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GMG-058「帰還と日常」



 白くなってきた空の明るさが、私の目を開かせた。

 同時に、海の波がひくように夢だったということがわかってくる。


「……お父さん、お母さん」


 もう、何年も前の事。

 今となっては、町の名前やどこに住んでいたかも曖昧な子供の頃の記憶。


 たぶん、親戚にでも会いに行くためにだっただろう船旅は、大嵐によって砕かれた。

 お婆ちゃんの記憶から言えば、台風?って奴だったんだと思う。

 その嵐に引っ張られるように船は海をさまよい、そして奇跡的に私は生き延びた。


 騒動の中、私をロープで樽とつないだ両親のおかげだ。

 何度も海に沈み、苦しくなったと思えば海上へ、そして波にのまれてまた沈み……。

 必死につないでいた手は、いつの間にか引き離されていた。


「もう慣れたと、思ったんだけどな」


 そう私が呟けば、私の中のお婆ちゃんは慰めと、我慢をするもんじゃないよなんて怒ってくれた。

 ちょっと不思議な形だけど、私は一人じゃないんだよねって感じられた。


『人の子よ』


「竜さん……」


 竜は昨日も名乗らなかった。強い者の名前には、力がある。それを知れば、影響を受ける。

 そんな理由からだったと思う。私も食い下がるようなことはしなかった。


 優しさを感じる竜が、朝日を浴びながら私を見つめていた。


『お前は小さい。けれども、多くの物を拾う力がある。覚えておくのだ。拾う物を増やせば、一緒に引っかかってくるものも増えると。望まずとも、な。よくよく話し合うといい、2人でな』


「はい!」


 そういう魔法でもかけていたのか、話が終わってから続々とみんなが目を覚まし始めた。

 挨拶をし、食事を終え……そして、竜との語らいは無事に終わることになる。


 証として、竜の鱗を袋一杯貰うことができた。

 なんでも、中から新しいのが伸びてくるから大丈夫、なんだって。

 一応、希少価値を考えて表向きには数えられるぐらいだけ貰ったとするみたい。


「今も夢見てたみたいよ」


「さすがの迫力でしたな」


 帰りの馬車の中、エリナさんもマリウスさんもどこかまだ上の空。

 外にいる兵士のみんなも、興奮した様子だ。

 そりゃあ、おとぎ話かと思っていたら、本物も本物だったんだもんね。


「これからもよろしくね、シロ」


「ピィ!」


 たぶん親か親戚になるだろう竜の元に、シロは残りたいか聞いた私。

 でも、シロは私と竜を交互に見た後、私の胸元にまた飛び込んできた。

 任せられたということは、そういうことなんだろうな。


 お家に帰るまでが、なんていうのはどの世界でも変わらない。

 気が付く度に、周囲に魔素を確認する魔法を飛ばして警戒しながらの帰り道。


 幸い、何事もなく王都が見えてくるのだった。

 すぐさま、王様へと報告だ。


「おお、良く戻った! そうか、いたか!」


「お城のように大きくて、立派でした」


 王様を前に、そんな報告をする私だけど……今の私は、他のことで必死だった。

 何かというと、服が重いのだ!


 この報告はさすがに秘密裏にとはいかないようで、限られた人だけど人目のある中での話になった。

 密命を受けてってやつなんだろうけど、どらまみたいだなってお婆ちゃんは言う。


 頭を下げているのも、そうしないといけない場面であると同時に、顔を隠すヴェールとかが重いのだ。

 全身、明らかに高い布で出来た服に包まれている。


 いかにも聖女っぽい、って服。

 最初見たときには、豪華なお嫁さん?って思ったけど。

 窓から差し込む陽光に、きらめくのは絹のような光沢の布地。

 ギグっていう蛾っぽい怪物の繭から採れる素材なんだけど、ハンカチ1枚でも結構な値段なの。

 ということはこの服だと……やめよう、考えるのは。


「それで、竜は授けてくれたか」


「はい。奪うのではなく、癒す力を。生き延びて明日を共に過ごすための、力を」


 妙に芝居がかった感じだけど、これも打ち合わせ済み。

 こうして、正体不明だけど聖女が王都に誕生して、竜から授かった力をみんなが徐々に得られる。

 そんな筋書き。上手く行くと、いいな。


 顔が見えないような服装で、こけないように気を付けながらその場から立ち去る。

 私の知らない人からの視線が気になるけど、そちらを向いて顔を見られるようなことはしない。

 まあ、体格からまだ子供っぽいとかはわかるかもしれないけども。


 予定された通路へと抜けて、いくつもの扉を超えて……ようやくとある部屋にすべり込む。


「お疲れ様! ひとまず着替えちゃいましょうか」


「おしゃれは楽しいですけど、よく私に合う物が用意出来ましたね?」


 疑問をぶつけると、驚きの答えが返ってきた。

 私たちが遺跡に出かけてる間に、王様はこの服を作ることをすぐに指示したそうだ。

 そこは王様の服を用意する人員、秘密にするのは当たり前のことだったらしい。

 いくつかの部分は、紐を絞ることで調整するようにして……なるほど、だからか。


「他に着る人もいないし、くれるらしいわよ」


「それ、これからも着る機会があるってことじゃないですかぁ」


 いつもの服装に着替え終わり、ほっとした私は椅子に座りこむ。

 思わず、お婆ちゃんみたいに声が出てしまうのは許してほしい。


「ふふっ。ターニャちゃん、たまにお婆さんみたいよね」


「ほっといてください。ああ……温かいお茶が美味しい」


「そういうところも……まあ、いいか。戻る? それとも王都を見学していく?」


 それに対する私の答えは、両方!だった。

 だってねえ? こちとら、普段は田舎な町の一般人ですから!


 贅沢は普段しないけれど、何も買わないという訳じゃない。

 せっかくお金はあるし、必要そうな物は買い込んでいくとしよう。

 みんなにもお土産を買いたいし……というわけで、王都に出発だ。


「ピィ!」


「そうそう、シロの首輪も買わないとね」


 エリナさんに預けていたシロを受け取り、一回り大きくした袋を首にかける。

 もう卵袋というより、普通に首さげ鞄って感じだ。


 ずっとそうしてるのもそろそろ限界、というわけで首輪を買ったうえで姿を見せることにした。

 お婆ちゃんは猫を飼っていたらしいけど、ペットとは少し違うような、そうでもないような?

 私と、お婆ちゃん両方が楽しみにしてる感じだから、すごいわくわくしているのは間違いない。


 何がって? シロを散歩に堂々と連れていくことを、かな!


 護衛についてくるというマリウスさんと合流して、王都へと繰り出す私たちだった。




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