メンクイ
私は、この地球と言う名の銀河の辺境の惑星に派遣された監視者です。この星の生物、つまり人間のメスの姿かたちを分子レベルで完璧にコピーした生体ロボットです。
人間は銀河に存在する数多の生物の中でも得意な文化を持っています。それは『面食い(メンクイ)』です。
「ねぇ。未海、星宮君ってイケメンだよね」
高校の体育の時間。グラウンドで隣りに座る工藤那奈さんが私に話しかけてきました。私は彼女の言う星宮君の顔をチラッと眺めます。
楕円形の顔の中央に嗅覚器官、その下に摂食器官、両脇に視覚器官を備えている標準的な人間の顔です。
「そうかな。別に普通だと思うけど」
私は那奈に答えます。個体を認識する為に感覚器官が集まり、露出した頭部を利用する生物は他の惑星にも存在しますが『イケメン』なる概念が私には理解できません。
だって、そうでしょ。顔が良いと言うだけで食料を沢山調達できるわけでもないし、病気に強いわけでもない。星宮君は痩せていて、正直、他の同種のオスに簡単にやられてしまいそうなくらい頼りない。おおよそ生存競争に打ち勝てるようには思えない。
「またまた、余裕かまして。未海は美人だものね」
「余裕とかじゃないし。ただ、良くわかんないんだよね」
「マジ!じぁあ、未海は誰が好きなわけ?」
「うーん」
私はグラウンドで活動する男子の顔を見回した。
「山田くんかな」
「うっそ。頭は良いけど、デブでハゲじゃん」
太っているのは力がある証であるし、ハゲの生物は知能が高いことが多いのは、銀河では常識なんですけど・・・。
「そうかなー。でもね、那奈。もう直ぐね」
ギュイーン。
私が言いかけた時、轟音が鳴り響く。空を見上げる生徒たち。私を派遣した幾万もの銀河艦隊が出現しました。
とうとうこの時が来てしまいました。人類の進化が止まってしまったのは『イケメン』なんて、生存に何の役にも立たない男子が持てはやされるようになったからです。人類には天敵が必要なのです。
「うわ、未海!大変。宇宙船から山田君みたいなハゲデブの宇宙人がいっぱい降りてきたよ」
那奈が震えながら私に抱きついてきました。
「いゃだー。ほら、変な銃持っている。わっ、わっ。星宮君が撃たれた。宮下君も武田君も・・・。うっそー。イケメンがみんな食べられちゃっているよー」
「人類の為だからしょうがないじゃない」
おしまい。