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GMG-049「神の矢をへし折れ・前」


 空も海も、どこまでも青かった。


 昔は船ではなく、徒歩で陸地を超えて来たというご先祖様。

 そんなご先祖様たちが作り上げた国、シーウェイルへと帰る途中だ。


「帰ったら、買い込んだ物の整頓もしないと……」


「随分と散財した感じですが、いいものがありましたか?」


 私同様、身軽な服装のマリウスさんの声に頷く。

 やっぱり、国が違うと色々と違う。

 同じようなのもあったけど、大きく違うのもあった。


 面白い物は真似……うーん、問題にならないように通す筋は通した方が良さそうだ。


「たくさんありました! お土産話も出来たし……でも、荷物は全部売ってこなくてよかったんですか?」


 そう、行きに積んだ荷物の内、大体は売り払うことができたけど一部は残してある。

 例えば、石鹸の材料なんかは脂以外は結構な量が残っているのだ。


 そりゃ、取り扱い注意だから量を渡すのが危ないかもってことも考えられるけどね。


「国に余力がある、そう思わせるためにも全部は売らないのも手なのですよ」


「そういうものなんですね……勉強になります」


 つまりは、まだ全力じゃない、もっと売ることが出来るぞって意思表示したわけか。

 お仕事が増えて、生活が楽になる人が増えるのは良い事かな。


 そんなことを思いながら、船の先を見る。

 このまま何もなければ、行きと同じように2週間ぐらいでつく。

 そう、何事もなければ。


「船……」


「交易船ですかな。漁をするには陸からは離れすぎている。しかし、妙に速い気がしますね」


 遠くに、船が見えて来た。こっちに向かってくる向きだから段々大きくなってくる。

 マリウスさんの言うように、かなり速い。

 確かに、こっちも急いではいないけれど……。


「サンデリアからの船としても、急ぐ理由がわかりませんな」


「一応、見てみますね」


 マリウスさんに一言告げて、遠くを見る準備に入る。

 風の魔法を使ったレンズ、望遠鏡ってやつだ。

 どんな船があるのか、その程度の好奇心だった。


 ぐいぐいと見える物が大きくなって、船が視界いっぱいに広がる。

 こっちより少し小さいぐらい。でもなんだか物々しい。

 具体的には、甲板に武装した船員が何人もいるんだ。


(海賊? にしては普通だよね)


 一瞬、いわゆる海賊かなあと思ったりもしたけど、違いそう。

 雰囲気がそうじゃないからだ。

 少し視線をあげて、旗を見る。


「星が5つに……聞いたことはあります。サンデリアのさらに西にある国ですね。ここまで船を出しているとは……」


 交易って、私が思ってるより遠くまで行くんだなと感じた。

 こんな遠くまで……って、そういえば。


「この辺でしたっけ、海神の矢?っていうのが出たのって」


「らしいですね。年に1回見るかどうからしいですが……」


 それは噂。

 今回向かった港町の酒場で、酔っ払いな人たちから聞いたいろんな噂。

 そのうちの、海に出るという怪物のお話。


 彼方より来て、未来を貫く海神の矢。

 なんでも、生き残った人の話だと急に船に大穴が開いて、とんでもないことになったとか。

 良く晴れた日で、嵐ってわけでもなかったらしい。

 むしろ、天気が良くないと出会うことはないんだとか。


(どこまで本当かはわからないけど、南の大渦みたいなものかなあ?)


 シーベイラから南に進むと、必ずではないけれど大渦が海に出ることがある。

 船が沈んだり、大きな打撃を受けてしまったりするのだけど……あれも怪物の仕業だという噂がある。

 陸地にいる怪物と違い、海とかの中にいる相手となると退治も簡単にはいかない。

 何より、海の怪物は大きいことが多いのだ。

 実際、泳ぐ水筒だって大人になると人間がすっぽり入るぐらい大きいんだ。


「シロ、どうしたの?」


 なおも船と海を見つめていた私の胸元で、シロが袋から顔を出してきた。

 いつもなら、涼しくなる夕方まで寝てることが多いのに……。

 覗き込めば、険しい表情で海を見つめるシロ。


「何かいるの? 今のところは何も……んん?」


 きょろきょろと周囲を見渡し、念のために魔素を遠くまで感じるように調整して……なんだろうこれ。

 遠く、まだ距離があるけど何か動く大きな魔素がってこの方向はあの船のあるほう!


「マリウスさん、何かいます。テオドール様や船長、エリナさんに知らせてもらえますか?」


「任されました。ターニャ様も、無理はせぬよう」


 頷いて、私も一応いざとなったら動けるように服の紐を閉め直す。

 暑さ対策にゆったりとした状態から、ぴったりと動きやすい状態にしたころ、こちらも騒がしくなる。

 船員さんたちが甲板に出てきて、その手には銛や弓矢。


「はーい、ターニャちゃん。何がいたって?」


「今のところは何も。でも、あっちを見てください」


 私が身を乗り出すようにして、船首方向を指さすと、エリナさんも目を細めて集中しだした。

 ほどなくして表情が戻ったけど、雰囲気が変わっている。


「いるわね。それも、馬がどうとかそんな大きさじゃないわ。あの船が積んでるのかしら?」


「さっき見たときには、そんなのはいなかったような……って、あれは!」


 お互いに近づいている船同士、もうかなり近くなってきたころ私はその船の後方に何かを見た。

 マーマンが襲ってきた時のような白波、だけどだいぶ細い!

 慌てて魔法を使ってよく見ると、何かが海面を進んできている。


 ぱっと見、太い縄、あるいは丸太が海面を走っている。

 その正体を見極める前に、それはこちらに来ていた船の側面に、飛び上がるようにしてぶつかった。

 なんと、そのまま向こうに突き抜けていってしまったのだ。


「まさか、海神の矢!?」


「そうとしか考えられませんな。さて、どうするか……」


 選択肢は2つ。あちらが襲われてる間に逃げるか、戦うか。

 私は戦士じゃないし、船長でもない。

 だからどうするのかを決めることは出来ないけれど……。


「あれはだいぶ遠くから狙って来たみたいです。だとすると……」


「逃げ切れるものではない、か。船長、私は構わん。君たちが生き残れると思う選択をしたまえ」


 テオドール様が同意してくれたように、逃げ切れるかは怪しい。

 最初に見た時に、あっちの船員が武装していたのは、これに一度襲われたか、目撃したからかもしれない。


「憂いを断ってこそ……か、野郎ども、矢をへし折るぞ!」


 船長の叫びに、船員たちの怒号のような叫びが続いた。


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