表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/67

GMG-039「過去の呼び声・前」


「シロ、行くよ」


「ピィ!」


 あの日から、私の生活にまた1つ、増えた物。


 それは、トカゲのような鳥のような、不思議な生き物。

 全体的には、白に青が少し混じった感じ。

 背中には小さいけれど折り畳み式の翼。


 くりっとしたお目目が可愛い、小さいお友達だ。

 シロ、と名付けたそれは胸元にぶら下げた袋の中で、顔を出していい返事だ。


 エリナ所長には、手紙を出してあるからそのうち来るんじゃないかなと思う。

 それまでは、何を食べるのかとか調べながらの日々だ。


 今日は、アンリ兄さんとその友人たちと一緒に、少しだけ遠出である。

 一応、私の護衛ということでマリウスさんもついてきている。


「よう、今日は頼むぞ」


「足手まといにならないようにはしたいけど……そんな変なのがあったの?」


 私は探索者でもなければ、討伐者でもない。

 多少魔法は使えるけど、戦えるかと言われると不安は残る。


 そんな私を、兄は誘ってきたのだ。

 見つけた物が、魔法関係っぽいというだけで。


「洞窟なんだがな、入ってすぐに行き止まりなんだよな」


「それはただの獣の巣穴なのでは?」


 マリウスさんが、口を挟むのも無理はない。

 私からしても、そう思えるものだ。


 でも、兄さんだけでなく、仲間の人たちも同じように、となると話が少し変わってくる。

 幸い、場所はシーベイラからそう遠くない岩山にあるらしいのだけど……。


「とりあえず、行ってみましょ。駄目でも、何か怪物の素材は持ち帰って研究したいわ」


 ここだけ聞くと、なんだか危ない気もするけど……泳ぐ水筒もそうだけど、怪物素材は面白い。

 お婆ちゃんの知識で言えば、かがくとかいうものでも、作れない物だったりする。

 かがくも、自然の動物に学んでってこともあるみたいだから、そういうことなのかもね。


 そんなことを思いながら、シーベイラを出て探索の旅へ。

 実験として、薪を使わない湯沸かし器の試作品なんかを使うことにした。

 休憩の度に、薪を集めて火を起こして、ってのもちょっと大変だもの。


 短いと言えば短い距離の移動なのだけど、思ったより怪物に出会う。


「街道から少し外れてるけど、こんなに出てくるのね」


「いや、出すぎだな。もう少し奥に行かないとこうはならないはずだ……」


 一体、どういうことなんだろうか?

 怪物がたくさん増えている? それとも、別の理由だろうか?


 少しの不安を抱えつつ、進む私たちの前に、岩山が見えて来た。


「もうすぐ日が傾きだす。今日はこの辺で野営をして、明日朝から突入しよう」


 私は旅では素人同然だ。マリウスさんも同意しているし、その通りにしよう。

 荷物はたき火のそばに集めて、円陣を組むようにして、各自が待機。

 見張りを順番にってとこなんだけど、今回はひと工夫した。


 荷物から板切れを取り出し、周囲に1枚ずつ置いていく。

 魔素を込めるのを忘れずに、だ。


「ピィ?」


「ふふ、これはね、見張りくん試作1号なのよ」


 我ながら、その名前はどうかと思うけどわかりやすさが一番だ。

 仕組みは簡単で、板同士が魔素の流れでつながっているのだ。そこに何かが入って遮ると……。


 アンリ兄さんにそれを伝え、わざと外に出てもらう。

 すると、甲高い音が響き渡った。


「なるほどな……罠の鳴子みたいなもんか」


「うん。これなら一瞬だけど、先に覚悟が出来ると思うわ」


 問題は、鳥みたいな小さいのでも乗っかったり、通過すると鳴ることだけど……。

 これから要改良なのは間違いない。


 思ったより緊張していたのか、先に横になっていいと言われた私は、すぐにうとうとしだした。

 兄さんたちの雑談を耳にしつつ、ぼんやりと火を眺める。

 手元では、袋から顔を出したままのシロもうつらうつらだ。


「君、なんなんだろうね。翼があるし……ドラゴンかな」


 指先で撫でてやれば、そのまますやすやである。

 その姿を見て、ドラゴンと思う人はたぶん、いない。

 だけど、普通のトカゲでも、鳥でもないのはその吸い取っていく魔素でわかる。

 既に私3人分ぐらいはありそうな気配なのだ。


 食べる物は、主に草花と果物だった。意外と、肉は食べない。

 好き嫌いがある可能性はあるけど……。


 ぼんやりとそう考えていると、次に目覚めたときは朝だった。


「飯を食ったら、行こうか」


「起こしてくれればよかったのに」


 口ではそう言いながらも、ありがたかった。

 マリウスさんですら、何日もは大変というのだから、見張りって大変だろうな……。


 身支度を終え、みんなして件の洞窟らしき物へと向かう。

 なるほど、確かにすぐ行き止まりだ。

 なにせ、外から見えるような構造なんだもの。


「何もないですな」


「ですねえ……あ、でも……」


 私には出来るけど、兄さんたちには出来ない探し方で探せばいい。

 両手を広げ、その先で魔素を練る。

 その魔素を、ゆっくりと洞窟の壁に当てていく。


 お婆ちゃんの記憶で言う、ちょうおんぱってのに近いかな?

 壁に、魔素を通して手ごたえを見るのだ。

 1歩ずつ横に動きながら壁に魔素を伸ばし……んん?


「この辺、壁が意外と薄いわ」


 薄いと言っても、拳3つ分ぐらいは厚みがありそうである。

 でも確かに、他の場所が腕1本伸ばしたぐらいまでは詰まってるのに、この辺だけスカスカ。


 どうする?と相談すると、そこを砕いてみることになった。

 こういう場合、封じていた危ないのが出てくることもあるので、慎重にとのこと。


 とりあえずは、投擲から始めた。

 手ごろな石ころを投げつけてみる。

 へこみがわずかにできただけだった。


 仕方ないので、力技だ。

 みんなで警戒はしつつ、ごりごりと壁を削っていく。

 そしてしばらく後……。


「これでっ」


 兄さんの一撃がトドメになったのか、音を立てて土壁が向こう側の空間に崩れていった。

 ぽっかりと空いた穴。ここで喜んでつっこむようでは探索者は務まらない、なんて兄は言う。


 私も素早く中に魔素を飛ばして見るけど、少なくとも魔法を使おうとする誰かがいたってことはなさそう。


(でも、魔素の濃さが違う……)


 試しにと、魔法で灯りを産み出して中に投げ込むと……。

 明らかに誰かが作っただろう壁の装飾が目に入り、否応なしに私たちの好奇心を刺激してくるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ