GMG-066「そこそこ暮らしは贅沢だった」
お付き合いありがとうございました
やることが多いと、時間は早く過ぎていくのだと強く感じる日々。
気が付けば、時折雪が降る季節になっていた。
「噂でしかなかったドラゴンは、現実にいました。ならば、神もやはり、いるのでしょう」
たくさんの人が、神父様の話を聞いている。
改修され、立派になった教会。
そこで今日も、神父様のお話が始まっていた。
(今のところは、寒さも大丈夫かな)
ちらりと見るのは、最近出来上がったばかりの暖房器具。
魔石を使い、周りを暖める仕組みのものだ。
どんな魔石でも、温まりすぎないようにするのは苦労した。
使う材料によって、再現できる魔法に違いがあるのも新しい発見だ。
これが、特定の怪物の骨を使うと作ることが出来るというのだから……世の中はわからない。
命を奪い、奪われる。そんな間柄の怪物が、こんな関係になってくるとは、誰が思っただろうか?
そんなことを考えていると、お話が終わった。
この後は寄付する人や、買い物をする人に別れていく。
「本当に、こんなに安くていいんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。その代わり、使うことをためらわないようにしてくださいね」
私も、お手伝いに参加している。
売っているのは、シーベイラの特産の1つとなった薬草を使った風邪薬。
もっとも、風邪だけじゃなく単純に体調不良全般に効くはずなのだけど……。
一応、頼り切りになっては困るからということで病気用と銘打っている。
材料は、野菜のように育てることができた薬草を使っているから、安くできている。
寒い中でも育つよう、品種を選んだのが正解だったみたい。
(怪物の多い場所や、王都の方に出荷が多いのは……すっきりしないけど)
価格を上げていないせいか、思ったよりも注文が多いらしい。
おかげで、住む場所も畑も増やさないとってなってるようなんだけど……。
「そこそこの暮らしが出来たらいいのだけど、放っておけないんだよねえ」
一番の問題は、私自身だった。
ターニャとしての私も、お婆ちゃんとしての私も、何か困ってる人がいたら放っておけないのだ。
特に、小さい子が困ってるとなれば、すぐに一緒にご飯でも……なんてなるのは自分でも止められない。
「そういうところが、ターニャ様らしいですね」
「見回りお疲れ様です!」
鍛錬代わりにと、いつも街の周囲を見回っているマリウスさんが帰ってきた。
その肩には、シロ。
「あはっ、楽しかった? 迷惑かけてない?」
「ピィ!」
飛び込んでくるシロは、ずいぶん大きくなった。
最初は、小さい犬ぐらいだったのが、今じゃ赤ん坊ぐらいなら乗せて走れそうなほど。
やろうと思えば、自分だけなら飛べるっぽい。
「随分と、信者が増えているようですね」
「そうなんですよ。まあ、私のせいかもしれませんけど」
いや、間違いなく私も原因の1つだろうと思う。
今も、私をモデルにした像は綺麗に鎮座されてるし……。
どこでどうなったのか、難民を受け入れたのも私が決めたとか噂になってるらしい。
あれは町の皆で決めたことで、私1人じゃないんだけど……うん。
とはいえ、薬草と塩造りは順調だし、魔石を使った道具たちの作成もようやくめどが立ってきた。
王都に試作品を送って、エリナ所長たちにより洗練した物にしてもらって……って感じ。
おかげで、各地の山をはげ山にしなくてもよくなったとかどうとか。
(薪は、色々大変だもんね)
1つ1つが重なって、みんなの暮らしも少しずつ楽になっている実感がある。
サラ姉も、冬に水汲みをして手が荒れることが減ったし、おばさんたちだってそう。
生乾きの服を着てということも減ったし……子供がお腹を空かせることもあまり見なくなった。
「私、頑張れてますかね」
「むしろ、頑張りすぎと言われるかもしれませんね。ターニャ様、貴女は確かに聖女と呼ばれるだけのことを成し遂げていますよ」
最初は、ちょっとしたことからだ。
贅沢とは言わないけれど、少し上向いた生活がしたい、そんな気持ち。
それを自分以外でも当たり前にしたい、世のお母さんたちが笑えればみんな楽になるって考え。
まだまだ先があるけれど、なんとか少しは達成できただろうか?
町を歩いていて、聞こえる声の明るさに、満足が広がっていくのを感じる。
共同で作ったお風呂に入りにいくかーなんておじさんたちの声も、心地よい。
「このまま、暮らせたらいいんだけどなー」
「私もそれが叶えばいいとは思いますが……これも、運命なのかもしれませんね」
え?って声をあげながら顔を上げれば、真面目な表情のマリウスさん。
彼が見つめる先には……土煙を上げながらやってくる馬車数台。
何があったかわからないけど、間違いなく……間違いなく私に話が振られる!
「あーっ、もうっ! わかったわ、わかりました! そこそこ暮らしのためにも、聖女の力、存分に見せつけてあげるんだからっ!」
「ピィッ!」
気合を入れるべく、両頬を軽く叩いて、馬車へと駆け寄る。
さて、今日はどんな問題がやってきたんだろうか?
大変だけど、お婆ちゃんも私も、楽しいのなら……いいかな?




