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GMG-044「狸のいない化かし合い」



「うむ、下がってよろしい」


「はい、温くなったころにまた参ります」


 真面目な口調のお偉いさんである、王様の従弟テオドール様。

 そういえば、王様の名前も自己紹介の時に初めて聞いたんだっけ?

 確か……そうそう、ジークフリートだ。

 妙に聞き覚えのある名前だけど、そんな偶然もあるのかもしれない。


 緊張から解放された私は、そんなことを考えながら与えられた部屋へと向かう。

 静々と、付け焼刃の仕草がばれないようにと思いながら部屋へ。

 扉を閉め、ようやく一息だ。


「お疲れね、ターニャちゃん」


「!? あ、エリナ所長。ええ、そりゃあ……緊張しますよ。本職の人じゃ駄目だったんですか?」


 顔をしかめながらつまみ上げるのは、自分のスカート。

 そう、船旅を終え、港町にたどり着いた私たちはすぐさま、交渉のためにお屋敷へ。

 と言っても2日ほどは、旅の疲れをいやすのが通例みたいで待機。


 その間にと私は……侍女の格好をさせられたのだ。

 お婆ちゃんの記憶にある物より、洗練されてる感じの部分と、そうでない部分が入り混じっている。

 一番の問題は、胸が大きい人だとそれが強調されるだろうなって部分だ。

 幸いにか、私はまだまだ子供だから全然問題ないんだけど……。


「ターニャちゃんが言ってくれたんじゃない。警戒をするなら、魔素を感じられる人じゃないと変な道具を感知できませんねって」


「うぐっ」


 そうなのだ。交渉事が厄介になるだろうことは、察しがついていた私。

 となれば、実際の交渉もただ話し合って終わりではないだろうと予想していた。


 ではどうするのか?

 一番あり得るのが、襲撃、毒殺、そして……事故を装った何か。

 このあたりは、お婆ちゃんが見ていたてれび?ってやつとか、えいが?ってのが役に立った。


 私はエリナ所長ら魔法使いに、簡単な魔法を教えた。

 それは、魔素を放って向こう側を探るような魔法だ。

 誰かが隠れていれば、反応が感じられる。


 他にも、ただの家具だと思った物が魔法の道具だったりするかもしれないという懸念。

 それを解決するためには、魔素を感じられる人がそばにいないといけない。

 さすがに、運び込まれる物全部に確認を挟むわけにもいかないもんね。


「私は顔が知られてる可能性があるし……侍女って感じでもないしね。その点、ターニャちゃんは見た目は完璧よ」


「そりゃあそうですけど……まあ、いいです。事件なく終わるほうが大事です。えっと、とりあえず部屋にはそういうのはありませんでしたよ。逆にいいのかな?ってぐらいです」


 お仕事にするにはちょっと考えちゃうけど、お城の侍女さんにはあこがれもあった。

 人前に出るからと、かなり上等な衣服なのである。

 下手しなくても、普段着より高いだろうなって思う。


「仮にも同盟国……まあ、正確には同盟国じゃないんだけど……なんていうのか、親戚みたいな国だからね。それでも、ずっと黙ってるわけには行かないから、合図があったら魔法使いだってばらすんだけど」


 だったら、こんなにこっちが警戒してよかったのだろうか?と思わなくもない。

 そのあたりは、お偉いさんたちが考えることと思おう。


 私物の山に近づき、隠れるように収まっている卵袋の口を開いてシロと遊ぶことしばらく。

 小さな音が、手元で鳴った。そろそろ、お茶を変える時間だ。


「じゃ、行ってきます」


「ええ、よろしくお願いね」


 ちなみに、さっき鳴ったのも私の発明品。

 魔石から魔素が一定量抜けるような仕組みを作り、抜けきったら金属棒同士が当たって音が出る。

 まだまだ多く作れないし、時間も限られてるけどキッチンタイマーってのを参考にした。


 専用の籠に、必要な道具を入れてテオドール様たちのいる部屋へ。

 外にいる護衛の人が全然動いてない気がするのは、さすがというべきか……って。


「マリウスさんの魔素の気配が中にある……まあいいっか」


 小さくつぶやいてノック。

 ややあって、中からの返事に従い扉を開き中へ。


 外で感じた通り、中には人が増えていた。

 マリウスさんは、テオドール様のそば。護衛ってことになるのかな?

 他にも護衛の人がいるのに呼ばれてるってことは、やっぱり元々偉い人だったんじゃないだろうか?

 だとするとワンダ様の元にいたのはなんでだろう……うーん?


(おっと、お茶を出さないと)


 考えるのは後にして、準備を始める。

 まずはテオドール様。これは、毒見を兼ねていると言われた。

 招かれた側が提供するお茶、という物を演出するらしい。

 細かいその辺はよくわからないけれど、私は大人しく提供するのみだ。


「ターニャ、何か余興はないか」


「余興……でございますか? あいにく私は殿方を楽しませることが出来るような体ではないので……そういう意味ではないのですね。では」


 私は内心驚いていた。さっきエリナ所長と話していた合図。

 魔法を使えることをばらしてもいいという合図だ。

 個人的には、なかなか下品だとは思うけれど……うん。


 魔法使いだとばらして見せろということだけど……。

 かといって、何か派手な魔法をというのは部屋の中では無理がある。


 そう考えて、私はお茶をひとまず出すことにした。

 そっと手渡しの前に魔法を行使。


「む? 少し温くなったか?」


「はい。テオドール様はお熱いのが苦手なようでしたので」


「ほほう。では私のは、逆にもう少し熱くできますかな」


 今のやり取りで、相手にも伝わったようだ。

 その答えとして私も、相手のお茶を少しだけ熱くする。

 満足そうな相手の笑みに、大人しく頭を下げて数歩下がる。


「貴重な魔法使いを侍女にするとは、なかなか贅沢な話で」


「なあに、試行錯誤というやつですよ」


 やっぱり、大人ってよくわからない。

 少しもんもんとしたものを抱えながら、私はお茶会を見守った。


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