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GMG-061「自然を相手に」


「風よ……! おお、本当に出て来た」


「ずっと一方からしか出ないので、時々ひっくり返してくださいね」


 助かったぜ聖女様!なんてある意味、ありがたみの無くなるお礼を言われる。

 そういう態度でいいって、望んだのは私自身なんだから別にいいんだけどね。


(今のところ、風力が強すぎるとかはないかな)


 動いてるのがわかるようにと、わざと一定の音が出るように作った干物干し機。

 と言っても、干物用の魚の開きを網を張った板で挟み、そこで風を受けるようにしたものだ。

 後は、風でそれらが押し出されてぐるぐると回る、と。

 途中で風向きを反対にしないといけないのが要改良だ。


 これも試作品で、どれだけ風が持つかという確認。

 魔石の値段を考えると、あまり短い時間だと正直そのまま風通しのいい場所で放置の方が早い。

 上手く行けば、これまで干物に適さなかった奴も干物に出来るかなとは思う。


 私の中のお婆ちゃんが、色々食べてみたいと、欲求を膨らませてきたのだ。

 もう長い付き合いだから、段々とお婆ちゃんのというより私のという方が正しいのかもしれない。


「もうすぐ、籠漁の連中が帰ってくる時間だ。少し持ってくかい?」


「ありがとう! 潜らなくてもいいし、楽よね」


 自分で提案しておきながらなんだけど、籠漁は非常に手軽だった。

 大物狙いの釣りや、網で獲るのと違って他のことが出来るし、場所を変えれば獲れる物も違う。


 一応、獲り尽くさないように小さいのは海に返すように言ってあるけど、そこは漁師さんのほうがよくわかっていた。


 そのうち、沖に見えた船たちが戻ってくる。

 話していた通り、籠漁の獲物から少し貰うことに……って。


「なんだか、普段と違う……」


「今日は豊漁だったな。この辺はなかなかかからないぜ」


 この世界でも、魚の姿は結構似ている。

 お婆ちゃんが見たことのある奴もいれば、そうでない奴も。

 その中に、異質と呼べそうなやつらがいる。


 普段、結構深いところにいそうな子達だ。

 それに、警戒心の強い子達も。


 言い換えれば、籠漁になかなかかからない子達。


(なんだっけ……こういう時って……)


 ふと、海を見る。いつも潮風のあるこの港、今日もちゃんと風があり、波もそこそこ……。

 変な予感は、私の気のせいだったんだろうか?


 そう思いながら家に戻る。途中、サラ姉のところにおすそ分けに立ち寄った時だ。

 カウンターで店番をしながらの姉は、少し表情が良くなかった。


「どうしたの、サラ姉」


「ああ、ターニャ。ううん、ちょっと頭が痛くて。昨日ぐらいからね……病気とは違いそうなんだけど」


 とっさに姉の体を魔素の流れで見る。

 幸いというべきか、今のところ病気ということじゃなさそう。

 この感じは……。


(お婆ちゃんの記憶に引っかかるものがある? うーん……これは)


 思い当たったのは、気圧というものの変化だった。

 天気が悪い時、体調がよくない人っているんだけどそれと同じ。

 でもこの感じは……急激に変わっているっぽい。


「ねえ、サラ姉。もしかして、嵐の時っていつも痛い?」


「え? ええ、そうよ。だから出産のときは、産むのも痛いし、頭も痛いしで大変だったわ」


 聞きながら、ゾワゾワとした感覚に襲われていた。

 間違いない……嵐だ、しかも台風みたいなのが来る!


 ここを直撃するかはわからない。けど、影響は少なからずあるに違いない。

 ひとまずサラ姉には、無理しないでねなんて言っておきながら家に。


 作業中だった3人も声をかけて、魚たちの処理をお願いしておいた。

 私はその足で、この時間なら訓練中だろうマリウスさんに会いに行く。


「なるほど……備えはあったほうがいいでしょうな」


「信じてくれますかね?」


 台風が来るかもだから準備を、なんて聞いてくれるだろうか?

 その疑問に対して、マリウスさんはきょとんとした表情を返してきた。


「ターニャ様、いいえ……潮騒の聖女が予感がする、備えよと言えば十分説得力はありますよ」


「うっ……!」


 そうだった、そうなのだ。

 教会に像があるぐらいには、この町では私は確実に聖女なのだ。

 ましてや、海に関係するようなことであればかなりの力を持つに違いない。

 

 外れたら? たぶん、悪いようにはならない。

 嘘つきだ!とはならないような予感がある。

 シーベイラの皆が優しいってのもあるんだけどね。


「まずは、漁師さんたちの説得から始めます。経験上、同じようなことは過去にも起きてるはずなので」


「それがいいでしょうね」


 天気予報なんてものがない世界だ。

 それでも、わかることから推測していくことは出来るはず。


「ピィ!」


「シロ……ん、シロも少し元気がないね。ちょっと待っててね……はい!」


 前足で耳をひっかくようなしぐさをするので、サラ姉と同じような感じみたい。

 部屋に余っていた布を巻いてやり、簡単な耳あてにした。

 多少はマシになったのか、元気な声が帰ってくる。


「さすがに、飛んでいくわけにもなあ……」


「嵐の中では、危険すぎますね」


 そう、飛行魔法自体はあるにはあるのだ。

 どちらかというと、浮くってほうだけどね。


(ひこうき?の仕組みはよくわからない……)


 結局、お婆ちゃんもあこがれていたあっちの世界の魔法使い、のイメージで飛ぶことは出来る。

 普通の魔法使いは、長距離は無理で落下しやすいらしいけど、うん。

 それに、鳥や鳥型の怪物に襲われたら抵抗が難しいからねえ……。


 結局は、地道な対策と説得しかないのだと思いなおした私。

 説明の仕方を考えながら、また港へと走り出すのだった。




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