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こんにちは!本作をご覧いただきありがとうございます。

愉しんで頂ければ嬉しいです。

今、私の身に何が起きているの?!


「お待ち下さいませ!人違いでございます!!」


「人違いであるものか、あなたはルードベキア・ド・スタールだろう?私たちは先日、愛を確かめ合ったはずだ。私の愛を受け入れてくれたではないですか!」


いやいや、確かめ合ってないでしょ。それ義妹だし!私、姉だし!

愛を確かめ合ったって、姉妹の顔の区別もつかないの?!

声の違いくらいわかれ!


ルードベキア、あなたいったい何をしでかしたの?


「手をお離しくださいませっ!」


舞踏会の喧騒から逃れるため、化粧室へ逃げ込む私を追いかけてきた男に掴まった。

正面から抱きしめられ、逃げようとしても相手の力の方が上で。とても振りほどけない。私が抵抗すればするほど、抱きしめる腕に力が加わり、ますます身動きが取れなくなった。


怖い。逃げられない・・・このまま私、、、そんなの絶対にいやっ!





『お姉様ー、今日の舞踏会へは私の代わりに出席してちょうだい。もちろんルードベキア・ド・スタールとして。顔立ちも背格好も似ているからお化粧で胡麻化せばいつも通り問題ないわ。くれぐれもバレないようにね。バレたらどうなるかわかっているわよね?』


義理の妹であるソフィアは当たり前のように、私の部屋に来て開口一番にこう言った。小ばかにする笑みを浮かべて。

私は、伯爵家の長女。

伯爵家当主 サリヴァン・ド・スタールとアメリヤ・ド・スタールの間に授かった長女 アイリーン・ド・スタール。

話しかけているのは、義理の妹であるルードベキア・ド・スタール。


実母が10歳の時に他界し、後妻を娶った父は、子連れであるサファイアを連れてきた。母が他界してからまだ半年しか時間が空いていないにもかかわらず。そのままサファイアを後妻として娶り私の義理の母となった。

伯爵家に仕えるものは口を揃えて陰でこう言った。


『旦那様は妾を後妻としてお迎えになられた』


きっと母が生存中から長年逢瀬を重ねていたんだろうと思う。母の気持ちを考えると最低な父だ。私たちの顔立ちは本当の姉妹のようによく似ていた。ルードベキアは義理とはいえ、血が半分繋がっているからか父の血が流れていると感じる。

義理の妹の姿を見て「私の子供ではない」という父に疑問を感じるし愛想が尽きる。父の子であると誰が見てもわかるほど似ているのに。言われるたびにルードベキアの顔が曇る。

やっぱり最低な男は、最低だ。


父は義理の母がこの家に来てからの私の待遇の変化に一切関与しなかった。いつも見て見ぬふり。もともと母のことも政略結婚で愛があったわけではない。関心を示されたことも記憶にない。母からの愛情だけで10歳まで成長できた。それだけでも感謝しなくちゃいけない。


この家の正妻となった義母がまず初めにしたことは。

使用人たちの再教育だった。誰が一番上で、誰につくのが得をするのか。そういった言動を示されれば、懇意にしてくれていた使用人たちもみな、義母の言う通りに動くようになった。権力には敵わない。


私の味方は一人もいなくなった。


私の部屋は、義理の妹のルードベキアのものになり、追い出された私にあてがわれた部屋は、屋敷内で末端の部屋。日当たりが悪いせいでジメジメしている。家族と共に食事をすることもなくなり(義母が嫌がった)、必然的に部屋でとるようになった。食事の質も落ち、今思えば成長期であった私には栄養が足りていると思えなかった。

二人のいじめは執拗で日に日にエスカレートし、何も言わない父がさらにそれを助長していった。


『なぜ、あなたの代わりに私が舞踏会へ出席しなくてはならないの?』


『おねぇさまぁ、あなたに、断る権利がないのまだご理解いただけてないようですわね。やはり躾がたりないようね。ルーシー、鞭を持ってきてちょうだい』


あぁ。また。いつもの。


ルードベキアは、義母のサファイアがすることを真似し、気に入らないことがあるとすぐに鞭を持ち出す。一目ではわからないように、見えない洋服の下を狙っていつも鞭をふるう。

初めは私も抵抗していた。10歳の娘にその抵抗もむなしく、17歳になった今もことある毎に彼らの仕置きが行われている。何度も振るわれる鞭、傷が治る前にまた振るわれたため、背中にはたくさんの跡が残っている。自分で見えなくても触れば鞭の跡を感じた。

こんな体では誰にも嫁ぐことなど・・・できない。


私と結婚したいなんていう奇特な方は変態くらい。

逃げたい。

逃げたい。

お母様・・・・・助けて・・・


生きているのか、生かされているのか、私にはどうでもよかった。


『わかったわ。あなたの言うとおりにするから。だから鞭はやめて頂戴』


『っふっ。最初からそう言えばいいのよ、お姉さまに拒否権などないんですから昔から』


不敵な笑み。小ばかにするように座り込んだ私を見据えている。傍にいるメイドたちは見て見ぬふりだ。

これもいつも通り。無理なことはわかっていても過去を振り返らずにはいられない。


こんなことがいつまで続くんだろう。

こんなことなら、お母様と一緒に私も・・・






「あなたは、私に愛を囁いてくださったのをお忘れですか?私はその気持ちだけで今、ここにおります。どうか私の愛を受け入れて・・・・・」


耳元で囁かれ、息を吹きかけられる。息はお酒臭くねっとりしていて気持ちが悪い。ぺろっと耳たぶを食まれた。


「無体なことはおやめください!」


最悪!気持ち悪い、はーなーしーてー!!


力いっぱい相手の男の体を押しのけるが、男女の力の差は歴然で。私の力なんて役にたたず。押し返しても、相手の力の方が数倍強くて。


涙が溢れて止まらない。待ち伏せをされた。お化粧直しに来ただけなのに。

ルードベキア、あなた、何をしたの??

こうなることがわかってて私に代わりを頼んだの?

顔がよく似ているからって、この人も妹と違うってなんでわからないの!!


自分の貞操がかかっているのに淑女の真似などしていられない!私はドレスの裾を太ももまでたくし上げ、股間に向け一撃をお見舞いしようとしたとき。


「そこで何をしている!!」


突然の声と共に私は後ろに思い切り引っ張られた。

次いで耳たぶを食んだ男は、一物を蹴られ吹き飛ばされ、股間をおさえて身もだえている。急に引っ張られたせいで体の自由はすぐにきかず、そのまま後ろに倒れるっ!と思ったら。


ドスンっ


壁にぶつかる感触が。すぐに背中の壁はなくなり、腕を引っ張られ、気づけば私の目の前に大きな背中。自分の背に私を庇う様に知らない男と私の間に立ちふさがった。


た、助かった。。。怖かった。


私は気が抜けてその場にしゃがみこんだ。掴まれた手首は離されることなく。私を助けて下さった彼と繋がっていて、二人の手は真っすぐ伸びたまま。


「何をしているとは、、、私の婚約者と話をしていただけですが。その手を離し、婚約者を私に渡していただきたい。ただの男女の喧嘩ですよ、よくある光景でしょう?」


蹴り飛ばされ床に転がった状態で、相手の男性に声を荒げる。


こんやくしゃ? どういうこと? ルードベキア、あなた、、、、

お父様に無理に頼んで承諾を得た公爵様との婚約はどうしたの?

まさかの、ふたまた?? 自由奔放すぎるってばっ!


「婚約者?それは一体どういうことだ。スタール嬢は私の婚約者だが。貴殿は、公爵家嫡男 アーチボルト・インシュバル・ルクセンハイムに立てついていることを理解しておられるか?」


公爵は帯剣から剣を取り出し、切っ先を男性に向けた。向けられた男性は腰を抜かし、ずるずると逃げるように後ずさっている。


え?!この方がルードベキアの婚約者?

まさかのご本人登場?

そして公爵様も、自分の婚約者の顔わかってないし。本当に残念な男ばっかり。

ろくすっぽ釣書も見ずに適当に決めたんでしょうね。

顔は、、、、ルードベキアのタイプど真ん中。整った顔立ちだと思うけど、私はタイプじゃないわ。


「大丈夫ですか?」


公爵は男に向ける敵意ある眼差しではなく、親しみを込め愛おしい者を見つめるように私を見た。


だーかーらー

ご自分の婚約者の顔くらい覚えてくださいよ。

顔も覚えていないんだからね、そういう目つき間違ってますよ~


文句は心の中にしまって、メンドクサイことから目を背けることにする。

ここは淑女の嗜みで気を失ったフリをしよう。

ボンクラ公爵様なら失神の演技にも気づかないでしょうね。




目が覚めると、自室ではなく豪奢な天井が一番に目に入った。


ここは、、、どこ?私の部屋じゃない。

私、演技じゃなく本当に気を失ったのかぁ。やればできるわ。うん。

ホントいっぱいいっぱいだったし。短時間に情報過多すぎた。


キョロキョロと顔を動かし部屋の様子を伺う。天井だけでなく、部屋全体が煌びやか。

調度品もカーテンも絨毯も、過敏に飾られるお花でさえ、我が家に飾られているよりも生け方が素晴らしいし、珍しい花が使われてる。どれもこれも伯爵家では用意ができないグレードものばかり。

上半身を起し、よくよく部屋の中を見回す。私が着ている夜着も肌触りの良いシルク素材で、夜着だというのに、裾にも胸元にも世間で高いと言われるレースがふんだんに使われていた。


高そうな、、これ1枚で私の生活がどれだけ続くのかしら。

町で売ればお小遣いにできる!

よし、これを頂いて、そのまま家を出よう!そして市井で生きるの!

伯爵家にはもう戻らない!

私は私の人生を楽しく生きるのよ。


1枚くらい盗まれてもこの部屋を見る限り財源は湯水のようにありそうだ。困るとは思えない。助けてもらったお礼は言わなくては。と思うけど離してもらえそうもないので挨拶なしでお暇することに決めた。


私の不在がわかったら、すぐ伯爵家に確認するだろう。そこには本物の婚約者であるルードベキアがいる。公爵に『私』という存在がバレることは絶対にない。完璧な計画。何年も温めていた計画を今、実行するとき。


天蓋付きのベッドから下りると、床にはスリッパ、近くのテーブルにはコップと水が用意されていた。私は喉の渇きを潤すため、コップに1杯の水を注ぎ喉の渇きを潤す。

開いている窓から心地よい光と風が入り、気持ちが良かった。

カーテンを開き窓から庭を眺める。


広い!!広すぎる!!ここは王室庭園??


手入れの行き届いた庭は広大で、敷地の境目が見えない。今貴族に人気の高価と言われている噴水が設置され、たくさんの水が噴き出ている。美しい色とりどりの花が庭園に咲き乱れ、ここから見ているだけで癒される。近くで花を愛でることが出来れば、花の匂いも楽しめるだろう。


噴水・・・・もっと近くで見てみたいな。きっと私の生涯で目にするのは最初で最後。社交界で噂されるだけあってとっても素敵。

ん? ん??

ちょっと待って! 高価と言われる噴水があるということは?、、、、

もしやここは公爵家?

となると、まさかっルクセンハイム公爵家!!


昨晩のことが瞬時に思い起こされる。義妹と間違えて私を襲ってきたアフォは、ジェラルミン伯爵家の次男。そして助けてくれたのが、アーチボルト・インシュバル・ルクセンハイム様。

気絶した私を自宅へ送ることなく、ルクセンハイム家に連れてこられたらしい。


なんで?何かある。私が知らないところで何かがある。きっと何かが起こっている。

逃げよう!

ルードベキアの代わりも、今、この瞬間終りよ!


かねてから温めていた計画を実行する時期はもう少し先だったけれど。

私はカーテンを閉め衣裳部屋と思える扉を開けた。中には数々の衣装が吊り下げられている。どれもこれも豪奢だった。ルードベキアが着ているドレスよりも何倍も。私が生きてきた短い人生でこれほどの数、これほどの衣装は目にしたことが無く、着せてもらえる機会などなかった。

吊り下げられたドレスの中から、できるだけ値段が低そうなドレスを選ぶ。


一般的な伯爵令嬢は常に専用メイドがいるため一人でドレスを着ることはない。私には専用メイドがついていなかった。常に一人でドレスを着ていたことが功を奏し、コルセットの着用はさすがに無理でも簡単なドレスなら大丈夫だ。


コルセットは一人ではつけられないため、下着をつけたその上にドレスを上からかぶった。コルセットやパニエをつける前提のドレスは、そのまま着用すると丈が長い。引きずってしまい、歩くこともままならない。


どうしよう。これじゃあ逃げられない。。。あ、乗馬服がある!

足が開く!走れる!!


私は衣裳部屋の隅に乗馬服がかかっているのを見つけた。動きやすいし逃げやすい。夜着も一緒に持っていきたいけど、カバンに入れるのは問題外。


よし、乗馬服の中に隠そう。

小さくたためば、胸の隙間に無理やり詰め込める!(胸の隙間なんてほとんどないけど)


公爵家ともなれば、かなりの使用人を雇用している。雇用人の目を搔い潜り庭へ出るのは不可能だ。

とすれば、窓から庭へおり、そのまま邸宅を出るしかない。


とはいえ、先ほど見た限りでは邸宅の境目が見えなかった。どちらへ行けばいいのかもわからず、門兵をごまかして外へ出る方法も考えなければならない。


幸いなことに窓の外には張り出された木の枝があり、私が飛び移っても折れない太さに感じる。まずはそこへ乗り移り、木の幹を伝って庭へおりよう。あとは、出たとこ勝負!


カーテンの隙間から前面に広がる庭を見て構図を覚える。この部屋が庭園に面しているということは、このまままっすぐ突っ切れば、正面ゲートに出られるはずだ。でもそこは監視の目が強い。

となると、裏手に回るのが得策だ。邸宅の裏を上から構図を見たいが、反対側の部屋に行く着く前に使用人に見つかるだろう。


ライティングビューローから一本のペンを取り、髪の毛をクルクルまとめて、ペンを刺してアップにした。これで髪の毛は邪魔にはならない。


さぁ、行こう。窓から枝まで約50センチ。

大丈夫。私ならできるっ!


ふぅと深呼吸をしてから窓の手すりのよじ登り、えいやっと勢いつけて目の前の枝に飛び移った。

バサバサっと枝と葉が揺れる音がしたが、ちゃんと枝に掴まることができた。できたはいいが、ぶら下がっている状態で、頭に描いてた絵とはかけ離れている。ゆっくりと音を立てないよう手を動かし幹に近づいた。あとは、どこかに足を掛けて下りればいい。


ゆっくりと慎重に。慎重に。

って、足を掛けるところないじゃない?!

このままだと手が痺れて落ちちゃう!


飛び移った枝は私がいたバルコニーよりも1mほど下に位置してる。万が一落ちても大けがにはならない、、、はず。自分で手を離すのが怖いから、このままぶら下がって耐えきれなくなったとき落ちようか。いやいや、目立ちすぎるわ。諦めて手を離すしかない。


「私の婚約者殿はずいぶんと跳ね返りですね」


突然下から声が聞こえ、ゆっくりと下を向くと、公爵が手を広げて立っているのが見える。

逃亡作戦は失敗だ。


あぁ 見つかった。どんな仕置きをされるのか。


このまま木を上ろうか思案するも手が痺れてきて限界に近い。


「手を離してください。必ず受け止めます。安心してください」


どうしよう、どうしよう。


と、そればかりが頭の中でリピートする。いよいよ限界になり、枝を握っていた指が離れ落下した。


落ちるっ!


ふわり。

その表現のごとく、私の体は公爵様の腕の中に落下した。想像していたような衝撃はなく、優しく包まれるように抱き留められた。


頭の上で、公爵様の安堵のため息が聞こえる。私も同じようにはぁと安堵する。


「それで?部屋の扉ではなく、窓から出なくてはいけない理由を聞かせてもらおうか?」


公爵様?怒っていらっしゃる?なんだか声色が少し、いえ、だいぶ固い気がします。

だあって敬語が解除されてる。


私は両手で顔を覆い半泣きの声を出した。


「ふっふぇぇ・・・・・ん」


「泣いてもダメです。ゆっくり説明して頂きます」


ひぃーーーー!また敬語に戻ってる!!

人生最大の難関かもしれない!!


私は声にならない声を上げ、そのまま公爵様に抱きかかえられた邸宅内へ入った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一方その頃、スタール伯爵家ではルードベキアが怒り狂って騒いでいた。


「なぜ?!お姉様がルクセンハイム公爵家にいるんですか?アーチボルト様は私の婚約者ではないのですか!お父様もお父様です。なぜ公爵様から使いがきたとき姉様を迎えに行かなかったのですか」


怒りに任せテーブルに並んでいる茶器を払い落とした。ガシャンと茶器が割れる音がする。絨毯はあっという間に大きな染みを作った。


「かわいいルードベキア、そんなに怒ったらかわいい顔が台無しだ。公爵家の使いの者に、しばらくアイリーンを預かると言われてね。断ることはできないよ。直筆の手紙もあることだし」


「なぜですかっ!私ならともかく、なぜお姉様がっ」


「そうですわ、あなた。今からでも遅くはありませんわ。アイリーンを連れ戻しましょう!ルードベキアと違って本当に何をしても出来が悪い子ですもの。伯爵家の格を落とします!」


二人の剣幕に父は頭を抱え込んだ。格上の貴族からの話は、こちらからは反論することなどできない。

ましてや、王弟であり公爵家である。アイリーンを連れ戻すことなどできるはずもなかった。


二人にはアーチボルトの婚約者は次女であるルードベキア・ド・スタールだと伝えているが、本当はアイリーンあてに届いた書状だった。背格好も顔立ちも似ているため、公爵にはルードベキアを後々推すつもりあった。ルードベキアは魅力的だ、虜にさせる自信がある。

アイリーンとアーチボルトの接点などないのだから、いかようにもなると考えていた。考えが浅はかなところがスタール伯爵らしいとも言える。


「馬車の手配をして!今すぐアイリーンをここに連れてくるように!!」


サファイアは金切り声を上げ執事に命令した。執事は眉間にしわを寄せ、伯爵を見て言った。


「僭越ながら申し上げます。此度の婚約はアイリーン様宛の書状でございました。いかなる理由があろうと、公爵家で預かると仰る以上、伯爵家から迎え馬車を出すことは難しいと存じます」


「「アイリーン宛の求婚状??」」


サファイアとルードベキアは同時に声を発し、驚きを隠さぬままサリヴァン伯爵に目を向けた。


「どういうことなの、お父様!」


「あなた!説明してくださいませっ!!」


「うるさい!執事の言うとおりだ。もとよりこの話はアイリーンへの求婚状だ」


「「でしたらなぜ、ルードベキアの婚約者と仰ったのですか?」」


母子に責められ、父親であるサリヴァンは押され気味だ。言いたいことをきちっと伝える術がすぐには見つからない。追い詰めるようにルードベキアが言った。


「私よりも出来の悪いお姉様の方が優れているということですかっ!」


ルードベキアの耳には何も入らない。姉を蔑み、常に優位に立つことだけを考え育ったルードベキア。誰にも咎められず自由奔放に育った彼女には誰の言葉も、親の言葉さえ響かないだろう。


「そうですわ!旦那様。ここは、当主として威厳ある態度をアイリーンに示さなくてはなりません。今後親戚として公爵家とお付き合いするのであれば、スタール家を格下にみられることがあってはなりません!」


その言葉を聞き、当主であるサリヴァンは声を荒げた。


「お前たちは何様のつもりだ!たかだか伯爵家の身分で、王弟である公爵家と同等に並べると思っているのか。ルードベキア、姉の方が出来が悪いと言ったな。お前の男関係はどうなる?社交界で噂のネタにされているのが理解していないか?今回の舞踏会へもジェラルミン伯爵次男を避けるためだということを私知らないと思ったか!お前の方が家紋汚しの面汚しだっ」


「あなたっ。そこまで仰らなくても。ルードベキアはまだ子供でございます」


サファイアは慌てて実子であるルードベキアを庇った。ルードベキアは泣き崩れる。


「愚かな。。。お前の教育がなっていないから、こんな娘に育ったんだろう。お前がきちっと教育し育てていれば・・・・・この部屋から全員でていけっ!」


サリヴァンは怒り狂い、ルードベキアと同様に調度品を投げつけた。



―― アイリーンお姉様。絶対に許さない。覚えておきなさい!楯突いたことを必ず後悔させてあげますわ。


悔しさに歯を食いしばり、執務室を後にしながらルードベキアは復讐を心に誓った。

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