元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜
オレの名前は、結崎イクト。自分が、イケメンであることを自覚しているナルシスト気味の33歳……いわゆるおっさん勇者だ。一般的に33歳という年齢は、働き盛りで良い時期だが。
地球のゲームユーザーが、アバター体を用いて異世界を闊歩するこのゲーム異世界では、10代の学生が現役の中心にいる。そのため、どうしても30代を越えるユーザーは、おっさんを自称するものが多い。ちなみに、女性ユーザーのことは30代を越えると『お姉さん』と呼ばなくてはいけないので、敬称には注意しよう!
いろいろあって、若かりし頃は『ハーレム勇者』なんて呼ばれていた。女アレルギーという呪われた体質であるにもかかわらず、美少女達がオレを狙って来るわ来るわの『ザ・ハーレム』である。
結局増えすぎたハーレムメンバー達の中から正妻を決めることが出来ずに、異世界で一夫多妻制というシステムを採用することになった。しかも、そのシステムを採用することに落ち着いたのは、つい最近のこと。つまり、オレは『伝説のハーレム状態』を16歳の時から17年間続けてしまったのだ。
――そこのあなた、呆れないでほしい。オレだって、好き好んで優柔不断な人生を送って来たわけじゃない。
これもひとえに、オレの周囲の女性陣が美女ばかりで尚且つ全員がオレとの結婚を望んでいるうえに。半端に、ダラダラと全員と交際する仕組みを作った『ハーレム勇者認定協会』が悪いのである。
そんなこんなで、ようやくハーレムメンバー達を嫁に迎え入れる日がやってきた。最初の結婚式の相手は、冒険者養成学校時代の同級生である女勇者『レイン』だ。
もちろん、オレは初めて会った時からレインに対して淡い恋心を抱いてきたし、向こうもそのはず。ボーイッシュな美少女レインは、いつしかしっとりとした大人の色気が漂う美しい女性へと成長していた。
長すぎる春だが、大切にしてきた想いを繋げるまで時間がかかっただけだ。
感慨にふけっていると、シャワーを浴びてしなやかな身体にタオルを巻いただけの艶っぽいレインがベッドに戻ってきた。今宵は結婚式前夜……大人のオレ達は、挙式の前に愛を深め合うことにしたのである。
「イクト君。私達……きちんと結婚するまで時間がかかったけど、幸せになろうね」
しなだれかかるように、素肌をピトッとくっつけてくるレインは出会った頃のように可愛らしい。だがこの可愛いレインがこれからオレにしか見せない、色香溢れる夜の顔を見せてくれるのだ。オレも男として期待に応えなくては……焦る気持ちを抑えつつ落ち着いた態度で彼女の手を取る。
「ああ、これからもずっと一緒にいよう。なぁレイン……キスしてもいいか?」
「……うん、イクト君。ずっと、ずっと一緒に……」
ドサッッ。
レインをベッドに押し倒すと、その拍子に彼女の身体を覆い隠していたタオルが少しだけはだけてしまう。仰向けになっているのに揺れるバストに興奮しつつも、イケメンというプライドから極力カッコつけて接することに。
「レイン、綺麗だよ」
「あっ……イクト君、恥ずかしい。初めての夜だから……電気消してくれる?」
なんだって! 電気なんか消したら、美しい身体が拝めないじゃないかっ。と、思わず叫びそうになったが、恥ずかしがるレインの気持ちを察して、仕方なく電気を消すことに。ベッドサイドのほんのりとしたランプの光が、レインの表情だけを照らし出す。
「分かった……一生大切にするからな。今夜はオレに任せて……」
「嬉しい……あっ……イクト君……! あっ……やぁん」
随分と期待させるような声を出すレインだが、残念ながらまだバスタオルすら外せていない。そして、期待むなしく……その日の夜の記憶は、プツリとそこで途絶えてしまう。
(あれっ……なんで、いいところで記憶が途絶えるんだよ。ようやくレインと結ばれるはずだったのに……)
『年齢制限に引っかかりそうな描写を未然に防止します。係員のみなさん、データ修復の作業に取り掛かって下さい』
何処からともなく、声が聞こえる。その声の主は、ゲーム異世界を統括する聖女ミンティアのものだった。オレはかつて、ミンティアこと『行柄ミチア』に夢中になった時期があったが。お互いの姉と兄が先に夫婦になってしまい、『恋人になる前に親戚になった』ことから恋愛面では自然消滅してしまったのだ。
眠い、やたらと眠い。
レインの温かな体温をこの腕で感じることすらなく、オレは柔らかなベッドで深い深い眠りについたのだった。
* * *
「パパぁ、起きてよぉ。もう、朝だよ!」
「う、ううん……。誰だ、一体?」
聞き覚えのない美少女の声が、オレの耳元でわざとらしく媚びるように囁く。気がつくとふかふかのベッドの上でオレは眠っていたようで、誰かが起こしにきてくれたみたいだ。
(パパってなんだよ、オレはまだ独身だぞ)
眠い目をこすりながら、ゆっくりと瞼を開けると……。目の前には、金髪ボブヘアのエルフが、スマホ片手に待機していた。女子高生くらいだろうか、胸元の桃色のリボンとベージュ色のブレザー制服がよく似合う。
可愛い……かなり可愛いが、相手はおそらく女子高生くらいの年齢だ。妙な気を起こして事件になるのは避けたいし、そもそもパパと勘違いされては困る。
「えっと……キミだれ? 初めてお会いするような気がするんだけど。そもそもオレはまだ独身者だし、キミのお父さんじゃないんだけど」
「うふふっ。ちょっとからかっただけだよ。結崎イクト君! あーあ、JKごっこ失敗かぁ……これでも結構、若い娘に扮するのには自信があったんだけどなぁ。あっ初めまして、ギルド斡旋協会の案内人アーフィリアと申します」
そう挨拶して、小さく会釈をするエルフ……ことギルド斡旋協会案内人アーティリア。
(んっ若い娘に扮するって。この子、一体幾つなんだろう?)
女性に年齢を訪ねるのはなんだか失礼な気もするが、チラチラと年齢を匂わせるられると妙に気になる。
それに、ギルド斡旋協会とは……? オレは『クオリア』ってギルドにSSランク勇者として、ちゃんと所属しているし。新しくギルドを斡旋してもらう必要は、ないはずだけど。
「あのぉ……一体、何が起きたのか説明して頂けますか? オレって、この異世界のギルドに所属しているはずで、別に斡旋してもらう必要は……」
「んーそっか、まだ知らないんだね。実は、キミの地球でのアカウントが一旦消されたみたいで、所属ギルドからは一時的に追放になってるの。ほら、キミってこの15年間ほとんど眠りっぱなしでしょう?」
「えっ……15年間も眠りっぱなし? あの……今のオレの地球の肉体って一体」
するとアーティリアは、これまでの流れをダイジェストとして分かりやすく映像魔法で状況を説明してくれた。
* * *
いわゆる家族葬と言うものだろうか……少人数ではあるが、家族と親しい人達だけを集めて行う小さな葬儀。家族以外は学生が多く、もしかすると亡くなった本人もまだ学生だったのかも知れない。
神父様がお祈りをして、喪服の参列者達が白い花を棺の中へと納めていく。死者を送るために、みんなで歌う賛美歌は哀しみに満ちていた。
見送りの儀式が終わり出棺というタイミングで、亡くなった人のお姉さんらしき女性が妊婦にも関わらず、出棺を止めていた。
(可哀想に……よっぽどショックなんだな、と思いきや女性の顔は見覚えが。あれは……まさか、オレの双子の姉『萌子』なのか。ってことは死んでいるのはまさか……)
「ヤダよ……イクト、お別れなんて。行かないで! どうして、私達……双子として一緒に生まれてきたじゃない? なんでイクトだけ先に天国へ行かなければいけないの」
(えっオレ、死んでたのか? どう言うことだ。けど、さっきアーティリアは、15年間眠りっぱなしって)
決死の覚悟で、イクトの出棺を阻む萌子を夫であるリゲルが宥めているが、一時的に棺を運ぶ作業が遅れてしまう。
(いいぞ、萌子よくやった! オレはまだここで生きてるぞ。頼むから、この若さで殺さないでくれよ)
「萌子、可哀想だけどイクト君を天国へと行かせてあげないと。これ以上は、葬儀社の人達にも迷惑が……」
「違うもん、イクトは生きてるもん。うぅ……イクトぉ……」
ドンドンッ! ドンドンッ!
――突然、返事をするかの如く棺の中から音が聞こえ始めた。まるで自らの生存をアピールするかの如く、力強い叩き方で棺の内側から音が響いて。その反動か、周囲は音を確認するために静まり返る。
ドンドン、ドンドンッ!
音は鳴り止まず、棺の中の死者が助けを求めているように感じられた。
それは『まだ、出棺しないでくれ』という心の叫び声のようにも聞こえる。イクトの双子の姉である萌子が、棺を開けるようにと必死に懇願し始めた。続いて、異変に気付いたイクトの両親も出棺を取りやめるように、係りの人に頭を下げていた。
「お願い、イクトを助けてあげて。イクトが中で苦しんでるの!」
「萌子、落ち着いて。ごめん、ちょっと手伝ってくれるかい」
「オレ達が確認しますから、リゲルさんは萌子さんの方を……」
流石に、参列者もざわつき始めて、出棺は本当に一時停止となった。動揺する姉の萌子を夫のリゲルに任せて、勇気のある参列者数名がイクトの様子を見に行く。
「あっ……あの、ちょっと棺の中を確認させてもらっていいですか?」
「すみません、もしかするとイクト君が中で生きているかも知れないので。まだ、出棺しないでください! 生存を確かめないと……」
ゲーム仲間のマルスとケインが、葬儀社の人達に掛け合って確認作業をお願いする。彼らはゲーム異世界の中でいわゆる『勇者』の職業に就いていたイクトの同業者だ。参列者をかき分けて、緊急で葬儀社の責任者が棺を開けて中を確認すると……。
「そ、そんな……馬鹿な。息を吹き返した……だと。生きてる……深く眠っているが生きてます! 結崎イクトさんの生存を確認しましたっ。早く、救急車を……」
『えっ……どういうこと? まさか、診断のミスで……』
『よかったぁイクト君、生きてたよぉ〜』
『イクト君、私ずっとイクト君のことが……!』
まさかの超展開で、イクトはなんとか出棺を免れて、病院に緊急搬送されたものの。1年経っても、5年経っても、イクトが目醒めることはなかった。気がつけば、時はどんどん過ぎていき15年の歳月が流れていた。
だが、イクトがずっとプレイしていたスマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-アプリ版-』サービス終了後に始まった後続のネットゲーム内には、イクトそっくりのアバターが存在していて。
いつしか、イクトの魂は『ネットゲーム内に転生した』なんて、囁かれるようになっていた。
* * *
「なんじゃそりゃああ? オレって実は、ネトゲの世界に入ったまま15年間も眠りっぱなしなのかよ! そろそろ姉の子供が、プレイヤーデビューしていてもいい頃だぞっ」
「イクト君、落ち着いて。キミの魂は、先代勇者のやり残したことを解消するまで、自由になれないみたい。すなわち、伝説のハーレムを完成させるまでは、目が覚めることはないでしょう。だけど、もし……うまく完成させれば15年前に逆戻りして。きちんとした形で、生き返ることが出来るかもしれないわ」
伝説のハーレム……オレが、異世界に転生したての頃に聞いた古い伝承だ。選ばれた伝説のイケメン勇者が様々な種族の美少女達と交流を深めて、種族間のわだかまりを失くし、世界を平和に導くのである。
「若い頃のオレなら、可能性があったかも知れないけど。33歳のオレが、いきなり美少女ハーレムを新たに構築するなんて、無理があるよ。恋愛対象だって、結婚適齢期真っ只中だし、いい加減ケジメをつけたほうがいいだろう?」
「そうね、レインさんやミンティアさんのことが好きなら尚更。ずっと独身で、イクト君のことを待ち続けてくれる彼女達に報いるためにも。サクッと、伝説のハーレム勇者として名を馳せちゃいましょう! もちろん、私もハーレムメンバーの【お姉さん枠】として参加するから」
「あのさ、ところでさっきから、アーティリアの年齢が気になるんだけど。お姉さん枠って、一体幾つくらいなんだ? エルフって長寿だし、見た目は女子高生に見えるけど。まさか、その外見で実は数百歳とか……」
彼女はエルフ族だし、ラノベやゲームのお約束で遥か昔の伝説のエルフとかなのかも。だが、アーティリアの実年齢は、オレの予想の斜め下を行くものだった。
「うふふ……よく若く見えるって言われるけど、実年齢は35歳よ。キミと同じ30代なんで、ハーレム要員になることが出来たんだけど……」
「35歳っ? オレより2歳上なのか。なんだよ、そのリアルな年齢設定! っていうか、一体どんな美少女ハーレムなんだよ」
2歳年上のハーレム要員、リアルだ……リアル過ぎる。もはや、美少女ハーレム詐欺に片足突っ込んでいるが。彼女も同じ30代ということで、年齢制限に引っかかるよりはマシだろう。
「私的には永遠に17歳くらいの感覚で生きているので、その辺は空気を読んでくださいな。さあ行きましょう! まずは、新たなギルド設立ですよ!」
「ちょっと、引っ張るなよっ」
いろいろあって、SSランクなのにギルドから追放されてしまったオレ。しかも、現世では15年間寝たきりだというから驚きだ。現世に目覚める方法は、再び美少女ハーレムを構築して新たなゲーム異世界をクリアすること。
――どうやら運命は、オレを美少女ハーレムRPGから解放してくれないようです。仕方がない、ゲーマーの意地でいっちょクリアしてやりますか!
* この小説は、2019年12月15日に完結した『蒼穹のエターナルブレイク-sideイクトス-』の後日談的内容ですが、独立した作品としてお読みいただけます。