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GMG-055「話の口裏合わせ」



「正直、にわかには信じがたいというか……」


「であろうな。だからこそ、こうして公式の場ではなく、私室での話となっている」


 ふかふかの絨毯に、高そうな椅子。

 その上で寝られそうなほどの大きな木のテーブル。

 何もかもが、違う。


 そんな王様の私室の1つで、私は緊張の最中にあった。

 手の中の、シロのぬくもりがなければ、何もしゃべれなかっただろうなと思う。


(楽にするといいと言われても、ねえ?)


 実際問題、だからって普段通りに出来る人がどれだけいることか。

 とはいえ、このままではあまりよろしくない。

 お婆ちゃんの記憶を頼りに、お腹に気合を入れて息を吐く。


「ご先祖様がご覧になったというのが、空を舞う白竜……シロがその家系だと?」


「かもしれん、というだけだな。ここを……読めるか?」


 色々と手順を飛ばした形であろうこの謁見、この場には私と王様と、エリナさんに、マリウスさん。

 外には近衛の兵士さんも当然、いる。

 実質、ただの町娘の私がいるというのは異例中の異例だと思う。


 その問題は横に置いておいて、王様が示す古文書な古ぼけた羊皮紙を見る。

 だいぶ黄ばんでいるけど、何とか読める。


 その内容は、北の山脈には竜が何頭も住み着いており、その中には魔法を使う物もいる。

 中でも、人語を介したという竜の1頭が、白竜。

 その大きな存在に関してだった。


「他にもあった話によると、竜は我々人や、獣のように番で子供を作らず、不定期に卵を産むそうだ。それは長い時間を経て、世界のどこかで目覚め……新たな竜となるらしい」


「そういうことですか」


 なるほど、確かにそれっぽい。シロも謎の卵だったし、獣の卵としては川の底にあったなんて状況は変だ。

 普通に考えたら、産まれることが出来るわけがない。


「少なくとも、竜と間違えることが出来そうな力を持った種族の子供ではないか、と」


 無言の頷きが肯定だった。それ自体は、納得する話だと思う。

 まだ15にもなっていない小娘が抱えるには、大きすぎるというか謎過ぎるお話だということを別にしたらね。


 こちらを不思議そうに見るシロの頭を撫でたり、つついたりしてその世話をするのも、最近は楽しくなってきた。


「勘違いさせないように言っておくが、国が引き取るであるとか、親元に戻せという話ではないぞ」


「え? じゃあどういう……」


 だんだんと、その辺にいるおじさんみたいな雰囲気になってきた王様。

 これはきっと、私の緊張をほぐそうとしてるんだなと感じてしまった。


 私も、最初と比べると随分失礼な態度だと思う。

 誰からも注意されないから、そうしろということかな?


「少しばかり、ターニャよ。お前に箔をつけようと思っている」


「あまり目立ちたくはないですけど、そうも言ってられませんね」


 ここまで来て、私にもわかってきた。

 自分のせいとはいえ、色々作って来たし、聖女と呼ばれるだけのこともしてきた。

 特に、回復魔法の存在は、大きな影響を与えると思う。

 この瞬間にも、治してくれ!なんて声が国中からあがって来てもおかしくないのだ。


 それがないのは、話がどこかで止まっているか、静めてくれているから。


「白竜は、先祖に知識と、生きる術を授けてくださったという話があるのだ。そこで、それを再現したものとして、件の回復魔法を授かり、伝授するという形をとる」


「私もそうだし、あの子も使えるようになったからその辺が問題なくなったわけ」


「自分1人だけが使える、だと意味がないですもんね……」


 それこそ、国中探して私だけ!なんてなった日には、とんでもないことになる。

 そう考えると、もっと考えてから使えばよかったと思うけれどまさに後悔。


(こうなったら、たくさんの人に覚えてもらわないと)


 決意を新たにしたうえで、さっきの話に意識を戻す。

 白竜からの授かりを再現……って?


「王都より少し北にいったところに、かつて竜と語らったという盆地があるのだ。石造りの、遺跡がな。護衛は付ける。そこに行って帰ってくればいい。そうしたら、後はこちらで話を作る」


「わかりました!」


 否、と言えるわけもない。それに、これでどうにかなるのならそのほうが色々と楽だ。

 連れていく人に、私が選んだ人も加えていいということだったので、さっそくマリウスさんを指名。

 ずっと、黙って室内の護衛状態だったけれど、指名した時は驚いた顔で、さらに頭を下げて来た。


 信じてますからね、うん。誰か1人をってなったらマリウスさんを指名しますよ、そりゃ。

 また日取りは知らせるということで、今日は解散となった。



「ううーん、思ったより厄介なことになってるというか、私がもう少し慎重にいけばよかったというか」


「遅かれ早かれってやつよ。誰か悪い人に狙われる前でよかったわ」


「その通りですな。それこそ、どこかに誘拐して閉じ込めておくぐらいのことはされてもおかしくない話です」


 2人して脅かすのはやめてほしい。けど、確かにそうだ。

 私を脅して、お金になることをやらせたりしようという人は、きっといる。

 そうなったときに、自分の身は自分で守れるぐらいにはなっておきたいところだ。

 例えば、室内で襲われた時に抵抗できるような魔法とか、ね。


「そうなったらシロに守ってもらおうかなー」


「ピィー!」


 わかってるのかいないのか、私の呼びかけに元気よく答えるシロ。

 言われてみれば、確かに前より羽根がしっかりしてきたし、トカゲというより竜の幼体って感じだ。

 でも、お肉はほとんど食べないんだよなあ……いつも薬草や、庭の草とか、そこらの花も食べている。


(? 大きい動物は草食だったりする? ふーん)


 お婆ちゃんの記憶からも、意外と肉食の獣は大きさに限界があること、草食の獣が大きかったりすることを知る。

 竜がいるとして、お話通りに大きいとしたら……どちらにしても、食事が大変そうだなと思う私だった。



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