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クソッタレな目覚め(2023年5月5日 大幅編集の為、読み直し推奨)

2023年5月5日 大幅編集

 少女にとって人間とは極めて面倒なモノであった。


 天才と言われるような人間を見れば、圧倒的な能力の違いに自身がみじめに感じる。

 馬鹿と言われる人間を見れば、先の事を一切考えない楽観的な姿に嫌気がさす。

 どちらとも言われない常人はホームセンターに並ぶ規格の揃えられたネジの様で、社会という仕組みに次から次へと上に立つものによって消費されていく様は自分の未来を見ているようで酷く億劫。


 歳に不相応な純粋さの欠片もない思考である。

 仮に歳がそれなりに行っていても酷く捻くれた思考であろう。


 少女の内心を知る者がいれば眉を顰め、人によっては唾の一つでも吐き捨てるであろうが生憎と少女の思考に気付く者はいなかった。


 少女は何処までも普通であったのだ。


 一見「何を言っているのだろうか?」と考えるかもしれない。

 同種属(人間)仲間(人間)として見れない存在が普通な訳がないと思うかもしれない。

 確かに考え方によってはそうであろう。

 されど、何と言おうと少女は普通だったのだ。


 何らかの事で万人の頂きに立つことができる天賦の才などを持っている訳ではない。

 精神が本能を越し、理性が欲望の奴隷から解放されるほどに意志が強い訳でもない。

 どこぞのドラマよろしく特殊な環境で育った訳でもなければ、偉人や英雄というような時代の主役と言える存在に会った訳でもなく。

 人と言えぬほどに狂っている訳でもない。


 ただ少し…………いや、かなり捻くれているだけ。


 どれだけ誇張しても個性の範囲を超える事は無く、何処まで捻じ曲がっても普通の枠で収まる程度である。


 そして、少女自身が普通であるが故にその心の内を誰にも言う事など有りはしないのだ。


 先にも書いた通り、少女の内心を知れば常人は眉を顰めるのだ。

 少女も同じような内心を持つ人間を知れば共感こそすれ、面倒な奴だと眉を顰めて関わらないのだから。


 結局の所、うだうだと思考し如何に捻くれようと常人は普通であり、人間は人間である。

 少女も人間である事には変わりないのだ。


 さて、少女も人間であるというのならば人間らしく生きねばならない。

 

 人間らしさというモノは人の数だけあり、明確な正解と成りえるモノは有りはしないが、とりあえずの回答として挙げるのであれば「人間社会に沿って生きる」事を挙げるのが無難であろう。


 少女、とどのつまり子どもなのだ。

 どちらにせよ親の庇護がなければ生きては行けず、人間社会に沿って生きていれば相当余計な事をしない限り社会がある程度は守ってくれる。

 


 そう…………「相当余計な事をしない限り」である…………。


「相当余計な事をしない」

 頭に「相当」と付くのだから、一見すればなかなか条件を満たすことは無いと考えるかもしれないが、わりと簡単に満たしてしまうモノなのだ。


 まず、人間にとって「相当余計な事」とはなにか?

 これは例を挙げるまでもなく簡単な事で、人間社会自体の破壊である。

 人間という種属ができる限り多くの幸福を享受する為のシステム、それが人間社会だ。

 ソレを破壊する事は幸福を享受している人間からすれば余計な事以外の何物でもない。

 では、その人間社会にとって「相当余計な事」とはなにか?


 秩序という秩序を破壊するような全世界同時多発テロか?

 否、確かに人間社会を壊せるが同時多発テロである必要性がない。もっと本質的な所である。


 それならば、人口を割合レベルで減少させるような大量殺人か?

 否、それもまた人間社会を壊せるが別に殺人の人数は関係ないのだ。まだ本質には遠い。


 ならばならば、法律という人間社会の要を持つ国家という存在を複数崩壊させるような世界規模のクーデターか?

 否、人間社会の要である法律を壊すという着眼点こそ鋭くはあるが、それもまた本質ではない。


 では、本質とは一体全体何なのか?

 人間社会にとって「相当余計な事」に対する明確な解答とは何なのか?

 答えはシンプルでいて抽象的で、如何にも人間的である。


【倫理観の欠けた行い】だ。


 これほど口にするだけならば簡単で説明するには難しい言葉も中々ない。

 倫理観など、そんな事を気にしていれば死んでしまうような切羽詰まった状況が存在するし、人の歩んできた人生によって違う場合もある。そもそも時代の流れに伴って少しずつ変化していくモノでもある。

 その説明の難しい、詰まるところ重要性が変動し定義の曖昧な言葉から明確に外れていると言える行動など誰が完璧に理解できる?

 どこぞのカードゲームと違って「これは倫理観に欠けた行いだ」と裁定を教えてくれる公式はいないのだ。

 なんとも厄介な条件である。

 

 自身が行動を取る前にその行動が倫理観に欠けていないか確認を取るだけで他人からすれば、原始人を見たような目を向けられるだろう。

 それは暗黙の了解であり、誰も聞くことはなく、ある程度見て学んで行くものだからだ。


 だが、少女には見て学ぶ気もなかった。


 前述したように少女にとって人間とは面倒なモノなのだ。

 嫌いな食べ物を避けるかの如く、人間とは極力関わりたくないのである。

 必然的に他人は同じ空間に存在するというだけの背景と化し、態々ナニカを学ぶほどに注視することもない。

 それでも視界に入っていない訳では無い為、なんとなく理解はできる程度には知識として覚える。しかし結局の所、本人からすれば背景でしかない為どこか足りないのだ。

 結果、倫理観が常識に至らず知識の段階で留まってしまった少女ができあがったのである。


 ただ、何度も言うが少女は普通である。


 少女は自身の倫理観が何処かあやふやである事に割とすぐに気が付いた。

 自分が他人と関わる上で相手に求めるべきモノが自分に欠如しており、会話をしていれば周りが何処か大事にしているモノが自分とは違う。

 言語化できる程に少女の脳ミソは聡明ではなかったが、なんとなく理解して、周りと同調する程度ならば問題はなかったのだ。


 なんとも面倒。魚の小骨のような少女である。


 そこは何処かの都市の裏路地。

 石造りの壁に背を預けて石畳に座り込んだ女は、左手の開閉を繰り返しながら眉を顰めていた。

 気分は最悪である。

 女は自身のトラブルに対する対応能力が高い方であると自負していたが、現状は明らかに手に余っていたのだ。

 怪我をした訳ではない。疲れている訳でもない。

 中二病よろしくかっこをつけている訳でもなければ、何か座らなければならない理由がある訳でもない。

 問題があるとすれば、ここに座っているということ自体が問題なのだ。

 いつも通りの映像のない夢から起きれば、そこは謎の場所だったのである。

 女は普通の人間であった。

 正確に言えば不真面目と言われるような存在ではあるが、薬物に手を出したこともなければ人を殺したこともない。精々まともに大学に行かず、趣味でちょっと怒られる事があるぐらいである。

 何か特別な存在という訳ではない。

 大学をサボってゲームセンターで音ゲーを叩き、パルクールをしながら帰って、飯を軽く済ませて気ままに寝る。

 そんな変わらない毎日。

 いつも通り大して心地よくもない、何とも言えない目覚めをベッドの上で行い、開いた瞳に映る筈であった見慣れた天井は、訳の分からない石畳に変わっていたのである。

 敬虔な信徒であれば怠惰で不真面目である日々に対する神様からの罰であるとして反省することもあるかもしれないが、生憎と女は無神論者であり、極めて利己的であった。反論もできない事実であったとしても、己の怠慢さを見直せと言ってくる者が居れば冷めた目で見て鼻で笑うであろう。

 だが、見覚えの欠片もない場所に自身が寝そべっているという事態は流石に笑えなかったのだ。

(クソが、どこだ此処……)

 人通りのない場所である為、喋ったところで特に何かがある訳ではないが、女は口に出さずに現実を罵った。

 雄弁は銀の価値があるが、沈黙は金なのである。

 現状を確認しようと視線を上げる為に頭を動かせば、寝起きの頭に血管が血送る不快感がずるりと走る。

 日の光に目を細めながら視界内のモノを確認すると、そこには石材でできた荒れた建物の壁と数枚の貼り紙があった。


(…………)


 数瞬の沈黙の後、女は無言で拳を地面に叩きつけた。

 こんなふざけた事はない。素人の書いた小説でももう少しマシな展開であるであろう。

 何せ、女のいる場所は本当に《わからない》場所であったのだ。

 雑に貼り付けられていた数枚の紙には、言語と思わしき記号の羅列と人の顔が映っている。

 そう…………『言語と思わしき記号の羅列』である。

 読めない文字ではなく、知らない記号なのだ。

 アルファベットでも、ギリシャ文字でも、ハングル文字でも、キリル文字でも勿論、漢字、平仮名、カタカナでもない。完全に未知の言語なのである。

 当然だが、女は言語に詳しい訳ではない。地球上に女の知らない言語など多く存在するであろう。

 しかし、問題は見たことがないという事であった。

 言語を知らないという事は会話がわからない。

 会話がわからないという事は知識が得られない。

 知識が得られなければ常識がわからない。

 常識がわからなければボディランゲージも図れない。

 つまり、女のいるこの場所は少なくとも文字通り、女が全く知らない場所であるという可能性が非常に高く、帰る手段も食事も飲料もそれを得る方法すらもわからないという事なのだ。

 無い無い尽くしもいい所である。

 いっそ夢であれば良かった。

 着の身着のまま、全く知らない場所に放り出される夢というのは女にとって悪夢に違いなかったが、現実にそうなるよりは百を通り越して千%マシである。

 だが、それも可能性は限りなく低かった。夢にしては明らかに解像度が高かったのだ。

 夢はそれが通常の睡眠時に見る夢であっても、意図的に見る明晰夢であったとしても、ある程度はぼやけた内容になる。

 夢が服屋に買い物に行くという内容であったとした場合、誰と行ったか、どんな服を見たか、どのような場所であったかという事は明確に描写されたとしても、レジの店員の顔や払った金額などはまともに描写されない。

 ましてや、本人の知らない事は絶対に描写できず、来年の流行りの服の材質などというモノはわかる筈もない。

 しかし、誠に残念な事に今着ている服の材質はわかってしまったのである。

 洗濯など雑に洗濯機に放り込むばかりで、アイロンすらまともにかけた事もない女の目は、自身の着ているパーカーが洗濯表示と共にポリエステルと綿で作られていることを映していた。

 血の昇る思考と口から流れ出る溜息と共に生気が抜けぬよう、女は繰り返す左手の開閉に少し力を込める。

 なんとも残酷な事実であった。

 …………さて、所でこんな言葉を知っているであろうか。

 弱り目に祟り目。

 意味は何か不運な事や失敗があって弱っている所に、更に不運が重なるという泣きっ面に蜂と似たような諺だ。

 山道を転がり落ちる岩は転がり続けるに連れて速度を増していく。

 詰まる所、最悪の状況確認はまだ終わっていなかったのである。

 女が再び頭を上げ、視線を嫌な現実を突きつける紙を通り越して更に上へ向ければ、其処には青い空とサンサンと輝く太陽と共に、赤紫色の丸いナニカが輝いていたのだ。

 最早、理解どころの話ではない。

 なにせ、クソッタレなこの場所が地球であるかどうかすら怪しくなったのだから。

 初回は短いです。

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