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GMG-065「火事が遠くのうちに」



 一見すると、平和な時間が過ぎていく。


 西、正確には北西の国からの難民となる人たちは、問題を承知でシーベイラが受け入れることになった。

 一か所に集めていると、それはそれで問題らしいのだけど、あちこちに分散するよりいい、となったらしい。


(何か仕事になるものはないか、と言われたのは驚きだけど……)


 わかる、わかるよ。町長もいっぱいいっぱいだっていうのは。

 私が同じ立場だったら、頭を抱えてると思う。


 元々は海の近くに住んでいた人たちのようで、いくらかはそのまま漁師に。

 他の人は畑を広げる形で農家となることになった。

 そして、そんな中には私の主導する、薬草栽培も混じっているわけだ。


「週に1回、このぐらいの魔石を植えるように入れて、古い物は交換してください」


「はー、それでこんなに大きく……不思議なもんだなあ」


 私の指導に従って、畑の手入れをする人を見守りながら考える。

 最初は、他の国の人に秘密を教えてもいいのだろうか?と考えた私。

 でも、ワンダ様たちは違う考えだった。

 いつか情報は漏れて、伝わっていく。だったら、最初から大々的にやろう、ということらしい。


 もちろん、誰にでも教えるという訳じゃないけれど、牽制の意味も持つようだった。

 事実、シーベイラ周辺では薬草や、水薬が不足するということは起きていない。


「それはつまり、熟練者が生き残るということ……か。難しいなあ」


「けが人や、死亡者が減ればそれだけ国は強くなるということですな」


 作業を見守りながらのつぶやきに返事があった。

 振り返れば、薬草の苗を運んできてくれたマリウスさんと、肩に乗ったままのシロ。

 最近は私だけじゃなく、町の人とも接するようになったのは嬉しいことだ。

 一応、珍しいから誘拐されないか心配ではあるのだけど……。


 シロは魔法を覚えた。と言っても、多分元々使えたんだと思う。

 それが今回の事件がきっかけになっただけかなと。


 何かあれば魔法で暴れることがわかってるので、心配ではあるけれど、すごく心配はしていない。

 むしろ、やりすぎないようにしないといけないなと思うぐらいだ。


「それにしても、例の船長。軍を辞めていたとは……」


「南北の交易ルートがないか、探検みたいなことをしてるって言ってましたよね。すごいなあ」


 そう、悪運が強いというべきか、2度も私に助けられた形になった船長さん。

 どうも軍人らしい格好じゃないなと思ったら、そういうことらしい。


 だからって、わざわざ大渦が出る海域ぎりぎりを移動して見極めようっていうのは大変な話だ。

 でも、その分の成果はあったようなんだよね。


 大渦が、自然の物じゃないということを自分の目で見たらしい。


「船より大きな怪物……失敗した時が怖いですよねえ」


「確かに。相打ちでは意味もありませんしね。あくまでも、退治して帰ってこないと」


 他にも問題はある。一番の問題は、一匹だけじゃないだろうということだ。

 大渦の頻度からすると、たくさん……とは思えないけど、どうだろうか。


 取り扱い注意、な石鹸作成時の薬品を使えなくはないと思うけど、あまり海は汚したくない。

 お婆ちゃんの記憶にあるような、公害?っていうのは回避したいのだ。


 さすがのお婆ちゃんも、大きな怪物と戦った記憶なんてない。

 あったとしても、てれびとかえいが?っていうの記憶ばかりだ。

 不思議なことに、魔法の無い世界のお婆ちゃんの記憶なのに、魔法を使うお話ばかりだった。


「海よりは、まだ陸地で大きい相手の方が楽ですよねえ」


「ええ、間違いなく。私も見たのは数度ですが、小山ほどの怪物もいますからね」


 そんな相手が世の中にいるのか、とも思ったけど、ドラゴンがいるんだからそういうのもいるかな?

 今度、ドラゴンさんに何かいい方法がないか、相談に行くとしよう。

 お供え物も用意して、準備をしたら話ぐらいは聞いてくれそうな気がした。


「難しい話は置いておいて、食事にしましょうか」


「出来れば今日は、あのうどんとやらがいいですな。朝晩は少し冷えてきましたから、温まるアレがいい」


 前に作って以来、じわじわとシーベイラではうどんが広がり始めている。

 乾燥させたら、結構持つというのも大きかったらしい。

 小さい子に食べさせるのも、黒パンよりは……ってとこだろうか?

 おかゆみたいなのだと、飽きが早いしねえ。


 奥さんたちの、ストレス解消に役立ってるらしい噂は聞かなかったことにしておく方が良さそうだ。


 そうして少しずつ、日々が過ぎていく。

 難民の人たちも、町の人と仲良く出来てるみたい。

 一気に人口が増えた形のシーベイラは、周辺でも屈指の賑わいだと兄さんからも聞けた。


 問題がないわけじゃない。


 元々、全員が町中の仕事につけるわけでもなく、討伐者、探索者になる人も増えてきた。

 畑仕事や漁だって、限界があるのだ。


 皮肉なことに、そのおかげで周辺の怪物の数がへったらしいということを聞いた日のことだ。


「これまで見なかった怪物がいる?」


「ああ、そうなんだ。と言っても、森の奥とかにいった場合とかなんだけどな」


 怪物の数が減ったと私に教えてくれた同じ口から、怖い話を聞いた。

 これだけ聞くと、そういうこともあるかなと思うところなのだけど……。


(山の獣を狩りすぎると、バランスが崩れる?)


 ふと浮かぶのは、お婆ちゃんが山にいた時の記憶。

 お肉が欲しいからと、特定の獣ばかり狩った結果のことだ。

 山の様子が変わってしまったのだと、記憶は訴えてくる。


「ということは、縄張りが変化しちまったってことか……あり得るな」


 そんなことを兄に告げると、納得した様子でまた飛び出していった。

 怪物の管理……そんなこと、出来るんだろうか?


 魔石の整頓をしながら、考え事を続けるのだった。






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