配属されました
あぁ、まさかデリヘルなんて仕事に携われるとは・・・。
現世では割と真面目に働いてたが、ここで報われる時が来たか。天は我に味方せり。まぁ既にここが天らしいが。
しかし、デリヘルでデリバリー部門ってどんな仕事だ?お客さんの所までの送迎とかか?
送迎のバイトなら、おれも現世で経験がある。友達のツテで数回やった。めちゃくちゃ時給はいいし、そこまで忙しくもないからいい小銭稼ぎにはなった
しかし深夜の仕事だから昼間眠いし、香水やらの匂いが自分の車に付いちゃってあまりいい気分じゃなかったから、すぐにやめてしまった。
でも、移動中の嬢?的な人との会話は楽しかったなぁ・・・めちゃくちゃ優しかったヨシノさん(源氏名)、元気かなあ・・・
「すみませ〜ん、お待たせし・・・うわ、1人でニヤニヤしてるこの人。ヤバっ」
ガチトーンやめれ。泣いちゃうぞ。
「先程配属先には連絡しといたので、そろそろ担当の方が来ると思いますので待っといてくださいね!」
言われた通りしばし待っていたら、ロングヘア―な女性が一人やってきた。オーバーオール的なの着てる。仕事着か何か・・・?
「ちゃ~す、新人の引き取りに来たで~」
おれの引き取りだったんかい。にしてもノリが軽すぎる。集荷かなにか?
「いらっしゃいませ!こちらの方が彗星のごとく現れた期待の即戦力、アキもっちゃんです。どうぞ連れてってください。あ、引継ぎのサインお願いしますね」
「期待のハードル上げすぎなうえに、この短時間でフランクになりすぎ問題」
この受付嬢、普段もこんな感じなのか?天界ってやべえな・・・
「じゃあ手続きも終わりで・・・これで配属確定です!」
「おおきに、んじゃあアッキー連れていくわぁ」
「お手柔らかにしごいてやってくださいね~」
お手柔らかにしごくってなに?不安しかねえな。
てかアッキーて。まだろくに挨拶もしてねえのに。まあ、しょっぱなからギスギスするよりかはいいか・・・
受付をあとにして、引き取り?にきた女性とともに施設内を歩く。
「改めて秋元と申します。何卒宜しくお願いします。」
「礼儀正しいなぁ。ウチは山口いいま~す。ヤマとでも呼んでくだされ」
なんだかけだるげな感じの人だな。髪もなんかぴょこぴょこハネてるとこあるし。見た目は美人って感じなんだけどなあ。
「ヤマさん、でいいですかね?よろしくお願いします。それで・・・これからどちらへ?」
「お~ん、職場向かっちゃうわ。デリ即戦力なんて中々おらんからねえ。もうさっそく今日から仕事でてもらうわぁ」
「ほ、ほんとに早速ですね・・・」
事の進みが弾丸すぎるな。落ち着く時間もないぜよ・・・。
でも、今日からヘルをデリデリか。むひょ、ちょっとおらワクワクしてきたぞ。
「わぁ、なんか鼻息荒いなぁ?なんかあったん?」
「い、いえ。お気になさらず。持病です」
「難儀な持病やなぁ」
いかん。平常心や平常心。初出勤だからといって興奮はいけない。
歩いていると出口らしきところに着いた。外に出ると、大型のバイクが一台。
「ほい、後ろ乗って。だいたい10分くらいで着くから~」
「あ、ありがとうございます。その・・・ヘルメとかは?」
「んなもんいらんよぉ。ここ天界よ?あ、来たばかりなら実感もないかぁ」
「あは、そですね。全然実感なくて・・・」
「まぁその辺も、移動しながらぼちぼち話すわ」
ブロォォォン。実にスムーズに走り出した。天気も晴れてるし、現世と何ら変わらん。むぅ、実感・・・わかねえよ??
「アッキーも、よく即決したなぁ。中々癖のある仕事やろ~」
「まあ現世でも配達系長いことやってましたし。それにデリヘ・・け、健康をお配りする仕事なんて光栄です」
さすがに女性にデリヘル言うのは気が引けてしまった。
「?健康を配る・・・?まぁそんな言い方もできるかぁ」
なんだか歯切れが悪い返事だな。引っかかるが、それよりも・・・
「しかし、女性でもこの仕事なさるんですね?なんだかイメージがなくて」
「ん、デリヘルぅ?男女なんて関係あるん?」
「えぇデリヘ・・んお!?け、結構しっかり言うんですね・・・」
「いうも何も、言い淀む要素あるぅ?」
「え!?デリヘルってピンクなイメージというかなんというか!?そんな感じなのであまり言えないかなと・・・」
「なんか誤解してる・・?デリヘルって、HELLにデリバリーする仕事よぉ?」
・・・・・。
・・HELL??
「うん・・うん?HELL?ヘルスでなくて?」
「そ。地獄のヘル。地獄界に配達する仕事やから、デリバリー・トゥー・ヘル。略してデリヘル言われとんなぁ」
・・・おれは、なにか重大な勘違いを?
ピンクな仕事できると思って舞い上がってただけ?というか、何も受付から話されてねえんだが。
もしや、早とちりして・・・?おれは、おれはぁ・・・!!!
「お、そろそろつくで~。気合い入れ・・・」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
「わお、えらい気張っとんなぁ~!」
絶望と悲しみの魂の叫びが、晴れ渡る天界に響き渡る。
こだまするおれの声が、何重にも悲壮感を強めていった。