表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

異世界カレー奇譚

そんなことよりカレーが食べたい。ハーレム・オプション!

作者: すけさん




これは佳奈たちを地球に送り返して少し経ったくらいの話である。


この日、夜も更けあたりが寝静まったころ、執務室に一人籠もり書類の整理に精を出す浩二のもとに一人、訪れるものがあった。


顔を上げ来客者を確認した浩二は目を見開く。

殆ど何も身に付けずに裸身をあらわにしたハイエルフの美女、タリアが決意した表情でそこに立っていた。


「どうしたのだ、……タリア!」上ずる声で窘めつつも椅子ごと後ずさる浩二に向かって近寄ってくるタリア。真白な肌のふちを彩る産毛がランタン明かりに揺れて、艶めかしく煌めいている。


タリアは浩二の肩に両手を置き逃げられぬように押さえてから、その美しい顔をことさら浩二の前に近づけ、訴えかけるように話しかけてくる。

「お子が欲しいのです……。コージ様の……。

あなた様からなんとしてもお情けをいただきたく、こうして恥を忍んで押しかけに来たのです。」


「それは……。しかし……。」反論を試みる浩二だったがうまく呂律が回らない。

なにより眼前のタリアは目が座っており、浩二の言葉など聞く耳を持たぬ凄みがあった。


「ええ、ええコージ様。存じておりますとも。あなた様がカナ様以外を妻に迎え入れるおつもりが微塵もない事を。

領地のことは優秀な子供を養子に迎えて継がせる準備をされていることを。

コージカレー店は実質すでにチャナンのものであることを。

聖王国のことはナルミ様に託されて、その後継も彼女に育成を任せておられることを。

魔王領のこともリリム様が取りまとめてくださっていることを。


あなた様はこの先誰とも交わらず、お一人のままこの世を去るおつもりであることを。


けれどもそれでは!


ハイエルフは無限にも等しい久遠の時を過ごす存在なのですよ!

残された私は何をよすがに残りの時間を生きればよいのです!

愛しいあなたに一人先立たれ、どうこの先を生きてゆけば良いのです!


私には耐えられないのです。


せめて慰みにでも、あなた様との間にお子があれば、私は長い時をどうにか過ごして行けるのです。

そうでもなければ私はあなた様と共に命を絶つ所存です。


冗談で言っているのではありません。

私自身、自分の中にこれほどまでの熱情が潜んでいたことに驚いているのです。


今まで私は、コージ様に嫌われたくないと思い、自らの劣情を堪えてまいりました。

けれどももう、我慢がならないのです。

このままむざむざとあなたが失われる未来を座して待つのは耐えられぬのです。


私は今日、あなた様に嫌われる覚悟をいたしました。軽蔑してくださって構いません。憎んでくださって構いません。

けれども、どんな手管を用いてでも、私は今日、あなた様からお情けをいただきます。

その為の準備は整えてまいりました。


邪魔は決して入りません。逃げ場もすべて塞いであります。男を奮い立たせるための魔術も道具もすべて取り揃えております。

諦めてこの私を受け入れてくださいませ。」


タリアの顔はランタン明かりの陰に隠れ、見上げる浩二の位置からははっきりとはよく見えない。だがその表情はどこか悲し気で辛そうであるように浩二には思えた。


「タリアの覚悟は、分かった。

その、タリアのためにオレに出来ることがあるのなら、別に協力は惜しまん。

こんな事で嫌ったり軽蔑をしたりもしない。


けれども出来れば、少しだけでいいからオレの話を聞いてほしい。


オレは、怖いんだ。どうしようもなくあなたのことが、怖いんだ。

あなたがずいぶんと前からこのオレに掛け値なしの好意を向けてくれていたことはもちろん、オレにだってわかっていた。

けれどもオレはあなたの愛が怖かったから、理由をつけていつも逃げ回っていたんだ。


オレはあなたに愛されるのが怖いのだ。」


きっとタリアは優しい女性なのだろう。こんなひどい告白を始めた浩二の頬を慈しむように手で撫でると、そのまま浩二へと身体を絡めるようにして抱きついてきた。


耳元でタリアが囁く。

「この私のどこが怖いというのでしょう。」


鼻をくすぐるハイエルフの素晴らしい芳香に包まれて、浩二は絹のような美しい女の肌に身をゆだねつつ、こう答える。

「あなただけではない。このオレは、女性というものが怖いのだ。それこそ地球にいた頃から、ずうっと女性というものが怖くて仕方がなかったのだ。」


そこから先は、伊丹 浩二という男の身勝手な独白が始まった。


「もともとオレは地球ではずっとはみ出し者だった。


前に一度話しただろうか? そもそもオレは異世界召喚の事を知っていた。オレの叔父がこことは違う異世界に強制召喚され、経った数日でボロボロになって帰ってきたとき、オレにはとても恐ろしかった!

変わってしまった叔父そのものが恐ろしかったし、自分自身が同じ目に合うことが死よりも恐ろしかった! いや、それこそ人としての死そのものであるとオレには思えてならなかった!

異世界こそがオレにとっての死の象徴となってしまったのだ!


だから必至になって抗う努力をした。いつ召喚されてもいいようにサバイバル技術を学び、格闘技に精を出し、言語学の本質、言葉の構造を理解する為の訓練に明け暮れた。


そんな中でも特に求めたのが自らの核となる何かだった。


信念のある人間は苦境にあってもくじけない。だが信念とは一朝一夕に身につくものではない!

当時のオレには核がなかった。ただただ恐ろしい異世界召喚に抗うために消極的な努力を続けるばかりだった。だから自らの信念となる何かが欲しかった。


そんな時に出会ったのがカレーだった。いや別に、始めはカレーと意識していたわけではない。

異世界で生き残るには、薬や薬味の元となるスパイスやハーブは極めて重要な役割を果たす。だから早い段階から使えそうな草の種類や効能、調理の仕方などは細かく色々と学んだ。

そんな中で、オレを育ててくれた異世界転移者の一人、安田さんがカレーを教えてくれた。


『このスパイスとこのハーブを組み合わせると、何故かカレーの味になるよ』


言われて試してその通りになったとき、オレはびっくりした。そして楽しかった!

それでオレはすっかりカレーにのめりみ、暇な時分はすべてカレーの研究につぎ込んだ。けれどもこれは苦しい訓練の合間の遊びだったし、信念とは高尚なものだと思っていた当時のオレはカレーのことは下世話な食べ物だとどこか軽んじていた。


そんなオレに人の核の何たるかを教えてくれたのも安井さんだ。


『それのせいで死んでしまっても仕方がないとあきらめがつくもの、それが人を作る中核だよ。別にカレーだっていいじゃない? 浩二くんがカレーのせいで殺されても仕方がないと思えるなら、きっとそれが君の信念なんだよ。』


こうしてオレは自分にとっての一番を手に入れた。後は異世界に連れ去られてもカレーを再現できるようにするためのあくなき研究が、今に続くオレのライフワークとなった。


だがこの時点でオレは完全に孤立していたんだ。同年代の少年少女は日本では学校というところに通うものだが、オレは正直かなりこれを軽んじていた。しょっちゅう休むし、言われたことも守らないし、協調性なんかもまるでないから、オレは爪弾きにされていたんだ。

オレは異世界転移に備えて勉強だけは欠かさなかったから、テストのときだけやってきてそれなりの点を取るオレはさぞかし嫌な奴だったと思う。

ガタイも大きかったから喧嘩や直接的なイジメを受けることはなかったが、変人扱いされて疎外されていたんだ。


けれどもオレは特に気にしなかった。一人で生きて行けばいいなんて粋がってた。みんな異世界に拉致されたら死んでしまうぞなんで、むしろオレがみんなを馬鹿にしてた。


そんなオレが中学2年になり、14歳のある日、衝撃的な出来事があった。

いつものごとくちょっとした嫌がらせで、宿題になるはずのプリントがオレのところにだけ配られなかったことがあった。

別にオレはどうってことないって気にしなかったけど、一人だけ怒ってくれた女の子がいたんだ。

それがいいんちょ、当時クラスメイトだった佳奈だった。


佳奈はオレのために怒ってくれて、わざわざ自分のプリントをオレに譲ってくれたんだ。


オレは一目ぼれした。生まれて初めての初恋だったよ。

けれどもオレはどうしていいかさっぱり分からなかった。


この小さくて柔らかくて可愛らしい存在に対して、どうすればオレに振り向いてくれるかさっぱり分からなかったんだ。

オレは異世界のことに囚われるあまり、普通の女の子と会話する方法すら学ぶ機会が一度もなかったんだ。


それで一挙に惨めな気持ちになったよ。

今までただ恐ろしいという理由だけで打ち込んできた異世界対策の訓練や勉強とはなんだったのか。

何故オレは彼女と話す事すらうまくゆかないのか。

いったい今までオレは何をやってきたのか。


それでも他にすることがなかったから、半ば惰性で修行は続けた。

けれどもそれだけではいけないと危機感があって、そんな時に彼女が目指している高校の名前をたまたま耳にして、いや本当はたまたまどころかストーカーまがいの盗み聞きだったんだが、とにかくそれで目標が出来たオレは、佳奈と同じ高校へ進学するために猛勉強したんだ。


高校に受かったときはとてもうれしかったよ。彼女とまた同じクラスになれたときはもっと嬉しかった。

人生で一番嬉しかった日だったかな? いや、佳奈が告白を受け入れてくれた日の方がよっぽど嬉しかったから、今思えば大したことではないか。


ともかくそれでせっかく同じ学校に通えるようになったのに、結局中学のころと何も変わらないんだ。

どう話しかけていいか分からなかったし、何を話していいかも分からなかった。

このころにはオレはもう、女の子の事が怖くて怖くて仕方がなくなっていたよ。

佳奈だけじゃない、成美や満里奈や、他にもたくさん、可愛い女の子がクラスには大勢いたが、その誰とでも話すことが恐ろしかった。


まるで別世界の人間に思えたんだ。オレは女の子とは無縁のむさくるしい世界に一人生きていて、彼女たちは同じ場所にありながらも全く違う世界にいて。

距離だけはこんなに近いのに、近づくにはオレには圧倒的に何かが足りないんだ。

そして惨めなこのオレには、足りないものが何であるかすら分からない。


面白い会話なのか、おしゃれなのか、勉強やスポーツが出来る事なのか、人づきあいがうまい事なのか。

いずれにせよ、その全部がオレにはない。


だからどうすればいいか分からないまま、ただ日々の訓練を習慣でこなしつつ、オレは異世界転移のあの日を迎えたんだ。



転移のあったあの日、不思議とオレの心は凪いでいたな。

あんなに恐れ、あるいはどこかで望んでいた異世界転移が、この身に起きてしまえば実にあっさりとしたものだった。


なあんだと思った。

なあんだ、こんなものかってね。


だからオレは自分でもびっくりするほど冷静に行動することが出来て、一目見ただけで王女だの大臣だのがクソ野郎だってのはすぐに分かったから、逃げ出すための算段を立てた。


今でも思い出す。あの時オレは自分一人が助かることだけしか頭になかった。

クラスのみんなにいい格好しようなんて微塵も思わなかった。異世界のような未知の場所では助け合うなどという余裕すらない事の方が多い、そう訓練を受けていたから、オレはまず自分一人が助かることしか考えなかったんだ。


だから結果としてその選択が佳奈たちを見殺しにする事につながるなんて、当時のオレは思いつきもしなかった。


あんなに大好きな女の子だったのに!


今ならわかる。あの時のオレは拗ねていたんだ。佳奈の周りにはいつだってキラキラしたカッコいい男どもがたくさんいて、あいつらと佳奈はそれなりに仲良くやっていたから、オレなんて邪魔なだけだろうって。

好きな気持ちはずっとあるのに、不貞腐れて知らねぇやなんて勝手に見捨てて。


それで一人で逃げ出したんだ。

生きるためには仕方がないなんて心の中で言い訳して、佳奈を見捨てて一人だけ逃げたんだ。


それから3年間は、まあ苦労は多かったけどそれなりに楽しかった。

それまで何年も準備していた訓練や勉強が全て生きた瞬間だったからな。語学学習の為の勉強もサバイバルの為の訓練も全てが異世界でオレを活かす術へと直結した。


オレは狙い通りの都市国家に流れ着きカレー屋を始め、狙った以上の評判で上々の成果を上げた。

当時のオレは少しばかり調子に乗っていたな。


そんなオレの前に、ふらりと佳奈が現れたんだ。

本当にびっくりした。3年前と変わらぬ容姿で、でもびっくりするくらい殺伐とした目つきをしていて。

けれどもあの時のオレは佳奈のことなんて過去の人間だと思い込もうとしていたから、助けてやろうなんて気持ちにはさらさらならなかった。


そっちも大変そうだな。まあガンバレよ。まあそんな対応をしてしまった。


ちょうどそのころだったか? タリアたちと出会ったのも。」


「ええそうです。カナ様が突然コージ様をお連れになって、突然料理対決などが始まって。

あの時のことは今でも覚えております。その……。」

ここでタリアは顔を赤らめもじもじとしだした。「一目惚れでした。いえ、一味惚れと言うべきでしょうか?

あの時、コージ様が過労でお倒れになったカナ様に差し出した極上のダシジル。その同じを知ってしまった私はあなた様の素晴らしいスープに身も心も奪われたのです。


あのスープにはコージ様のカナ様に対する気遣い、優しさ、愛情といったものの全てが詰まっておりました。

そこにはいっさい何の魔法もかかっていないのに、カナ様を慮るお気持ちだけで素晴らしい効能を発揮しているように思えました。


あの場にいるエルフの乙女たちはみな、カナ様に嫉妬したのですよ。このような愛情を一身に受けるカナという女性はなんと羨ましい身分であるかと。


ですが私はこうも思ったのです。一途にカナ様を愛するコージ様をこそ、私は愛おしいく感じるのだと。

あなたを愛するにはカナ様の事をも受け入れねばならぬのだと。

ですから私はカナ様のいるうちは、この想いを心のうちだけに納めることが出来たのです。


ああ申し訳ありません。話が逸れてしまいました。


それで数奇な運命を経て、コージ様はカナ様と再会したのですね? それでどうなりましたでしょうか? 何かお心に変わりがありましたでしょうか?」


タリアからの熱烈な愛の告白にすっかりどぎまぎしてしまった浩二であったが、話の続きを促され、どうにか言葉を紡いでゆく。

「そうだな。といってもここから先はタリアも知っているような話しかないと思うんだがな。


それで、タリアが絶賛してくれたあのスープだが、正直大した出来ではなかったと思っている。それに、佳奈に対してそこまで愛情を込めたつもりもなくてだな。

まああいつが元気になるよう出来得る限りの事をしたつもりはあるが。


夢のない話ですまん。もちろん料理人としての技術と誇りは120%詰め込んだぞ。


それで佳奈はすごく喜んでくれたから、確かにそれはすごく嬉しかった。


でもバカなオレはそれでこの話は終わったことだと思っていたんだよ。

旨いスープを飲ませて喜んでくれて、それでちょっとだけ仲良くなってあとはもう二度と会わない。そういう話だとオレは思っていたんだ。


先にも言ったが、オレはとうに佳奈とは終わった関係だと思っていたんだ。


そもそもオレは学生時代から、はっきりと佳奈と接点があったわけじゃなかった。

勝手に追いかけて同じ高校にまで行って、でも特に何もしなかったから毎朝挨拶するだけのクラスメイトどまりだった。

異世界に渡っても最初の最初で道が分かれてしまったから、あの当時はお互いこれから交わることもないだろうと思っていた。


それがひょんなことから再開して、向こうがオレの事を微妙に心配してくれていたのは嬉しかったが、無事が伝わったのでこれでいいだろうと思った。

相変わらず可愛い姿で、正直そばにいるだけでドキドキしたが、彼女とは最初から縁がなかったと思えば不思議と納得できたし、最後に一緒にエルフの里でバカなこともして、楽しく分かれてこれでお終い、そんなふうに思ってた。


むしろ緑の番人たるハイエルフとの伝手が出来た事の方がよほどうれしかったものだ。


だから更に1年後、突然あいつがクラスのみんなを連れてやってきたときは本当に驚いた。

みんなの様子を見てさらにびっくりした。

明らかに尋常じゃない様子で、みんな疲れ切っていて、目つきは完全におかしくなっていて。


それがオレの造った料理にあんなに喜んで貰えたとき、オレは心の底から震えたよ。

地球にいた頃から接点がほとんどない女の子たちだったんだ。

いつも指を咥えて遠くから見るだけしかできない、別世界の人間だったんだ。

それがあんなにみんな感激してくれて、更にはオレのために力を貸してくれるとまで約束してくれて!


オレは初めて自分が認められた気がしたよ。初めてあの素敵で素晴らしい女の子たちと繋がった気がしたよ。


だからオレはここで初めて、明確に目的を持ったのだ。

なんとしてもあいつらを助けねば、と。


だからオレは白い小麦の製粉技術の開発なんて馬鹿げたプロジェクトをおっぱじめてしまったんだ。


付き合わせたミモザには悪い事をしてしまった。」


ここでタリアが口を挟んできた。

「では製粉機の開発はカナ様だけの為ではなかったと? あれこそあなたのカナ様への愛の結晶だろうとみな噂しておりますけれど。」


浩二は首を横に振る。

「とんでもない話だ。そんな立派なものではないよ。ただまあ、あの頃は佳奈がみんなの窓口になってくれていたから、まずは佳奈と、それからみんなのためというそんな気持ちがあったのは確かだな。

みんながこのオレに会いに来てくれるときは、常に佳奈が先導をしてくれていたからな。


むろんあの時点でもオレが佳奈に特別な感情があったことには間違いがないが、製粉や叙爵にまつわる件はクラスみんなのためにした事だ。


思えばずいぶんと無茶をしたもんだ。何かはっきりとした勝算があったわけじゃない。

とにかくえらくならなきゃどうにもならんと随分足掻いて、でも結果はどうだったんだろうな。

あいつらは聖王国というくびきにがっちりと首の根を掴まれていたし、弱小国の伯爵程度の地位でどうにかできる訳でもない。


はっきり言って聖王国への呪い返しから魔王群との停戦調停までの一連の流れは運がよかったとしか思えぬよ。

タリアたちみんなのおかげだ。その点にはあなたにもとても感謝している。


話を戻そう。

結局のところ、オレに出来ることなど些細な事なのだ。料理を作り、女性をもてなす程度が精一杯なのだ。

だからせめてオレは、それだけは全力で尽くしてきたつもりなのだ。


何度も言うが、オレにとって女性というものは別世界で楽しそうにやっている、オレとは関わりの薄い遠くの存在だ。


それはクラスメイト達もそうだし、タリアたちこちらの世界の女性もみなそうだ。


そんな女性達が代わる代わるオレのもとにやってきて、美味しい食事やくつろげる時間を楽しんではまたオレのもとを離れていく。

そう言った環境が提供できればいいと思っているんだ。

これは今でもそう思っている。


なんというか、カッコつけて言うならば、麗しい女性たちはみなオレにとって一番のお客様なのだ、とでも言うべきかな。

まあ本当は女性と接する方法が分からないので、そんなふうにしか振舞えないという心の弱さの裏返しなんだろうがな。


だからオレは苦しい思いをしている彼女たちが少しでも気晴らしになるように、快適な時間と空間を提供することが唯一の事になってしまったんだ。


それはクラスメイトの女の子たちもそうだし、タリア、あなたに対してもそうなのだ。

オレにとって女性はどう接していいかも分からぬ恐ろしいものだから、オレに出来るのはそれだけなのだ。」


「呆れた!」タリアは声を上げた。

「ではコージ様は、私を始め言い寄る女性の事を、みな『お客様』だと思っていたのですか!?」


浩二は恥ずかしそうに顔を赤らめながら同意した。

「まあ、そういうことになるな。」


「呆れた!」タリアは重ねて同じ言葉を口にした。

「まさか浩二様は、カナ様のことも最後まで『お客様』だと考えていたのではありませんか!?

四六時中付きまとうカナ様に対して、コージ様は最後まで寛大でした。愛の為せる業などと感心しておりましたが、まさかカナ様に対しても『お客様』をもてなすようなお心づかいで接しておられませんでしたでしょうね!?」


「それは……。」浩二は言葉選びに苦慮した。「正直、そのつもりで応じていたところはあるというか……。佳奈が喜んでくれるなら何でもいいというか。」


「何てこと!」タリアは浩二の胸をぽかりと叩いた。

「コージ様! 私はそんなのは絶対に嫌です!

私はあなたを楽しませたいのです! その上であなたに楽しませてほしいのです!

二人で協力して楽しみ合いたいのです!

そしてその上で!


あなたと並んで大勢の皆様をもてなす共同者になりたいと思ったのです! あなたのお客様ではなく、並び立つ共同者として!」


「済まない。」浩二は項垂れるしかなかった。「タリアのいう事はきっと男女の当り前のことなんだろうが、正直オレにはとても無理なんだ。とても自信がない。

オレは女性との接し方がよく分からないのだ。

オレももう36になって、こんな歳でみっともない事だとは思うが、あなたの事だって怖いのだ。


本当に、どうしていいか分からないのだ……!」


「そんな事!」タリアは再びぽかりと浩二の胸板を手で叩いた。「そんな事! 私にだってわかりません!

だって私はこの齢でまだ処女なのですよ!?


男の人のことなんてさっぱり分からない、頭でっかちの愚か者なんですよ!?


私はこう見えてもう295歳です! コージ様の何倍も生きています! けれどもこれが初めてなんです! 本気で男の人を好きになることも! その人を欲しいと心の底から思うことも!


でもどうしたらいいか分からないのです! ですから在りし日のカナ様を見習って、こんな恥ずかしい格好で無理やり抱きついて何とかしてもらおうなどと考えているのです。


自分でも愚かだと思います!


でもどうしていいか分からないから、無理やりこんなことをしてるんです!」

言いながらタリアはぽろぽろと大粒の涙を流し始めていた。

ついには「うううっ。」と両手で顔を覆ってしまう。

「すみませんコージ様。夜分に押しかけて、こんなみっともないところまで見せて。すみません、すみません。」

泣きながらも小さな声で何度も謝罪の言葉を口にし始める。


そんなタリアの様子に浩二は一瞬戸惑ったが、だがどうすればいいかはぼんやりとでも分かった。

浩二は勇気を振り絞りタリアの細い肩に手を回し、ゆっくりとその背中のあたりを優しく叩いたり撫でたりした。

目の前にある真白な裸体がほんのりと赤く色づき、ぐずぐずと泣き散らしたままのタリアは、それでもその身体を浩二に触れやすいように身じろいで位置を変えてみせる。


そんなタリアが、顔を覆った両手の隙間から覗くようにして、浩二に向かって語り掛けてくる。


「コージ様は私のことなんで好きでも何でもないでしょう?」


「そんなことはない。その……。とても素敵な女性だと。恥ずかしながら好意を持っている。」


「でも、カナ様お一人に操を立てているのでしょう?」


「分からないんだ。そもそもその操を立てるというのもよく分からない。オレにとっての女性は佳奈一人なのだと言われればそうだと思うが、もっと他にも女性がいるのだと言われればそうかもしれないとそうも思う。

オレにとって女性というものは本当によく分からないんだ。だからどちらにせよそういうものだとしか思えないんだ。」


「私がコージ様と一つになりたいといっても迷惑でしょう?」


「分からないんだ。それが不貞と呼ばれるものなのか、それとも許されるものなのか。男女の間柄として許されることなのか、してはいけない事なのか。


それでも……。」


「それでも?」


タリアの顔を覆う両手は、少しづつ下がってゆく。

浩二はそんな彼女をまっすぐに見つめ返し、こう返事をする。


「オレはその、あなたと一つになりたいとそれはそう思っている。

今この瞬間、オレはあなたと一つになりたいとそう思っている。」


「私もコージ様と一つになりたいと、そう思っております。

今まさにそう思っております。でも……。」


「でも?」


「でも、どうしたらいいのか分からないのです。」


「それはオレも同じだ。どうしたらいいのか分からない。」


次の瞬間、タリアは笑い出した。先ほどまであんなに涙に頬を濡らしていたのに、いつの間にか両手を浩二の胸元の添えて、赤く腫れた目じりのままコロコロと楽しそうに笑い出した。


「では分からない者同士、色々試してみませんか? まずは私のしたい事をコージ様にいたしますから、嫌かどうか答えてくれませんか?

そうやってひとつづつ、お互いのしたい事、されたい事、したくない事、されたくない事を確かめていきませんか?


どうですか?」


「あ、ああ。」浩二が頷くや否や、次の瞬間にはタリアに唇を奪われていた。長く激しく情熱的なキスに浩二は目まいを覚えながら、これはちっとも嫌じゃないとそう思った。


こうしてお互いを確かめ合うための二人の長い夜が幕を明けた。




「おはよう浩二くん!」

元気のいいあいさつに浩二は霞みがかった頭を振るようにしながらゆっくりと身体を起こした。

ちらりと窓の外を見ると太陽はすでに高く昇っているように見受けられる。

あれからタリアとは明け方近くまであれこれあって、その後泥のように眠ったから気が付けば昼近くになってしまっていたようだった。


ぼんやりと声の主の方へと顔を向けると、満面の笑みで仁王立ちになった成美がふんぞり返っていた。


「きゃっ!?」同じようにして目を覚ましたタリアが慌ててトップシーツを引っ張りその裸体を覆い隠そうとする。

ベッドの下からは彼女の初めてを表す赤い染みがあちこちにあったが、成美はさして気にした風もなく浩二の前へ顔を近づけてくる。


「今日からは一人ずつ順番よ、浩二くん。」


「は?」思わず声を上げる浩二に向かって成美は人差し指を立ててみせる。


「いいこと? 浩二くん。あなたと一つになりたい女性はあなたが思っている以上に沢山いるの。タリア一人が女ではないのよ? 

そして浩二くん。あなたが女性の事が分からずに恐怖を覚えるというのなら、正しく女を理解しなおすに残念ながらタリアでは力不足よ。

沢山の女と心や身体を交えて、今からでもたっぷり学んでいけばいい。そうすればあなたの恐怖心はいずれ癒える。

その為に協力したいという女性は私を含め沢山いるのよ?」


「何を勝手な事を!」顔を真っ赤にしたタリアが怒って手元の枕を投げつけてくるも、見事な体裁きでひょいっと躱す成美。

「あら? タリア。昨日はお疲れ様。正直あなたに浩二の最初の相手を任せるのは不安しかなかったけど、うまく誘導して浩二のトラウマを引き出してくれたのは大金星だったわ。グッジョブね!

けどここから先は私の得意分野だわ。元聖女たるこの私が浩二を癒すための最適プランを考えてあげるから、あなたは私に従いなさい。


賢いあなたならわかるでしょう?」


「わかりません!」もう一つ枕が飛んできたが、これも華麗に躱す成美。それならばと立ち上がり飛び掛かろうとするタリアだったが、どうやらうまく力が入らぬようで、へなへなっとその場にへたり込んだ。

「初心者がいきなり無茶するから、足腰立たなくなってるみたいね。最後の方は浩二くんにお客様扱いされてたみたいだし、正直あなた一人だけだと危なっかしくてとても任せられないわね。」

「むきーっ!」と悔し気にシーツの端を噛むタリア。


そんなタリアに流し目をくれつつ、ベッドの端に乗りあがるようにして、唖然となった浩二の真ん前に顔を寄せてきた。


若々しい人族の美しい顔。よくできた3DCGモデルの女性キャラクターのようなタリアと違い、その顔はどこか不安定でいびつに見えるも、とても生き生きとして、なによりもその表情がとても可愛らしかった。


思わず心臓が高鳴る浩二に向かって成美は囁きかけてくる。

「さて浩二くん。

あなたは魔王と新しい何かを作る約束をしてしまって、今まさに毎日頭を悩ませているところだけれど、そんなあなたに問題です。


人類が生み出せるもっとも簡単な新しいものってなんでしょう?」


「わ、わからぬ。」しどろもどろの浩二がどうにか答えると、成美はいたずらっぽく笑ってみせる。

「それは子供よ、浩二くん。人類の未来は子供に託しましょう。その為に男女が出来ることはただ一つよ。分かるわね?」


「い、いや……。」だが浩二の抗議は最後まで言わせてもらえなかった。


浩二の口をふさぐ唇は熟練の経験者だけが為せる複雑な動きをして、浩二をあっという間に臨界まで奮い立たせた。


こうして浩二と成美の長い昼が幕を明けた。



……ミッドナイト?

怒られたらそっちに移します。すんません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ