GMG-052「自由な時間という羽根を」
「というわけで、今日から私の元で働いてもらいます!」
「そりゃあ、文句はねえけどよ……自慢じゃないが、頭は良くないぞ?」
物語のお約束のように、海の上で怪物に襲われた私たち。
正確には、首を突っ込んだってことだけど、まあ大きくは違わないはず。
その時に、先に怪物に襲われた船の船員たちは、そのままじゃ命を落とすほどの怪我を負っていた。
怪物退治のご褒美を、私はそんな彼らを相手から引き取るという形で貰ったのだ。
「大丈夫ですよ、私みたいな小娘でも出来ることですから」
「聖女様を、小娘呼ばわりする度胸は俺にはないっす」
「間違いない。でも、やるしかないか」
そんな大人2人の話を、少年は1人黙って聞いている。
このあたりは、船乗りということで教育がされているってことかな?
「まずはご近所への顔合わせからかなー、いくよー」
「ピィー!」
元気なシロの声も聴きながら、3人を引き連れて町、シーベイラへと歩き出す。
あの事件からしばらく。王都へと立ち寄った後、報告もそこそこに、私はシーベイラに戻ってきていた。
エリナさんからは、大げさな宴とかは苦手でしょう?と嬉しいお言葉。
王様も、本人がそういうならと了承してくれたようだ。
(テオドール様のお手柄を強調したいってとこもあるのかな?)
普通に考えると、近しい王族というのは、火種だ。
私も、お婆ちゃんも知っているお話でも大体問題は家族というか身内で起きるしね。
ましてや、現王の従弟なんてのは、あからさまだ。
お飾りの王族ではないが、ちゃんとわきまえて動ける。
テオドール様自身も、それを望んでいるらしいことが聞こえてくる評判でわかる。
考え方を変えれば、私の目指す先も似たようなものだ。
無名とは言えなくなっても、一歩引いた位置で……できるかなあ、うん。
悩みは尽きないけれど、まずは目の前の問題を片付けよう。
というわけで、町の人や町長、神父様へと紹介する。
彼らには、今いる薬草小屋の管理人と一緒に私のあれこれを手伝ってもらう予定だ。
誰かに教えるというのは、自分が覚え直すことと同じ、とは誰が言った言葉だったか。
時間はあっという間に過ぎていき、季節も夏の終わりになっていく。
薬草小屋も、長時間中にいるのは大変だけど……すごい成長した薬草であふれている。
片付ける物を一度外に運び出して、髪をかきあげる。
我ながら、伸びてきたものだ。最近、しゃんぷーってやつの実験をするからだけど、ね。
「本当にターニャ様は、大人びてますね」
「そうかな? 後、話しやすい口調でいいよ。お互い子供なんだし」
儚い抵抗を試みるけど、少年─カイ君は微笑むだけだ。
3人の中で、彼が一番私を聖女扱いする。
まあ、子供ってそんなものかな?って自分が言っちゃまずいや。
「ふふーん、そりゃあ、命の恩人だもんねえ」
「エリナさん!?」
やっほーなんて手をふっているのは、余所行きの姿のエリナさん。
そばに馬車がないってことは、こっちにわざわざ来てくれたのだ。
「用事があってね。まずはターニャちゃん、おめでとう。王都にお屋敷一軒、貰えるわよ」
「はい?」
思わず聞き返した私に、エリナさんが解説してくれたところによると……。
北西の国、サンデリアとのお話は大成功の扱いになったようで、王様も大喜び。
表向きの代表であるテオドール様を中心に、直々にほめたたえたのだとか。
私? 私はこう、そこそこ暮らしが一番。
なぜか、それを伝えた当時のエリナさんには笑われたけど。
ともあれ、それで地元に戻ってそのまま平穏、かと思いきやそうはいかない。
表向きの褒章はそれで終わったのだけど、ここからが問題。
ちゃんとというべきか、王様は私のことを気にしていたらしい。
(だからって家一軒は、子供の手には余ると思うんだよね)
正直、どうにもできないけどここで断ることは難しい。
かといって、住んでないのに家があるというのは非常にもったいない。
「エリナさん、王都にも教会ありますよね? そこの宿舎代わりとかには寄付できませんか?」
「ターニャちゃんならそういうんじゃないかと思って、元々場所は教会の真横なのよ。貴女さえよければ、手続きはしておくわ」
さすがエリナさん、あまり長い付き合いじゃないけど私のことをよくわかっている。
喜んで、思わず抱き付いちゃうぐらいには嬉しい出来事だ。
……が!
「ふふん、ターニャちゃんのためだもの……って、何この髪。サラサラじゃない。詳しく!」
「まだ実験中でして……ちょっと、引っ張ったら……助けてカイ君!」
まるで大きな人形を抱えるかのように、私を持ち上げていくエリナさんに逆らえない私。
少年に助けを求めるも……ああ、無理よね、うん。
結局そのまま、薬草小屋近くの自分の家まで運ばれてしまった。
そこには、何やら馬車から荷物を降ろしているマリウスさん。
どうやら、私のところに来る前にエリナさんに捕まったようだ。
「お土産……にしては違う感じが?」
「ええ、しばらく厄介になるわ。息抜きと、後は魔法の練習にね」
前も確か、そうだったような気がする。
エリナさんらしいなと思いつつ、同性の付き合いがあまりないから嬉しいところだ。
サラ姉は、もう人妻だしね……お仕事もあるし。
「開発が進んで、少し使える浜辺は減ったんですよ」
「あら、そうなの? でも大丈夫。今回はターニャちゃんがいたら大丈夫だから」
(ってことは攻撃魔法じゃないのかな?)
最近は片付いた浜辺、あるいは商人を呼び込むべく囲いも作られた海岸もある。
なんでも、商人に参加費を払ってもらい、一緒に漁をしてそれをそのまま仕入れとする話。
常時というわけじゃなく、たまの催しって感じらしいけどこれが結構好評だ。
同じ種類をまとめて取り扱うことが難しいけど、それがいいって人もいるようだった。
結果として、干物作りが活発になってどうにかならないかと相談を受けているのはご愛嬌だ。
そういうわけで、攻撃魔法を試すような場所も減って来てるわけだけど……。
「今回は、ターニャちゃんが使える物の調査と、出来れば覚えることが目的よ」
「私……ですか?」
「ピィ?」
思わず、袋から顔を出しているシロと見つめ合う私だった。




