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プロロ―グ

ブゥーーーーーン

ブゥーーーーーン

いるんだろ、分かってるんだろと言わんばかりにスマートフォンの着信バイブ音が部屋に鳴り響く。

予想はしていたが、案の定画面上には「サラ金②」と表示されている。

ま、放っておけば諦めるだろう。俺の様な債務者なんてごまんといる。いちいち一人一人に執着はしていられないさ。悪いが俺は只今絶賛、塩焼きそばを調理中。手を放す訳にはいかないのだ。

ブゥー―――ン

ブゥー―――ン

しつこいな。ちょっと待っててくれよ。ふと画面上に目をやる。「サラ金②」では無い。「カトレア荘」と表示されている。やばい。俺の職場じゃあないか。サラ金からの督促電話の後にすぐ職場からの電話…これはまずい。

思わずフライパンを雑にコンロの上に置き、スマホを手に取り、電話に出る。

「はい、もしもしササヒラで…」

「お前よお~!!」

こちらが名乗る前に怒鳴り声が電話口から鳴り響く。あまりの怒声に、部屋で寝ていたうさぎのうさちゃんが、何事かと言わんばかりに立ち上がり、アンテナの様に耳をくるくると動かした。

休みの日にあんたの声、ましてや怒鳴り声を聞くのはごめんだ。一気にテンションが下がるぜ。

「な…なんですか?主任」

「なんですかじゃねえわ!さっきお前宛に、『カワサキ』って方から連絡来てたぞ。何回も連絡してるのに繋がらないって」

時すでに遅しか、サラ金のやつ、やりやがった。

「カワサキ?いやあ…ちょっと分からないですね…心当たりが…」

「そんなわけないだろうよ…。会社にまで電話がかかって来るなんて相当だぞ。お前もしかして闇金とかサラ金に手を出してるんじゃないだろうな」

「俺もそこまで堕ちてないですよ。ああ、もしかして家賃の督促かな?」

へらへらと答えると、俺の語気に更に腹が立ったのか

「33にもなって休みの日まで会社に迷惑かけんなよ」

吐き捨てるように主任は言い、追撃で乱暴に受話器を置く「ガチャリ」という音をを立てて電話が切れた。

舌打ちしつつスマホを布団に放り投げ、皿に盛りつけるのも面倒になり、フライパンの中から直接焼きそばを啜った。うまい!!と言いたいところだが、あのクソ上司の叱責の後じゃ旨いものもマズくなる。あぁ…でも旨いわこれ。

ふと窓辺に目をやると、何処からか迷い込んだのか、桜の花びらが数枚、ひらひらと部屋の中に舞い込んできた。まったく、この汚い部屋に似つかわしくないものだぜ。俺はカーテンを閉めた。部屋が暗闇に包まれる。

一通り食事を済ませると、無意識のうちに大きな大きなため息が出る。なんでこうなってしまったものか…。いやはや、考えるまでもない。自業自得だ。

ブゥーーーーーーーン

考える間もなく「サラ金②」から着信があった。

「すいませんなかなかでられなくて~。いや携帯が水没しちゃっててね」

へらへら口調で俺は電話に出た。また会社に電話されるのもごめんだ。スマホ越しで、相手のオペレーターも、そうなんですかとは言いつつも顔は般若の形相になっているだろう。こっぴどく嫌味を言われたが、借金は次の給料日まで待ってくれるそうだ。

電話を切り、乱雑に敷いてある布団の上に寝転ぶ。うさちゃんが駆け寄って俺の顔をペロリと舐めた。優しいのはお前だけだ。


――――スピカ――スピ――


妙な機械音。なんだ?テレビつけてたっけかな。テレビに目をやるが、液晶は真っ暗のまま。反射で間抜けな男を映すのみだ。スマホか?いや、違う。


――――ササヒラ――アキ――――


ササヒラアキ…ささひら あき…笹平 明

俺の名前だ。ついに借金首が回らなくなって幻聴でも聞こえ出したか


――――ココ――デス―アキ――サン――


うさちゃんが耳をくるくると動かしながら、立ち上がり一点を不思議そうに見つめていた。その方向に目をやる。何もない。壁に俺がいつも使っている古びたスクエアバッグかかかっているだけだ。


――アキサンアキ――ア…サガシテ―


いや…こりゃこのバッグから聞こえているのか?

「ちょっ…ちょっと…あの…」

恐る恐るカバンに声をかけてみる

――スピカチョウ ヲ サガシテクダサイ――

すると、スクエアバッグがボウっと緑色の光に包まれた。蛍に似た、懐かしい緑色の光。ただただ、暗がりの部屋にその光景はあまりにもシュールだ。カバンが光って、借金まみれの男になにかを探せ探せと訴える。こんなふざけたことは無いぜ。

――アキサン――スピ

「おやすみなさい!!」

俺は叫んで掛け布団をひったくり、頭まで被って目を閉じた。

アキサン――アキサン――

尚もカバンは俺に語り掛けている。なんでこうなってしまったものか…。


いやはや、考えるまでもない。自業自得だ。目を閉じたまま、俺は自嘲気味に笑った。

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