死んだらお決まり美人女神にべた褒めヨイショで転生決定権を頂いた
俺は死んだのだろう。
まるで水の中を浮いてるように身体が軽く、心地がいい。重い身体から魂だけが抜けたような状態なのだろう。
本当に呆気なかったと、人生を振り返ってみればやり残したことは五万とあった。しかしもう叶わない夢なのだろう。
「せめて、結婚…いや、彼女くらい一度は作りたかったなあ。」
「真麻、あなたのような素晴らしい人間なら、新しい人生できっと花婿を迎え入れることが出来るでしょう。」
俺の情けない独り言に返事が返ってくる。
俺は驚いて、目を開けた。そこは白だった。
どこまでも澄み渡る白い背景の中、ピンク色の髪を床まで垂らし、白いヴェールに身を包んだまるで花嫁のような姿をした美しい女性が立っていた。
「だ、誰…あんた。」
俺は自分の身体を確認した。そこに自分の身体はなかった。指先までの感覚はあるのに、手を目の前に翳しても何も見えない。
どうやら今残ってる俺は肉眼で見えないようだ。
「あ、アンタには俺のこと、見えるのか?」
「ええ、私には見えます、杉田真麻。短い人生、お疲れ様でした。」
目の前の女性は挨拶すると、ぺこりと頭を下げた。
「なんで俺の名前……って、聞かなくてもこれってもしかしてアニメでよくある俺は死にましたっていう女神からの通告パターン?」
「話がとても早くて助かります。間違いなくその通りで、貴方は交通事故でその短い命に終止符を打ちました。私は名をハルモニアといいます。」
「成程ね…よろしく、ハルモニア。で、俺はこれから天国か地獄に行くか、はたまた異世界に転生して悪と戦ったりするみたいな感じですか?」
流石に異世界転生なんてものは、アニメ漫画の見すぎだとは思った。
それでも、目の前にいる美しい彼女を前にすると、そんな夢のような話も有り得ないことではないように思えた。
そして俺の予想は的中した。
「ここまで理解のお早い方も非常に珍しいです。本来であれば肉体を離れた魂は裁判所へ向かい、人間で言う地獄と天国に分けられそこで次の生を授かる時を待つのですが、私は真麻を平和と世界の調和に導く特別な人間と認めこの度直接お話を伺いに参りました。」
「特別な人間と言うと…?」
「真麻のこれまで生きて行った善行を評価し、真麻が29年間で培った知識や能力、記憶を保持したまま転生する特別な権利が与えられます。しかしそこは真麻の住んでいた社会ではなく、魔族が蔓延る危険な世界。そこで貴方の人生の経験を活かし世界を調和に導いて欲しいのです。」
「うわっ…まじでコテコテ異世界転生じゃん。そ、その魔族が蔓延るって言うけど…魔力とか特別な能力とかボーナスポイントみたいなのはあるわけ?」
「はい、勿論。それらに関しての細かい話はまた別のところでして頂くのですが、ここでは真麻に選んでいただきたいのです。天国に進みそこで次の新たな生を授かるまで待つか、これまでの善行を活かし異世界転生者として世界を平和に導くか。勿論、その地で生前と同じように生活して頂き、伴侶を見つけて平凡な人生を送って頂いても構いません。新たな転生先で命を落としても、裁判所を通さず天国へ行けることを保証します。しかしこの転生チャンスは今だけです。」
凄い、最近のアニメでよく見るような流れだ。
それを聞いた瞬間俺の身体はゾクゾクと震えた。まるで漫画の中の主人公になったような高揚感だ。
しかも、適当に選ばれたわけじゃない、俺のこれまでの善行が認められて選ばれたんだ。そんなの、悪い気なんてしないだろう。
勿論、迷う必要はない。
「ああ、任せろ!俺が新しい世界を平和に導いてやるよ!」
そして俺は異世界転生者になることを選んだ。