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GMG-063「騒動2つ」


「思ったより風が……でもっ!」


 既に沖の船に向かって、文字通り飛び出した私。

 下手に落下したら大変なことになる。


(せめて、様子だけでも見てからじゃないと……)


 姿勢を低くし、出来るだけ風の抵抗を受けないようにする。

 シロを箒と私で挟み込むようになるからか、少し苦しそうだけどちょっと我慢してね。


 周囲の風はまだ強い。時折の突風に、揺れるほどだ。

 ふと、魔法の風も、普通の風もあまり違いがないんじゃないかということに思い当たる。


 試しに、風を産むのじゃなく、周囲の風に呼びかけるように魔法を使えば……大当たり!

 一気に楽になったのを実感しながら、遠くの船へと飛んでいく。

 風に……乗るんだ!


「見えた! 舵が効いてない? ただ風に吹かれるまま……かな?」


 見るからに船はボロボロだった。

 後ろから強風と波に押され、少し前のめりに突き進んでいる。

 今はいいけど、少し高低がずれたら頭から海に刺さるようになってもおかしくない。


 風は収まって来てるけど、そうなったら次は横倒しが怖いかな?


「助けが来るまで持たせるには……飛びながらは難しいけど、頑張ろう」


 いつかやったように、両手でそれぞれ違う魔法を考える。

 片方は飛行用の魔法、片方は……船を助ける魔法だ。


 背中に感じる、たくさんの魔石の重さ。

 そこから魔素をどんどん吸い上げて、自身の魔法に注ぐ。

 使う魔法は、夏に良く使う凍結用の魔法。


 痛んでいるところを埋めて、さらに船の周囲を凍らせる!


「? シロ、一緒にやってくれるの?」


「ピィ!」


 ふと、視線を感じて胸元を見れば、シロが私を見つめている。

 その瞳は、遺跡で出会った大きなドラゴンさんの魔法を使う時と同じ、金色。

 ふわりと、シロから魔素が立ち上り私と混ざり合うのがわかる。


「じゃ、やろう……!」


 瞬間、私の魔法使い経験の中でも最大と自負できるだけの魔法が発動した。

 ここまで聞こえるほどに、船の周囲が大きく、深く凍り付く。

 氷が壊れると同時に船が折れるなんてことがないよう、気を付けていかないと。


「ここから飛びながらは厳しいかな」


 魔石はまだ力を感じる。だったら、船に降りて風を防ごう。

 甲板で風や揺れに、必死に抵抗していた船員さんが慌てるのがここからでも見える。

 そのうちの何人かが空を見上げ、私に気が付いたようだった。


 隙間を見つけて降りた私が、どう説明しようかと悩んだとき。


「君は……ん? どうしてここに」


「実はって、あの時の船長さん?」


 マリウスさんが、よくよく運がないって言ってたけど本当にそうだ。

 南の軍人さんだという人が、壊血病に襲われてシーベイラにたどり着いたのは結構前。

 渦を超えて帰られるか不安はあったけど、生き延びたみたい。


 でも……。


「軍人さん、辞めちゃったんですか? って、今はそれどころじゃなかった!」


 ちょっと大変だけど、船の左右に風の壁を産み出す。

 全部防ぐんじゃなく、減らす感じの……これなら話す余裕はありそう。


「シーベイラから救援が来るはずです。帆の向きを変えられますか?」


「あ、ああ。この氷も君が……話は後だな、よし。けが人の確認と、方向転換だ!」


 以前見た、見るからに軍服って感じのから、それこそ漁師や商人がしそうな普通の格好になっていた。

 そこからいくつか推測は出来るけれど、それは私から言うことじゃないかもしれない。


 魔石を段々と消耗し、どうしようかなあと考え始めたところで、ようやくシーベイラが近づいてきた。

 港には、既に西側からの船だろう物も泊められている。


「あ、風もこのぐらいなら大丈夫ですかね」


「恐らく。良い腕の魔法使いだ……聖女だと思ったら、こんな腕前だったとは」


「使った魔石分は請求しちゃいますよ?」


 笑いながらいうと、真面目な表情で頷かれた。

 このあたりは、軍人さんらしさが残っているようだった。

 そのまま甲板の端に向かった私は、大きい状態の氷を砕いていく。

 そうしておけば、シーベイラからの船がどんどんと接舷し……ようやく救出に成功だ。


「後は町長たちと話してくださいね。では!」


「あっ、ちょっと!」


 疲れも出てきた私は、挨拶もそこそこに飛び上がり、町に戻る。

 ふと見ると、弟たちが外に出てきているのが見えた。

 そりゃあ、これだけあわただしければ出てくるか。


「よっと。2人とも、怪我はなかった?」


「ター姉、お空飛んできた! すごい!」


 まだまだ子供という感じの弟たちを抱きしめながら、こちらにやってきたマリウスさんに手を振っておく。

 それだけでどうだったかはわかってくれたみたいで、彼の表情も和らいだ。


「神父様は?」


「ちょーちょーと、お話だってあっち」


 振り返れば、港にある色んな漁師の決め事なんかを話し合う建物。

 なんとか会館とか名付けられそうなアレだ。

 歩いて向かいながら、考えるのは2隻のお客さんの事。


 南からのは、嵐と台風の向きからして確実に流されてきたんだと思う。

 でも西のは……? この前行ったサンデリア経由でこっちに来るなら、陸地側を通るはず。

 となると……本当はもっと南に行く予定だったか、そういった予定だったはず。


(どういうこと? 怪物を避けたのかな……)


 もしかしたら、サンデリアよりさらに西の国の船なのかもしれない。

 さすがにマリウスさんも、そこまではわからないようだ。


「案外、南の方の話が、簡単に終わるかもしれませんな」


「私もそう思います。だって……」


 改めてみた西からやってきた様子の船。

 その船には……明らかに一般人が多く乗っているのが見えたからだ。


 それはまるで……そう、まるで、お婆ちゃんがてれびで見た逃げ出した人みたいだった。

 陸地に近い海路は、追いつかれるかもしれないという考えだったのかも……しれない。


 その予想は、町長に出会うなり、治療を依頼されたことで確信に変わった。



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