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皆様お久しぶりでございます。なかなか続編が書けず、、、お楽しみいただければ嬉しいです。


公爵家にお世話になってから、お気に入りの場所であるガゼボで寛いでいた。どこでも好きな場所に出入りしていいと最初に許可を頂いて、庭園を散策中に見つけた場所だ。


とっても、とっーてものんびりしている。こんなに穏やかな毎日を過ごせる日が来るなんて思わなかった。あれから、私がケガをしたあの日から。今日でどのくらいの時間が流れたのかしら?

本当に、ここは天国じゃないかってくらい、皆さんに優しくしてもらえて。至れり尽くせり。

食べて寝て、食べてまた食べて。

たいして動いていないのに、食事やらお菓子やら毎日たくさん食べ放題。


公爵様との結婚の話もみなさん、すでにご存じで。

プロポーズを受けたのはつい昨日のことだというのに、いろんな方にお祝いの言葉を掛けられて恥ずかしいやら嬉しいやら。


ちょっと待って!!

私・・・なんか浮かれてる?


「アイリーン、ここにいたんですね」


振り向くと公爵様がガゼボの前に立っていた。

「少し肌寒くなってきましたね」そう言いながら上掛けを広げ私の体を巻くようにかけてくれる。上掛けに包まれると、あったかい。寒かったんだなと実感する。


「ありがとうございます」


「まだ体調が万全ではないのですから」


そう言って公爵様が私の隣に座る。ちょっと前までは必ず、隣に座っていいのか聞かれたけど。今は当たり前のように隣に座る。

それが、ぜんぜん嫌ではなくて。


むしろ・・・嬉しい・・・なんて思ってる。

わ、なんか照れちゃうな。恥ずかしい。


「何がおかしいんですか?」


公爵様は私の顔を覗き込むように尋ねた。


「私、笑っていましたか?」


「はい」


アイリーンは良く笑うようになった。微笑む顔はなんと愛らししい事だろう。今はだいぶ落ち着いて距離が縮まった気がするな。

もっと。もっとだ。

この世の誰よりも、私のこの手で幸せにしたい。


「ふふふ。公爵様だって笑っていらっしゃいますよ。いつも公爵様はニコニコと笑顔を絶やしませんもの。それが移ったのかもしれません」


笑いながら公爵様に話しかけた。それをみた彼もまた目を細めて私を見つめてくる。


「アーチボルトです。アイリーン。どうか名前で呼んでください。私の願いを聞き届けてはくれませんか?」


公爵様は私の手を握り、もう一度懇願した。もう何度目の懇願だろうか。


ずるい。

その甘い笑顔にブルーの瞳。引き込まそう。


「アーチボルト・・様」


「いずれは名前だけで呼んで下さい。さぁ、なんで笑っていたのか教えてください。私の愛しいアイリーンはなぜ笑っていたのですか?」


い・愛しいだなんて。

母にしか愛されていない私の人生からは考えられないわ。本当に本当にそう思っていただけたら、誰よりもきっと幸せな気持ちになれる。


母親が他界したとは一人で寂しく、ツライ生活を送ってきたアイリーンには、公爵の言葉をなかなか信じることができなかった。心の奥底では、この愛情どっぷり浸り甘やかされたいと思う気持ちがあれど、裏切られた時のことをどうしても考えてしまう。

一度愛される喜びを感じ、知ってしまった今、もとの空虚な生活に戻るのが怖かった。


「思い出してしまって・・・」


はじめてこの屋敷で目覚めた日のことを思い浮かべた。あの時も。今も。二人の関係は変わらない。

公爵に詰め寄られたアイリーンが一歩下がると公爵が一歩詰め寄る。お互いの間の距離をなくすように。


「プロポーズのことですか?」


「・・・・・」


アイリーンは返事の変わりに俯いた。公爵はアイリーンの顔を上向かせると「おまじないです」額に優しくキスをする。

このおまじないは、愛されていること、信頼しあえること、世界一幸せな女性になることを実感してもらうため、距離が少し縮まったころ公爵が始めた。

何度目のおまじないなのか、もう二人は覚えていない。それほどの数のおまじないをアイリーンにしていた。初めは過度なスキンシップに戸惑いを隠せなかったアイリーンも、次第に慣れ好意として自然に受け入れるようになった。


その少しずつ互いの距離を公爵が縮めた結果が、昨日のプロポーズ承諾へと繋がったのだ。アイリーンは当初よりも心を開くようになっていた。しかしまだスタール家の問題も片付いていない今、大手を振って喜ぶのに躊躇がある。両親と義妹があのまま引き下がるとは到底思えなかった。


「公爵様…スタール家、ルードベキアは、、、今どうしているのかご存じでしょうか?」


あれからルードベキアがどうしたのか、ちゃんと目を逸らさずにいたい。自分の家族のことは私自身で決着をつけなくてはいけない気がする。


アイリーンの背に回された公爵の手が緩む。自然と互いの体が離れ視線が絡み合う。直視されるのが恥ずかしくて思わずアイリーンは下を向いた。公爵は返事を返さず沈黙している。


私には・・・話せないことなのかな。


「ルードベキア嬢は公爵領の治安隊と共に伯爵家に戻ったと聞いています」


公爵はどこまでアイリーンに話せばよいか逡巡した。アイリーンを痛めつけ、亡き者にしようと暗殺者を雇い計画していたこと。義母のサファイアの指示により、機器としてルードベキアが手を下したこと。そして伯爵自身が謀反を企んでいること。


公爵家の影が収集した話はアイリーンに酷ではないだろうか。


「公爵様!ご存じのことを全て教えてください。受け止める覚悟は、できています」


そうよ!今まで卑屈になって逃げることしか頭になかったけど。

今は違うわ!!

個々の皆さんのやさしさのお陰で前を向けるようになったんだもの。もう、逃げたくない。


アイリーンは目を逸らさずに公爵に言った。公爵の顔に戸惑いの表情が浮かんでいる。

ふぅと小さく息を吐きだすと、繋いだ手に力を入れた。


「アイリーン、一つ、お気持ちを伺っても宜しいですか?」


「なんでしょうか?」


「私を含む公爵家の人間はあなたの剣と盾になりましょう。いついかなる時も、公爵家はあなたを全力で守ります」


ん?急に?

話の流れが、展開が見えないんですけど。


頭の中は???が浮かんでいたアイリーンに、公爵は今までの経緯を説明ゆっくりと説明していく。




反逆を企んでいるなんて愚かすぎる。

今の王は愚王じゃない。賢王として国民から信を置かれている。そんな王を引きずり下ろすなんて。

それに、、、

公にはまだ婚約者という立場ではないとはいえ、我が家が謀反を企み断罪ともなれば、実子である私も同罪。関係者全員断頭台行きは確実だわ。

そうなれば…王弟でいらっしゃる公爵様に迷惑がかかってしまう。

その前に、公爵家が一掃できれば・・・・きっと迷惑も最小限に抑えられるかもしれない。


「何を考えているんですか?アイリーン」


優しく包み込む感じにふわっと抱きしめられる。


見、耳元で話さないで~公爵様のい・き・がっ!

ちょと わざとやってますよね?


ぐいっと腕を伸ばして体を話そうとしてもビクともしない。ふわっとした抱擁で楽勝なはずなのに微動だもしない。


「い、いえ、何も」


「嘘つきですね、アイリーン」


「ち、近い。近すぎます。それに耳、耳元で話さないでください!」


「我が公爵家が全力であなたと守るといったことを忘れたのか?」


え??

公爵様??

お言葉遣いがちょと、だいぶフランクですし、表情がだいぶ、、、あの怒っていらっしゃいます?

な、なんででしょう??

きゃっ! 頬に唇の感触が!!


「ひゃっ!」


そのまま右頬、左頬、首筋と少しずつ唇を当てる場所が変わっていく。


ス・スキンシップが多すぎる!近い、近い!!

嘘なんてついてなーい!!


心の叫びは声に出さずに。


「ちょ、もうおやめください。嘘などついておりませんっ」


公爵は自分の体を一生懸命押すアイリーンを見て、自ら体を離した。


「いいえ、アイリーンは今、私から離れていくことを考えてました」


心臓がドキッと跳ね返った。


離れるわけではないけど。そうなるかも、、、という仮定の話であって、私から離れたいなんて思ってないです、本当です公爵様。


そう言えれば楽だが、なかなか、口をついて言葉が出てこない。公爵の顔の真剣さに冗談めかしで返事を返す雰囲気ではなかった。


「ほら、今も考えたでしょう?」


「ち、違います!そうではありません。スタール家が爵位はく奪の上、断罪されれば、私自身も一員として逃れることは出来ないと思っています。そこは、考えてしまいました。ですが、陛下に温情を掛けていただけるよう尽力するつもりです。公爵様とこれからも一緒に同じ時間を過ごせるように」


公爵は嬉しそうに笑みを浮かべた。想定していたアイリーンの返答と違うことに、前向きに共に歩むことを考えてくれていることに、安堵が押し寄せる。


「そこは問題ありません。すでに兄上、陛下には話を通しています。あなたが婚約者になってくださることもスタール家のことも全てです。アイリーンが心配されることにはなりませんよ」


「報告はやっ!」


しまった!と慌てて口を抑えるも後の祭りだ。公爵には平民の話し言葉を聞かれてしまった。


「クックック。アイリーンは本当に面白い方ですね!」


「申し訳ございません!」


笑いが止まらない公爵はとうとう体を揺らして笑い始める。


「そんなに笑わないでください」


「あなたがあまりに可愛くて。何をして愛らしいです」


アイリーンのすべてが愛おしい。クルクル変わる表情もさえずるような澄んだ声も。

あなたが心配することは何もない。


「ただ、私の隣で笑ってくれればいい。傍に居てくれるだけで、この問題が片付いたも同然です」


「それはないですけど、早期に片付くよう私も精一杯お手伝いしますね!」


「それは私が隣にいるとき限定で。目を離したらすぐにどこかに飛んで行ってしまいそうです。危なっかしくて目が離せません」


「あはは・・・・そんなことありませんよ」


「違いませんよ、何せ窓から脱走しようと思い掛けない行動をとるのがアイリーンです」


あはははは・・・・

そ、そうですよね。


私は渇いた笑いを抑えて公爵の胸に顔を埋めやり過ごした。





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