底して厳しくした。普段から屋敷に出入りする商人・屋敷の従業員たちに公爵家発行の許可証と身分証明書を作成した。入場する際は、入場許可証、身分証明の提示を義務化。確認作業の検査官を新たに配置し、身分証明書と公爵家のデータが完全一致する者でなければ中に入れない。そのせいで、公爵家に用のある者は、通常よりも早めに屋敷に着かなければならず、今までのように<野菜を置いてすぐ帰る>ことが出来ず不便を強いられていた。
この子、伯爵家で見かけたかしら?
栗色の髪は肩より上できれいに切り揃えられている。鼻はそれほど高くなく、どちらかと言えば低い。瞳は珍しい金色だ。公爵家のお仕着せを身にまとい、一見 外部の者とはわからない。かわいい顔つきだが、頭二つ分はアイリーンより身長が高い。公爵よりも少しセガ低い感じだろうか。
「お嬢様、私はスタール家の人間ではありません。とある方の指示で、期間限定でスタール家に仕えております」
「それは誰の指示なの?あなたの主の名前は?」
「申し上げることは出来かねます。ご容赦ください」
言うわけないわよね。スタール家以上の上位貴族が主であることは間違いなさそう。
もしくは同じ伯爵。
伯爵家以上となると、公爵、侯爵の2等ね。伯爵家を含めなければ、かなり絞られるわ。
「手紙の返事を書かなくても問題ないよね?」
「もちろんです。しかし」
「しかし、なに?」
「いえ、とりあえず、一度お読みいただけますか?私は視界に入らぬよう部屋の隅に移動し、邪魔にならぬように待機させて頂きます」
メイドはアイリーンの後ろに回り、そのまま部屋の一角に移動した。目を閉じ瞑想にでも耽っているように見える。動向を探らないための配慮なのかとアイリーンは考える。
ペーパーナイフ取り出して封を切った。二つに折られた便箋を開くと中から花弁がヒラヒラと床とスカートに落ちた。セレブリティの花だ。
お母様が好きだったセレブリティの花だわ・・・・どうして・・・
薄紫色で12枚の花びらをもつセレブリティは、今の時期が見ごろで生前アイリーンの母が好きな花だった。膝に落ちた花びらを一つ手にし、生花ではなく押し花となった乾燥したセレブリティをマジマジと見つめた。押し花になったことで若干の色あせが見えるものの、ほとんど生花と変わらぬ綺麗な薄紫色だ。
手紙の差出人は想像通り、父親であるサリヴァン・ド・スタールからだった。読む気にはならないがこの花を選び手紙に同封した意味を知りたいと思った。
簡潔にまとめられた文章には、母親の好きだったセレブリティを同封したこと。明後日の命日には一緒にこの花を手向けようと書かれてある。そして今までアイリーンに対し無関心であったこと、サファイアとルードベキアに好き勝手させていたことの謝罪も書かれてある。アイリーン自身のことでどうしても伝えたいことがあるから一人で墓まで来て欲しい。サファイア、ルードベキアは終日外出しているため、気にすることがないと締めくくられていた。
なんで。どうして・・・今まで一度も一緒にお墓参りにいったことなんてないわ。
今さら謝られても、私 どうすればいいの?
お母様がご存命の時からほとんど会話らしいこともなく、親子といえない関係だったのに…
お父様の命に背いたらあとから何をされるかわからないわ。
怖い・・・とても怖い・・・
話したいことって何かしら。
「ふぅ。すぐに返事を書くとは言えないわ」
「承知いたしました。お返事はお書きにならずとも大丈夫です。お嬢様がもしどちらかへ出かけるときは誰の目にも止まることなく、お望みの場所までお連れいたしますのでご安心ください」
何に対して安心するんだろう。今日、今さっき会ったばかりのメイドに安心できるわけないでしょう。
「あなたは誰?なぜ誰にも見つからずその場所へ連れていくことができるの?」
「紹介が遅れ申し訳ありません。私はノラと申します。また私はあなたに危害を加えるつもりはございません。どのようにお連れするか・・・・は、その時になればお分かりになるでしょう。スタール伯爵様は、お嬢様にお身体のことをお伝えしたいようですね」
危害を加えるつもりはない、その時になればわかる移動方法・・・・
怪しすぎる・・・・・
身体のこと?私がいずれ公爵家に嫁ぐことがわかり、体の傷が気になり始めたのね。
今さら、どんな薬を使っても何か所もある傷跡が消えるはずないわ。
私に関心を示さなかったお父様が傷跡を気にするなんて、権力の力は偉大ね。
「誰にもバレず、戻ってこられることが条件です。それをあなたにできて?」
「お任せください。アイリーン様。では、その時にお迎えに参ります」
ノラは先ほどと同じように扉を開けて外へ出て行く。
その時、、とはいつのことを指しているのだろうか。行く場所も時間も伝えていない相手の迎えに不安が募る。慌てて扉を開けノラの姿を探した。そこには、ノラの姿だけでなく、誰一人いなかった、ただ静寂に包まれた廊下が左右に伸びているだけだった。