GMG-060「家事を楽に!」
しばらくぶりの、故郷での生活。
元々、私が不在の間でも回るように準備をしていたわけで……。
何が起きたかと言えば、普段やることがないことに気が付いたの。
あれかな、経営者ってのはこういうものなのかもしれない。
お婆ちゃんの記憶でも、偉い人ほど現場作業はしてなかったもんね。
「お掃除でもしよ……」
使ったお茶っぱを適当に床にまいて、ほうきではいていく。
竹ぼうきみたいな手ごたえと音が、なんとなく落ち着く気がするのだ。
「ピィ?」
「お帰り、シロ」
戻って来てから、シロは家の敷地内なら歩かせることにした。
そのことが伝わったのか、シロもきょろきょろしながらも歩きっぱなしだ。
出会った通りなら、そのうちもっと大きくなって、飛ぶようになるんだろうか?
(そうなったら、乗せてもらおうかな、うん)
おいでとやれば、飛び込んでくるシロはまるで犬のよう。
動きは猫みたいにすばしっこいところがあるけどね。
そのまま、自分の工作部屋に向かう。
工作と言っても、実験部屋って言った方が早い気もする。
「やっぱり、近くにあると大体同じぐらいになるのかあ」
棚に置いた木箱の中には、たくさんの魔石。
最初は、内包する魔素の量で分けておいたのだけど……近くの魔石たちが同じような状態になっていた。
差が、無くなっているのだ。
「魔素が少ない場所だと、段々抜けていくわけで……となると?」
魔法使い向けのお話として、魔素の抜けた魔石を普段から持ち歩いてもらえば、充填されるんじゃないだろうか?
そうしたら、何かあった時にすぐ使える魔石があることになる。
まるで、お婆ちゃんたちが子供にすぐお菓子をあげれるみたいに……少し違うかな?
ともあれ、やりようによってはこれはお金になる気もする。
魔法使いたちだって、いつも魔法で何かを退治したりできるわけじゃない。
現に私も、用事が無ければ魔法を使うことはないのだから。
でもあれかな、逆に魔石から魔法使いに少しずつ移動しちゃうかも?
(難しいなあ。取っておきたいんだけど……)
問題は、魔素の維持だ。
どうしてもなんにでも魔素がある以上、閉じ込めておくのにも限界がある。
お婆ちゃんの記憶にある、保温の水筒みたいにいけばいいのだけど、それは難しい。
どうしても、魔素が動いてしまう……。
机の上には、魔石たちと木板、金属板等材料がいくつか。
最近研究しているのは、魔法を簡単に出来ないかという道具だ。
機械の動力に電気ってのを使っているみたいに、魔素を使って何かしたいなと考えている。
今のところ、鳴子みたいなやつと、発熱する奴とかは出来てるけど、そのぐらい。
なかなか思うように魔石から力が使えないんだよね。
「魔法なら、簡単なんだけどなあ」
適当に指で魔石をつつきながら、あれこれと考える。
魔法は、魔素を自分が思うように誘導して結果とするものだ。
その分、魔法使い本人がちゃんとやらないと魔法にならない。
私がやろうとしてるのは、そこに魔法使いがいなくても魔法が維持できるもの、になるわけだ。
「せめて魔素の動きが決めれたら……んん?」
適当に魔石を配置し、お婆ちゃんの記憶が教えてくれたおはじきのように遊ぶ。
ぱちんと音を立て、私の弾いた魔石が別の魔石を転がしていく。
その時だ。私の目には、魔素が指の動きに巻き込まれているのが見えた。
まるで魔素の動きが魔石に勢いを与えたかのように動き、魔石が動いた……いや、これは。
(魔石の中の魔素が押し出されてる?)
しかも、一度流れ始めたら配置を変えるまで、魔石の間を魔素が移動し続けている。
試しに、1つ魔石を抜いたり、場所を変えたり、色々試してみた。
結果として、実験は大成功だった。
「これなら魔石同士で魔素を移動しあってるだけだから、あまり減らない!」
出来上がったのは、くぼみにはめ込んだ魔石同士で魔素が動く輪っかとなる物。
放っておくとあちこちに魔素が散っていく魔石だけど、これならお互いに魔素を出し入れしている。
材料の一部には、魔素を通しやすい物を使ったから、誘導も簡単だ。
「数を変えられるようにして……うん、いけるいける」
これまでは、袋なんかにまとめて入れておくしかなかった魔石。
それが別の形で持ち歩けることに、一人喜んでいた。
「っと、ご飯の時間かな」
そうしてる間に、あっという間に時間は過ぎていたようで、お腹がぐうっと鳴ってしまう。
お湯をひとまず沸かすことにして、薪の代わりに実験中の発熱板を使って湯沸かし。
これにも魔石が使われていて、使い切ったら交換するんだよね。
「自分なら、外さずに充填できるけどみんなはそうもいかないよねえ」
出来ればこれも、薪いらず!なんて名前で売り出したいところだけどまだまだ課題がある。
お鍋に使うなら、料理が発熱板側にくっついちゃうんだよね。
それに、今やってるように、はめ込んだ燃料代わりの魔石の力が……ああ!?
「組み合わせればいいんだ!」
いってしまえば、今日作った物が魔素の電池、魔電池……は変だね。
まあ、充填機、カートリッジとか呼んでみようか。
充電するかのように、道具の魔石にこのカートリッジから魔素を補充すればいいんだと気が付いた。
はやる気持ちを抑えて、簡単にご飯を終えて作業を再開。
日が暮れる頃には、新しく2つの物が出来ていた。
「試作型魔素充填機、カートリッジと……再利用可能な発熱板!」
カートリッジには、魔素を通しやすい素材と通しにくい素材を両方使うことで、調整を可能にした。
逆に、発熱板には魔石そのものを取り外した物も用意。
これで、常に一定量発熱するものと、魔素の供給具合で発熱量が変わる物が出来上がった。
「さっそく、サラ姉とかに使ってもらおうかな」
薪の消費量は、そのままその家庭の金銭に直結する。
私も、お婆ちゃんもそのことはよくわかっている。
記憶にあるような、ガスや電気ってのが使えるようになると違うんだろうけど……。
(電気は魔法が代わりになるかもだけど、ガスは危なそう)
やっぱり、出来ることと出来ないことがあるなあと感じながら、気ままな発明の日々。
それが今の私の、大切な日常だった。




