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GMG-059「日常への帰還」


「これと、あれも買って帰ろっと」


「食べ物とかはわかるけれど、その辺は育てるつもり?」


 王都となると、お店の数もかなりの物。

 そこで売っている物も多種多様だ。


 郊外にいけば、探索者向けの雑貨なんかもたくさんあった。

 武具や、道具、そして薬草など。


「魔法だけだと、限界がありますしね。これでもっと広がればいいなって」


 本当は私がやるようなことじゃあ、ないのかもしれない。

 でも、何かしてないと……少しだけ、不安なんだ。


 お婆ちゃんの記憶が、何かあった時にあれがあればという経験を思い出させる。

 私にはよくわからないけど、戦争ってことだけはわかる。

 選んで、拾えたもの、拾えなかったもの。


「ふふっ、ターニャちゃんは勉強熱心よね。あら? あれお兄さんたちじゃない?」


「え? あ、ほんとだ!」


 まだ王都に2人とも、いたんだ!


 あっちも私に気が付いたみたいで、駆け寄ってくる。

 旅支度って感じだから、結構ぎりぎりだったかな?


 2人とも、私の買った物を見て、少し驚いた様子だったけどいつもの様子に戻った。

 なんなら一緒に戻ろうということで、合流となる。


 2人の乗ってきた馬車は、シーベイラで共同利用している物。

 実は私が稼いだお金を寄付する形になっているから、今回はそれを使ったみたい。

 それと比べると、私が乗る予定の物はかなり大きい。


「専用の馬車まで買えるとは……ターニャ、気を付けるんだよ」


「ええ、もちろん。ワンダ様に預かってもらえないかお話するわ」


 さすがにカンツ兄さんは、私がどれだけの稼ぎになったかを感じたようだ。

 というのも、竜の鱗はほとんどを国に買い取ってもらった。

 たくさんありすぎても、狙われそうで怖かったのだ。


(一応、実験材料に分けてもらってるけれども)


 私も、お婆ちゃんも知っているようなおとぎ話とかからすると、竜の素材は何かと話が派手だ。

 もしかしたら、水薬もとんでもない効能になるかもしれない。


 どこでそんな実験をしたらいいかという問題もあるし、多すぎる現金をどうするかも。

 外からはわからないだろうけど、今この馬車はそこらの商人じゃ勝てないほどの現金がある。


「変な視線はないな。大丈夫そうだ」


「こちらもです。行きましょうか」


 アンリ兄さん、そしてマリウスさんに外を警戒してもらい、シーベイラへと向かう。

 運んでる物を考えると、もっと護衛の人を雇った方がいいのかもしれない。


(けど、お婆ちゃんは逆効果かもって思うんだ……)


 思い浮かべるのは、宝くじってのに当たった人のその後の話。

 お金があるってわかると、知らない人もたくさん寄ってくるってひどい話だった。

 私もそうなる前に、しかるべきところに預けて、上手く使ってもらおう。


「その考えは良いと思うけどね。たぶん、上手く行くともっと増えるんじゃないかな」


「そっかぁ……」


 カンツ兄さんの、ある意味冷静な分析に少し落ち込むようにすると、シロが慰めてくれた。

 袋から出て、私の足を枕にしていたところで顔をあげて舐めてくるシロ。


 そうだ、私はこの子もちゃんと育てないといけない。

 こんなところで、落ち込んでる場合じゃないよね。


 いざとなったら、魔法で追い払う覚悟を決めてシーベイラへの数日を過ごす。

 家族も一緒の旅は、やっぱり気分が違う。


 しばらくはゆっくりしたいな、そう思いつつ近づいてくる故郷を見るべく御者席に座る私。

 風がいい感じに吹いていて、残っている暑さを飛ばしていくようだった。

 そう、いつの間にか夏は終わり、秋が目の前だった。


 先にワンダ様のところに寄ってから帰るか、悩んだけれど手紙だけは出しておくことにする。

 いきなり大金や、色んなものを持ち込まれても困るもんね。

 今さらと言えば今さらかもしれないけど……も!


 それ以外には特に問題は起きず、シーベイラが見えてくる。

 町の人たちは、私が帰ってくるのを知ると元気に話しかけて来た。

 私も、またあとでねなんて手を振りながら答える。


(帰ってきた、って感じ)


 私の生まれ故郷……ではないけれど、やっぱりシーベイラは私の故郷だ。

 何も変わらないっていうのは無理だろうけど、落ち着ける場所であってほしいなと思うのだった。


「ターニャ、お疲れ。俺は適当に仕事を探してくるよ」


「私も店にいかないと……」


 既に独り立ちしている形の兄2人は、それぞれに仕事がある。

 今回も、無理を言って王都に来てもらったのだから仕方がない。

 少し寂しい別れの挨拶をして、我が家に向かえば……ちょっとふくよかになったかな?という3人。


「お帰りなさいませ、ターニャ様」


「ただいま。元気だった?」


 先頭で挨拶をしてきたカイ君も、出会った頃よりちょっと大きくなったかな?

 聞いてみると、やはり丘は海より生活しやすい、なんて返ってきた。

 そりゃあ、お水も食料も限られる海の上とは違うよね……。


 太ったというより、元々このぐらいの体格だったかなと思う感じだったので気にしないことにした。


「中身は気にせず、この辺に運んでもらおうかな」


「わかりました!」


 そうして、私を含めて5人で運び込んだ鱗なんかの売却金が詰まった木箱を一か所に集め……閉じ込める。

 魔法を使って、がっちがちだ。砂を岩のように固めてるから、持っていくのは大変。

 砕こうと思えばかなりの音が出るし、そう簡単には壊れないはず。


 魔法使いなら話は違うだろうけど、そんな腕の魔法使いが、ここだけを狙いに来るとは思えない。


「はーっ、やっと落ち着いたわ」


「ひとまず報告を。薬草の栽培、販売は順調です。極端に増えもしませんでしたが、枯れるようなこともありませんでした」


 引き取って雇っている形の3人からの報告か、シーベイラを中心としてけが人が減るだろうと予想できるもの。

 正確には、治療できる人が増えている、ってことになるのかな。

 水薬の相場も、だいぶ安定してるらしいし……いいことだ。


「何をするって決めてはいないけど、また明日からよろしく!」


 これでまた、ゆっくりと色んな事を試せる。

 何からどうしようかと、あれこれと考える私だった。



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