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デリHELL!!  作者: 鶏むね肉先輩
6/10

これは正装です

「まあまあ事務所に入りたまえよ!外はアツかろう!」

「あなたの方が熱い気はしますが・・・」

とりあえず店の中へと案内された。

「それじゃ、ウチは仕事戻るんで。あとよろしゅう~」

「おお!ヤマちゃんありがとう!後はまかせろり!」

「たのんまし~」

ノリかるっ。渾身のセロリはガン無視されてたけど。


ヤマさんが仕事場へ戻り、筋肉店長に案内が引き継がれた。

とりあえず案内されるがままついていき、事務所的なところに通された。おぉ、割と中は小ぎれいだ。

「意外ですね、思ったよりも整頓された事務所で・・・僕が現世のころは、デリバリー系の職場は結構汚かったイメージがあって」

実際、デリバリー系はお客さんが店内に来るわけでもないのでバックヤードが比較的荒れてる感じがする。体験談です。

「あぁ、いつもトムが掃除しているからね!彼のおかげでいつもクリーンさ!」

クリーンな歯をキラッとさせて店長が笑う。しかしトムとは・・・?

「トムは気遣いのできるナイスガイさ!掃除したそばからうろつくなだの、裸の尻直置きで椅子に座るなだのいつも気にかけてくれるのさ!」

それは誰でも気に掛けるでしょう・・・おれも男の尻直置きの椅子なんて触れたくもない。

「そんな方もいらっしゃるんですね。この職場には何人が?」

「うちの店舗は8人いるよ!君が入って9人!やっと野球チームが組めるよ、今年は全国制覇しよう!」

熱意が熱すぎる。修造イズムがすぎるんじゃ。


「ま、残りの人たちはあったときに挨拶してくれたまえ。そこまで昼は忙しくなくてね、一人は配達に出ているが、後の人はみな夕方からのシフトなのさ」

「そうなんですね・・あ、もしかしてその暇な時間に僕の指導てな感じですか?」

「そういうことさ!まあ、既に一件依頼があるからそれの配達に行ってもらおうかな!」

「ええ!?いきなり現場ですか!?指導もなにもされてませんよ!?」

「何を言ってるんだ、もう教えているさ・・・!」

なにを?なにも教えられてないんだが。

「ははは、君の眼は節穴かい?きちんと目にしているだろう?」

そう言い、店長は胸を張って次の言葉を放った。


「――この店のユニフォームの着方を、教えているだろう・・・?」

「・・・・」


「あ、アッキー配達いくん?今回フードやから、出来上がるまでちょお待っとっ・・・ぷ、あっはははははははははは!!!!!」

「なに笑ってんすか!!これが正装って教えられたんすよ!!??」

「あんなんは店長だけってさっき言うたやん!正装でもなんでもあらへんし、ばか正直に着て・・ぷふ、ダメやあかんわぁ!あはははははははははは!!!」

「ちきしょぉ!!やっぱ変だと思った時点で指摘すべきだった!!」

おれが笑われた要因は外見である。そう、裸エプロンである。

おかしいとは思ったが、なんだかんだ店長に言いくるめれてしまった。ユニフォームだと。店員の証なのだと。それを着ていれば君はスーパースターだと。

なんか気持ちよくなってきて結果着てしまった。しゃーないやん。すっげえモチベあがったんだよ。あの人すげえよ。

この裸エプロンが最高級のドレスコードだと思わされちまった。でも、ヤマさんの反応で一気に覚めた。やっぱりド変態スキンだった。危なく初日に裸エプロンで出回るクソバイトテロ起こすとこだった。前代未聞すぎる。


「いやあ、逸材を連れてきたね!彼はきっと大物になるよ!なんせ僕の若い時そっくりさ!」

「麦わら帽渡すノリで裸エプロン着せんといてくれます?でも、まじめな子ぉなんやなとは思いますよ・・・ぷ、くくく・・」

「まじめな事はいい事さ!ほら見てごらん、着せてみてわかったけど・・・意外と似合ってるだろう?」

「ぶふっ・・!ほんまや、意外といい体しとる、ぷくく・・・」

「ヤマさん笑いすぎでしょう!?店長も、似合ってるのとまじめなのは何の関係もねえ!」

「あ、あかん、うちツボ入ってもうた・・はよ着替えてきて、笑いしんでまうくくく・・・あはははは!」

「言われなくともそうしますよ!くそぉ!」

いつまでも笑われたままでいられるか!

そう思って、さっさと着替えるために事務所へと戻――


ガチャリ。


――ろうとしたら、ドアが開いた。目の前には見知らぬ女の子。頭一つ分くらい小さい。

「ただいま帰りましたー。店長、外掃除するって言ってたのにどこいるんです、か・・・」

「・・・・」

女の子と目が合う。そういえば一人配達に行ってるって言ってたな。この子かな。

とりあえず初対面だから、第一印象はよくしよう。おれはニコッと笑いかける。

しかし、女の子の顔はまるで化け物に出会ったかのように恐怖の表情へと変わる。

まあ、そりゃそうだよね。帰ってきたら見知らぬ男が裸エプロンで目の前にいるんだから。

謎に冷静になっていたおれは、恐怖を和らげるべく優しく声をかけた。


「――着てみるか??」


「・・・ド変態だあああああーーーーー!!」

女の子が恐怖の絶叫。

やっべ、全然おれ冷静じゃねえ。脳内パンクしてるだけだこれ。

後ろでは店長が誇らしげにうんうんと頷き、ヤマさんは声にならない声で大爆笑していた。

働かない頭でおれは、土下座への移り方を早急に脳内へ巡らせるのだった。

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