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誤字脱字を見つけましたので、加筆修正を加えました!
まだまだ暑い日が続きますので暑さに負けず過ごしてくださいね!
お楽しみ頂ければ嬉しいです!
日差しが柔らかく、光の明るさが眩しい午後。午後とはいってもやがて夕方になる。アーチボルト・インシュバル・ルクセンハイム公爵は皇帝陛下に謁見するため一人馬車に揺られていた。アイリーンには登城し帰宅が遅くなることを伝えている。少し寂しそうな顔をしながらも笑みを浮かべ送り出してくれた。
今回の登城は急を要する内容だ。昨日送った書簡の内容だけでは伝えきれない。直接陛下に話さなければならない。彼女を一人にすることは不安ではあるが、邸宅からでなければ問題ないだろう。
とはいえ、婚約の承諾も得られ、書簡のやり取りですませてしまいたい自分もいる。
騎士の一人が言っていたな、付き合いたては離れがたいと。笑いながら聞いていたが、実際自分がそうなると奴の言っていたことがよくわかるな。焦ってはいけないとわかっていても、焦る自分がいる。
早く私だけのものにできれば、この不安が無くなり安心できるのだろうか。
婚約式も何もかもすっ飛ばしたいが、アイリーンの意思を無視できない。
「公爵様。結婚は反乱軍を鎮圧して落ち着いた頃にしましょう」
「なぜですか?」
「公爵様と一緒になれることを目標にすれば、きっと早く解決できましょう」
そう言われれば彼女の意思を尊重しないわけはいかない。言葉にはしなかったがスタール家の没落もそこに含まれているんだろう。アイリーンは話せば話すほど芯がしっかりしている女性だ。虐げられた年月が重く彼女にのしかかっているのを感じる。共に過ごすなかで以前より自我を見せてくれるようになったが、彼女は我慢することに慣れている。
焦りは禁物だが、早めに婚約を発表すべきだな。
王城の門扉をくぐりエントランスに続く道を馬車が走る。門扉からエントランスまでは10分ほど走らなければならない。舞踏会など人が集合する場はエントランスまでの道のりは大渋滞だ。到着までかなりの時間が過ぎていく。城でなくても同じだった。舞踏会を開く邸宅ではどこも同じだった。
「今日のように人が少ないと楽でいい」
公爵は独り言ちた。
「暁の光にご挨拶申し上げます」
兄でもある皇帝を前に礼を取りながら慣例の挨拶を述べる。皇帝はソファに座り足を組み替えながら言った。
「久しいな、アーチボルト。息災だったか?お前はちっとも登城しない。たまには私の前に顔を出せ。寂しいではないか。畏まるな、まぁ座れ。ここには真の臣下のみしかいない」
「ありがとうございます」
勧められるままソファに腰を落とした。部屋には数名の騎士が立ち、ドア付近にメイドが一人いるだけだ。そのメイドもただのメイドではなく、戦闘特殊訓練を受け、万が一の際に護衛に回るメイドだ。
皇帝の瞳は公爵と違いルビーを思い起こす赤色だ。先王の瞳を受け継いでいる。年齢は10歳ほど離れているため、幼少の頃に兄と遊んだ記憶は殆どない。
「で?その女性とは結婚を考えているんだろう?今日は連れてこなかったのか?」
で、、、さっそくそこの話題から入るのか。変わらないな兄上は。
詳細を殆ど書簡に書いていないが、いったいどこからどこまでご存じなのか。
「報告の必要はなさそうですが」
「お前の口から聴くのが愉しんだろう?」
口端を上げてニッと笑む表情は兄弟でよく似ている。
「相変わらずいい性格していますね。年の離れた弟で遊ぶとは・・・」
「はははは。軽口を叩けるものが限られているのでな。そこは許せ」
皇室は渦巻いている。皇帝である兄が結婚をするときも陰謀、派閥、誰がどんな思惑を持って接してくるかを見極めなくてはならない。排除しても排除しても、今回のスタール家のようにウジはあとからいくらでも湧いてくる。
「お前は可愛げがないなあ。で?どちらのご令嬢だ?」
「アイリーン・ド・スタール嬢です」
「あの遊び人の男好きか?!」
「はっ?今なんと仰いましたか?」
しれっと悪びれることもなく口にしたアイリーンを辱める言葉にイラついた感情は隠せない。
「あ、いや。そんな噂を聞いたのでな」
スマナイと謝りながらお茶を啜る。
「男好きは妹の方ですよ。私のお相手は姉のアイリーン嬢です。どうしようもない女と一緒にしないで頂きたい」
「あ、姉の方か・・・そうか。ずいぶんとうまく立ち回ってるな。『姉が男好き』という話で持ちきりだぞ」
アイリーンは妹のフリをさせられてもいたが、妹の不始末も義母・義妹によりアイリーンのせいにさせられていた。言葉巧みに社交界をうまく利用し、妹を辱めていた。
「人となり、噂の真偽を見極められないとは、もはや・・・この国も終わりですね」
「すまん。そう怒るな。お前が怒ると・・・・す、すぐ婚約と結婚の承諾を出す。書類持ってきたんだなろう?法的に認められるよう許可を出す。お前も理解しているだろうが、お前との付き合いで様々な問題が持ち上がるだろう。公爵夫人としての立場、皇室との繋がりもできる。色々な意味で盾と剣となり、アイリーン嬢を守ることを怠るな。守るものがあれば負担も増えるだろうが、己を強くすることができる。男女どちらにも当てはまるが・・・・」
皇帝は自分の経験も含めて話しているのだろう。陰謀に渦巻く皇室。皇后陛下も今の地位につき、様々な問題があり、そのたびに皇帝が取り除いてきたからこそ、今の夫婦の仲を築けていると思われる言葉だった。公爵は兄である皇帝の言葉を胸に刻んだ。
「当然です」
「ふっやはり幼き頃から可愛げがないな。忘れてきたか?母の腹に」
「そうですか?・・・私は陛下の盾であり剣であることもお忘れなく。私は大切なものは必ず守り抜きます」
目を見つめはっきりと告げた。その公爵の姿に子供じぶんを思い出した。皇太子教育がないため若干は好きなようにふるまえた弟。兄の皇太子教育を見ながら育ち、いずれ兄の臣下になることを幼き頃に自然と察したのだろう。常に両親と兄を守ろうとしていた弟の姿を思い起こさせた。
「別件ですが、怪しい動きをしているゴミを見つけました。すでに捜査中ですが早々に駆除が必要かと」
今までの雰囲気と異なり一気に緊迫した空気に切り替わる。公爵は今現在掴んでいる内容を包み隠さず話した。部屋の中は緊張もありピリピリと空気が刺さるようだ。
「そうか・・・よく情報を入手してくれた。感謝する。そうか・・・スタール伯爵が。その上にいるのはもう一方の公爵家で間違いないだろう。二大公爵家は折り合いが悪かった。王弟であるお前の存在も消したいと思っているはずだ。婚約者がスタール家長女か・・・」
皇帝は思わず唸る。その先を言葉にすることはなかったが、公爵には皇帝が言いたいことがよくわかった。
「それは問題ありません。アイリーンに余波が及ばぬよう動きます。ただ今後お力添えを頂くことが増えるかと」
「わかっている。近いうちに連れてきなさい。それと動向を探るのに人手が必要だろう。まずが、武器取引現場、不穏分子の密会を証拠として集めよ」
「はっ承知いたしました」