泉から出てきたのは可愛らしい幼女でした
「んー、なに?エリシア。またお客さんとは、どういう用件かしら。」
まさにファンタジー世界。
泉の中から神々しい光を放ちながら人が出てきた。
しかも現れたのは、水色の髪を二つに束ねた可愛らしい、凡そ10歳にも満たないくらいの幼女だ。
しかしただの人間ということはないだろう。
見た感じ、泉の精霊といったところだろうか。
とても愛らしい幼女だ。
「あら、また勇者さん?今日は勇者のお客が多いのね。」
青髪の幼女はじっと俺の顔をみる。
エメラルドグリーンの瞳がキラキラとしている。
そんなに可愛い目で見られると恥ずかしい…。
「あら、しかもあなた…水の加護を受けた転生者かしら。」
「え!?あ、そ、そうです!わ、わかるんですか!?」
思わず幼女に敬語。恥ずかしい。
俺の言葉に幼女は嬉しそうにぱんっと両手を合わせる。
「やっぱり!それなら私よりもエーゲリアちゃんを呼ばなくっちゃ!今日はサテュロスちゃんもエーゲリアちゃんも大忙しね!」
幼女はウキウキとしている様子だが…。
エーゲリア…サテュロス…。
横文字の名前ばかり出てきて俺には珍紛漢紛だ。
まあきっと女神や聖霊の類の名前なのだろうが、俺はそういうところの知識は疎い。こんな状況になるならもう少し異世界転生小説を履修しておくべきだったな。
「あなた、お名前はマーサでしたっけ?」
エリシアが話しかけてくる。
「はい、そうです。」
「サテュロス様はこの森の女神、そしてエーゲリア様はこの森の泉の女神。あなたとユータの特異能力は、彼女たちの加護の下で使える能力なのよ。」
「なるほど!」
まさか、たまたま訪れたこの地で優太と出会い、訪れた森に俺たちを加護する女神が存在するなんて。
ほんと、最初はどうなるかと思ったけど想像以上に最高の条件揃いじゃねえか…!
俺は高ぶる感情を抑えるのにぎゅっと拳を握りしめた。
「エリシアさんが、この泉の精霊である彼女、ナイアードと古い付き合いらしいんだ。」
優太が答える。
「へえ、やっぱり精霊なんだ。精霊ってもっとこう、長身の綺麗なお姉さん的なのを想像してたけどこんなに可愛いもんなんだな。」
「あら、精霊の中でも特に可愛いのが私なんだから!他の精霊と一緒にしないでよね。」
性格はちょっと強気なようだ。
またそこも可愛らしい。
「私のような年寄りは、この泉と古くから付き合っているからね、私たち村人がこの森まで迷わずこれるのはナイアードのおかげなのよ。」
エリシアさんが話す。
「それってエキドナの爺さんが一番この森への近道を知ってるっていうのと、何か関係あるんですか?」
「そうよ、彼はナイアードのお気に入りなの。」
あの爺さんがこの幼女のお気に入り?
「エキドナったら、今じゃあんなヨボヨボのおじーさんだけど、昔は超かっこいい剣士で凄いかっこよかったんだからね!だから特別に、私のオーラが見える力を与えたの!」
「オーラとは…?」
「私たち精霊は特別な力はないけど、人のオーラを見ることが出来るのよ。エキドナには大特別に私のオーラが見える力を与えたの、だからエキドナはこの森に迷わずたどり着けるってわけ。」
「なるほど。」
つまりそのオーラを見ることで俺が水の加護を受けた転生者ということがナイアードにはわかるという理屈か。
特別な力はないと言うけど、かなり凄い力だよな…。
「この森は魔族に侵されないようにサテュロスちゃんとエーゲリアちゃんが護ってくれてるんだけど、そのせいで魔族だけじゃなくて他の人間からも認識されにくくなってるのよ。」
そう話すナイアードの顔は少し寂しそうだ。
「こんな広い高原にはっきりと存在してるのに見つけにくいのはそういうことなんだな。」
「今では私と縁があるフニムギ村の子達しかこの森には辿りつけないわ。それでも、オーラが見えるエキドナと違って辿り着けるのは凄く大変だと思うけどね。」
この森の謎についても凡そは理解できた。
つまり、ユシルを一緒に連れて来なかったら俺は一生この森を見つけられなかったし当然優太にも会えてなかったってわけだ。
本当に、意外なところで奇跡って起きてるもんなんだなとしみじみ思う。
「じゃあ僕も、エリシアさんが一緒だったからこの森に来ることができたんですね。」
ナイアードがその言葉をきいて踏ん反りかえる。
「そうよ、勇者がここにきたのはあんたたちが初めてなんだからね!エリシアとユシルに感謝しなさい。」
ユシルは何故かとても緊張している様子だ。
耳まで真っ赤にして、手をモジモジとさせている。
別に俺は気にしないけど、幼女に対してその反応はちょっと危ないと思うぞ。
「俺、こんな精霊がいるなんて初めて知った…この森には女神や精霊がいるってのは聞いてたけどこんなにはっきりと見えて話ができるなんて…婆ちゃんはなんで教えてくれなかったんだよ?」
「へえ、ユシルはナイアードと話すのは初めてなのか。」
確かに、何も聞かされていなくてこのように対面したら驚くのも無理はない。精霊なんて、御伽噺のようなものだもんな。
俺だって、こんな世界じゃなきゃ精霊なんてもんを目の前にしたら無言で動画とか撮っちゃってたかも。まあ、携帯なんて今は持ってないんだけど。
「若い人たちが知らないのはこの森を守るためよ。エキドナのように精霊のオーラを見ることができる人が増えてしまったら、森が魔族に襲われるかもしれないでしょ。だから無闇にその力を与えることを禁止して、人間と女神、精霊の間に良くも悪くも安定した距離感を保てるようにその姿を人前に出すことを禁止したの。」
「なるほど。つまり、精霊の力の押し売りが自滅を起こしかねないから最初からあわせなければいいって言う考えね。」
俺の言葉にエリシアさんはふふっと笑ってうなずいた。
「ちょっとその言い方気に触るんだけど!?」
ナイアードは怒ったが、きっと彼女は寂しかったんだろう。
この森で、人と触れ合うこともなく、魔族に侵されることに怯えずっとこの泉で誰かに出会えることを待っていたんだろう。
そして、また出会えるように、自分にいつでも会えるようにとエキドナに力を与えた。
そう思うと少し可哀想な話だ。
しかしこんな可愛らしい幼女に見初められたエキドナは一体若い頃はどんな見た目だったんだろう。ちょっと気になる。