謁見
「・・・なるほど。今回はコレか」
「はい」
二人の間の机には、金がふんだんに使われたであろう、豪奢な懐中時計がひとつ、華奢でしかしながら最初のものと比べてもそこまで見劣りしない腕時計がひとつ、それぞれが陛下の手元側に、フリッツの手元に質素な時計がひとつと、凝った金属細工が成された懐中時計がひとつ、そして陛下とフリッツのちょうど中間に3つほどフリッツ側にあった質素な物より更にシンプルで、貴族が使う物とは思えない懐中時計があった。
「ふむ・・・軍事用途としては何がある?」
「例えば複数個用いて同時攻撃するなど、連携行動に非常に高い効果があります」
「今まで通りの教会の鐘や大時計では駄目なのか?」
「鐘が鳴らない夜中などの際に同時に夜襲をかけるなどです」
「・・・なる・・・ほど・・・」
あまりの衝撃に言葉を失ってしまった様だ。そして一旦吹っ切れ、別の質問をされた。
「しかし、貴族がが使う物にしては質素すぎるな。これらは」
「いえ、これらはこのまま使う想定ではありません。これらのケースを着けて使用します」
そう、言葉を述べながら、懐中時計に豪奢な装飾が施されたカバーを着ける。
「ほう」
「これによって、どの懐中時計がどの貴族のものなのか分かりますので、各貴族に渡してその家の何かの証明としても良いかと。実際に動く時計である事が本物である証として。少なくとも、動く時計を持っている限りは、貴族であることは確定しております。また賊の対策として、この文字盤に刻印を彫ろうかと」
「ハァ・・・これは子爵以上の各貴族に最大2つまでとする。例外は王族には一人一つまでだ。再発行は厳禁。無くなった場合はその貴族は永遠にそのままとする」
「そちらにある物が王族用となっておりますが、機能面での違いも有ります」
「・・・なるほど。複製は出来るか?」
「陛下の手元にある物を複製するのはまず無理かと。特にそちらの時計は複雑に作っており、先にお渡しした資料だけでは作れません」
「ロウ付して封印するのは?」
「残念ながらコレらはなにぶん繊細であり、定期的に整備する必要があります故、ロウ付けする訳には行かないのです。ただ、献上する5つのうち、陛下の手元にございます2つはもし破壊しながら分解できても仕組みを理解するのは困難かと。そもそも専用の治具を用いなければ組み立てるのも分解することも不可能です」
「なるほど・・・」
「また、残りの二つは諸侯用に用いる場合のサンプルであります。これらは一流の職人であれば作れなくはないかと。その代わり、手巻きで衝撃に弱く、精度も悪く、最低でも3日に一回、精度が悪ければ1日に一回は時刻を合わせる必要があります。しかし教会の近辺に住む分には時報に合わせれば良いので問題ないかと」
「逆に言えばコレは完全に時刻を同期させて軍用するのは難しい、と?」
「作戦前に時刻を一斉に合わせれば可能ですが、まぁ、1週間もすれば最低でも半刻程はズレるかと」
「野戦での使用は難しい・・・か」
「また、これらの時計が懐中時計である理由ですが、落とすと壊してしまう恐れがあるため、必ず腰回りにこのチェーンをつける必要がある為です。そちらの物は、こちらの物より強いとはいえ、手荒な扱いをしてしまうと壊れてしまう恐れもあります故、お気をつけ下さい」
「うむ」
「主な違いは、まず、そちらの物はゼンマイを巻く必要がございません。自動巻きという仕組みになっており、普段の使用で振ったりすると、内部の仕組みでゼンマイが巻かれる様になっております。また、クロノグラフと呼んでいますが、時間を計る機能が付いております。最大で一刻まで計れます。また、精度も高いため、先の諸侯用の物と比べますと、1年に1秒ズレれば大きな誤差と言えます」
「・・・なるほど。扱いには細心の注意が必要であるな。・・・」
「耐久性については、すくなくとも間にある物よりは頑丈であります。破壊しようと考えて地面に叩きつけでもしない限りは壊れないかと。その為、姫様用は腕時計にしております」
「するとつまり?高性能で、頑丈で、美しい時計と言うことか?」
「左様であります」
「・・・恐ろしいな・・・」
「お褒めいただき、光栄であります」
「いや、そう、そうなんだが、そうでは無いんだよ・・・」
「・・・」(◠‿◠)ニコリ
「・・・」(^_^;)
「陛下、お言葉ではありますが、奴らはここまでとはいきませんが、これらの諸侯用時計など量産できるほどの力を持ち始めているのです。まさか私に自重しろなどとは命ずることが無い様に、お願い致します」
「分かっている。暗部から事実であると知識で知っていても、現実にすると実感が湧かないのだよ・・・」
「失礼致しました。出過ぎた言葉、お許しください」
「構わん。いつもの事だ。・・・ああ、そうだ。ヴィレラと、仲良くしてやれ。あいつはお前の事でしか感情を面に出さないのだ。落ち込んでいる様だぞ」
「・・・承知しました」
こうして、謁見は終わった。




