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勇活【ゆうかつ】!!!〜異世界転生したら勇者になれると思ったけど倍率が高すぎる件〜  作者: ねこお
第二章 スポーン位置がどう考えても悪すぎる
6/9

フニムギ村の生贄システムが残酷すぎる





本当に走って五分程だった。

ユシルの言った通り、岩の数が増えてきて、その中心地に小さな門と、村を囲うように建てられたお粗末な木の柵。



看板には、フニムギ村と書いてある。



「おい…あれユシルじゃないか…!?」




村の中にいる大人たちが俺たちを指さす。


俺は速度を緩め、ゆっくりと歩き村に近寄る。




「ユシル…!!」


一人の男性が駆け寄ってくる。



「父さん…!」



ユシルは声をあげると、俺の背中から降りて男性に駆け寄り、抱きしめあった。


どうやらユシルの父親のようだ。



「心配かけやがって…このバカ。」


「ごめん父さん…俺婆ちゃんを連れて帰りたくて、でも無理だったよ。ごめん…本当にごめん。」


「仕方ない。俺はお前が無事に帰ってきてくれて本当によかった。」



涙ぐみながら話す親子、何か訳アリの匂いがする。



それにしてもこのフニムギ村とは、俺が思っていた以上に小さな村だ。



藁の様なもので作った家らしきものが何個かある、それに豚や鶏等の家畜がその辺を彷徨いている。



それ以外には、特に何もない。村の中にもゴロゴロと岩があって、歩くのも邪魔そうだ。



岩の上に小さい子供が三人乗って遊んでいる。

それ以外に遊ぶものが本当になさそうだ。




「父さん、マーサ様が俺のことを助けてくれたんだ。彼は勇者だよ。」


「勇者様だと…!?」



村がザワザワとし始める。どうやら勇者はこの村には物珍しいようだ。



「貴方は本当に勇者様なのですか?」


ユシルの父親が問いかける。


「ああ、って言ってもまだ超新米っていうか、まだここに来たばっかでまだなんもわかんない感じだけど…。」


「ではまだ、どこの国にも属して居られないということですか…?」



「ん?ああ、国の専属勇者かどうかってことか?まあ、わりとさっきこの世界に来たばっかだから勿論だな。出会ったのもユシルが初めてだ。」



「おお…!ついに我々の所にも勇者様が…!」




更に家の中から人が出てくる。全員合わせても20人いるかどうか。


ザワザワと俺を食い入るようにみんな眺めてくる。ちょっと恥ずかしい。



「因みに勇者様であれば得意能力を使えると噂にお聞きしているのですが…。」


「んー…一応使えるっちゃ使えるんだけど、まだあんまり上手く使いこなせなくてさ、大したもんじゃないんだけど。」



照明として、手を前に翳し念を込める。


きた、あの感覚が走る。指先まで通ってくると、水がジョロジョロと出てくる。


見た目は全くカッコよくないが、その瞬間村の人達はおおおおお!!と歓声をあげた。



「凄い!本物の魔術だ!!!」


「ルナ初めて見る〜。」


「凄い!本当にこの村にも勇者様が来たんだ!!」


「まるで手品だなあ。」



まじまじと俺の身体から流れ出る水を見るために群がる村人。やばいめちゃくちゃ恥ずかしいな。


しかしすぐに疲れはやってきて、俺は出すのを止めた。


「はあはあ…すんません、俺まだ力を使いこなせなくて、こんくらいしか出来なくて。」


「いやいや!大したものです。この村には井戸もなく、川もここから五キロ離れた森まで汲みにいかないといけない。何日も雨が降らなければ作物もすぐにダメになってしまう本当に不便な村なのです。勇者様の力は素晴らしい。それにさっき私は見てましたよ、ユシルを抱えながら物凄い速さでこちらへやってくる貴方様を、あれは間違いなく勇者様である証だ!」


「ああ、ありがとうございます…。」


超べた褒めの言葉に俺は満更でもない。

それにしても五キロ先の森まで汲みにいかないと水もないなんて、本当に不便な村だな。



「私はユシルの父、ギル・アルクェイドと申します。妻は病にかかりユシルが小さい時に亡くなりました。ユシルを助けてくれて本当にありがとうございます。」



ユシルの父、ギルは深々と頭を下げた。



「いえ、俺は大してなにもしてないですよ。それより、ユシルはお婆さんを探してたとかなんとか…て聞いたんですけど、その事情って俺が聞いてもいい話ですか?」



そう言うとギルはとても気まずそうに下を向いた。



「それについては、私がお話しましょう。」



村の奥から、老人が杖をついて歩いてくる。村長的な人だろうか。


「マーサ様、うちの若いものを助けて下さり本当にありがとうございました。私はこの村の最年長者であるエキドナと申します。もし勇者様の枷にならなければ、この村をお救い頂きたいです。」


「ああ、まあ、俺で何か手伝いが出来るなら。」




「では、立ち話も何ですから役場へどうぞ。飲み物をお出しします。」



そう言うとエキドナは村の奥にある、この村では珍しい木材でできた建物に案内された。



「お邪魔します。」



建物の中には、誰もいない。役場と言っても、六畳くらいしかない本当に小さな箱の中。



棚には茶碗や湯のみ、そして牛乳瓶が並んでいる。



その真ん中に座布団が二枚敷かれている。



そこに腰をかけると、向かいにエキドナが座った。



「これはうちの村で絞った牛乳です。お口にあうかわかりませんが…。」


「ご丁寧にありがとうございます…。」



こんなこの村にとっては高級そうなもの、頂いて良いのだろうか…。飲むのが怖い。



「それで、ユシルのお婆さんというのは、一体どこに行かれたのですか?」



「実はこの村の決まりでして…まずはこの村のことを話をしなければなりません。」



「村の決まり?」




「この村はご覧の通りなにもありません。木も川もなく、周りは岩にまみれています。というのも、ここは魔族の住処から近く、ここから一番近いアマタイダ国でもここから十キロ離れています。村の周りにはゴブリンやマンイーター等の魔族がうじゃうじゃ居る。だからここから離れる者も居なければやってくる者もいない、そんな不便で小さい村なのです。」



「成程…なんでわざわざこんな住みづらそうな所に住んでるのかと思ったらそういうことなのですね。」




「はい…そして夜になると魔獣は活発になり、村の家畜を襲いに来ます。大人たちがなんとか石器やパチンコを用いて撃退するのですが、数が多く村に危険が及ぶと判断した時、生贄を出す決まりがあるのです。」


「生贄…!?」


「この村の最年長者が、魔獣の囮となり村の外へ出ていくのです。」



正直、衝撃的すぎる事実に俺はショックを受けた。



「まさか、それでユシルの婆ちゃんが…!?」



エキドナはこくりと頷く。



「ギルの母である彼女は村の最年長でありながらとても足が速い。彼女は一昨日、村の外へ出て魔獣たちをおびき寄せ遠く遠くへ走っていきました。しかしユシルは村の掟でありながらもその現実を受け入れられず…一緒に飛び出してしまったのです。」



「くそっ…なんて胸糞悪い話なんだ…!」



俺はガシガシと頭をかいた。

しかしこの村の子供たちを守るための掟なのだろう、俺が口を挟んでいい話じゃない。



「母親を早くに亡くしたユシルにとっては母親のような存在でした。彼女はエリシア。もしかしたら彼女ならまだ生きているかもしれない。私と違い足腰もしっかりして、とても強かな女性だ。しかし見つけに行きたくても我々には戦うすべがない。次にこの村に襲撃がやってきた時生贄となるのは私…しかし私はご覧の通り足が悪い、きっと大した囮にならないてしょう。村を守るためにも、この村には勇者が必要なのです。」



エキドナは震える声で話した。


次に襲撃が来た時に囮になるのは自分なのだ。とても恐怖で眠ることも出来ないのだろう。目の下には隈が出来ている。



「話はわかったよ。」


俺はすっと立ち上がった。



まず、俺はユシルの婆ちゃんを探しに行く。話を聞く限りでは、ユシルの婆ちゃんは生きてるかもしれないんだろう?」


「マーサ様…!本当ですか!」



「大事な家族があんな荒れ果てた高原のどこかで魔物に襲われてるかもしれないなんてユシルが可哀想だろう。それに俺はもうこれ以上この村から犠牲を出して欲しくない、出来ることはやってみるよ。」



「おお、マーサ様…ありがとうございます…ありがとうございます…!」




エキドナは涙を流しながら深々と頭を下げた。



「い、いいってそんな土下座みたいなことしなくても!」



「貴方様は神だ…!!!」




「まだ何もしてないから!!」




そんな感じで、俺はユシルの婆ちゃんであるエリシアを探しに行くことになった。

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