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GMG-050「神の矢をへし折れ・後」


「ターニャちゃんは無理せず、出来ることに専念してちょうだい」


「わかりました!」


 元より、戦闘訓練なんて受けていない私。

 下手に動けば足手まといだろう。


 特に、こんな海の上では……。


「ただ泳いでいる? ううん、何か……違う」


 海神の矢、そう呼ばれる怪物は海面を滑るようにして進んでいる。

 それは陸地で見る蛇のように、ある意味不気味な動きだった。

 海に沈むことなく、体を半分水面に出して……感じた!


(魔法を使ってる! あれで加速してるのかな?)


 大きな丸太のような姿に、透明な皮みたいなもの……相手の魔素と魔法らしきものが見える。

 集中して観察していると、馬が走るよりは早い動きで素早く離れたと思うと、相手の船に突進しだした。


 なるほど、確かに海神の矢、だね。

 船を貫く姿は、もう槍とか銛って改名した方がいいよあれ。


「矢を避けた! こっちも準備だ!」


 誰かの叫び声が聞こえる。実際、海神の矢は船員の放った矢を避けた。

 つまり、脅威に感じていること言うことだ。


 考え方を変えれば、矢でもなんとかなる可能性が出て来た。


「ちっ、あっちがあのまま何発も食らったら沈みかねねえ。どうする、船長!」


「気を引くしかあるまい。いいですかな、テオドール様」


「私は君たちに託した。やりたまえ」


 まるで、演劇のようなやり取りが目の前で繰り広げられる。

 もちろん、見捨てるわけにはという気持ちと、自分たちがこの後襲われるかもという打算。

 どちらもが混在している結果なんだろうけど……うん。


(見た感じは、どうにかなりそう。後はどうやって武器を当てるかと、打撃を与えるか)


 こういう生き物のお約束として、表面は硬いか、何か特徴があるとお婆ちゃんの記憶が言う。

 まずは先端は魔法で強化してるはず……考えすぎ? であればそれでいい。

 私は私でやれることを……そうだ!


「吹きすさぶ、冬の荒々しさ!」


 胸元にシロの入った袋をぶら下げたまま、魔素を集中して魔法とする。

 イメージしたのは、真冬の荒々しい突風。

 家の扉どころか、馬車だって倒れ込みそうなその風を、海神の矢が動く先にぶつけてみた。

 結果、海面が荒れる形になった。予想通りに動きを止めたのだ。


 まだ距離があるけど、戸惑うようにその場をぐるぐると回るのが見えた。

 とまあ、船を襲うような怪物がそんな風になったなら……来た!


「エリナさん、邪魔をしちゃいましょう!」


「そういうことね!」


 逃げ回る相手や、遠ざかる相手を狙うのは大変。

 だけど、こっちに向かってくる相手をするのなら、私にだって出来る!


「ピィ!」


「うん、感じる。怒ってるね」


 相手も噂になるような怪物だ。きっと、そのままもう一回、は通用しない。

 だから、今度は別の方法を試す。


 隣に立つエリナさんの手から、私よりもっと直接的に相手を傷つけそうな風が飛んでいく。

 よく観察していると、やっぱり相手も目が見えるみたいで微妙に向きを変えた。

 回避しようとするのが見えたわけだけど……半ば予想通り!


「吹きあがれ!」


 魔法は、イメージ、想像力だ。

 同じ炎の魔法でも、実際に大火事を経験した人と、そうでない人では全然威力が違うらしい。


 私の場合は、自身は経験していないけど……お婆ちゃんの記憶がある!

 だからこそ、今度考えたのは風が飛んでいくのではなく、真下から産まれるもの。

 間欠泉っていう、なんかお湯が噴き出る自然現象をまねたのだ。


「上にはねた!? いいえ、飛ばしたのね!」


 大きく、海神の矢が跳ねた。

 私がちょうど相手の首元付近で、魔法を使ったからだ。

 水しぶきと一緒に、大きな相手の体が飛び上がる。

 それはそのまま、こっちの甲板に落ちて来た。


「!! 逃がすな、縄を絡めろ、銛で突き刺してしまえ!」


 大きさは思ったよりも小さい。

 海面を走っているから、水しぶきで大きく見えていただけみたいだ。

 大体……どうだろう、でも胴体は大人2,3人分はある。

 そんな相手が甲板で暴れる物だから、危なくて近づけない。


「ターニャちゃん、冷やせる!?」


「やってみます!」


 今は真冬ではなく、むしろ夏。

 どうしても魔法にも相性というものがあるわけで、さすがに冷やす魔法は消耗が激しい。

 けれども、エリナさんと2人して冷気を飛ばしていけば明らかに動きが鈍り始めた。

 でも、まだ力尽きない。


「しぶといわねえ……」


「そうだ! マリウスさん、手伝ってください」


 現場はエリナさんに任せ、私はマリウスさんと一緒に船倉に飛び込んだ。

 向かう先は、今回余った荷物……その中でも取り扱い注意のものだ。

 湿気防止に、表面に色々塗りたくった壺というか水瓶みたいなの。

 その中身は、灰。貝殻や海藻を燃やし尽くした石鹸の材料だ。


「これをどうするのですか?」


「飲ませます!」


 きっと、お婆ちゃんのいた世界の人たちからすると、そんなことをと驚かれるだろうこと。

 誰かが真似しないことを祈りながら、甲板に出るとやはりまだ戦いは続いていた。

 全身に矢か銛かわからない物が刺さりながらも、まだ生きている。


「ええいっ!」


 力を振り絞って、魔法を使う。

 今度は凍らせるための力。ずっとというのは無理で、一時的な物だと思う。

 それでも相手の動きが止まったのを確認して、正面に立つ。

 凍ってない後ろ側はまだ暴れてる……!


「風に乗せます!」


 叫んでから、マリウスさんと私の持つ壺を風に乗せて一気に飛ばした。

 向かう先は、怪物の口の中。

 中に入ったところで、多分口を閉じちゃったから……中で割れた感触。


 効果は、すぐに表れた。

 暴れるのは一緒なんだけど、すぐに動きが変わる。

 周囲に、これが肉の溶ける匂いかとすぐにわかる匂いが漂い始めた。

 力尽き、ぱかっと開いた口元からもその匂いが……。


「ターニャちゃん、洗い流しましょうか」


「そうします……」


 もう少し、いい方法はなかったかと後悔する結果であった。

 


 怪物退治は終わり、被害状況の確認と、助けた形になる船との交渉の時間がやってきた。



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